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Motor Racing World  作者: ジャミー
9/23

こんなレースもあるんです

レース開始までの限られた練習時間で、優奈の418のセットを詰めていく。

和貴のT4はコンディションに合わせた微調整でタイムもフィーリングも悪くなかったので早々に切り上げた。

だが優奈はそうはいかない。

和貴の本気の走りには付いて行けず、ミスや転倒が目立った。

その優奈の走りに疑問が沸く。

「お前、曲がらない車を無理に曲げようとしてない?もう少し曲がるセットにすればラクになるぞ?」

「それだとブレーキングからのターンインが不安定になるからダメ」

「MRWじゃオーバー気味が好みなのに、こっちはアンダーじゃないとダメなのか?」

「アンダーはブレーキングで消せるけど、オーバーはどうにもならないもん」

「困ったもんだな」

解決策を探るため、理奈のデータを参照する。

「理奈ちゃん、優奈の3パック目のデータ見せて」

「了解。一番タイムが出た走りだね」

相変わらずアグレッシブなスタイルだが、少し安定している。

和貴と全く同じタイヤを履き、少し曲がるようにしたセッティング。

「このラン、ベストもアベレージも良かったんだけどなあ。でも優奈はダメと言ってる」

「ブレーキングの不安定感が嫌だったみたい。一気に切れ込めないから」

「優奈って典型的なザク切りだな。けどそれじゃタイム出ないこと理解してるだろ?」

「うーん、あの子はタイムよりフィール重視だからね。思い切り攻め込んだらタイムに繋がると思ってるから、攻められないセッティングは嫌がるよ」

「ならプロポの設定を弄ればいいんだけどな。エンドポイントとサーボスピード落とせばいい。けど・・・」

「あの子はそれも嫌がるよ。プロポの機能に頼るのはホントに嫌ってる」

「何のためにハイエンドプロポ使ってるんだよ?ホントに困ったな」

速く走るための糸口は見つかっているが、優奈本人がそれを否定している。

「こうなったらあまり好きな方法じゃないけど、シャーシ側で対応するか」

そう心に決め、優奈の父のピットに向かった。

「すいません、優奈の418のデフなんですが、オイル何番入ってます?」

「今は3000番だったはずだよ」

「1000番まで落としてもらえませんか?俺ってタミヤのギヤデフまともに組めないんですよ」

「あ、それだったら1500番が入ったデフアッセンブリーがあるよ」

と言って、出してくれた。

「リアデフ柔らかくするってことは、曲げる方向にするの?」

「優奈はフロントが入り込むセットを嫌うんですよね。だったらリアデフで対応しようかなと。スプールカップが鉄なのも本人の好みですか?」

「いや、あれは浜島のハードフェンスに当てた場合の対応。でもここなら縁石あるしリスキーなコーナーも少ないから、樹脂カップ使えるかな?」

追加で樹脂カップのフロントスプールも渡してくれた。

「ありがとうございます。これで何とかなるかな」

急いで自分のピットに戻ると、優奈が待っていた。

「練習のチャンスはあと1回しかない。前後の駆動系換えるぞ」

和貴が持っているスプールとデフを見た優奈は、

「それだと自然に曲がるようになるよね。でも樹脂カップかあ。ちょっと不安」

「普通に攻めればいい。ここの縁石が使えないことは分かってるだろ?」

このコースのコーナーには、イン側に樹脂製の縁石があり、その奥にコースフェンスがある。

タミヤ16Tクラスだとイン側の縁石に車を乗せるほど攻めるが、ストックツーリングでそれをやると転倒してしまう。

さらにRCカーの場合、コースのアウト側半分は基本的に走らない。

つまりイン側もアウト側もエスケープゾーンがあることになる。

クラッシュのリスクは低いコースになる。

実際に優奈は練習走行で足回りを壊していなかった。

それを踏まえてセット変更をする。

それで最後の練習走行。

優奈はミス無く走り切り、レースタイムも和貴に近いタイムを出した。

「何とか土壇場で仕上がったな」

「うん。でもタイヤ貼らなきゃ。もう終わってるから」

