【エピローグ : Friends】
表彰式は、あっという間に終わった。
一位、アプリ。
賞金、五十万円。
ラビットが封筒を渡した。
アプリが受け取った。
無表情で受け取った。
会場の拍手が、宗谷岬の風に流れた。
その日の夜。
サガレンのガレージに、全員が集まっていた。
*
経緯はこうだ。
表彰式の帰り道、アプリがぽつりと言った。
「金の使い道を決めた」
全員が聞いた。
「全部使う。今夜」
誰も止めなかった。
誰も「もったいない」と言わなかった。
みんな、なんとなくわかっていた。
アプリらしい使い道だと、わかっていた。
*
ガレージの中に、炭火が起きた。
BBQグリルが、ごうごうと燃えている。
肉が乗った。
野菜が乗った。
海鮮が乗った。
出前の寿司が届いた。
大きなおけに、ネタが山盛りになっている。
稚内の寿司だ。
ウニが、イクラが、ホタテが、どこまでも続いている。
酒が並んだ。
つまみが並んだ。
テーブルに乗り切らなくて、ガレージの床にも並べた。
本田だけはジュースだ。
でも、ジュースで十分だった。
乾杯した。
「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」」
声が、北海道の夜空に上がった。
*
ミーハーがBBQのトングを握った。
肉を焼き始めた。
「私が焼いてあげるわ。カワサキの炎で焼いた肉は最高よ」
アプリが「炭火はカワサキじゃない」と呟いた。
全員が笑った。
鈴菌が寿司のおけを分析し始めた。
「このウニはSUZUKIのエンジンのような完成度だ」
誰も意味がわからなかった。
でも、なぜか全員が頷いた。
モト子がVタックさんの隣に座った。
「今度、息子さんの連絡先教えてください」
「構いませんよ」
「本当ですか! どんな方なの?」
「原付が好きな、いい子ですよ」
「バイクは何に乗ってますか?」
「スクーターです」
「車種は?」
一拍置いて、Vタックさんが言った。
「スクーターです。赤い」
モト子が固まった。
全員が爆笑した。
ミルミルがヤクルト1000を配り始めた。
乾杯の酒の横に、ヤクルト1000が並んだ。
「腸活も忘れずに」
「ミルミルさん、ここでも配るんですか」
「旅の習慣ですもの」
チャンプがメモを取ろうとして、今夜は取材じゃないことに気づいてメモをしまった。
それを見たくま子が笑った。
くま子が本田の隣に座った。
自然に、隣に来た。
本田は気づいていない。
ただ笑っている。
「本田くん」
「はい?」
「谷中湖、ちゃんと覚えとるね」
「覚えてますよ。ハート形の湖でしょ。行きましょう」
「……うん」
くま子が小さく笑った。
ドッグタグが揺れているバイクの鍵を、ウエストポーチの中でそっと握った。
*
アプリが肉を焼いた。
本田の皿に、一番いい部位を乗せた。
何も言わずに、乗せた。
本田も何も言わずに、食べた。
旨かった。
宗谷岬で飲んだカツゲンと同じ味がした。
いや、もっと旨かった。
「アプリさん」
「なんだ」
「五十万円、全部使い切りますね」
「使い切る」
「もったいなくないですか」
「もったいなくない」
アプリが炭火を見ながら言った。
「金は使うためにある。仲間と飯を食うために使うなら、これ以上の使い道はない」
本田は頷いた。
それ以上、何も言わなかった。
言葉はいらなかった。
*
夜が深くなった。
寿司のおけが空になった。
肉が全部なくなった。
酒が全部なくなった。
つまみが全部なくなった。
五十万円が、綺麗に消えた。
ガレージに、全員が転がっていた。
酔っ払いと、一人だけシラフの十七歳が、炭火の前に並んでいる。
誰かが笑い出した。
理由はわからなかった。
でも、つられて全員が笑い出した。
何がおかしいのか、よくわからなかった。
でも、止まらなかった。
笑いが、笑いを呼んだ。
ガレージが、笑い声で溢れた。
本田も笑った。
鹿児島を出た朝のことを思い出した。
あの朝、こんなに笑える未来が待っているとは思っていなかった。
思っていなかったけれど、ここにある。
宗谷岬のすぐそこで、仲間たちと並んで、笑っている。
本田は、もっと笑った。
腹の底から笑った。
涙が出るほど笑った。
北海道の夜が、笑い声を受け止めた。
星が、その上で輝いていた。
了
ここまで読んで頂きましてありがとうございます。当方が好きな原付はYAMAHA JOG APRIO type-Ⅱになります。
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