アマトは嘘をつけない
謁見の間。その名の通り、王様と謁見する場なのだが、基本的に国民が自主的に王様に意見を申す場ではなく、王様が話のある人をここに連れてくるのだ。
その何のために存在するかよくわからない謁見の間にアマトとメルは膝間付き、頭を下げていた。
「二人とも頭を上げい」
ゆっくりと頭を上げ、前を向くと、玉座に座る憎たらしい顔をした王様がこちらを見ている。
立派に整えられた髭を擦りながら王様はゆっくりと口を開く。
「それで……何でここに呼ばれたのか心当たりはあるかね?」
心当たりもなにもいきなり呼び出しといてその態度はないだろう。沸き上がる怒りを抑え、呼ばれた理由を模索するが何もない。
「すみません。何も心当たりがありません」
「そうか……自覚がない、ということか」
ぶっ飛ばしてやりたい。呆れた顔でため息をつくあの王様を今すぐ魔法で吹き飛ばしてやりたい気分だ。でもあのアマトがまだ我慢しているんだ。ここはじっと我慢、我慢。
「ここ最近、そなたらは王都にはいないようだが……一体何処で何をしてるのかな?」
何となくそんな気はしていたが、はてさて何と答えればいいのかな。正直に言えばこの王様の事だ、リーナ達に迷惑をかけるに決まっている。かといって誤魔化せば自分の身の危険がある。二つに一つとはこの事か。
「……わかっていると思うけど――」
「俺様達はずっとハンデル村にいたぞ」
耳打ちで下手な答えを言わないよう忠告しようとした瞬間にアマトは正直に答えていた。
「えっ、ちょっと……!?」
知っていた。知っていたからこそもっと早めに忠告すべきだった。なにせ、アマトが嘘もろくにつけず、本音しか言えないのだから。
眉間に皺を寄せ、口ごもる。それが動揺なのか怒りなのか定かではないが、よろしくない感情は抱いているだろう。
「何故、王都ではなくハンデル村にいたのだ?」
「それは俺様達がカケルとの勝負に負け、ハンデル村の発展を手伝うよう命令され――」
「馬鹿! それ以上はダメ!」
無理矢理口を封じるが、既にアマトは重要なことを全て言ってしまった。勝負の事。カケルの事。発展の事。聞かれたのが王様だけなら良かったのだが、周りにいる警備の兵士にもガッツリと聞かれている。これでは言い逃れもできない。
「発展の手伝い……それにカケル……どういうことか説明しろ。あの村は食料援助をするだけでそのまま放置するはずではなかったのか? それにそのカケルとは何者なのだ」
「えっと、それは……あの……」
マズイ、マズイ、マズイ、マズイ。村の説明はともかくカケルの説明だけはマズイ。下手をすればカケルの身が危ない。と、必死に弁明の言葉を考えるが、アマトが口を塞いでいる手を振り払うとペラペラとまた話し出す。
「カケルは神様とやらからハンデル村を発展させるために呼ばれた異世界の人間だ」
「も~、何でそんなことまで言うのよ。アマトを信じた私が馬鹿だったわ」
杖でひたすらアマトの頭を叩く。
痛い痛いと文句を言っているが気にせずに叩き続ける。
「神に呼ばれた異世界の人間……ほっとけば儂の邪魔をするのは明確か……」
叩くのに夢中になりすぎて王様が呟いた内容が聞き取れなかった。これも全部アマトのせいだ。
「……大体の事はわかった。一先ず二人は下がれ」
「で、てすが……」
弁明しようとするがキィッと睨み付けられる。これ以上粘ると余計に話がこじれることになる。
「はい……」
立ち上がっていたアマトが手を差し伸べている。何もできずに最悪な事態になったモヤモヤが残るが今は出直すしかない。渋々、アマトの手を取り、謁見の間から待機していた部屋に戻るため謁見の間を後にする。
二人が部屋から出たのを確認すると王様は周りの兵士達も一旦、部屋の外に出るよう指示し、一人きりの状況を作る。
「……今の話を聞いていたか」
周りには自分以外、誰もいない。だが、王様は近くで誰かが話を聞いていると確信をもって話を続ける。
「依頼を頼もうと思う」
ひときわ強い風が吹く。窓が開いていたのか風でカーテンが広がる。
「対象は?」
不意に背後から女性のような声が聞こえる。しかし、王様は振り返って声の主を確認しようとはしない。それは、背後から刃物を突き付けられたような殺気を感じるからだ。
「ハンデル村にいるカケルというやつを殺してほしい」
「報酬は?」
「一万リベルでどうだ?」
殺気が薄れた。それは依頼を承ったという証しだ。
「期限は?」
「なら……村が発展するまででどうだ?」
「承知した。カケルの暗殺依頼しかと極夜の暗殺団が引き受けた」
また、強い風が吹き、カーテンが広がる。カーテンが収まった頃には突き付けられたような殺気は消え失せていた。
「フフッ、これでまた儂の邪魔をする輩が一人消えるわい」
自分にとって都合のよい展開になっていくことに笑いが止まらない。
「カケルとやら、せいぜい背後には気を付けることだな。フフフ……カッハッハッハッハ!」




