31.創造神
「何やってんの創造神」
私が軽くため息をついてみせると蒼い女性は肩をすくめた。
「やれやれ、私の愛し仔は本当に勘が鋭いね。そこの星霊ちゃんも、伴侶候補さんも会うのは初めてだね。自己紹介しましょうか。我が名はディープブルー……これはさっきやったか。私の名前は創造神。この箱庭も作ったのは私さ」
「じゃあ私たちの世界あんなんにしたのは」
「もちろん私の意思だよ?」
にっこり。私キレていいかなぁ。なんとか自制できているのは背中に繭さんの温もりを感じているから。
創造神は語る。
「君がシャトランだった時代の世界を作り替えようとした時には手違いが起きてしまってね。ほとんどの星霊を人間は感知出来なくなってしまった。それではいけないとまず全ての人間を星霊姫候補にしようと女性ばっかりにしたんだ。それでも愛し仔はなかなか生まれてくれないし、どうしようかと思っていたところだったんだよね。君は忘れているようだけど、君の七十二の星霊は私が預かっていたしね」
「え、初耳」
「だから忘れていると言ったんだ。それでも君が生まれてくれて本当に嬉しかった。それで一つの星霊の封印を解いて君のところへ向かわせた。誰かはわかるだろう?」
「……わたし?」
紅兎がきょとんとした顔を向ける。創造神は本当に嬉しそうに笑っている。
「そうだよ。君は彼女が五歳くらいからの記憶しか無いようだけどね、生まれてからずっと一緒だったさ。しかし更に誤算というべきか、咲闌の友人達は星霊を感知出来た。君だけだったけれどね。ちなみに、この箱庭を作ったのは私だけど、こんなものをずっと使うつもりはなかったさ」
「はぁ? じゃあなんのために作ったの。あの……ビシソワーズ家とか」
「ビシソワーズ家は実験体だよ。普通の人間が星霊を感知出来るようになるためにはどうすればいいかというね。君達は普通に見えるようで安心したんだけど。他の人間もそうだとは限らない。まあちょっと暴走しちゃって君達の世界どろっどろにしちゃうし、新生ヴァランシア掲げちゃうし。私はただシャトランが絶望して死ぬ未来をなくしたかっただけなのに」
もしかして、私達がここに来た意味、ない?
紅兎も繭さんも困惑した表情を浮かべている。うん、そうだよね。
「あの……創造神、さん……?」
「うん? 何かな、可愛い花嫁さん」
「まだ嫁じゃないし」
紅兎がボソッと毒づいている。それを気にせず繭さんは問う。
「あなたの目的は、何ですか? 何のために世界を作り人を作りあげたのですか?」
創造神はまるで小さい子の問いに大人が答えるように優しく言う。
「先に言うけど新生ヴァランシアを作る気はないよ。咲闌が女王またやりたいって言うならそうするけど」
「絶対やだ」
「だろうね」
ふっと笑う。
「私の目的は私の愛し仔に幸せを。そのために世界を改変するんだ。ちゃんとあんな中途半端にされちゃった世界も戻してあげるよ。ただ、星霊姫にも増えてもらう。じゃないと、この子達も可哀想だしね」
ふわっと手をかざすと色々な装飾品や武器が宙を泳ぐように舞う。一目見てはっとする。これは、私の────
「ふふ、懐かしい? いつも一緒にいたもんね。今の咲闌にはシャトランほど星霊を受け入れる余裕がないはずだ。違う?」
「……だから素質のある私の周りから星霊姫にした? 残りはどうするつもりだったの」
「君の世界を戻してから、然るべき者に与えようと思っていたさ。この子達を可愛がり、しかし悪用はしない人間にね。そうそう、持ち主が死んだ場合は本物の元素星霊界に還れるようにもしていたんだよ。咲闌がいいだけ懐かれて困って還したおチビちゃん達もそこにいるよ」
「ここは本物じゃない?」
「そう。言っただろう、箱庭と。実験が完了したら跡形もなく排除する気だったんだよ。ああ、ビシソワーズ家が使役していた星霊は回収する気だったけど」
「で? 実験は終わった? 世界は戻してもらえるのかな?」
うん、そろそろ限界なんだけど。肩がプルプルしてる。繭さんが止めてくれているのいつまでもつかな。
「実験は終わったし概ね成功かな。だから戻してあげるけど」
「けど?」
「その前に手合わせしない? 私の愛し仔」
「ソレール・フォース・オレオーラム!! いっぺん死んでこいこの馬鹿神!!!」
短気な自分は直さなきゃと常々思って……ええ、思ってはいましたよ。でも、無理そうです。
繭さんはきっちりガードさせていただいてるのでそこは許してください。
「わあ、ビックリした。今の君は短気なんだね。ちょっと熱かったよ」
「短気なのは自覚してるし、そんな涼しげに出てこられちゃ説得力はないんだけど」
「え、だって私神様だもん」
「……創造神、誓約」
「ん? 勝敗に関係なく世界は戻してあげるよ。ちょっとした改変つきだけど。それも嫌だった?」
「いや、この際そこはいい。じゃなくて」
「あ、いいんだ。じゃあ……そこのお嬢さんかな? いいよ」
そう言って右手を差し出し中指と薬指を折る。私も同じ仕草をする。
「創造神ヴィタル、ディープブルーの名の下に鴉越繭には髪一筋の傷も無いように」
「創造神の愛し仔の名の下に、鴉越繭にほんのわずかの火傷もなきように」
宣誓を終えると手をS字のように同時に振る。
「心配性だね」
「なんとでも。紅兎、おいで」
「オッケー!」
「……あ、創造神」
「何?」
「世界の改変するにしても彼女たちにも説明はしてね。私は嫌だから」
「はいはい」
「私もあんまり納得していないんですが……」
本気で困っている繭さんの声をBGMに黒い剣を構える。創造神も白い剣を構えた。




