赤
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我々は、知らない。しかし、理解しなければならない。
我々は、見たこともない。しかし、観測しなければならない。
我々は、
山小屋ではあるが、文明的な生活をするに必要なものは大体置いてある部屋に久藤敦は住んでいた。久藤はいつもの様に眠りについたのだからいつもの様に目覚めるものと思っていた。
久藤にとってのいつもとは、山に生きる生き物たちの声を聞きながら目覚める事だ。生き物の中には、猫のミーと犬のラウも含まれている。二匹はペットではない。外に行くもの自由にできるような扉にしている。
猫は自由気ままな生き物とよく言われるが、ミーは違う。むしろ社交的だと思う。朝に餌を迫るように鳴くことも少ない。最近分かったことだが、どうもミーは自分で狩りをして食欲を満たしている。しかし毎日狩りに成功することはできないため、失敗した時だけ申し訳なさそうな顔をして鳴く。
ラウも朝鳴くことはない。いや最近鳴いたかな。しかしそれにも明確な理由があった。ラウは外で鳴いていたので、窓から外を見る。逃げていく男がいた。数日後テレビを見ていたら、件の男が窃盗の罪で捕まったそうだ。男は殺人の容疑で指名手配されていて、人気のない別荘や山小屋を転々と移動していた様だ。そして男は殺人を認めたそうだ。つまりラウは本当の危機以外の時は私の安眠を妨げるようなことはしないようだ。
人の声が聞こえる。他人の声を聴くのは久しぶりだ。そのためか、敏感に反応してしまう。ラウが鳴いていないので危機が降りかかることはないだろうが騒音と思ってしまった。
騒音が一向に収まる気配がないので、仕方がなく外に出て状況を把握することにした。騒音の原因の一部に訪ねてみる。
「何が起こったのですか?」
騒音は騒音であることをやめ、一人の人間として答えた。
「山崩れさ」
どうやら先日起こった山崩れに集まっているらしい。山崩れが起こることは、確かに少ない。しかし起こったとしても大抵の奴らは、自分の生活になんの影響がないから気にも留めないだろう。そう思っていている事を、悟ったのかいないのか騒音が続ける。
「でその崩れた後に、人工物が混ざっているってんだ」
崩れた山肌を背伸びしながら見てみる。なるほど確かに不自然だ。山崩れが起きると、山によっては地中にあった岩があらわにになることがある。その岩の中にひと際大きい三角錐と思われる形をした岩が見て取れた。だから自然にできたものではないだろう事がすぐに理解できた。しかしだからどうした。山崩れが起こった後に投棄しただけの事ではないのか。またそんな事を思っている事を、知ってか知らずが、騒音が話す。
「極めつきなのが、山崩れのニュースを見た専門家が、あの人工物は間違いなく他の岩と同様に地中に埋まっていて、この山崩れによって姿を現したってさ」
なるほど専門家が言うなら間違いないだろう。
関心していると、騒音達の関心が別の方向に向いている事に気が付き、自分もそちらを見る。ヘリが下りてきている。よく見るとロープが垂れ下がっている。あの岩をどこかに移動するためだろうか。
しかしこうも音がないと機械の幽霊が現れたのかと思う。昔はどんな機械も音を立てるのが普通で、ヘリのような大きな機械は特に騒音の原因といわれていた。しかし現代はどうだ。ヘリだけでなく自動車や二輪車までもが、音もせずに動いている。
そうこうしている間に岩を運ぶ準備ができたのか、ヘリが上昇を始めた。
この地域だけの習慣だろうか、ある個体数の集団ができると、その周辺で起きた、一挙手一投足すべてに歓声が起こる。
歓声に答えるかのように、ヘリは速度を上げあっという間に見えなくなった。それを見届けた騒音たちは帰り始めた。
ふーー。これでやっといつも通りだ。それにしても、あの岩はなんなんだろう。遠目ではあったがあの岩はこの世の物とは思えなかった。世間の関心は、当分あの岩に注がれることだろう。




