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犬生朝露の如し

今話もよろしくお願いします。

 生まれ変わったら、何になりたい?



 おはようございます、プチです。温かい朝日に照らされてポカポカなうです。


 ただのんびりと日を浴びて、みんなが朝の支度をしている音を聞きながら、ベッドの上で丸まってる。んー、仕事が無いっていいねえ。朝だけど、あともーちょっとだけね。目を閉じて、のーんびり。別に眠いってワケじゃないけど、のんびりするっていいじゃん?



 最近はいつもこんな感じ。

 もう街の外に行くことはない。モンスターは久しく見てない。ベイビーズは大きくなった。ちなみにオリバーとルイーダと、あともう1人、アンネがいる。3人兄妹はみんな大きくなって、アタシの手にかかるような困った子はいない。さすが冒険者同士の子どもと言うべきか、オリバーとルイーダは両親の斧と弓矢を使う日を夢見て庭で練習している姿をよく見かける。アンネは、エレナの娘のソフィアと同い年だからか、魔法に興味があるみたい。

 あ、エレナね、結婚したの。相手はまさかのギルド職員。安泰ね。フレッドは独身貴族。お似合いね。


「プチ、いってきます」

「いってきまーす!」

「いってきます」


 朝学校に行くときにわざわざアタシに挨拶していくぐらいいい子達。さすがマリーの子ね。いってらっしゃい、気をつけてね、の気持ちを込めて尻尾をゆらりと揺らす。


「俺もいってくる」

「はい、いってらっしゃい、あなた」


 アランもマリーも昔ほどの若々しさはないけど、アランは年齢を重ねて渋さが出たね。かつては剃り落としてた髭を残して整えて、威厳も出てきたんじゃないの?よっ、ダンディー。マリーも肌のハリがちょっぴりなくなってきて、目尻の小じわを気にしてたりするけど、いつも笑顔のマリーらしい小じわでアタシは好きよ。


 家の中で丸まっているアタシとキッチンでカチャカチャと何かしているマリー。とっても静か。


「プチ、ごはん食べれる?」


 マリー、ありがとう。あまり食欲は無いけど、食べないと体に良くないもんね。若いころは肉の塊に齧り付いてたんだけどねえ、最近は噛むのもなんだか億劫。そしたらマリーが肉をミンチにしてくれるようになった。そこまでしてくれるのに、残すワケにはいかない。

 目を開けて目の前にいるマリーと、床に置かれている皿を確認する。最近は目も耳も鼻もなんだか調子が悪い。のっそりと体を起こして皿に鼻を近づける。うん、肉の臭いだ。舐めとるようにして少しずつ食べていく。マリーはそんなアタシの頭を撫でている。

 肉を完食して水を飲んで、またベッドの上で丸まる。いくら動くのが億劫だからって、寝たきり生活は良くないって分かってるんだけど、どうしても動く気になれない。

 ゆっくりと目を閉じて、微睡むような感覚に身を任せる。



「プチ、ただいま」


 オリバーの声で目が覚める。いつの間にこんな時間になっていたのだろう。おかえり、オリバー。尻尾をゆらりと揺らす。

 家の中が少しだけ賑やか。きっとルイーダとアンネも帰ってきてるんだろうなあ。もしかしてただいまって言ってくれてたのかな、気づかなくてごめんね。


「お母さん、プチ起きたよ」

「本当?プチ、おはよう、よく寝てたね」


 目をゆっくりと開ける。マリーとオリバーがアタシの顔を覗き込んでいる。もしかして心配させちゃった?ごめんね。首を伸ばして……2人に届かない。


「プチはすっかりおばあちゃんだなあ」


 ……そう、だね。アタシ、おばあちゃんだ。

 ちょっと前まで普通に立ち上がって、歩き回ってた気がするんだけど、いつの間にか散歩にも行かなくなって、こうやって1日中寝てる。

 こうなってしまうと……やっぱり、考えてしまう。アタシは、あとどれぐらい生きていられるのだろう。犬の寿命が人間よりも断然短いってこと、すっかり忘れてたなあ。おばあちゃんになったマリーとゆっくり老後を過ごす、そんなことは絶対にありえないのに、なんとなくそんな未来を想像してた気がする。

 もうちょっと、生きていたいなあ。

 オリバーの小さな手がアタシの背を撫でている。さすがマリーの息子ね、撫でるの上手よ。すり、すり、と尻尾が床の上を滑る。ゆっくりと目を閉じて、意識が薄れていく。



 目が覚める。周りは静まり返っている。目を開けると、真っ暗だった。

 ここは、どこ?

