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箱庭のテラフォーミング【カオル編】流浪のエンジニアと、世界のバグ  作者: 大神みや
第4章 流浪の果てと、最後のバグ

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最終話 私たちのテラフォーミング

ジャンナの崩壊から数ヶ月。


私たち――私とカイ、そしてレイラとセリアの四人は、この新しく自由になった世界を巡る、長い長い旅を続けていた。


マ・カレシュの旧市街では、新しいシステムを作り直しているジャミーラと再会した。


彼女の傍らには、地球へ帰還せずにこの街に残ることを選んだ元キャストのマークが、汗を流して働いていた。


「……ジャミーラ。マークは旧式の農具ばっかり使ってるじゃない」


「……効率的なのよ、この環境では」


「そういう言い方、前にも聞いたわね。誰かさんが私に言ってたやつ」


私がニヤニヤしながら突っ込むと、ジャミーラは何も言わなかったが、その耳は少しだけ赤くなっていた。


南へ下る途中のテウマ峠。


カイたちが作った温泉とエビの養殖場に到着し、脱衣所で荷物を下ろそうとした時のことだった。


カイの鞄から、見覚えのある、折り畳まれた白い紙切れがハラリと床に落ちた。


私は何気なくそれを拾い上げる。見慣れた、自分の乱暴な字だった。


「……なんで、あんたがこれ持ってるの」


「サードに貰った。農業のメモ、参考にしようと思って」


「参考……全部、読んだ?」


「ああ」


「『サウナに入りたい』のところも?」


「ととのいたい、ってところも」


「返して!! 今すぐ燃やすから!!」


私が顔から火を吹きそうになりながら掴みかかろうとすると、カイはノートの切れ端をサッと上に掲げ、少し間を置いてから静かに言った。


「やだ」


そのたった二文字に込められた響きに、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。


このバカは、参考のためなんかじゃなく、私の最低で最悪な八つ当たりの瞬間を、ずっとお守りのように大事に持っていたのだ。


「……バカ」


私は真っ赤になった顔を隠すように、サウナ室へと逃げ込んだ。


その後、たっぷり汗を流して「……ととのったぁ」とだらしない声を出した私をカイが笑い、結局みんなで腹を抱えて笑い合った。


メルフドではアイシャや先生たちと再会を喜び合い、旅の終着点であるバベルでは、相変わらず限られた電力の中で逞しく生きるタハールやネビルたちを見届けた。


「俺は何もしてない。お前が自分で考えて、気がついた。ただそれだけだ」


ネビルのその言葉は、インフラエンジニアとしての私にとって、最高の褒め言葉だった。


バベルの街外れ。見渡す限りの荒野を前に、私は大きく伸びをした。


「さあ! 次はどこに行く? ……私たちの箱庭を、作りに行きましょ」


私たちは、青く澄み渡った空の下へと歩き出した。


* * *


【後日譚】


世界を揺るがした、あの劇的な『反逆の生配信』がプツンと途絶えてから、数年の月日が流れた。


私たちは結婚した。


GECOにやらされるシステムではなく、自分たちの足で探し、自分たちの手で新しい土地をテラフォーミングして、小さな村を作った。


テウマの温泉で、マークとジャミーラが言っていたのを思い出す。


『この国は昔から、荒れた大地に緑を取り戻した男は、感謝の証として複数の女を娶るという古い風習がある。今でも田舎の方じゃ生きてるぞ』


――まさか、本当にそうなるとはねぇ。


現在、私たちは四人で暮らしている。


レイラもセリアも、「私が2番目です!」と譲らないけれど、毎日が騒がしくて、どうしようもなく愛おしい。


インフラを整える私。土を耕すカイ。それを笑って支えてくれる二人。


お腹を撫でる。


もうすぐ、この騒がしい家に新しい家族も増える。


そうすればきっと、ここが本当の意味での、私たちの楽園になるのだ。


カイが土を掘る音と、私のキーボードを叩く音だけが、誰にも見られることのない静かな空の下に響いていた。

カオルの旅は、ここで一旦終わりです


農業技術者とシステムエンジニア


アナログとハイテクの対比にしたくて


カオルさんには、たくさんの逆境の中で頑張ってもらいました


最先端や効率だけが、人を幸せにするのではない


自分が良いと思ったことが、みんなにとって良いこととは限らない


自分だけの力では、どうしようもないこともある


カイに比べて、失敗と学びの多い旅でした


私もいつも、その繰り返しです。


いつかカオルさんと一緒に、マークのお酒を飲みながら、


いろんな話をしてみたいなと思います


カオルさんの旅にお付き合いいただき、ありがとうございました


マークさん他の旅は続くので、そちらもお楽しみに

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