リボルト#12 陥落する黄金の楽園 Part9 四殺 厭生
※このパートにはネタバレが含まれております。ご注意ください。
その後、約5時間も渡る打ち上げパーティは、ほぼ歓声や談笑の中で行われた。新しいメンバーも増えたことによって、その熱さは普段より一層強まっていた。
だが、俺もただ喜びに浸っているわけではない。何しろまだ謎が多すぎる。そしてそれらを追究するために、俺は今隠れ家に足を運んだ。
「あれ、秀和くんじゃない? どうしたの、こんな時間に? 今日はもう休んだほうがいいわよ」
「いいえ、まだ気になることがあるんです。それを解明しないと寝付ける気がしません」
「まあ、今日は色々あったわね……その気持ちは分からなくもないわ。まあ、とりあえず適当に座って」
俺は十守先輩に言われた通りに、近くの席に腰をかけた。
「何か飲みたいものとかある?」
十守先輩は少し離れた場所にある冷蔵庫に移動し、俺に声をかける。
「えっと、ウーロン茶で」
さっき打ち上げパーティの時は炭酸飲料をたくさん飲んだし、今は渋いものにしよう。
あっという間に十守先輩は両手にデカいグラスを持ってきて、俺の隣に座った。
「よいしょっと。はい、ウーロン茶ね」
「ありがとうございます」
十守先輩はウーロン茶の入ったグラスを、俺の前にあるテーブルに置いた。冷蔵庫から出されたばかりだからか、グラスにはたくさんの雫が付いている。
そして十守先輩のグラスは、紫色の液体が入っている。多分ぶどうジュースだろう。
「で、何について知りたいのかしら?」
十守先輩はだるそうに大きな欠伸をすると、俺に質問を求めた。
「このヘブンインヘル私立学校の校長についてです」
俺は知りたい事柄の内容を口にすると、十守先輩は何故か急に体が固まり、目つきもキツくなる。
「ど、どうかしました?」
何かまずいことでも聞いたのかと思った俺は、思わず緊張してしまう。
「ううん、別に。ただ『やっぱりそう来るな~』と思っただけよ」
「そうですか。それで、先輩は何か知りませんか?」
「そうね……実はあたしもアイツのことをずっと調べているんだけど、残念なことに、見つけられるのはアイツに有利な情報しかないわよ」
「そんな、嘘でしょう……まさかコネでも付けてるんですか?」
「恐らくね。実はこの学校、4年前に設立されたらしいわよ」
「何だって!? 4年間も運営してるんですか?」
驚きの事実を聞いた俺は、無意識に大声を漏らす。
「ええ、そうだけど」
「こんなに死人やサイコパスをたくさん出してるにもかかわらず、何故誰も通報しないんですか!?」
このようなこと、あってたまるかよ。どう考えてもおかしいだろう。
「いい質問ね。もう知ってるとは思うけど、この学校は地球に存在しないし、すべてのネットワークにはファイアウォールを仕掛けられて、外部への通信は一切不可能よ」
「あっ、確かにそうでしたね」
そういえば、この前にも似たような話があったな。興奮しちまったせいで、つい忘れちまったぜ……
いや、だとしてもまだ謎が残る。
「じゃあ、こんなところに送り込んだ保護者たちはどうなんですか? 長い間に連絡が来なければ、疑うはずなんじゃないですか?」
「これはまた鋭い質問ね……そういうのは建前で何とかごまかせるわよ」
「建前? もしかして、先に『保護者と学生との連絡を一切禁止する』って知らせたりとか?」
「気付くのが早いわね……まあ、そんなところよ。それで納得する保護者も多いみたいだしね。それに……」
「それに?」
求知欲をそそるような十守先輩の発言に、俺は彼女を続けさせるよう言葉を繋いだ。
「保護者はどうしても学生の声が聞きたい場合は、学生たちが普段しゃべっている時の音声を拾って、それで偽の音声メッセージを作って流してるのよ」
「マジですか!?」
衝撃の事実を聞いて、またしても驚きを隠せない俺だった。
「マジなのよ。それにヤバいのはこれだけじゃないわ」
十守先輩はそう言うと、ぶどうジュースをがぶがぶと飲み込む。俺も彼女に釣られて自分のウーロン茶を一口啜った。
「どんなヤバいことですか?」
悪い予感しかしないが、それを知るためにはちゃんと訊いておかないとな。
「保護者たちの口封じをするために、不良ジャーナリストたちを買収することで、この学校のいいことだけを報道して、悪い噂を流させないようにしてるのよ」
