リボルト#12 陥落する黄金の楽園 Part10 忘れられない夜をありがとう
※このパートには少し「刺激が強い内容」が含まれております。ご注意ください。
しばらくすると、エレベーターが地上に到達し、扉が開いた。俺はそこから出てショッピングモールを後にし、寮へ移動する。
だが俺は正門の前に着いた時、すぐに玄関には入らず、裏口に回った。千恵子はまた星空を眺めているんじゃないかと、胸の中で少し期待しているからだ。
幸いなことに、千恵子はいつものように裏口の階段に座って、夜空を見上げている。
俺は「イエス」と小さな声で心の喜びを漏らし、右手で目立たない程度のガッツポーズを作った。
「あら、秀和君。お帰りなさい」
俺の気配に気付いた千恵子は、笑顔を浮かべて立ち上がろうとする。
「いいぜ、そのまま座っても。今日はたくさん戦ったし、疲れてるんだろう?」
そんな彼女に気を遣わせないよう、俺は労いの言葉をかけた。
「ええ、ありがとう。それでは、お言葉に甘えるわね」
俺たちと接触したことで柔らかくなったのか、千恵子も意地を張らずに、大人しく座った。
俺も彼女の隣に近寄って、階段に腰をかけた。
「いや~、今日はまさかの大勝利だったな。相手はとても強そうだから、てっきり悪戦を強いられると思ったけど、まさかあの高いビルを二本も破壊したとはな」
俺は腰を伸ばしながら、自慢げに今日の戦いの勝利を語る。今でも俄に信じがたい話だが、事実は事実だ。
「ふふっ、これも秀和君のおかげね。あの時の変身は、とても格好よかったわよ」
千恵子はクスクスと笑いながら、俺のあの時の健闘を褒め称えてくれた。
本来なら喜ぶべきだが、俺は緊張のあまりに冷や汗をかく。そういえば俺は憑依獣を出した時、千恵子もあそこにいたよな。俺のあの姿を見て、ちっとも怖がらないのか?
他人の評価が気になってしょうがないが、この質問をしたら千恵子がかえって俺のことを……
いや、そんなはずがない。仲間を疑ってどうすんだよ、俺は。
というわけで、俺は勇気を持って千恵子に質問することにした。
「なぁ、千恵子……」
「何かしら、秀和君」
「えっと、俺のバフォメット……じゃなくて、あの赤い炎を見て、何とも思わないのか?」
さっきの自信がなくなって、俺の視線は地面に釘付けになって、ソワソワしたせいで俺は自分の両手を擦りはじめる。
「あの赤い炎、『バフォメット』っていうの? とても素敵な名前だわ」
「……えっ?」
意外な反応が出て、俺は思わず驚く。そして千恵子は自分がまだ俺の質問に答えていないことに気付き、話を続けた。
「確かに、最初はびっくりしたわ。でもそれは、皆さんを驚かすためではなく、皆さんを守りたいからやったことでしょう?」
「まあ、それはそうだけど……半分以上は土具魔に挑発されて、怒りが暴走したんだけどな。あいつに酷い目を遭わせてやりたくてさ」
「そう……色々大変だったわね、秀和君も」
千恵子は俺を咎めることなく、ただ俺の気持ちを受け止めてくれた。
だが、心のどこかが釈然としない。また罪悪感が俺を苛むのか。
「なあ千恵子、こんな理由で戦った俺は、身勝手な奴だと思わないか?」
ったく、何を言ってるんだ俺は。悪いことをしたわけでもないのに、誰かに叱られないと気が済まないなんて。
いや、むしろ逆かもしれない。千恵子が俺の期待通りに答えてくれると信じているから、こんな質問ができたんだ。もし相手が土具魔だったら、俺は絶対にこんなことを言わないだろうな。
こうやって解放感を求めるなんて、俺のやってることはただのガキじゃねえか。バカバカしいぜ。
けど、悪いことをしてるわけじゃないし、一度ぐらいいいよな……? そうだ、これは頑張った俺へのご褒美だ、何も後ろめたく思うことはない。
さて、千恵子はどう答えるのかな……?
「ええ、とても身勝手な行動だったわ」
なぬぅ!? まさかの逆パターン!?
