16.寝不足で激しい運動は遠慮したいの
「そういえば咲闌も顔色悪いねー。ちゃんと寝れなかった? あ、もしかして二日も続けて星霊魔術使いまくったから疲れちゃった?」
「そこのツインドリルがお腹空いたって食べ過ぎなんじゃないの」
「ツインドリルって……ひどぉい」
「うっさい。まだ許してないんだからね」
需璃さんは普段はカラッとしているのだけど嫌なこと貯金というか……貯め込んじゃうんだよね。特に愛してやまない姉の繭さんのこととか。貯めきった時どうなるかはとっても聞きたくないのでその前に使って発散してほしい。切実に。今は戦闘できるのだから殴って蹴って存分にやったらいいと思うの。
「んーんっと。まぁ紅兎に喰わせすぎなのは否定しないけど……ふぁ。今日は早く寝るわぁ……」
空が白むくらいまでヤってたのだから疲れて当然だし精気だってあげてたのだから疲れは倍増。ほんとに眠い……
「咲闌ちゃん」
「……んー?」
「今日は、一緒に寝ませんか……?」
眠すぎてメイクが落ちないように目を擦ってたら、おおっとまさかの積極的なお誘いありがとう繭さん。需璃さんからの視線が針のようっていうかまるでアイアンメイデンだよ。ま、それは置いといて。
「んー……? 繭さんもちゃんと寝れてないんでしょ? 私が行って大丈夫なの……?」
「大丈夫ですから……ね?」
何故か有無を言わせない態度な繭さん。返事は「はい」or「YES」しか認めない、みたいな感じ。とはいえ今日はもう泥のように眠れる気がするんで需璃さんは心配無用です。だからその視線怖いからやめて。
「わかりました。夜お邪魔します」
「はい………………♪」
あれ、ほんのり顔を赤らめて繭さんは微笑んだけど、その目が一瞬だけ昏くなった気がした。寝惚けて幻覚でも見たかな。でも……繭さん、だしなぁ。需璃さんを除けばこの中で誰よりも繭さんを見てきてるからこその違和感。
「てかさー、紅兎の食事も咲闌じゃなきゃだめなのー? 一番強い咲闌にダウンされてたら戦力めっちゃ落ちない? ほら、ういなとか元気余ってるしどう?」
「別に喰われてちょっと疲れてても不覚を取る気はないけど……ありがと。で、ああ言ってくれてるけど紅兎はどう?」
「やぁだぁ……わたしは咲闌ちゃんだけって決めてるんだもぉん」
「だって。まぁ気持ちは受け取っとくよ。できれば平等に食事してほしいけどね」
「いーやーぁー」
「わかったって。いいよ私で」
どうしても食事相手は私じゃないと気が済まないらしい……慣れっこだから気にしないけどね。
「あれ、貰ってきた地図によるとここから山みたいだから登り坂だよー!」
「もっと歩きにくいってことか……旅が終わる頃には筋肉ついてそう」
「否定はしませんけど……運動しなくなったらすぐ落ちますよ」
「落ちたらまずい?」
「適度に残した方が健康にはいいんじゃないかと」
「別にそんな健康的を望んでるわけじゃないしなー。遊び回っても平気なくらい体力があればいいや。でも坂は嫌だしお姉おぶってよ」
「そのくらい自分で歩きなさい……」
「ちっ」
「そんな盛大に舌打ちされても……需璃が好んでその高いヒールを履いてるんでしょう」
「だってこのくらいの履かないとお姉と目線合わないじゃん!」
需璃さんは百五十五センチとどちらかといえば背が低い方。繭さんは百七十一センチと私たちの中で一番背が高い。需璃さんのヒールは十五センチなのでたしかにそれで目線が同じくらいにはなるだろうけど……攻撃力の高いヒールの理由が愛する姉と目線が合うようにしたいとはなんともいじらしい。
「あ……良かったですね、需璃さん……階段で舗装してくれてるみたいです」
「……ただの山道よかマシか」
お姉におんぶしてもらうチャンスだったのにーとかなんとかぶつくさ言ってますけど、ちゃんと自分の足で上がってきますよね。だって大好きなお姉に嫌われたくないんですもんね?
私も雨以名も怜音も(ついでに紅兎も)それがわかっているからくすくす笑っている。需璃さんにじろっと睨め付けられたからしれっとそっぽを向いたけど。
「今日中にあとどのくらい進めそうかな?」
「うーん、この階段がどのくらいあるかだと思うけど、とりあえず登りきったら一回休憩入れたくない?」
「そうね、そこは入れるとして。その後はどう? ていうか私にも地図見せてよ」
「ごめーん、はい」
「ん? これ頂上に館なんじゃないの? その前に嫌ってほど階段ぽいけど」
「え? あ、ほんとだ」
話し合った結果、長い階段を登りきって、館のド真ん前で野宿をするという相手さんからすれば「早く来いよ」という行動をすることにした。だって館入ったらまた舞踏会に持ち込まれちゃうじゃない。
「しっかしこれ何段あるんだろうねぇ」
「さぁ……」
「紅兎は飛べていいなぁ……ってあれ!? いつの間にか咲闌も飛んでるし! ずるい!」
「だって……自分の力使ってるだけだし」
「ねぇ」
「ていうか怜音だって飛んでるじゃない」
「なんだって!?」
「えっと……なんかすいません……」
怜音の星霊だって妖精のような羽があるので、それを使えば飛べる。星霊の力をちゃんと使いこなせてて偉いと褒めるところなのだが、残念ながら飛べない三人にはずるいと言われようとえっちらおっちらと上ってもらうしかない。
「こうなったら……死遼虹! アクセルワンダー! いけるだけ加速して! ダッシュで上りきってやる!! うおりゃー!!」
「げ、元気ですね……」
「あれはちょっと……さすがにあたしはやりたくないわ」
ドドドド……と猛スピードで加速しまくって上っていく雨以名を見ながらほどほどのスピードで上るのだった。頑張ってたのは双子のお姉さんたちだけで飛べる私たちは優雅にだったけど。
三十分くらいかけて上りきると、さすがに息が切れた雨以名がぜーはーと深呼吸を繰り返してた。うん、お疲れ様……




