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ハンデル村は誰でも受け入れる

 「起きてカケル。着いたよ」


 無造作に体を揺らされ重たい瞼を開けると村長の家の前にいた。

 いつの間にか眠っていたらしくリーナに悪いことをしたなと思い、その場に立ち上がる。


 「よーく眠れましたかね~」


 「割りとな」


 久々に昼寝をしたお陰でタオル販売で失っていた体力がだいぶ回復していた。これなら今日は一人でもフルで動けそうだ。


 「じゃあとっとと村人にフェルの事を紹介するとするか」


 今日の残りの時間でやることはまず村人にフェルを紹介すること。魔族の主要都市である魔都でフェルの元、新たな商売をすること。次のタオル販売に誰か一人、リーナの付き添いに来てくれる人を探すこと。フェルをこの村のレストランに案内すること。こう考えると本日はまだまだやることが多い。


 「というこで今から俺は村人をここに集めるから二人は少しの間かもしれないが休んでいてくれ」


 「別に大丈夫だから私も一緒に……」


 「いや、俺は途中で寝ていて二人はずっと起きてたんだから二人にも休んでほしいんだ。それにこれぐらいなら俺一人でも十分だから」


 早口でそれだけ伝えるとリーナの返答を聞かずに村人を呼びにカケルは走り去っていた。


 「…………」


 「あ~あ、ホントにカケルは女心がわかってないんだから」


 呆れてため息しかでないフェルは寂しそうにするリーナを見てさらにため息をついた。

 その後、カケルが村人を呼びにいってから戻ってくるのに大体十分。そこから村人が集まるまで五分も掛からなかった。



====================================



 ここに立つのは二日目以来だな。

 村長の家前にある台に乗ったカケルは集まる村人の視線を浴びながらそんなことを思っていた。

 集まった村人達はまだかまだかとざわざわしている。ちなみにこのざわざわしている原因はカケルが一向に話し出さないからではない。カケルが村人達を集めるときに『紹介したい新たな仲間がいるんだ』という風に言っており、みんなその新たな仲間が気になってしょうがないのだろう。


 「それで新しい仲間って誰なんだ」


 村人達の先頭にいるサザンが早くしてくれと目でも訴えながら聞いてきたので話始める。


 「えー本日、俺達はタオル販売の途中で村の新たな発展に協力してくれる新たな仲間に出会ったんだ」


 後ろを見るとドアの前にリーナが立っており隙間からフェルの顔がチラチラ見える。


 「皆も知っての通りこの村発展の最終目標は人と魔族の共存だ。そして今日紹介する仲間はこの目標に大きく近付けてくれる心強い仲間だ」


 「なるほどな……」


 ここまで言って察したのはサザンを含むこの村のリーダー各の人達ばかり。

 

 「それでは紹介します。カモンフェル!」


 振り返り手招きするとドアの隙間からフェルは飛び出し空を駆けながら台に乗る。遅れてリーナが階段から台に乗った。


 「彼女の名前はフェル・シャルム。この村の食文化の発展を担当してもらうつもりだ」


 豪快なフェルの登場に呆気からんとした空気。そしてヒソヒソと聞こえる魔族という単語。一部の人からは畏怖の目で見ている者もいた。


 「…………」


 「……フェル、自己紹介自己紹介」


 黙りこくるフェルに耳打ちをすると我に返ったのか辺りをキョロキョロしだす。


 「えっ、えっと……先程紹介に当たりましたフェル・シャルルムでふ。見ての通りま、魔族ですがこれからよろしゅくお願いしましゅ!」

 

 自己紹介が終わると何の声もなくただシーンと静まり返る。そんな空気にカケルは焦るどころか平然としていたが内心では笑っていた。

 それは緊張とは縁の無さそうなフェルがガチガチに固まって台詞を噛むは自分の名前を間違えるわとへまをしたのが面白かったのだ。

 リーナも真面目な表情をしているが若干口角が上に引きつっていた。

 だが肝心の村人達は誰も笑いもせずポカーンとしている。


 「ううっ……」


 不安な顔になっていくフェルだがパチパチと誰の手を叩く音が聞こえた。


 「こちらもよろしくだ。この村の一人として歓迎するよ」


 もちろんこんな男前な事を言ったのは巨漢の男サザンだ。

 サザンの拍手はしばらく続き、次第にあちこちからパチパチと拍手の音が聞こえてくる。同時に「これからよろしく」「魔族でも大歓迎だ」と受け入れる声も上がり最終的には全ての村人達が拍手をしていた。


 「言っただろ。大丈夫だって」


 喜びでうるうると目に涙を溜めていたフェルの肩にポンと手を置くと慌てて涙を拭き、腕を組みそっぽを向いた。


 「べ、別に疑ってなかったわよ」


 「はいはいそうですか」


 それから一分ぐらい拍手は続きゆっくりと拍手が止み、静かになると先にアマトとメルがある用事でしばらく村には戻れないことを伝えてから次の話を始める。


 「えー、次の話は魔都で行う販売についてだ」


 村人皆がフェルを受け入れるのは最初から分かっていたことだ。そして今回の話し合いで重要なのは魔都での販売についてで関連することだ。

  

 「魔都ではタオルではなく、フェルの作った手軽に食べれるファーストフードで商売をするつもりだ」


 聞き慣れないファーストフードに周りで話し合う村人達だが一々気にしていたも仕方ないのでそのまま話続ける。


 「それで今日からその準備に料理の得意な人、十人に手伝ってもらうことにする」


 「それって男女合わせて十ですか?」


 「ああそうだ。俺は誰が料理出来るか知らないからそこは後でみんなが決めてくれ」


 「ちなみにタオル販売はどうするんだ? アマトとメルが居ないからやらないのか?」


 タオルの販売については帰りの途中で三人で話し合っているためその内容を村人に伝え、料理出来る十人同様また後で決めてもらうように話す。


 「他に何か聞きたいことがあるやつはいるか?」


 一人の男性村人が手を挙げ重要なことを聞いてくる。


 「移動はどうするんだ?」

 

 そう彼の言う通りアマトとメルがいないため移動式屋台が一台足りないのだがそれは等価交換の力でなんとかなる。それは彼も知っていることだ。つまり彼が言いたいことは――。


 「明日、俺とリーナの二人で王都から何頭か馬を買ってくるから移動の方は大丈夫だ」


 本当なら今日買ってこれれば良かったのだが生憎お金が売り上げの物しかないため明日、改めて神様から頂いたお金を持って買いに行くのだ。


 「もうないな……無いなら俺達はこの村のレストランだった場所に行くから話し合って料理担当の十人とリーナの付き人が決まったら来てくれ」


 それだけ言うとカケルは二人を連れて台から降り、村の南側にあるレストランだった場所に移動する。

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