「……!!!!!」
俺はその汚い「大人の事情」を聞いた瞬間に、あいにくウーロン茶を飲んでいる途中だった。そのせいで俺は噎せてしまった。
「けほっ、けほっ……! それって本当ですか?」
俺は十守先輩が手渡してくれたティッシュを手に取り、口元やテーブルに零したウーロン茶を拭き取る。
「嘘をついてるように見える?」
「いいえ、見えません」
「素直でよろしい。まあもっとも、あたしは去年卒業したはずなんだけどね」
「どういう意味ですか、それ」
話が見えない俺は、十守先輩にまた質問をした。
「去年の卒業式は、校長のヤツがおかしなことを言っちゃってね。『ここを出たら、ここに起きたことを誰にも言うな』とね」
「まあ、そりゃそうでしょうね。でもそう素直に言うことを聞く人はいるんですか?」
もし俺はここから卒業したら、誰よりも早くここの陰謀をみんなに教えるけどな。
「バカね……『言うことを聞く』んじゃなくて、『そうするしかなかった』のよ」
「あっ、もしかして弱みでも握られてるとか、そういう理由ですか?」
「まあ、そんな感じね。お家に帰ったら大量のネガコレが押し寄せてきて、自分の家族や友達を殺されるのがイヤだし」
「ちょっ、脅迫じゃないですか、それ!」
「それがヤツのやり方なのよ。そうでもしない限り、ヤツの学校はここまで生き残ると思う?」
十守先輩は少しやるせない顔を浮かべ、ため息をついた。でもすぐにまた、何かの覚悟を決めたような表情に変わる。
「だからね、あたしは自ら『留年』することにしたの。この学校の陰謀を暴くためにね」
「なるほど……それじゃ静琉先輩や、この『真実の標』にいるみんなもそのために?」
「ええ、そうよ。このままブラック・オーダーや恋蛇団のような連中を生み出さないためにもね」
十守先輩は、爽やかな声で俺の質問に答えた。そして彼女はまだ話し足りないのか、話を続けた。
「実はね、最初はメンバーが少なくて、とても心細かったのよ。だからずっと、ヤツらの行動を密かに監視するしかなかった。でも君たちが来てくれたおかげで、こうして隠れる必要もなくなったわ。ありがとうね」
十守先輩はそう言いながら、今まで以上に明るい輝きを放っている。
なんて眩しい笑顔だ。こんな十守先輩、初めて見たぞ。
「いいえ、どういたしまして。むしろ礼を言うのはこっちですよ。先輩たちがいなかったら、俺たちもここまでやってこれなかったのかもしれません」
「ははは、またまたそんなに謙遜しちゃって~本当、かわいいわね、秀和くんは!」
十守先輩は大声で笑うと、俺の背中を強く叩く。痛いからやめてくださいよ、先輩。
「なんとな~く、秀和くんがモテる理由が分かった気がするわね」
「きゅ、急に何を言い出すんですか、先輩!」
不意を喰らった俺は、慌てふためいた。まったく調子が狂うぜ。
「うふふっ、ちょっとした冗談よ。さて、そろそろ本題に戻ろうかしら」
俺をからかって楽しんでいた十守先輩は、真剣な顔つきに戻った。
「はい、これ」
十守先輩は弄っていたスマホをテーブルに置いて、俺に画面を見せる。そこにはいかにも柄が悪そうな奴の写真と、その下にある「ヘブンインヘル私立学校校長 四殺 厭生」の文字が映っている。
「こいつが校長ですか? いかにもヤバそうな奴ですね。名前も結構アレですし」
「あたしも同じことを考えてたわ。今頃アイツも、きっと悪銭を儲けるために、また他の保護者を騙して無実な生徒を送り込ませようとするに違いないわ」
「なるほど、味を占めたってわけですか」
「その通りよ。何としてもアイツの陰謀を砕かないとね……!」
十守先輩は視線を鋭くして、右手を握り締めた。その拳が震えているのがはっきりと見える。
「大体事情が分かってきました。この校長は、保護者たちの子供を自分の理想に合わせるように育て上げたい心理を利用して、こんなふざけた学校を作ったってわけですね」
「ええ、そうよ。本当にあくどいことをやってくれたわね」
「ところで、先輩はどういう理由でここに送られたんですか?」
「あたし? まあ、バカ正直だからかしらね。嘘をつくのは嫌いなのよ、あたしは」
「それって、いいことなんじゃないですか?」
