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「黙れ黙れ」
一志は頭に巻いていた鉢巻きをむしり取ると、村山に向かって投げつけた。頭から湯気が出るような勢いである。
「この野郎。それ以上何か言ったら、今度は本当に承知しないからな」
「やれやれ……。いつもそうやって頭ごなしに怒鳴るだけで、いっさい人の話を聞こうとしない。
お前のそういう態度が一番問題なんだよ。そのために周りの人間がどれだけ傷ついてきたことか。
従業員が居着かないのもそれが原因だ。一番辛抱できてないのはお前自身じゃないのか」
「黙れって言ってんのが分からないのか。ああ、また箸でつまんで――。何度言わせりゃ分かるんだ。
俺の握った寿司は手で掴んで食えって」
「だったら箸なんか、初めから店に置くな。今時、寿司は箸で食うもんじゃねえなんて、どこにそんな所があるんだ」
これまで必死に、落ち着いて話そうと努めていた村山だったが、ついまたカッとなってしまった。
一志も即座に言い返す。
「うちで出すのは寿司だけじゃねえんだ。だからどうしても箸は必要なんだよ。
それに箸で食べたければ、もっときれいに食べたらどうだ。何だ、ぼろぼろシャリをこぼしやがって。
あーあ、幼稚園児じゃあるまいし、全くみっともねえったら。
お前みたいなのは、俺の寿司を食う資格がない。回転寿司にでも行ってきな」
「回転寿司? 上等じゃないか。ここより百倍も賑わってるぞ。そりゃそうだろうよ。
あそこは値段が安いうえに、店主の余計な御託も聞かされずに、安心して食べられるからな。大人も子供も本当に嬉しそうに、幸せそうに食べている。それで結構。
何々……? お前の寿司だって? ああこれか」
村山はわざとまた箸でつまんで、高く掲げて見せた。目を細めて、四方八方からしげしげと見つめてみせる。
「なんだこりゃ。シャリがぎゅうぎゅう圧し固められて、互いにいがみ合ってるように見えるな。
そのくせ、ちょっと箸でつまんだだけで、ばらばらになってしまうんだから」
「チ、チクショウ、さっきから言わせておけば……。
利いた風なことばかり抜かすんじゃねえよ、ど素人が。
もうこれ以上我慢できねえ、とっとと出ていきやがれ」




