座り込む二人
異世界モノで三人称視点一人称寄り(寄り方とかクセとか色々強め)です。
青空の下、草原と森の境目付近で、二人の少女が座り込んでいた。年齢的にはおそらく二人とも十代後半に入ったくらいだろうか。第三者的に傍から見れば同年代程度に見えるはずだ。
一人は黒のキャップにパーカー、丈の短いタイトなショートパンツとスニーカーを履いた金髪碧眼ストレートボブの綺麗系。
もう一人は白とピンクを基調とした魔法少女的な服装で、桃色の髪をツインテールでまとめた琥珀眼の可愛い系。
そして、少女二人が座り込んでいる後ろには頭をブチ抜かれて絶命している巨大な羊の魔物が落ちていた。ぼちぼち血のにおいがやばそうだ。
あと、金髪の少女がかぶっているキャップの上に綿のかたまりみたいなものがとまっていた。かろうじてつぶらな瞳と楕円形のクチバシがあるのでおそらく鳥か何かだと思われる。
そんなカオスな状況で、金髪の少女は気まずそうに遠くを見つめ、桃色髪の少女は泣きじゃくっていた。
「えっと……大丈夫?」
気まずさを振り切って金髪の方が話し掛ける。
「……だい……ひっぐ……じょうぶ……ひっぐ……です……ひっぐ……」
――絶対まだ大丈夫じゃない感じだ……!
そうして金髪の少女は諦観を抱きしめながら、また広くて青い空を見上げた。横の少女が泣き止むまでどうしようもないのだ。だって広い草原で見つけた第一村人かもしれないんだもの。
空は快晴であるが暑さはなく、涼しい風が辺り一面に吹き抜けている。聴きなじみのあるようなないような鳥のさえずりが心地よい。そして後ろにはよくわからないでっかい羊が死んでいるし、上には鳥もどきが我が物顔でふんぞり返っているし、横では超絶可愛い女の子が泣きじゃくっている。本当にこれは一体どんな状況であろうか。金髪少女は思った。私が一体何をした、と。いや、本当に何をしたらこんな状況になるんだ。
――ついでに私、記憶喪失だしね……。
どこで何をしていたのかとか、そんなレベルではない。自分の名前すらわからないのである。その状態で気付いたら草原の上とかどんな冗談なのか。どうして横でこんなめちゃんこ可愛い娘に泣かれなきゃいけないのか。いやほんと見れば見るほど可愛いな。どんな冗談だ。全くもう。
急がば回れの精神で、少女はもう一人の少女が落ち着くのを待つしかなかった。一人にしちゃったらもっと泣いちゃいそうだし。あと可愛いし。
♢
「ごめんなさい、もう大丈夫です……」
「あっ、落ち着いた? 良かった……」
第一村人は情報源としてとても重要なのだ。物語の今後の趨勢がここで決まると言っても過言ではない。何せ今は何もかもがわからないわけだし。
「ところでここ、どこなのか知りたいんだけど……」
「……ごめんなさい、わからないんです……」
「……そっかぁ、わからないかぁ……」
「……ごめんなさい、寧ろこちらが聞こうと思ってたくらいで……」
「……そっかぁ……」
終わりました。何の成果も得られませんでした。第一村人かと思ったら自分と同じ状況の人だったなんて。これは由々しき事態である。しかたがないので少女は何かひとつでも情報を聞き出さなければと奮起する。
「あ、じゃぁさ、名前とかって教えてもらって良い?」
「……ごめんなさい……名前も何もわからないんです……」
「……そっかぁ……そうだよね、私もわからないんだもん」
「……あ、そうなんですか……ごめんなさい……」
「あーいや、謝らなくて大丈夫だから、ね……」
何も知らない、自分も誰かわからないような状況であんなでっかい羊に襲われたらそりゃ泣くよな。そりゃそうだよ、うん。と、金髪の少女はちょっと反省した。そして彼女をちょっとだけ哀れんだ。自分も全く同じ状況なのに。
「……同じ状況だね」
「……そう、みたいですね……」
「ぴ」
「……アンタも一体何なんだ」
上から鳴き声が降ってきた。何かずっととまっている鳥もどきである。見てくれはまるっこくて結構可愛いとは思うのだが神経が結構図太くて意外に足の力が強い。何回か爪がキャップを貫通して頭に刺さって痛かった。
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「アンタは空気読まなくていいのよ……」
「ぴ」
あぁ、風が心地よい。そしてとても気まずい。こんな状況あってたまるか。
そんなことを考えていたら、桃色髪の少女が口を開いた。