「そうでもないわよ。こんなご時世の中、みんなよっぽど嘘が好きみたいなのよね~」
十守先輩はそういうと、またしても大きなため息をついた。そして、こう続けた。
「知ってる? 人が見たいのは本物の真実じゃなくて、自分に都合のいいものしか見たくないのよ」
十守先輩はグラスの上部を持ち、ぶらぶらと揺らしている。その姿は、まるでバーで酔っている大人の女性みたいだ。
「親が産んで育て上げた子供が気に入らないだけで、こんな卑劣な手段で子供たちを変えようとするなんて、マジありえないわよ! しかも『あなたのためにこうやったのよ』って恩着せがましい言い方して!」
憤慨した十守先輩はぶどうジュースを一気に飲み干すと、グラスをテーブルに強く叩きつけた。
どうやら何か深い事情があるみたいだが、ここは空気を読んで黙っておこう。
「ごめんなさいね、急にグチちゃって」
「いいえ、いいんですよ。誰にだって辛い時はありますし」
さて、質問も一通り済んだことだし、今日はこの辺にしようか。それに、十守先輩も一人でいたいようだし。
俺も残りのウーロン茶を飲み干して、十守先輩に別れの言葉を告げる。
「それじゃ、そろそろ失礼します。お休みなさい、先輩」
「ええ、お休み。君もちゃんと休んでね」
俺は十守先輩に手を振り、出口へと向かう。その途中で碧と可奈子にばったりと出会った。いつもの制服と違って、部屋着の二人はとても可愛らしい一面を見せる。
「あっ、先輩。もうお帰りですか?」
「ああ、そうだ。碧も今日は大活躍だったな、お疲れさん」
「いいえ、これぐらいは大したことではありませんよ」
「そう謙遜すんなって。もしあの時に碧からもらったカードがなかったら、俺は大変な目に遭っていたかもしれないぜ」
碧に助けられたことで感謝の気持ちが生まれたのか、俺は少し微笑んで彼女の頭を撫でる。
「あっ……」
普段落ち着いている碧は、突然顔が赤くなって慌てた声を漏らした。やっぱり根は女の子だな。
「まあ、とりあえず今日はちゃんと休んどけ。お休み、二人とも」
そう言うと、俺は出口に向かって歩き続けた。
「お休みなさいであります! いってらっしゃいであります!」
可奈子はいつもの元気な声で、俺を見送ってくれた。俺も振り返って、手を振って返事をする。
そして、俺は誰もいないエレベーターに乗り、地上に戻る。
静かな空間にいると、どうしても物思いに耽りがちだ。さっき十守先輩との会話は、未だに頭の中に流れている。
それにしても、まさかあの校長はあんな恐ろしいことを考えているとは思わなかったぜ。今すぐ親父にこのことを伝えたくてしょうがないが、いかんせん外部へと通信は一切遮断されてしまっている。まあ、当たり前のことだが。
だが俺たちが頑張れば、この陰謀を阻止できるかもしれない。いや、阻止しなければならねえんだ! たとえ大人たちが権力を振りかざしたところで、俺たちの決意が変わることはねえ!
そう、自由と正義のためにな……!
熱い思いを胸に燃やした俺は、右手を握り締めた。
静琉「ふう~、いいお湯だったわ~」
十守「あっ、静琉。随分と長いシャワーだったじゃない」
静琉「あらあら、お肌は女性の命っていうじゃない。これぐらいは普通よ」
十守「まあ、それもそっか。次はあたしの番ね~」
静琉「ところで、秀和くんと楽しいお喋りをしてたみたいね」
十守「バスルームのスクリーンで見てたの? どうりで長いわけね……」
静琉「本当は会話に混ぜたいんだけど、さすがに入浴中じゃ無理ね」
十守「まあ、まだチャンスはあるでしょう」
静琉「そうね。ねえ、十守」
十守「なぁに、静琉」
静琉「いつかここから出られるように、一緒に頑張りましょう~」
十守「どうしたの、急に改まって。静琉らしくないわね」
静琉「だって、『あの話』をしてたじゃない。あの頃のこと、思い出しちゃうわね~」
十守「そうね……本当なら、あんたはもう卒業してたけどね……わざわざここに残らなくてもいいのに」
静琉「それはダメよ。私がいないと十守はダメだもの」
十守「ちょっと静琉? あたしを誰だって思ってるのかしら?」
静琉「誰だって、十守は十守じゃない。それ以外の何者でもないわ」
十守「何を当たり前のことを……本当、あんたには敵わないわね、静琉」
静琉「うふふっ、褒め言葉として受け取っておくわね、十守」




