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明日私は、恋してますか  作者: 植村夕月
Ⅲ 生徒会長、橘加奈
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57話   神宮寺那岐、潜入する その1

   神宮寺那岐、潜入する その1

 


 寒い寒い月曜日が到来した。

 昨日あまり眠れなかった私は、目の奥がづきづきして気分が悪い。トイレの鏡に映った私の顔は、それはもう酷かった。クラスの友人からは、無用な心配をさせてしまう始末。

 トイレから出てきた私は、目頭を押さえる。

「参ったな。今週はやることが山積しているというのに」

「なら、これでも飲んだ方がいいんじゃない」

 トイレ脇の壁にもたれかかる私に、偶然すれ違った有紀が声を掛ける。有紀は、市販の鎮痛剤を私に勧める。

 OD錠。水なしで飲める便利なお薬。

「ありがたく、いただこう」

 箱を開封して、薬のシートから錠剤を二粒取り出す。口の中に放り込んで、ぼりぼりかみ砕く。

「あんまり無理しちゃだめだからね」

「はは、まあ、大丈夫だ。有紀は私の心配なんてせず、自分のことを考えろ」

 私は鎮痛剤を有紀に返し、教室に戻っていった。


 鎮痛剤とはなかなか難儀な副作用を持っているものだ。

 予想はしていたが、授業中に強烈な睡魔が襲ってくる。うつらうつらして、肘が机を滑ったら、目が覚める。だけどだんだん眠気が襲ってきて、また眠ってしまいそうになる。板書を写して、何とか、意識を保とうとする悪循環。

 頬をつねったりして、完全な寝落ちは回避した。

 授業終了後、ノートを前に私はため息をついた。

「なんてありさまだ。まったく判読不明ではないか」

 半分寝ながら書いたノートなんて、見るに堪えない状態だ。字がグチャグチャ、へびのようにうねっている。

 寝ぼけている時は、これで書いているつもりなんだからなあ。

 私は肩をがっくりと落としました。

 そしてノートをカバンに直す。トホホ、ずずっ。


 今朝起きた時から調子が悪かったため、昼食は用意していない。

 私は生徒会で、一人栄養補給食のゼリーをズルズル吸っていた。

 こういう便利なものを発明した人ってすごいと思うな。調子が悪くても喉をつるんと通るし、短時間で摂取できる。味もそこそこ悪くはない。まあ、今は味わうほどの余裕なんてないけど。

ゼリーを飲み込み、パックのふたを閉めていると、宮古さんが部屋に入ってきた。

「こんにちは。ん? 橘さん顔色が優れないみたいだけど、大丈夫?」

「ああ、心配ない、って言いたいけど、しんどい」

 彼女は私が右手に掴んでいる物を取り上げる。

「これは私が捨てておくよ。あなたはみんなが集まるまで少し寝ていなさい」

 私は彼女の言葉に甘えさせてもらう。

 机に突っ伏して十分程度だ。そろそろ落ちるという時に、生徒会役員が全員あつまったみたいだ。私は重い頭をゆっくり上げる。

 役員たちは皆定位置に座っている。

「さて、こんにちは。早速始めるか。私の顔色が悪いことは気にしないでくれ」

 議題は件の部活に関すること。

 宮古さんはなかなか仕事のできる人で、今日の会議に運動部の部員を一人連れてきている。

 彼女の仕事のこなしようを見ていると、私も体調を崩している場合ではないって切に思う。ホント、生徒会長としては、彼女の方が優秀に思えてしまう。

 私は緑茶の入ったペットボトルに口を付ける。

「ふう、私は今から隣の部屋で彼から運動部についての話を聞こうと思う。人数が多いといいにくいこともあるだろうし」

 私は席を立ち、ペットボトルを手にする。

「私がいない間は、全校生徒から寄せられる意見書に目を通しておいてくれ」

 私は重い足取りで生徒会室を出て、外で控えている生徒についてくるよう促す。

 隣の部屋の鍵を開ける。黒板を部屋の前方として、部屋の後方部に机が並べられている。部屋前方の広い空間に、椅子を二脚、私が彼と向かい合うようにして座った。

「君は……」

「俺は羽ケ崎。一応アンタと同じ年だ」

「ふーん、そう。じゃあ、早速だけど、あなたの属している部活の内情を教えてもらえるだろうか」

 およそ私の対応が気に喰わないのだろう。機嫌を悪くしていらっしゃる。

 ふん、私だって体調を壊しているけど、大事な時期だからってことで無理して来ているんだ。少々の不愛想は堪忍しろ。

 私が少し怒った様子を見せると、なぜだか彼は委縮してしまった。そしてとつとつと内容を語りだす。

「俺は陸上部に入っている。部の活動は月曜日から日曜日。平日は朝の六時から朝練が始まって担任のショートホームルームが始まる五分前に終わる。昼連は、昼休みのほとんどで放課後は、八時半を回ってようやく終わり」

「八時半って下校時刻すぎてるではないか。冬は遅くなっても六時半には終わることになっているだろ」

「まあ、そうなんだが」

 語気を強める私に対して、彼は肩をびくっとさせる。

 あれ、私ってそんなに怖いか。威圧的な雰囲気が出ているのか。調子が悪いことを原因とするなら仕方ないが、この反応は気になるな。

「遮ってすまなかった。続けてくれ」

「分かった。土曜日は八時に集合して、夜の八時に解散する。日曜日は朝の八時から昼の一五時までだ。顧問はかなり厳しい。皆頑張って、でも結果が出ないと飯田はかなり責任を感じてしまうらしい」

 私はドキッとした。

 いきなり、アイツの名前が出てくるとは思っていなかった。そもそもアイツはどうして責任を感じなくてはならない。私が聞く限り、陸上部のいいまとめ役となっている。何一つ悪いところなんてない。

 私は首を傾げる。

「責任って、なんだ?」

「長い間、部活動に時間を拘束させているんだから、みなにはいい結果を出させてやりたいって責任だと、俺は思う」

 ああ、くっそ。

 本格的に気分が悪くなってきた。これは絶対に穂波さんの風邪を貰ってしまったんじゃないか。

 私は腕を組み、熱い息を漏らす。

「ありがとう。十分だ」


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