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僕の父上と母上は赤い糸で結ばれているらしい

「エアロ様~!」


自分を呼ぶ声にクスリと笑いエアロは潜り込んだ生け垣を進む。


「エアロ様、どちらにいらっしゃいますか?」


慌てた傍仕え達の言葉がくすぐったい。その声にエアロ・エディータ6歳はわざとらしく肩を竦める。まだ父様よりは遥かに小さい手だがもう6歳になるのだからそんなに心配しないで欲しいと思う。エディータ家の次男として生まれ、勇者として名を馳せた父のようになりたいと剣術の稽古をつい最近始めた所だ。ちなみに兄であるリロイ兄上は僕よりも3つ上で瞳の色も髪の色も父様にそっくりだ。その点、僕はお母様にそっくりだ。黒い目も髪もこの国ではあまり見られないが僕はお母様にそっくりなこの瞳と髪の色が大好きだ。


ー僕のお父様とお母様は変わっているー


公爵婦人として外に出る時は“キリッ“としているお母様は会話には困らないようだが読み書きが苦手だ。絵本を読む時に渋面を作るお母様が可愛いのだが、それは僕の秘密だ。一度、それが不思議で兄上に聞くと兄上は至極当然と言わんばかりにこう言った。


「母上はこの世界とは別の人だからな。だが、努力して公爵家を回されている姿を僕は尊敬する」


その言葉は僕には少し難しかったが大好きなお母様のことならと“分かった”と頷いた。それから周りを見てみるとうちが少し周りの家と違うことが分かった。お父様のお父様とお母様には毎日のようにとは言えなくてもお父様が長いお休みになると会いに行くし、時々会いに来てくれる。だが、お母様のお父様とお母様には“パソコン”という道具の画面でしかあったことがない。


“可愛いなぁ…“


画面越しに僕たちの顔を見た白髪の男性が相互を崩す。その目はお母様の腕の中に向けられている。母の腕の中に居るのはつい1月前に生まれたばかりの妹だ。妹が生まれてからお母様が僕のことをあまり構ってくれなくて寂しいのは内緒だ。


“ほんと、ロイさんが格好いいからよね…”


その横の白髪の女性もうっとりと呟く。その言葉になぜかお母様は複雑そうな顔でいつも唸る。


「うー、確かに可愛いけど!ロイのお陰なんだけど、その言い種はない気がする」


そんな自分達が触ったこともなさそうな家具に囲まれ、着たこともないような服を着た二人がどうやら僕たちのお祖父様とお祖母様だと知ったのは随分前だ。


“何を言うの!平凡顔のあんたが、そんな可愛い子供を産めてるのはロイさんのお陰なのよ。感謝なさい”


お母様のお母様がそう言って、目を吊り上げる。それにお母様が“うーっ”と唸ると兄上が座っていた椅子から立ち上がる。


「お祖母様、母上は非常にあいらしいと父上はいつも言っておられます。アイリが可愛いのも母上のお陰です」


“あらあらリロイ、おばあちゃんはお母さん苛めてないわよ”


「うー、本当にうちの子ながらよく出来てるわ!ありがとう、リロイ!」


自分をを守るように立つ兄上にお母様が感激に目を潤ませる。その姿に慌てて僕も立ち上がる。


「お祖母様、お母様とお父様は凄く仲いいです」


「エアロまで!」


お母様が驚いた声をあげるのに僕は胸を張る。


「僕はお母様が大好きです」


「お祖母様、エアロが言うように僕たちはお母様が大好きです」


兄上が僕の言葉を補うように言ってくれるのに同じ気持ちだと分かって嬉しくなる。僕たちの言葉に驚いた様子のお祖父様とお祖母様が目を丸くしてから揃って苦笑する。


“流石、ロイ君の息子だな…”


“本当ね……イケメンって性格までイケメンだな”


「うん……私もそう思う」


ただ…何故だが分からないがソファーに座ったお母様までが顔を手で覆って脱力していたのが分からなかった。そこにひょこっと現れたのはお母様の弟という叔父さんだ。


“お、姉貴。久しぶり~”


お母様と同じ黒髪に黒目。父様とは違う意味でがっしりとした男性がお母様を呼ぶ。それにお母様も目を輝かせる。


「祐哉!」


“お、それが噂のアイリちゃんか可愛いな~”


叔父さんが母の腕の中のアイリを見て顔を緩める。それにお母様が“ふふん”と胸を張って笑う。


「あったり前よ、誰の子供だと思ってんの!」


“は?姉貴、何言ってんだ。姉貴の子供が可愛いのはロイさんのお陰だろ”


「酷い!」


その言葉にお母様が憤慨するのが分かる。それに画面の向こうの叔父さんがクックッと笑うと肩を竦めるのが分かる。


“姉貴、幸せそうだな”


その言葉にお母様が驚いた表情をした後に蕩けそうに笑った。


「うん。祐哉、ありがとう。私、幸せだわ」


その笑顔があまりに綺麗で僕は“ドキドキ”した。その後はお父様も帰って来て、みんなでアイリを囲んだ。


その時の事を思いだして、エアロは肩を落とす。


「でも、僕はお母様とは結婚出来ないんだ…」


がさがさと生け垣を向こうの庭に向けて膝をついて歩きながらエアロは俯く。お母様に“僕と結婚して下さい”と言ったらお父様が凄い笑顔で僕を見てきた。そんなお父様に首を傾げていたらどんなにお母様が大好きでもお母様はお父様のものだから結婚出来ないと兄上がそう言っていた。


「僕の方がお母様のこと好きなのに」


その時の事を思いだして涙ぐむ。少し立ち止まってグイッと袖で涙を拭くと歩き出す。


「あれ…?」


必死になって歩いていたエアロは目を瞬く。いつもならとっくの昔に向こう側に着いている筈なのに今日はバラ園がまだ見えない。不安になって戻ろうとして振り返ってエアロは目を瞬く。


「あれ?」


いつもならすぐ後ろに見える庭がない。


「……………」


いつもとは違う状況にエアロは不安になる。先ほどまで自分が何でも出来る人間に思えていたのに自信が萎む。急いで、足と手を動かして向こう側を目指す。頑張って手足を動かしているとようやく光が見える。迷うことなく“ガサリ“と音をさせて生け垣から顔をだしたエアロは目を瞬く。


「えっ………」


そこに広がっていたのは見たこともない景色。


ーそしてー


「誰?あなた…」


生け垣から顔をだした自分を見下ろしていたのは可愛い女の子だった。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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