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道化師からの忠告

 次の日、カケルとリーナは王都で馬を買いに行っていた。明日以降から王都と魔都と二つの都市で同時に商売をするため馬は大体、三頭買うつもりだ。

 

 「じゃあ私は馬を買ってくるからカケルとリュオはそこで待っててね」


 昔、馬を飼っていたリーナは馬の良し悪しが分かるため三頭分の代金とエサ代を託し、リーナは馬を買いにいった。出来れば自分も着いていけば良いのだが、どうも馬小屋の独特な臭いが苦手で一緒には行きたくないのだ。

 特にすることもなく近くの階段に腰を下ろしボケ~と空を見ながらカケルは村のみんなの事を考えていた。


 「……フェルは上手くやっているだろうか」


 昨晩、遅くまでどの料理を作るか話し合った結果、コスト的にも作業量的にもフライドポテトを作ることにしたのだ。材料はジャガイモだけでよく、ジャガイモなら村でも栽培しているため問題ないのだが、まだ収穫は出来ず今回は等価交換で出したジャガイモを使うのだ。そのため本日のフェルと十人の作業はひたすらジャガイモの皮を剥き、スティック状に切っていくことだ。

 

 「上手くやってくれればいいな~」


 「ブルッフッゥ」


 コクコクと頷いて同意してくれるリュオを撫でてやり、またボケ~と空を眺める。

 青い空に雲が様々な形を作り、流れるのを見ていると今日も平和だな~と感慨更けてしまう。

 リュオも暇なのかその辺りをぐるぐるぐるぐる回っている。


 「馬を買うのにどれくらい掛かるんだ」


 こうなるのなら我慢して着いていくか、終わる時間を聞いといてその辺で暇を潰すというのをすればよかったと後悔してしまう。


 「……ふぅ~」


 溜め込んだ息を吐き出しもう一度空を眺めようとすると珍妙な格好をした人が足元を見ながらキョロキョロと何かを探していた。

 あまりにも珍妙すぎて探し物ですかと声を掛けるべきか迷ってしまう。

 後ろ姿しか見えないが黄色の長髪や華奢な体つきを見る限り女性だろうか。ピンクと薄紫のチェックにピンクのスカートにタイツを穿いており、先の尖った靴もピンクとピンクづくしなうえに被る帽子も二股に分かれたピンクと薄紫。まるで道化師のような格好をしているのだ。

 

 「困った~。ホントに困ったな~」


 見るからに怪しいが口で言うほど困っている様子。例え怪しい格好でも相手は女性、男ならここは助けに行くのが筋ってもんだ。

 意を決したカケルは立ち上がると女性の元に掛けていく。


 「どうしたんですかー。大丈夫ですかー?」


 「んん~、本~本~。わたしゃ本や~い」


 声を掛けても無視をされてしまったが探し物が本だと分かったのならひっそりと手伝う事が出来る。

 女性の探しよる反対側を調べ始めると、すぐ近くの建物同士の間に分厚い本が落ちていた。

 こんな簡単に見つかるとは思わず狼狽えるがまだ女性のとは決まったわけではない。一応、確認のため本を拾う。


 「あの~、探している本はこれですかな?」


 今度は無視されないように女性の前に立ち、自分が視界に入ったのを確認するとそのまま本を見せる。


 「おお~! それそれ、それじゃよ!」


 嬉しそうに本を取る女性。垂れ目で大人しそうな若い女性なのに年寄りっぽい口調に違和感を覚える。


 「いやはや~、まさかこんな若くてイケメンな男性に助けてもらえるとはの~」


 やはり言動と容姿のミスマッチは気になるがイケメンと褒められて喜ばない男はいないだろう。


 「いや~それほどでもないこともないけど」


 「いやいやいや、普通こんな珍妙な格好をした人に話しかける人はまずいないじゃろ~」


 珍妙な格好をしている自覚があったのか。本の中身をパラパラと確認をするとパタンと本を閉じ、腰に着いてあるフックに引っ掻けた。


 「ホントにありがとな~。これといってお礼をするもんなんて持ってないんじゃが……」


 「別に見返りを求めて助けた訳じゃないんで……気にしなくても……」


 「いいーや! わたしゃ気にする。なのでほい、一枚引いてみ」


 そう言うと女性はパッと目の前に沢山のカードを並べた。普通は見知らぬ人にこんな怪しそうなカードを引いてみて言われ引くわけはないのだが、この世界にはトランプは無く、ならこのカードは何なのだろうかという好奇心に駆られカケルは真ん中のカードを一枚引いた。