「……あの、良かったら仮にでも名前を考えませんか?」
「お、ナイスアイディアじゃん」
これは妙案だ。お互いを呼ぶことすらままならなかったし。
「そしたらさ、お互いに名前を交換しない?」
「……交換……ですか?」
「んー、交換っていうか、お互いに名前を付け合う……的な?」
「……え、そんなことして良いんですか……?」
「良い良い! だって私だって自分の外見もわからないし」
「え、綺麗系の超絶美少女ですよ。私なんかが名前を付けるなんておこがましいというか……もう世界獲れるレベルですよ」
「何の世界を獲るんじゃい……そっちだってめちゃくちゃ可愛いよ? そっちこそ世界獲れるよきっと」
「………………………………………………ぷっ」
「………………………………………………ふふっ」
お互いに気恥ずかしさで赤面したあと、何か妙におかして二人で思いっきり笑いあった。心とはこういう瞬間に通じ合うものなのかもしれない。
「……はー、何か笑っちゃった。名前考えなきゃね」
「……エルザ……ってのは……どう、ですか?」
金髪の少女は一瞬きょとんとまばたきしてから
「……あ! 私の名前か! え、めっちゃ良いじゃん!」
「あぁ、良かったぁ。何か綺麗で強そうなイメージで……」
「そっかぁ」
エルザと命名された少女は、口角が上がるのを必死に抑えている。
「じゃぁそっちは……どうしようかな。可愛い系可愛い系……」
「あのっ! 私にも強そうな名前を下さい!」
「へ? 強そうなのが良いの?」
「私ちょっとメンタルがその……さっきの見ていただいたらわかるとは思うんですけど……。なので、もっと強くなりたいんです!」
彼女の琥珀色の瞳には強い意志がこもっているようだった。良い名前を貰った以上、それに見合うだけの名前を提供しなければなるまいて。
「わかった……じゃぁ、ヘルガっていうのは? ちょっとこっちの名前に似てる音の感じ? にしてみたんだけど……どう、かな?」
「……ヘルガ……良いですね! とっても強そうです!」
ヘルガと命名された少女も頬を赤らめて嬉しそうにしている。即席ではあるが名前を気に入ってくれたらしい。あとめっちゃ可愛い。ほんと。
「まぁ、呼び名だから気に入らなくなったら途中で変えても良いし……」
「変えません! 絶対!!」
「そ、そう? そこまで気に入ってくれたなら良かったけど……」
「むしろそちらも気に入らなくなったら変えちゃって良いので……」
「……変えないよ、絶対」
「……それで良いんですか……?」
「素敵な名前貰っちゃったしねぇ」
にしし、と歯を見せて笑うエルザに、ヘルガは大きな安堵を覚えた様子だった。このタイミングなら言えるかもしれない、と彼女は自分自身を奮い立たせる。
「……あの! 私と友達になってもらえませんか!」
ヘルガの必死に懇願する姿にエルザはちょっと笑ってしまう。
「良いよ。っていうかもう友達だと思ってたけど」
「あっ、本当……ですか……。良かったぁ」
「じゃぁ、友達だからお互い呼び捨てで敬語禁止ね?」
ちょっと意地の悪い顔でエルザが微笑む。
「えっ!? いきなりはちょっと難しいかも……?」
「そしたら、私も敬語にしちゃって良いですか? ヘルガさん?」
「あっ、それはちょっと嫌かもです……エルザさん」
「でしょー、へへへ」
「ふっ、ふふふ」
「ぴぴぴ」
「ガルルルルルルルルルルルルルルッ! バウッ! バウッ!」
「えっ、何か知らん声した」
「あ、さっきから血のにおいにつられて狼来ちゃったみたいで、今めっちゃ囲まれてますね」
「いやいやいやコワイコワイコワイ! 狼なんてめっちゃ襲って来るじゃんね? あと敬語禁止忘れないで」
「あっ、うぅぅ……」
周囲を見れば狼がざっと見ただけで六頭ほど吠え散らかしていた。エルザは話に夢中過ぎて全然気が付いてなかった。
「気付いてたら教えてくれれば良かったのに~。っていうか全然気付かなかったんだけど」
「や、気にしてないかと思って……ちょっとうるさかったので消音効果とかやってみたり……あ、この防御魔法でとりあえず中には入って来れないようにしてあるんで大丈夫と思うんで……あっ、思うんだけど」
よく見ると光の壁のようなもので狼は中に入って来れないようになっていた。物理的に作用出来るシールドと考えるとめちゃくちゃ有用なのでは。っていうか今消音効果とか言った?
