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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第六章 石に魅せられて
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-6-

 一志は、村山の言葉など全く耳に入らないかのようだった。

「それで俺は、順平を洗い場まで連れて行った。これを見ろ」


 それは、いつか一志が大事そうに見せてくれたあの不格好な砥石だった。

「何だ、あんなことを言ってたくせに結局使っているのか」


「いや、俺は一度も使っていない。

 これをあいつに見せて、どうだ美しいだろうと聞いたんだ。

 すると奴め、黙って頷くと、まるで魅入られたようにじっと見つめているんだよ。

 それで俺は言ってやった。

 いいか、こいつは恐竜が現れた二億年以上も前から、地球の奥深くでこう、ぎゅうぎゅう圧し潰されて――」



 また同じ講釈を延々とされてはかなわない。すかさず口を挟んだ。

「そこはいいから、その先の有り難いところだけ、ちょっとやってくれ」


「何だ、お寺の坊主に言うようなことを言いやがって。ふん、まあいいや。

 少し勿体ないような気がしたんだけれども、俺は思い切って砥石に水をかけてみたんだ。すると何とも言えないような美しい紋様がさっと現れてだな、

 順平のやつ、それを見てまるで金縛りにあったみたいになっちまった」



「金縛りだって? それはまた大げさだな」

 思わず笑ってしまった。


 一志は怒りもしない。

「それが本当にそうなんだ。

 実は俺もその時、何かしらこう、不思議な感覚にとらわれてね」


「ハハハ。今日はお前らしくないことばかり喋る」


「いいから、黙って聞いてろ。

 俺自身は最初からそのつもりだったんだが、その時はまるで何かの力に支配されているように、無意識に順平に包丁を渡していた。

 やつは相変わらず食い入るように砥石を見つめていたんだがね、

 やがてぶるぶると手を震わせながら、包丁の刃をそれに当てたんだ。

 すると驚いたの何の、まるで刃の方から砥面にぴたっと吸い付くように、あいつの手が自然に動いているじゃないか。

 それを見ていて、俺は背中がぞくぞくっとしたよ。

 こんなことって本当にあるんだな」



「ほお、それで」

 思わず真剣になって聞く。

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