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LETHAL -俺だけが見える勝利の一手-  作者: 龍崎
第一章 無名の高校生

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第9話 謎のKai使い

土曜日。


StarLive Fighting Festival予選当日。


朝からStarLive事務所は慌ただしかった。


大会運営用の通話サーバー。


進行確認。


参加者対応。


機材チェック。


所属VTuberたちもそれぞれの形で大会へ関わっている。


その中の一人、StarLive三期生の星守ノアは自室で深く息を吐いていた。


「緊張するなぁ……」


目の前のモニターにはトーナメント表が映っている。


星守ノア。


登録者二十五万人。


StarLiveでは後輩組にあたるVTuberだ。


普段は雑談やゲーム配信を中心に活動しているが、格闘ゲーム歴は長い。


ランクも高い。


今回の大会もただのゲスト参加ではなく、本気で上位を狙っていた。


「ベスト8までは行きたいな……」


独り言を漏らす。


本戦へ進出できれば公式配信に乗る。


実況解説付き。


大勢の視聴者。


VTuberとしても大きなチャンスだった。


だが。


参加者数は二千人を超えている。


簡単な話ではない。


そして予選が始まった。


試合。


勝利。


試合。


勝利。


試合。


勝利。


ノアは順調に勝ち進んでいた。


もちろん楽な試合ばかりではない。


有名配信者。


ランカー。


大会常連。


予想以上に強い相手もいた。


それでも勝った。


気付けば参加者は十六人まで減っていた。


あと一勝。


あと一勝で本戦。


あと一勝でベスト8。


「よし……」


ノアは深呼吸する。


トーナメント表が更新される。


次の相手が表示された。


LETHAL


その名前を見た瞬間。


ノアの動きが止まった。


「え……」


聞いたことがある。


いや。


ここ数日ずっと聞いていた。


白石凛。


あの白石凛との試合で一気に話題になったプレイヤー。


Kai使い。


正体不明。


経歴不明。


「マジで当たるの……?」


思わず苦笑する。


もちろん動画は見ていた。


何度も見た。


強かった。


信じられないくらい。


だが。


同時にどこか現実感もなかった。


プロのサブアカウント。


元別ゲートップ勢。


海外プレイヤー。


様々な憶測が飛び交っている。


結局誰も正体を知らない。


そんな相手と今から戦う。


「やるしかないか……」


入室通知。


対戦ルームが開く。


相手が入ってくる。


LETHAL。


それだけが表示されている。


アイコンも普通。


プロフィールもほとんど設定されていない。


不気味だった。


まるで存在そのものが霧に包まれているようだった。


キャラクター選択。


ノアは迷わずCelesを選ぶ。


最も使い慣れたキャラクター。


ここまで勝ち上がった相棒。


そして。


相手の選択が表示される。


Kai。


コメント欄が一気に盛り上がった。


『きた』


『LETHAL』


『ベスト8決定戦』


『神カード』


『ノアちゃん頑張れ』


『Kaiきた』


ロード画面。


そして試合開始。


FIGHT。


開始直後。


ノアは慎重に距離を測る。


相手を知らない。


だからまず見る。


情報を集める。


だが。


その考えが崩れたのは数秒後だった。


Kaiが前へ出る。


速い。


だが無茶ではない。


ギリギリの位置。


ギリギリの距離。


ギリギリのタイミング。


全部が正確だった。


「えっ」


気付いた時には防御を強要されていた。


中段。


下段。


投げ。


崩し。


読み合い。


押し返そうとしても先に動かれる。


こちらが考えた選択肢を最初から知っているかのようだった。


体力ゲージが減っていく。


何もできない。


何も通らない。


そして。


PERFECT。


一本目終了。


ノアは画面を見つめた。


頭が追い付かない。


「嘘でしょ……」


チャット欄が騒いでいる。


だが読む余裕はない。


強い。


そんなレベルじゃない。


二本目が始まる。


今度は距離を取る。


牽制を増やす。


リスクを減らす。


冷静に。


冷静に。


そう考えていた。


だが。


Kaiはそれすら見透かしていた。


牽制を置けば飛ばれる。


飛びを警戒すれば足元を崩される。


防御を固めれば投げられる。


読み勝ったと思った瞬間にはさらにその先を取られている。


気持ち悪い。


本気でそう思った。


戦っているのに。


戦えている気がしない。


最後。


苦し紛れに放った切り返し技が空を切る。


その瞬間。


終わったと理解した。


Kaiの拳が叩き込まれる。


K.O.


二対零。


試合終了。


しばらくノアは動けなかった。


画面には勝者表示。


LETHAL。


ただそれだけが映っている。


「……強すぎる」


自然と言葉が漏れた。


悔しさはある。


もちろんある。


だが。


それ以上に感じたのは衝撃だった。


白石凛との試合は偶然ではなかった。


動画編集の見せ方でもなかった。


本物だ。


あれは本当に強い。


ノアは椅子へ深くもたれかかる。


モニターにはベスト8進出者一覧が表示されていた。


有名プロ。


大会常連。


人気ストリーマー。


その中に混ざる一つの名前。


LETHAL。


誰も正体を知らない。


どこから来たのかも分からない。


だが。


その名前だけは確実に存在感を増していた。


そして事務所の別室では。


大会運営スタッフたちも同じ画面を見ていた。


「また勝ったか」


誰かが呟く。


「本当に何者なんだろうな」


誰も答えられない。


ただ一つだけ分かることがある。


明日の日曜日。


StarLive Fighting Festival本戦。


ベスト8の舞台に。


LETHALがいる。


その事実だけが静かに重みを増していた。

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