 「どうじゃ?」


 引いたカードを見てみると黒いローブを纏い、人の首など簡単に切り落とせてしまいそうな鎌を持った骸骨のイラストが掛かれていた。


 「こ、これは……」


 「フムフムどれどれ……ありゃ~これはついてないのォ~」


 隣からカードを覗き込んだ女性は腕を組み一人納得して頷いている。


 「こ、これはどういうことだよ!」


 「これか? これはわたしゃの作った占い道具じゃよ」


 「占い……ならこのカードを引いた俺の運勢的な何かが分かるのか」


 「もちじゃよ~」


 気楽に言う女性だがこのカードを引いたカケルは全く笑うことができない。

 占いでこのイラストが出た場合、大抵は良くない結果だ。


 「これから見て分かるのはな~、お主は何者かから命を狙われるということじゃよ~。まぁ背中には気を付けなされ~ってことじゃな」


 不敵に笑う女性の顔は一切の冗談を含んでおらず、背筋がゾクッとした。


 「まぁ当たるか当たらぬかはお主次第じゃがな~」


 ヒョイとカケルからカードを取るとそのまま女性はカードをしまってしまった。


 「本来は言わないんじゃが……本を見付けてくれたとこじゃし、特別に回避できる方法を教えてやろ~」


 「ホントか!? なら頼む今すぐ教えてくれ!」


 基本的に占いの類いは信じないのだがここは異世界。しかも占った人は胡散臭いとはいえマジな感じの占い師なため、回避できる方法があるのなら知っておいて損はないだろう。


 「……この運命を変えるのは己の勇気と覚悟……じゃよ~」


 「己の勇気と覚悟……」


 それだけで回避できるのか不安だったが占い師がそう言うなら信じるべきだろう。幸い気持ちの面だけでアイテムを要求されないだけマシか。


 「それじゃあわたしゃこれで!」


 タッタッタと両手を広げ走り去ろうとしたが女性はピタッと止まると、またこちらに戻ってきた。


 「わたしゃとしたことが、ついうっかり名前を言わずに行ってしまうところじゃったよ~」


 パンッと手を叩きグルリと回ると女性は名乗り出す。


 「わたしゃはミルルルナ・ユルルルナ・ミユルルナ! みんなはわたしゃの事を世界一の大魔法使いミルと呼ぶのじゃ!」


 何処かで聞いたことのある名前の長さと異名に略称、言いたいことは山ほどあるが名乗ってくれた以上、こちらも名乗らなければという義務感の方が上回った。


 「俺は村上翔だ。周りからはカケルと呼ばれている!」


 つい名乗りも似せてしまい気恥ずかしかった。


 「おお~カケルにぃか~。ではまた何処かで会えることを地の底から願っておる~。では!」


 片手を上げるとミルはまた両手を広げ走り去り、今度は止まること無く人混みの中に消えていった。


 「カケルにぃって……しかも地の底からなんて次、会うつもり全くねぇーじゃん」


 「お待たせ~!」


 唐突な出来事に非現実的な感覚になっていたが一気に現実に戻すかのように後ろからリーナの声が聞こえてきた。

 あのミルという女性が言った占いがまだ気になるがよくよく考えれば誰かから命を狙われる覚えがないため、深く考えるのは止めてリーナの元に向かう。


 「ごめんね待たせて」


 リーナの後ろには活きの良さそうな馬三頭が並んでおり、それぞれ大量の牧草を積んでいた。


 「結構、時間が掛かったな」


 「馬を選ぶのにはそんなに時間は掛からなかったんだけど……どのエサにしようか悩んでたらちょっとね」


 「そのお陰で馬達は美味しいご飯を食べれるんだから良しとするか」


 リーナからお金を返してもらうとカケルはリュオの方に近づく。


 「さてと遅くならないうちに帰るか」


 「そうだね。じゃあカケルはこの子をお願いね」


 額に星の形をした白い毛の馬の手綱を渡すとカケルはリュオの背に乗り、渡された手綱と同時にリュオの手綱を握る。


 「私が出来るだけゆっくりに先頭を走るからちゃんと着いてきてね」


 「お、おう任せとけ」


 王都に来る前に馬の乗り方をリーナから聞いているとはいえ、いきなり二頭同時に操るのは緊張する。

 気付けばリーナは既に走り出しておりカケルも慌てて走り始めるが間違ってリーナとは逆の方向に行ってしまい、合流してから村に帰るのにかなりの時間を使ってしまった。

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