30.霧の館
霧の館は空にある。では飛んで行くのか。答えは否。ただ無闇矢鱈に飛んでいても辿り着けない。ではどうするのか。
「こうするんですよ」
霧の館以外の鍵をそれぞれ重ね合わせる。すぅっと溶けるように光となって八つの鍵が消えていく。そして――
「あっ」
「へぇ……綺麗じゃん」
白を中心に八色の光を放つ階段が高く伸びていた。
「あれ、まさかこれ昇るの……」
「いやいや、これにしたがっていけばいいだけで実際に昇る必要ないから。ああ、繭さんか需璃さん雨以名たちをお願いします。紅兎はライラね」
「はいはい」
「じゃあ雨以名たちあたしの方乗りなよ」
「はーい」
「咲闌さん……」
「うん?」
「あれただ繭さんに誰も密着させたくないだけですよね」
「多分ね。まあいいんじゃない……さすがシスコン」
怜音とくすくす笑っていると需璃さんから鋭い視線が。慌てて離れる。繭さんが需璃さんを嗜めた。ああ、おかしい。
こんなことは前もあった。今だってある。愛おしい日々。取り戻しに行こう。私は、白桜咲闌だ。
空を昇る。駆ける。高くそびえているようで点にしか見えなかった館が少しずつ大きくなってくる。ボフッと一度雲に突っ込んだ。
「うわっ」
「大丈夫! 光に従って!」
すぐに雲から抜け出す。ついに到着した。ここが、霧の館。鍵を取り出して開けようとする。
でもここに来て私は黒幕に会いたくなかった。知りたくなかった。鍵を持つ手が震える。そっと背中に手が添えられる。振り向くと愛しきみんなが私の背中を押してくれる。
それは、「大丈夫」であり「早く行こうよ!」でもあった。一つ深呼吸をする。うん、震えは止まった。
がちゃりと音を立てて鍵が開く。ゆっくりと扉を開く。中には――何も、なかった。ただの広いホール。
「はぁぁぁぁ!?」
空っぽのホールを見て需璃さんがキレたけど繭さんが落ち着かせる。私以外は驚いているようだけど、私には絡繰が解けていた。だから私は彼女を呼ぶ。
「ライラ」
「かしこまりました」
出した手を取りライラは細剣に変わる。ホールの中央付近まで行くと、剣を振りかぶって何も無いはずの空間へ突き刺す。分厚い氷のような手応え。でも私は星霊力を込めながら剣を進める。
――ばきっ、ばきん。
空間にヒビが入り割れる。今まであった空っぽのホールががらがらと崩れ新しいホールが顔を出した。美しい装飾と照明。そして見目麗しい九人の姉妹。
「ようこそ、星霊姫たち」
「自己紹介……いる?」
「そりゃーほしいに決まってる「いらない」にゃ!?」
オーバーリアクションなそいつを無視して私は続ける。
「あんたたちの素性はどうでもいい。そもそも主とかの操り人形なんでしょう。あんたたちの相手をする気はない。主を出せ」
「これはこれは。少し見ない間に女王たる威厳をお持ちになられたようで「バーンストライク」ぐはっ」
「カウサ姉様!」
「聞こえなかった? 主を出せっつってんの。ただでさえ館巡りやらここの館もこの部屋出すのに手間かけさせたんだから苛立ったんのくらいわかるでしょ?」
後ろでみんながドン引きしている気配が伝わってきたが無視無視。私は腹が立ってるんだ。
「さっきまで震えてたくせに……」
「あたしよりブチ切れてるじゃん。お姉、あれなんとかなんないの」
「法の館の時以上に怒ってるんですけど……」
「せ、戦闘態勢だけ取りません……?」
それは誰から身を守るためか。因みに私からだとしたら無駄である。私は後ろには殺意を向けていないし、本気でやればこのちっちゃな箱庭みたいな世界は跡形もなく壊せる。
よろよろと起き上がったカウサが私に向けてニヤニヤ笑いをしてくる。何、その笑い。すごくムカつく。
「主との対面をお望みですか女王?」
「そうだけど」
「主の召喚には我ら九人の命を対価とします……ですので……」
ぶちん。なんか切れちゃいけないものが切れた気がする。我慢の限界だった。
目の前がスッと昏くなる。
後ろで控えているみんなにはちょっと悪いけど。もう無理。
「ああそう、それなら今すぐ死ね。バーガトリアムフレイム」
ごおっと炎が九人を包み込む。後ろで誰かが何か言っているようだけど耳に入ってこない。焼き尽くせ。あれは敵だ。しかもまだ強いのがいる。
速ヤカニ消去シテ――
「咲闌ちゃん!」
繭さんが抱きついてきて私がハッとするのとビシソワーズ家が溶け落ちながらも術を発動するのは全くの同時だった。
「――顕現せよ、主」
その言葉と共にどろりと溶けて消え去った。そして光る蒼。
その光が部屋に広がっていく。ゾワッと背筋に悪寒が走る。
「ライラ! みんなを!」
「はい!」
遅かった。周りを見渡すと青い空間がドーム状に広がっている。中に入れなかった者の時は止まるようだ。中にいるのは、私、とっさに手を握った紅兎、そして――抱きついたまま固まってしまった繭さんだけだった。
「……咲闌ちゃん?」
「ん、紅兎は無事ね。えーと、繭さん? 大丈夫ですか? ちゃんと全部この中入ってる? 動けます?」
「……あ! は、はい……咲闌ちゃん……これは……」
「どうやらアレの仕業のようです」
正面に視線を戻すとチカチカとした謎の発光体が。それが徐々に人の姿をとる。
そこには成人したくらいの青いドレスの女性がいた。
「良い伴侶を見つけたようだね白桜咲闌」
「あんたがディープブルー?」
「いかにも、我がディープブルーである」
その声を聞いてやっぱり、と思い失望した。
「何してんの、創造神」




