兄の願い
王子達と知り合ったあの夜から数日がたった。その間は特に変わったことが無く、普段通りの仕事をこなしていた。
そんななか、今日は珍しく仕事の予定が入っていないことをイグニスは知った。
「おお、珍しく仕事が入ってないな。そういえば、この前もらった紙の場所にでも行ってみるかな」
そう思い、イグニスは店を閉め、東大通りのその店に向かった。
そのの場所はなかなか面倒臭い場所にあり、大通りのすぐそばではあるが、入り組んだ路地の薄暗い、目立たない所にその店はあった。
なんの特徴も無い看板にはbarとだけ書かれていた。
とりあえず中に入る。
店の中はL字のカウンターとイスのみで、静かで薄暗かった。
カウンターには白のYシャツにカマーベストをきた黒髪の人物のみがいた。長い髪は後ろで纏められており、鋭い眼光はこちらを捉えていた。
すると、何かに気付いたのか、いらっしゃいと無愛想に言うとカウンターの向こうの扉に行ってしまった。
「……」
少し待つと、その扉が飽き、緑髪の人物が出てくる。
「やっと来てくれたか、待っていたよ」
とニコニコしながらカウンターから出てくる。
しかし、イグニスは容姿の人物を知らなかったが、声でこの前の布巻きだと気付いた。
「ささ、こちらにどうぞ。ミナ、店番頼むよ」
と言うと、先程の人物がまたカウンターに現れる。
イグニスは誘われるままに扉の奥に入った。
扉の奥には廊下あった。右と左と奥にはまた扉があった。
布巻きだった人物はそのまま奥の扉へと向かった。
その扉の先は階段であり、さらに暗くなっていく。
時間がそれほどかかるわけでも無く、階段の終着点に着く。そこにはまた扉があり、その先にはあるていどの広さの部屋があった。
この部屋には二つの扉とテーブルのみのシンプルな部屋であった。
なぜこんなところに連れてくるのだと不思議に思い、イグニスは布巻きだった男にそれを聞いた。
「なぜこんな場所に連れてきた」
「それはだね、この前君が何でも屋をやっていると言っただろう。だからだよ」
「つまり仕事か、それなら、直接竜の手までくればいいのではないか」
「まあ、忙しかったら来ないだろうと思ってね」
「まあ、今日はなにも仕事が入ってなかったが」
「よかったよかった。まぁ、自己紹介をしよう。俺はウィル。さっきのカウンターにいたのがミナだ」
「知ってはいるだろうが、俺はイグニスだ」
「で、依頼ってのはミナのことでね」
「うむ」
「彼女に女の子って言う体験をさせて欲しいんだ」
「……え」
これには流石に素がでる。
「少し意味がわからないのだが」
「ほら、あれだ、年頃の女の子ってやっぱりオシャレとか買い物とか楽しむものだろう?だけど、あいつはどうにも我慢しているっていうかなんというか。金はあるから服でも買ってこいって言っても、なにもしないんだ」
「そう言われても、俺だって男だからなぁ、やっぱりそういうのは同性に聞くのがいいよな……あっ、そうだ、あの人たちに頼んでみるか。だが、身近に女性はいないのかい?母親とか」
「……あ、ああ。俺たちは孤児院の出でな、親がいないんだ。まぁ、そんなところさ、あいつは妹みたいなもんでもある。あ、血のつながりはないぞ。そういえば……今では孤児院もなくなったしな……ま、おかしな孤児院だったからなくなって正解かもしれないが」
「そうか、俺と同じだな。俺も赤ん坊とき捨てられててな、師匠に育ててもらったんだ」
「そうだったのか、まぁ、頼むよ」
「おう」
一息つき、なんとなく聞きたかったことを聞く
「そういえば、ウィル達はなんの仕事をしているんだ。ここだったり、この前の夜も……」
「ああ、スカウトだよ。情報収集とかする」
「それ、言ってもいいのか」
「いや、駄目だ。知られたら殺すしかない」
いきなりの言葉に構える。
「悪い悪い、冗談だよ。普通の人間に知られたら殺すかもだが、イグニス、お前は王子の友だぜ、だから教えたんだよ。それに、あの王子は見る目があることで有名らしいしな。じゃ、ミナのことよろしく頼むよ。」
「任せときな、でも、買い物にもいかないって言うのをどう連れ出すんだ」
「あっ……」
その後、そういうのを楽しんで欲しい、あてはあるとなんとか説得し、ミナを連れ出すのであった。