「でも、それはあくまで客観的な話よ。それに、誰にでも私欲の一つや二つぐらいは持っていると思うわ。私でも例外ではないもの」
「そ、そうなんだ」
うわ、びっくりした。てっきりこの後非難されるかと思ったぜ。
「ねえ、秀和君」
「な、なんだ?」
「こんな大変な状況に置かれて、リーダーを務めて、いつ死ぬかも分からなくて、物凄いプレッシャーに押されているのは分かるわ。だから、あんまり無理しないで、いつでも私に頼ってね」
「千恵子……」
おいおい、何で急にこんないい感じの話をするんだよ。感動して涙が出そうじゃないか。
っていうか、千恵子はそこまで俺のことを考えてくれてるのか。全然知らなかったぜ。
「私はいつでも、貴方の側にいるから」
突然、両手にかつてない温もりが感じる。俺は自分の両手を見ると、そこには千恵子の両手が重なっている。
更に千恵子の顔を見ると、その真剣な眼差しは真っ直ぐで、俺の心臓を貫くほどだった。
目の前にいる千恵子は、輝いているように見える。そしてやがて、俺は彼女に対する感情がますます増幅していく。
瑠璃のように青い髪、宝石のように明るい瞳、水晶のように汗だくの体。何もかも美しくて、彼女の全てを奪いたくなる。
俺は今、彼女を一人の女性として見ているのだろうか? おい、やめてくれよ。これ以上変なことを考えてたら、俺は……
「秀和、こんなステキな彼女はなかなかいないから、大事にしてやれよ!」
突然、正人が今日俺に言ったことが脳裏にこだまする。
……彼女? そうだ、いっそのこと千恵子を本当の恋人にしてしまえばいいじゃないか!
この大胆な発想を思い付いた俺は興奮感に支配され、体が無意識に震えはじめる。
「秀和君? どうかしたの?」
そんな俺を見て、千恵子は心配そうに俺の様子を訊く。
ダメだ、頭に血が上って体が熱い。今すぐに千恵子をキスしたい。
けど、やってもいいのか? あんな真面目な子だから、もしかしたら嫌われるかもしれないし、やっぱりキスされるのを待つべきか?
いや、俺は男だぞ! ここは自分の気持ちをぶつけるのが普通だろう! こうでもしない限り、相手も俺の気持ちを分かるはずがない!
「ごめん、千恵子!」
「えっ?」
千恵子はまだ俺の言葉の意味を知らないうちに、俺はさっと自分の両手を抜け出して、彼女を抱き締める。
そしてついに、俺はこの一生もっとも大胆な行動を取った。
そう、俺は自分の唇を彼女のに重ねた。しかし勢い余ったせいで、危うく彼女を押し倒すところだった。
「ん、んん……」
突然の出来事に千恵子は目を見開き、体が硬直して動かなくなる。俺もこの場面に戸惑ってしまい、どうすればいいのか分からず、ただ彼女の唇を貪り続ける。
二人の距離が接着していることにより、千恵子の体温が俺に伝わってきて、全身が熱く感じる。すでに俺の背中は汗でびっしょりになっている。心臓の鼓動もいつもより速くなって、未だに元に戻る様子はなさそうだ。
そんなことより、千恵子は今何を考えているのだろう? まさか、こんな俺を見て幻滅したんじゃないだろうな……
しかし俺の心配とは裏腹に、千恵子は抵抗することなく、自分の手を俺の背中に置いた。
これは、俺を受け入れてくれるってことでいいんだよな? これほど幸せなことはないぞ。
俺は今まで何度も他人に嫌われて生きてきて、哲也や菜摘に出会うまでは、この世界は絶望や憎悪しか感じられないと思っていた。
だが、あれはあくまで友情の話。相手は千恵子だと、どうしても友情以上の関係を求めたくなる。彼女の優しさに救われて、依存したくなったからか。よく分からないけど、お袋が家出したのがある程度関係があるかもしれないな。
どれぐらい時間が経ったのだろうか、俺と千恵子はこのままじっとしていた。そしてお互いはゆっくりと手を離し、体勢を直す。二人は顔を赤めて、背中合わせになる。
「わ、悪い……さっきのは、いきなりすぎたかな?」
勇気を出してやったこととはいえ、恥ずかしくないといえば嘘になる。一体千恵子はどう答えるのだろうか。
「え、ええ……今も凄くドキドキしているわ」
