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明日私は、恋してますか  作者: 植村夕月
Ⅲ 生徒会長、橘加奈
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59話   神宮寺那岐、潜入する その3

   神宮寺那岐、潜入する その3


 下校時刻。

 校内放送で、学校内に残る生徒への帰宅を促すアナウンスがされました。本当なら、全ての部活は、これで終了なのです。現に、テニス部や野球部、水泳部など、他の運動部は片付けと部員たちのクールダウンが行われていました。

「ふーん、運動部でも陸上部が黒なんだ」

「そうみたいだね。陸上部がやっていること、有紀ちゃんはどう思う?」

 有紀は視線を下に落とす。まるで両手にすくった大事な宝物を落としてしまった子供のようでした。

「スポーツは、苦痛の先に結果が待っている。私が水泳をしていた時に、知ったことだよ。苦しくてもそれに耐えられるのは、仲間の存在、おのれの限界を壊したいという思いにあるんだよ。なにか、変わりたい。そういう思い。うまく説明なんてできないけど、私にとってのスポーツは、しんどいだけじゃなくて、楽しみも必要だった」

 ずっと遠く、何を見据えているのか分からない有紀ちゃんの眼。彼女は、今もスポーツに何か未練があるようでした。

「有紀ちゃんから見て、陸上部はどう?」

「ほんの少しでもマネージャーをやっていた那岐ちゃんは分かるでしょ。私に聞かなくてもさ」

 うん、私はほんの少しの間で陸上部について分かったことがありました。

 長距離を走り込まされて息も絶え絶えの彼らは、辛そうでしたけどどこか晴れやかな表情をしていました。しんどいけど楽しい、ていう感覚。運動をまともにやったことのない私には分かりません。その表情の意味も。

 そして時折、笑みを浮かべる姿。和気藹々としたその様子を見て、この部活が決して辛いだけのものでないことは分かりました。

「じゃあ、みんなはどうして、運動部に問題があるって声高に言ったのよ?」

 私は頭を振る。何が、どうして、リコールなんてことになっているのか、分からず混乱していました。理解できない私に、有紀ちゃんは神妙な顔で言いました。

「朝礼台の近くにいる、飯田君をよく見て」

「……」

 私は彼女の言われるとおりに、飯田君の様子を窺いました。

 彼は一人、部員と話すことなく難しい顔をしていました。そういえば、今日は陸上部が始まってからずっと難しい顔で、部員たちに指示を出していました。その顔には何か焦っている色が見えました。人の感情の機微に疎い私ですが、そんな私でもわかるくらいです。

「じゃあ、問題があるのは寧ろ飯田君なの?」

「そだよ」

 私はマネージャーとして、陸上部のいろんな部員たちと話をしたけど、彼はまだでした。飯田君って、そんなに責任感がある人だったですね。何だか悲しいです。生徒である彼が、そんなことまで責任を持つ必要なんてどこにもないのに。彼は、学生生活を、十全に楽しめていなかったようでした。

 彼の一番近くにいてそれを察知できない顧問も、いささか問題があるように思います。

「有紀ちゃんは、もう帰った方がいいよ。私は部活が終わるまでマネージャーをやらないといけないから」

「わかった。じゃあ私は先に失礼させてもらう。那岐ちゃんも無理しないように」

「はい、お疲れ様」

 有紀ちゃんは、体育館横の更衣室へ走っていきました。

 私は私で、時間まで残ることにしました。部員の皆へ、ちゃんとケアをしてあげないといけないですから。

「あ、神宮司ちゃん。来てくれー」

「はいはい、今行きます」

 私は、トラックのスタートライン横で、足を抑えている男子の方へ駆けていきました。


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