「アグレッシブなのはいいけど、タイヤ持たせる走りも身に付けろよ」

優奈はレース用タイヤの準備を始めた。

そしてレース開催の時間になった。

基本的に常連の集まりで、知った顔ばかり。

その中で中根家は新参者。

父は知った顔が少し居るようで談笑していたが、優奈と理奈は知らない顔ばかり。

基本的に美少女の部類に入るので注目は集めていたが、声を掛けようとする男がいない。

逆に和貴がいろいろ訪ねられた。

「あの双子の女の子って和貴くんの友達?」

「同じ学校の同級生です。MRWってレースゲームで知り合いました。どうぞお気遣いなく話してもらっていいですよ」

「いや、ちょっと気が引けるなあ。現役女子高生と話すのは・・・」

参加者は30代以上の大人が中心。

男でも学生は和貴のみである。

結局、双子美少女に話しかける輩は居なかった。

ドライバースミーティングが終わり、ピットに散る。

「なんか避けられてる気がする。疎外感あるなあ」

優奈がそんな印象を口にする。

「浜島ではどんな感じだ?」

「それがね、ここと似たような感じ。話し相手がほとんどいないからそれが不満」

「なんか近寄りがたいオーラが出てるんじゃないのか?」

「なによそれ!?」

ぷうと膨れる優奈。

「だって付き合わされるとメンドクサイからな。正直疲れた」

「じゃああたしが勝たないとダメだね」

「ホントにいい性格してるな。正直お前に負けるとは思ってないからな」

「まあ口ではなんとでも言えるからね、タイムで証明してよ」

「それはお互い様だ」

レースは各クラス予選3回に決勝1回。

最多参加のタミヤ16Tクラスは21人が集まった。

和貴と優奈の父親たちが参加するクラス。

予選1回目の結果は、和貴の父が3位、優奈の父は6位だった。

「やっぱり和貴のお父さん速いね」

「お前の親父さんも初のBRにしちゃ立派だぞ。けどこのタイムだとAメイン入りは厳しいかな」

「ここって7人切り?」

「16Tは8人、8人、5人のはずだ」

通常の電動RCレースの場合、予選結果を元にメイン分けされる。

上位8人がAメイン、それ以下はBメイン、Cメインとなる。

つまり優勝を狙うには、予選でAメイン入りをしておく必要がある。

優奈の父は現在6位だが、これからタイムレベルが上がるので、このままではAメインに残れない状況だった。

そして和貴たちのストックツーリング予選が始まる。

11人が集まった。

上位7人がAメイン。

予選は3組に分けられた。

優奈は1組目。

和貴は3組目。

まずは優奈から。

『さあ予選1回目、現在トップは、初参加の優奈ちゃんだ。現役女子高生に加えてスティック使いという異色のドライバー。でも意外と速いぞ』

スティックプロポのメリットで、ブレーキングがしやすいというメリットがある。

RCカーで主流のホイラー型は左手人差し指でトリガーを握るとアクセルだが、ブレーキの場合は逆にトリガーを押す必要がある。

この操作が非常に難しく、難易度が高い。

それに対しスティック型は、左手親指でスティックを押すとアクセル、引くとブレーキになる。

ホイラー型のトリガーと比べるとブレーキ操作がしやすい。

実際に優奈はそのメリットを活かし、鋭いブレーキングを見せていた。

『さあ1組目は全車ゴール。トップは優奈ちゃん。25周0秒633とタイムも悪くないぞ』

トップゴールを決めた優奈は笑顔でピットに帰ってきた。

「あたしの走り、どうだった?」

「初参加にしちゃ上出来だな。でもこのタイムだとAメイン入りは厳しいだろうな」

「やっぱレベル高いなあ。じゃあ次は和貴の番だよ」

「よっし、始めは軽く行くか」

少し気合いを入れて準備を整える。

予選は3組に分けられたが、スムーズに走れるように主催者がある程度実力が近いドライバーを組み合わせている。

だから初参加の優奈はレベルが低めの1組目。

優勝経験のある和貴はレベルが高い3組目。

その3組目がスタート。

『さあトップで帰ってきたのは、和貴くんだ。けどタイムが速い。ベストラップ11秒439なんて出てるぞ』

和貴の走りは派手さこそないものの、とてもスムーズで流れるように見える。

決してラインを乱さず、クリッピングをきっちり取る。

