幕章 その1
幕章ですが、本気で短いです。
「で、あんた、迷子って訳?」
「うん。そうなんです……」
女は、思いっきりため息を吐くと、言う。
「仕方ない。探してあげるよ。あんたの家」
「いいんですか? ありがとうございます!」
「全く……」
瞳を輝かせる少年に、苦笑して、彼女は歩き出した。
「家の周り、どんな景色か教えてくれる?」
彼は困ったように首をかしげ、それから思い出したように目を輝かせると、そのまま説明した。
「なるほど……。それなら、あそこかな」
「わかるんですか?」
「まあね。あたし、この辺で暮らして長いし」
「へえ。僕、ここ来たばっかりで、さっぱりです」
「ああ、そう言う事。引っ越して来た、って訳ね」
「そうなんですよ」
「さあて、しばらく歩くよ。あんた、結構遠くまで来ちゃってる」
「え、そうなんだ……」
自覚がないのか、と呆れながら女は少年を見詰めた。
その目に射すくめられたように少年は動きを止める。そして、その顔を不意にそらした。恥じらいを浮かべながら。
しかし女は、それに全く気付かないまま前を向き、歩き始めた。会話はなく、沈黙が二人を包んでいた。
「着いたよ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ、あたしはこれで。もう会う事もないだろうけど、バイバイ」
「さようなら……」
ニャア、と一声鳴いて、女は立ち去った。
「……すごい、綺麗なヒトだったなぁ」