「防御魔法……あ、さっきのやつか! いやヘルガめっちゃ強いじゃん! さっきもでっかい羊の攻撃防いでたし、今も狼入ってこれないし!」
「うーん、今これだけしかできなくって……」
ヘルガは先刻、後ろで転がっている巨大な羊の攻撃をこの防御魔法で防いでいた。後からエルザが聞いたところ結構長い時間を攻撃を防いだまま膝を抱えて泣いていたらしい。日の傾き方からして三時間くらいだろうか……ってそんなに!? 魔力もそうだが涙が尽きなかった方が不思議だ。
「これさぁ、中から敵を撃ち抜けたりするかな?」
「やってみないとわからないで……わからない、なぁ?」
この状況で必死に敬語をやめようという姿勢にエルザは感銘を受けた。超絶美少女が必死に自分の言いつけを守ろうとしているのだ。自分が異性だったら交際を前提に結婚を申し込むレベルだろう。同性だから耐えられた。同性で良かった。
「ちょっと調整してみますね……あ、できそうです」
余裕がなかったのかすぐに敬語になってしまった。ヘルガのそんなところも可愛いなってエルザは思った。同性で良かった。本当に。
「……ん? ヘルガどん、調整とは?」
「あ、中から武器使ってもらって大丈夫そうです、エルザどん……へへ」
「……メッカワ…………は? 今の今で魔法を作り変えた……ってコト!?」
「まぁそういう感じで、あ、そういう感じってこと!」
敬語を使わないことを思い出した変な言葉遣いのヘルガも可愛いなってエルザは思った。それだけ彼女は集中していたのだろう。つくづく同性で良かった。防御魔法の中で押し倒してしまったら年齢指定を付けなければならないのだから。その心配がない以上、とりあえず今は格好良いところを見せるに限るぜ!
「じゃぁ遠慮なくブッ放しちゃいますかぁ!」
エルザの身体から黒い霧が湧いて出ると、瞬時に右腕の中に収束する。それは黒い拳銃となって敵に銃口を向ける。実在の物ではなさそうだが、ブローバック式のオートマチックガンの形状をしている。
先の羊の頭に風穴を開けたのはこの銃である。魔物の命を一撃で刈り取ったその威力は折り紙付きといって差し支えあるまい。
「折角だから出来そうなこと試してみたら良いんじゃないで……ない?」
「あー……確かに」
この際敬語未満の可愛さは一旦置いておくべきだ。エルザは目の前の敵と自分に出来ることに集中することにした。でも何か横から可愛い娘が魔法を一生懸命使ってくれてる感じのお花以上のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!