 急に不安になってくる。ねえ、マリー。マリー、どこにいるの?助けて、マリー。怖い。寂しい。ねえ、マリー。アタシを1人にしないで。

 パタパタと走り寄る音が聞こえてくる。


 「プチ、どうしたの?大丈夫?」


 ああ、マリーの声だ、マリーの匂いだ、マリーの手だ。アタシはまだマリーと同じ世界にいる。生きている。よかった。

 マリーの温もりを感じながら、意識が落ちていく。



 アタシは、もうそろそろ、本当にダメかもなあ。

 体のいろんなところが痛いし、昔のことが思い出せなくなってきた。

 それに……一言でいえば、ボケてきた。そんな気がする。

 情けない話だけど、トイレとか……全然ダメ。

 いつ寝て、いつ起きてるのか、よく覚えてない。

 それでいて、夜に起きると泣いてしまう。

 マリーを疲れさせてる気がする。

 みんなも……えっと、アランと、オリバーと、ルイーダと……アンネ。

 たくさん迷惑をかけてる。

 情けないなあ。

 ごめんね、マリー。ありがとう、マリー。




「プチ、おはよう」


「プチ、大丈夫?」


「プチ、おやすみ」


 ああ、マリー。今日もマリーがいる。





「――チ、プチ。」


 マリーの声がする。


「プチ、起きて。」


 起きてるよ、マリー。


「プチ、---起き--」

「プチ、------」

「-----、プチ」

「プチぃ……。」


 みんな……泣いてるのかな、泣かないで。アタシ、笑顔が好きなの。


「プチ、今日はね、みんないるの。みんなプチと一緒にいるから」


 そうなのね、マリー。だったら、寂しくないね。


「心配しなくていいからね、プチ。大好きだよ。」


 マリー、アタシも、マリーのこと、大好き。


「プチ、今までありがとう。お疲れさま、ゆっくり休んでね」


 そう、じゃあ、ちょっと、疲れた、から、やす、もっか、な。また、ね、まりー。






 生まれ変わったら、何になりたい?


 とか、聞いたり言ったり考えた事ない?誰だってあるよね。

 女じゃなくて男に生まれたかったとか、来世でもお母さんの子どもとして生まれたいとか、そういうのまで含めたら誰だって考えた事あるでしょ。

 また人間に生まれたいと思う人もいれば、人間以外の動物になりたいと思う人もいるし、動物じゃなくて植物とか物になりたいと思う人だっているじゃん。


 アタシ?犬。


 分かってるよ、猫の方がいいでしょ、ってよく言われた。猫は自由気ままに、好きな時に好きな事をしてれば可愛がってもらえるし、贅沢な暮らしできるもんね。

 まあ、いいと思うけどね。でもそれはそれで大変かなーって思わない?アタシは思った。

 例えば、今から好きな事していいですよ、って言われて寝る人ってどれぐらいいるの?ガチな話ね。ガチで寝る人は猫でいいと思う。ガチで寝ない人は猫じゃない方がいいんじゃない?あと「今から」だからね。「今」からずっと寝るの?無理じゃない?寝たら起きるよ?そこんとこ分かってる?起きたらどうするの?自由に、好きな事していいけど、何するの?そんな自由ってツラくない?


 で、アタシは他者ありきの犬が最高だと思ったワケ。飼い主のため、もしくは群れのために動いてりゃ幸せ、って単純すぎて最高でしょ。周りが自分の行動を決めてくれて、その通りにやってりゃ喜んでもらえる。いいね。自分で将来を考えたり決めなくていい。これぞ真の自由じゃない?


 アタシは自由だったよ。


 でもまあ、次は剣と魔法のファンタジーな世界で、チート付きで、イージーモードで主人公な俺TUEEEEEEEできる超幸せ人生でハッピーエンドがいいなあ。

これにて完結です。

ブクマ登録をしてくださった方々、最後までお付き合いくださった方々、ありがとうございました。

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