49話 エピローグ
エピローグ
「この度、生徒会長選に立候補した橘加奈です。私は本来なら、このような役職に就くなんてことはまったくもって考えていませんでした。しかし、皆さんによって選ばれたはずの生徒会役員の方々が任期を待たずに解職されるという異常な事態を許すことができずこの場を借りて、私の意見を述べたいと思います」
体育館壇上の演台にて橘加奈さんは、凛としたたたずまいでいた。
壇上には、他に数名の会長選挙候補者がおり、彼らはその端でパイプ椅子に座っている。中には、ガマガエルのように油をたらたら汗を流している人物もいた。
私は彼らと幕の間、全校からちょうど隠れる位置で腕を組んで立っていた。
私は候補者でも何でもないから、こんな風に静観していた。
「すごい。全然緊張なんてしていないようだね」
それだけじゃあない。彼女は観衆の興味を引き付けるように巧みに話す。私が言外ににおわせることをくみ取ってかアフロ委員長もこくりと頷く。
「私ははっきり言う。前生徒会は皆さんの信任によって選出された。私は雑用係で、彼らの仕事ぶりをよく見てきた。みんなすごく働きものだった。学校生活において生徒の不満などを解消するために、時間の限りを尽くしてきた。朝早くに来て、掲示物の作成、昼休み、放課後を使って生徒会への学内イベント申請の許可不許可。制服に関しての校則変更。以前の生徒会からは踏み込みにくいと言われたことを前生徒会は躊躇いなくなしてきた。それを知っている皆さんからの評価も決して悪いものではなかった。数値的評価では月一回の生徒会評価アンケートの結果を見れば明らかだ。なのにどうして解散させられなくてはならなかった? 解散させるほどのものがどこから沸いた?
みんなリコールの請願がなされるまで、生徒会に対して悪い印象なんてなかったと思う。皆安定した学校生活を送ることができれば、それで十分だ。私だってその考え方が間違っているなんて思わない。
生徒会に対して抱くものなんてそんなものだ。
だがその水平的な考えを揺るがせるようなことが起こった。選管に提出された多数の署名。それを波として、みな疑いを持ったんだと思う。不信任の署名が多数、しかもこんな形で提出されれば」
壇上の少女は、ひと呼吸する。
「勘違いしてほしくないが、私はリコールの発案者を悪者にしたいわけじゃない。本当なら学校への不満、不安を直接生徒会に伝えてほしかった。しかしそれが叶わずこういう手段をとったんだと思う。とても悩んだだろう。署名をこんなに集めるなんて。それでもしなくてはならなかった。しないと前に進めない、今の状態、苦しい状態を跳ね返せない。
署名をした人はみんな葛藤しているだろう。こういう形で助けを求めたことを。だが、それについてはもう悔いるな。この学校にある大きな問題は私と新たな生徒会が解決する。
その代り悩んだ末に署名した人たちも、問題の解決のために私に力を貸してくれ。私のことが気に喰わないなら、面と向かって言ってくれればいい。私がやることが間違っていると思うなら遠慮なくいえ。
その時は私は喜んで生徒会長を辞めよう。
最後に、前生徒会は不名誉な問題を発生させて辞めたのではない。皆のために尽力した素晴らしい生徒会であったことだけは知っておいてほしい。間違っても悲しい勘違いをさせたままにしては置けない。
長い話で済まない。要領も悪いし、もともと話すのが下手な私だが、必死にしがみついて問題の解決に向かって尽力していきたい。
だから、みんな、力を貸してくれ。よろしく頼む」
橘加奈は演台にて深く首を垂れた。
一分ほどを頭を下げたままだった。体育館は静まり返っていた。息をすることすら躊躇わされる。そんな中、一つの拍手が起こった。それを起点として、皆が拍手していく。
気が付けば体育館は大きな声援が起こっていた。
「……すごい」
私はぼつりと呟く。
そして遅ればせながら、私も彼女に拍手を送った。