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09  『グルグゥ!(訳:おしゃべり)』

 今日は4日に1回ある休息日。

 たまには本でも読もうと考えた俺は、朝食後に2階にある自室へと向かう事にした。

 

 「ごちそうさまでした」


 そう言って席を立つと、何かに服の袖を引っ張られていることに気が付く。

 俺は服を引いてきた方へと振り返った。


 「グルゥ……?」


 そこに立っていたのは以前メンテナンスを担当したグールのメイドだった。

 黒髪の少女の姿をしたグールはあれ以来俺に非常になついており、彼女が食事担当の時は俺だけ一品増えていたりする事がちょくちょくあった。

 言葉が喋れずうなる事しかできない彼女達だが、同じ屋根の下で毎日顔を合わせていると何となく言いたいことが分かってくる。

 恐らく今回は「あそぼう……?」みたいな事が言いたいんだと思う。


 「いいぜ、遊ぼうか」

 「……グルグルゥ!」


 少女は顔を輝かせると、曲がらない関節を根元から揺らして小躍りする。

 普段お世話になっているし、たまにはこういう日もあっていいだろう。

 俺は彼女を連れて自室へと向かった。


 「……ググゥ?」

 「この部屋に入れるのは俺以外だとお前が初めてだ」

 「……グググゥ!」


 俺の部屋はこの館の来客室を少しアレンジしてあり、今まで魔界などで集めてきた戦利品などが壁や棚などに飾られている。

 掃除などは自分でやるし、吸血鬼三姉妹も俺の部屋に遊びに来たことは無いので自室に入れるのはこのグールが初めてという事になる。

 グールは部屋を見渡すと、楽しそうにグウグウ唸った。


 「お前って名前とかあるのか?」

 「……グゥ!」

 「『グゥ』が名前か?」

 「グゥ! グゥ!」


 グールのグゥは腕を上下に振りながら繰り返し主張した。

 名前があるという事は個体によって固有名詞を使い分けているという事だ。

 ただ唸っているように聞こえるこれも一つ一つに意味がきちんとあるらしい。

 この独特な発生方法が理解できれば、今まで何となくで会話していた部分がよりスムーズにやり取りできるようになるだろう。

 

 「よし、今日は2人でお勉強をしようか。俺はグゥにこの言語を、グゥは俺にグール語を教え合おう」

 「グゥグルゥ!」


 俺はこの間、アリナさんと買い物に行った際に買ってきた『夜行性モンスターとの過ごし方』という本を取り出した。

 この本には人間の筆者が吸血鬼やグールをはじめ、ゾンビや死神といった夜型の魔物と実際に暮らしてきた内容を分かりやすくまとめてある。

 その中でもグールについて書かれたページを探すと、目当ての部分を見つけた。

 俺はグゥに聞こえるように朗読する。


 「ステップ1:グールとのコミュニケーション。グールは唸り・表情・動作によって会話を行います。表情や動作は感情の表現に用いられ、唸りは会話の内容の表現に使います。余談ですが、グールという名称は彼らの唸り声から付けられたという説があります」

 「ググ!」

 「唸りは音の強弱や抑揚よくようによって発声内容が同じでも意味が異なります。例:グーグー(やや語尾を上げる)は食事がしたい。グーグー(1回目のグーを低く言う)は背中がかゆい」

 「グーグー! グーグー!」

 「今のは最初のが背中がかゆいか?」

 「ググゥ!」


 なるほど、分からん。

 幸い目の前には本物のグールがいるので、本の文章で勉強するよりも実際に会話した方が分かりやすそうだ。

 俺は次のページに載っていた基本的な会話編の文章をグゥと演じてみることにした。


 「レッスン1.あいさつ。……グ、グルグゥ?(訳:げ、ゲンキでござるですか?)」

 「グゥググゥ!(訳:元気です。)」

 「ググル、グルゥ……?(訳:それはジャガイモでござそうろう。)」


 グゥは手をブンブン振ると、俺に間違いを指摘する。

 イントネーションや発音の長さが意味を変えてしまうこの言語では、わずかな詰まりで文章が変化してしまう。

 それに何度も唸っていると喉の奥らへんがイガイガして痛くなってくる。

 

 「あああああ、難しすぎだろ!」


 俺は本を閉じるとベッドに放り投げた。

 今日1日で簡単な会話くらいなら出来るようになるかと思っていたが、中々難しい。

 発想を切り替えて、今度は俺がグゥに言語を教えてみることにした。


 「グゥ、『こんにちは』って言ってみよう」

 「グゥグルグゥ……グルグゥグウグ……」


 少女は真剣な顔をして何度も発声練習する。

 グゥは必死に唸り声を変化させて、発音を近づけていく。


 「グゥグ……ゴングルゥ……ゴングルバゥ……」

 「おお? その調子だ!」

 「ゴングルバゥ……ゴングルバァ……ゴンルヂバァ……」

 

 10分ほど格闘した後、グゥはガラガラした声で発声する。

 注意して聞かないと普段の唸りとの違いが分からないが、確かに「こんにちは」と聞こえなくもない。

 俺達の言語は多少発音が違っていても意味が通じる事が多い。

 この分ならじっくり教えていけば、かなり会話が楽になるんじゃないだろうか。

 

 グゥの頭をよしよしと撫でると、少女は嬉しそうにゴンルヂバァと繰り返し喉を鳴らす。

 俺達は互いに言語の練習をしながら夕飯までの時間を過ごした。




 食堂に向かうと、既にアリナさん達3人が席についていた。

 俺はグゥと一緒に食堂に入ると、いつもの席に座る。

 

 「グゥ、特訓の成果を見せるぞ!」

 「ググゥ!」

 「グルグウル!(訳:おいしそうなご飯でござる。)」

 「ア゛リガルゥ……(訳:ありがとう。)」


 俺達は1時間かけて練習したネタを披露すると、ドヤ顔をする。

 アリナさんやシルヴィアさんはキョトンとしていたが、モナちゃんは楽しそうに手を叩いた。


 「すごーい! ハルマーとグールちゃんは会話できるんだねー!」

 「ああ、簡単な挨拶なら出来るぞ」

 「グググゥ!」

 「今のはバッチリですって意味だ」


 アリナさん達もようやく先ほどの内容を理解したのか、手を叩く。


 「お二人ともすごいですわ」

 「確かにグールと会話できたら便利なのだわ。ハルマ、後で教えて下さらないかしら?」

 「いいですよ!」


 それから館の中で互いの言語を話すことがしばらく流行した。

 俺とグゥは教師役として、グールや吸血鬼相手に忙しい日々を送る事になった。

グールの由来についての説はオリジナルです。

本来の語源はアラビア語らしいです。

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