「銃だからなぁ……何かこう必中的な技とかないのかな?」
「あの……私に聴かれても……」
ついヘルガの方を凝視してしまう。可愛過ぎるから。むしろエルザの方がヘルガに射抜かれてしまってるっていう、何かそんな感じだ。もう既に手遅れかもしれない。
「バウッ! バウッ! ウウウウウウウウウウウウウウゥ! バウッ!」
「チッ、うるさいなぁ……」
その時エルザの視界で、眼前で吠えている狼にわかりやすいレティクルが付いた。条件的にはエルザ自身の敵意とか殺意といったところだろうか。
「……ん? 必中照準? これか!」
敵が入って来られないことを良いことに、エルザは適当な空中に銃をブッ放した。光そのものを撃ち出したような弾丸は見事に防御魔法をすり抜け、はるか遠くに消えたように見えた。
「えっ、一体何を……?」
「はえー、やっぱダメだった……かな?」
「バウッ! バウッ! バウッ! バッピギャンッ!」
何か今ブッピガンみたいな音した? はるか遠くに消えたはずの弾丸はどうやら戻って来て後ろから狼の頭を撃ち抜いたらしい。そして今、甲高い打撃音を放ってから防御魔法に高速回転しながらめり込み始めた。周囲に亀裂が走るが、防御魔法は何とか耐えている。
キュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン……
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル……
「あっ、あぁーーっ、ゴメンゴメンゴメンゴメンこれ絶対ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!」
「……相殺、制御、吸収、消滅、なんとか……これで!!」
ヘルガの瞳が琥珀色に光る。めり込んだ光弾は防御魔法に吸収され、入った亀裂を補修する形で消滅した。その間わずか十秒程度。ヘルガ、恐ろしい子……!
「とっ、ととととんでもねぇ……!」
「……ふぅ、ちょっとだけ焦ったけど何とかなりま……なった!」
有能で可愛いとかこの娘女神なのでは? エルザは訝しんだ。
「ぴ?」
アンタじゃない。エルザは眉をしかめた。
「とりあえず、他のやつもやっつけちゃうね……今度は余計なことしないように普通に……」
「あ、さっきのやっても大丈夫で……大丈夫! さっき改良できたから同じくらいの威力なら相殺できると思……うの」
「あ、ほんと?」
「多分大丈夫なはず!」
有能が過ぎるとだんだん怖くなってくるぞこの女神は。
「それじゃもう一コ上いけるか試してみるわ!」
「が、頑張って!」
相棒が有能だと俄然張り切ってしまう。もう何も怖くない!
っていうのはさすがにフラグが過ぎるので控えた方が良さそうであるが……。
「複数必中照準!!」
先ほどのレティクルと同じものが、残り五匹の狼たちを捕捉する。あとは弾道をわかりやすいように真上に向けて発射するだけだ。
「いっけぇーーーーッ!!!」
軽い炸裂音とともに放たれた光弾は防御魔法のドーム天井をすり抜け、青空を突き抜けた後にはるか天空で五つに分裂、直後に狼達の頭蓋を天からブチ抜いた。状況によっては天罰とか神罰的なものに見えるかもしれない。不可避でこの威力は中々恐ろしい技である。
光弾は直撃したらすぐ消えるように設定したつもりだったが、いかんせん弾速が速過ぎたらしく、土をえぐって周囲には隕石でも落ちたような土埃と轟音が上がった。外は何も見えないが、恐らく狼も全滅していることだろう。
「いやぁ、防御魔法あって助かったよ。土埃すごいし、何より守ってもらっちゃってたし」
なんなら瞬時に光弾の相殺したり魔法作り変えたりもしてるし、ヘルガを絶対敵に回しちゃいけないとエルザは心に固く誓った。敵になるくらいならお婿さんにしてもらおう。同性だけど尻に敷かれても良いと思ってる。
「いえいえ、私も防御魔法しか出来なかったので、モンスターやっつけてもらって助かりまし……助かった、よ」
敬語はどうしても抜けないらしい。まぁしばらく一緒にいれば落ち着くだろうし、エルザはこれを今だけの楽しみとしておくことにした。
「……さて、これからどうしよっか!」
「そうで……そうだね、とりあえず……」
ヘルガは周囲を見渡して何かを諦めたように絞り出す。
「周りをどうにかしないと、またモンスター寄って来ちゃいま……来ちゃうね……」
「土埃、早く落ち着くと良いね……」
二人が肩をすくめている場所からやや遠くから、何かしらの大型モンスターの遠吠えが聴こえ始めたあたりで、二人は互いを見て苦笑いをするしかなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。冒頭に死体転がしました。
地の文としてはメタ&フリーな感じで、書く側が楽しければOKなスタンスです。
クセつよ片道見切り発車、どなたかにでも気に入っていただけたなら嬉しい限り。
※ 8/28 ヘルガの一人称がとっ散らかってたので「私」に統一しました。




