第10話「出口を探す男」
手帳が、ほぼ満杯になっていた。
マティアスは、最初のページから最後のページまで読み返した。
記録は正確だった。繰り返しの中で積み重ねてきた事実の集積。砲撃の記録。ゴッグ二号機の記録。カイルの記録。ハルとミナの記録。そして——Lとマリア・カワシマについての記録。
読み終えて、マティアスは一つの問いを持った。
この繰り返しから出る方法は、あるのか。
そして、もしあるとすれば——何が「出口」になるのか。
「カイル。繰り返しから出る方法を、一緒に考えてくれないか」
「また今日も同じ話か、という顔はしないようにするが——正直に言うと、俺はまだこの話を今日初めて聞いている」
「分かっている。でも、お前の意見を聞きたい」
「状況を整理してくれ」
マティアスは、手帳を開いた。要点だけを話した。繰り返しが起きている。記録は持ち越せる。でも、結末は変わらない。光が来て目が覚める。それが繰り返される。
「出口がないとしたら、どこを変えればいいと思う?」
カイルは少し考えた。
「変えられないことと変えられることを分けた場合、変えられないことの中に、本当に変えられないことと、まだ試していないことがある可能性がある」
「変えられないと思っているが、試していないことか」
「たとえば——お前が一号機に乗らない回を試したか?」
「試した。それでも光は来た」
「光が来た後、お前はどうなる?」
「目が覚める」
「それは——お前が死んでいるのか、それとも違う何かなのか」
マティアスは、その問いを聞いた。
「……考えたことがなかった」
「死んでいるなら、目は覚めない。だが目が覚める。つまり、光は死を意味しない」
「そうだな」
「では、光は何を意味するのか」
「分からない」
「もう一つ聞いていいか」
「なんだ」
「光が来た後、次の朝になるまでの間に、何かがあるか」
「……記憶がない。光が来て、次の瞬間には朝になっている」
「その間に何かが起きているかもしれない」
「確認する方法がない」
「今のところは、な」
カイルは、窓の外を見た。
「出口を探すなら、光の中に入っていく必要があるかもしれない」
「光から逃げるのではなく」
「ああ。今まで光から逃げようとしていたか、もしくは光に飲まれていたか、どちらかだろう。それで結末が変わらないなら——」
「光の中に、意図的に入る」
「そういうことだ」
マティアスは手帳に書いた。
「光の中に意図的に入ることを試す。逃げるのではなく、向かっていく」。
その日の作戦で、マティアスは一号機に乗り込んだ後、いつもと違う動きをした。
砲撃が来た。敵の火力をかいくぐらなかった。
真っ直ぐ、光の方へ向かった。
光は、成層圏からのビームだった。ある方向から来ていた。その方向に、一号機を向けた。
光が、また来た。
今回は、逃げなかった。
向かっていった。
光の中に入った。
いつもは、入った瞬間に目が覚めた。
でも今回は——。
少しだけ、光の中に何かが見えた。
白い空間。水面のような、光のような。
そこに、誰かが立っているような気がした。
誰だかは分からなかった。でも、その誰かは——マティアスを見ていた。
そして、目が覚めた。
手帳を確認した。全部残っていた。
「光の中に入った。今まで見えなかったものが少し見えた。白い空間。誰かがいる気がした。誰だかは分からなかった。でも、出口はある。光の中にある」。
コーヒーの匂いがした。
「マティアス、私だ」
「入れ」
カイルが入ってきた。
「今日のお前は、また少し違う顔をしているな」
「ああ」
「何か、見つけたか」
「出口を見つけた」
「どこにある」
「光の中だ」
カイルは、マティアスを見た。
「……それは——危ない出口じゃないのか」
「そうかもしれない」
「入っていけるのか」
「もう一度試す。今度は、もっと深く」
「死ぬかもしれないぞ」
「死なない。目が覚めるからだ」
「それは……確かに、そうか」
マティアスはコーヒーを受け取った。飲んだ。うまかった。
いつも通りに、うまかった。
でも、今日は少し違う味がした気がした。
出口がある。光の中に、出口がある。
この繰り返しの外に——何があるのか。
第一部の終わりが、近づいていた。
次に始まるのは、出口を通り抜けた先の話だった。
——第一部「無自覚のループ」完——
【次回 第二部「覚醒の回」へ】