千恵子の表情が見えないが、恐らく彼女も今頃俺と同じ気持ちだろう。
「迷惑……じゃないよな?」
「いいえ、そんなことないわ。むしろ凄く嬉しいの」
千恵子は弾んだ声でそう答え、しばらくすると話を続けた。
「私、昔から友達が少なくて、いつも一人でいることが多いわ」
「嘘だろう? 千恵子みたいにキレイな子が?」
「ええ、本当よ。他人との付き合いがあまり上手ではなくて。だから、こうして秀和君に受け入れられるなんて、私って本当に幸せ者だわ」
「そ、そうなんだ……それならよかった」
千恵子の気持ちを知って、俺はほっと一息をつく。
「それに、一ついいことを教えるわ」
「何だ?」
「貴方は私の初めて出来た彼氏よ。これからも私のことを大事にしてね、秀和君」
「ああ、もちろんだ……って、今なんて言った?」
思わず耳を疑う。「彼氏」? それってつまりオッケーってこと? いや、そんなまさか……
「わたくし、これから貴方の彼女になります。これからもよろしくお願い致しますね」
敬語で言い直したことから、彼女の本気さが窺える。
心の喜びが噴水のように沸き上がる。これほど嬉しいことがあるだろうか。
俺は目を閉じ、頭を上げた。そしてすぐに頭を元の場所に下げて、千恵子にこう言った。
「ありがとう、千恵子。勇気を出した甲斐があったぜ……!」
「うふふっ、私に断られるとでも思ったの?」
「えー、ちょっとだけかな。千恵子って、こういう恋愛のことがあまり興味なさそうじゃないかって」
「あら、こう見えても私だって乙女よ。興味がないはずなんてないわ」
「まあ、それもそうか」
「それに、私が嫌だったらとっくに投げ飛ばしていたわ」
「意外と手荒いな」
「自分の身を守るためなら、これぐらいは仕方ないわ。秀和君も、私が変な人に付きまとわれるのが嫌でしょう?」
「千恵子の言う通りだな」
女性らしい優しさは千恵子の魅力だが、悪者に屈しない強さも彼女のもう一つのいいところだ。これだから彼女のことが好きでしょうがないぜ。
「それでは、そろそろ中に入りましょう。夜も冷えてきたから、あまり外にいると風邪を引いてしまうわ」
「そうだな、そうするか。まあ、千恵子と一緒だと寒く感じないけどな」
「もう、秀和君ったら、お世辞がうまいわね」
「お世辞じゃないぜ。本当の気持ちを言っただけ」
こうして、俺と千恵子は部屋に戻る途中でも話が弾み、それぞれの部屋に入るまで止むことはなかった。
「それでは、お休みなさい、秀和君。いい夢を」
「ああ、ありがとう千恵子。君もな」
千恵子にお休みの挨拶を済ませると、俺は自分の学生証をドアノブのセンサーに当て、扉を開けた。
いや~、今日はいいことずくめだな。いい夢が見られそうだぜ。
しかしその時に、俺の部屋に思わぬ来客がいた。
哲也「とうとうこの時が来たか……君のことは知っているつもりだけど、まさかここまで大胆な行動に出るとは……」
聡「ひゅひゅー、二人とも熱いぜ! コイツは赤飯を用意しておかねーとな!」
直己「う、羨ましいぞっ! まさかおれより早く彼女ができたなんて……少し悔しいけど、ここはおめでとうって言っておくぜ!」
十守「これは大スクープだわ! 写真もたくさん撮ったし、来週の週刊はお楽しみにね!」
(週刊などありません)
秀和「あ、ありがとう……っておい! なんでみんながここにいるんだよ! もう寝てたんじゃなかったのかよっ!」
美穂「あら、何を言ってるのかしら~? 高校生の夜は、まだまだこれからよ~」
涼華「かずくん、『壁に耳あり、障子に目あり』って言葉を知らなかったのかしらね~?」
碧「先輩、何も恥じることがありません。恋は誰しも体験するものですよ」
冴香「うふふっ、千恵子さんのようなステキな方を選ぶなんて、秀和さんも見る目がありますね~!」
千恵子「そ、その言い方は止めてください、冴香さん!」
茉莉愛「おや~? 顔が真っ赤ですよ、千恵子さん? もしかして図星?」
千恵子「ま、茉莉愛さんー!!! いくらわたくしでも、怒る時は怒りますよ!」
茉莉愛「きゃあ~、千恵子さんがまた暴走しました~」(逃走)
菜摘「………………………」