『さあ3組目全車ゴール。トップの和貴くんは26周5秒708。これはホントに速い』

1回目は和貴が総合トップ、優奈は6位だった。

ピットに帰ると、優奈が睨んできた。

「なにが軽く行くよ。思いっきり全開じゃない」

「限界までは攻めてない。少しマージン残した」

「トップタイムでその言葉は説得力ないんだけど」

「じゃあ理奈ちゃんのデータ見てみろよ。ちゃんと表れてるはずだ」

と言って、ふたり揃って理奈のそばに行く。

「ふたりともお疲れ様。データ見る?」

「ああ、どんな感じだった?」

「佐伯くんは全周回ストップウォッチのボタン押してくれたからタイムも記録してるよ。いいタイム出てるけど、まだ余裕あるよね」

「えっ、ホント?」

驚く優奈。

全開アタック中にタイム計測のボタンを一定箇所で押すのはかなり難しい。

和貴はそれをやり切った。

「ほらこれ見て。今の予選の走りと、練習の走りの比較」

ふたつのグラフが並んでいる。

「今の予選、練習の時よりブレーキングポイントが手前だし、ブレーキも少し弱め。堅実な走りだね」

「どの辺りで詰められそう?」

「うーんと・・・」

和貴の問いかけに応え、理奈はグラフをチェックする。

「シケインの走りが安定してないね。スロットルワークが一定じゃないよ」

「どのラップでタイム出てる?」

「良かったのは9周目と13周目。最低限の舵角で綺麗に抜けてるし、速く握れてる」

「きっちり減速したほうが結果的に速いってことか」

「そうだね。途中でパーシャル使うより、惰性で転がしたほうがいいみたいね」

「なら少しだけリアの安定性増やそう。ちょっとナーバスな動きがたまに出るからな」

セッティングの方向性が決まった。

「へえ、和貴はしっかりとお姉ちゃんのデータ利用してるんだね」

優奈は皮肉交じりの声を出す。

「そもそも役に立つものを用意すると言ったのはお前だろうが。それを有効活用してなにが悪い?」

理奈のテレメトリーデータはセッティングやドライビングにおいて大きな武器になる。

ただそれは、優奈にも当てはまる。

「優奈もこれ見て。佐伯くんとの走行データの比較」

データグラフを見ると、一目瞭然。

優奈の走りは荒く、無駄が多い。

そこを理奈が的確に指摘する。

「お姉ちゃんの言うことも分かるけどさ、実際に走るのは無理だよ。あたしと和貴じゃスタイルが違いすぎる」

「佐伯くんの走りをコピーしろなんて言わない。でも比べると分かるでしょ、優奈は無駄が多過ぎるのよ」

そこに和貴が割って入った。

「なあ優奈、ステア操作に気を遣ったらどうだ?」

「気を遣うって?」

「お前は一気にズバッと切り込んでるだろ。それを少しだけゆっくりにするんだ。速すぎるステア操作はアンダーの原因にもなる」

「あたしの場合はそれやるとタイム落ちるの。ガンガン曲げないとタイム出ない」

「ならハンドリングの初期を少し落としてアンダー方向に振ろう」

優奈の車のセッティング変更を始める。

「ちょっと、今いい感じで走れてるから、曲がらなくなるのは困るよ?」

優奈は和貴を止めようとする。

「でも理奈ちゃんのデータグラフじゃ無駄が多いのは明らかなんだ。お前の腕ならアンダー消せるレベルにする。それだと丁寧に走らないとタイムが出ないようになる。まずは試してみろ」

そう説得したら、優奈は渋々頷いた。

そして予選2回目。

セッションが進むにつれ、路面コンディションが良くなり、タイムも出やすくなる。

まずは優奈から。

セッティング変更の影響で走りが少し大人しくなったように見える。

だが、

『さあ時間は1分30秒が経過。トップは優奈ちゃん。ベストラップも11秒651が出ている。これは26周踏みそうだ』

1回目よりいいペースで走れていた。

その結果、トップゴール。

『優奈ちゃんのタイムは26周7秒229。これで暫定3位に浮上』

ピットに戻ってきた優奈は複雑な表情を浮かべていた。

「タイム詰まっただろ?」

「うん。でもフィールはあたしの好みじゃなかった。コーナーで強いブレーキ掛けてたから、そこでロスしてる感じだった。それでこんなタイム出るなんて思わなかった」

「結果的にそっちのほうが速いんだよ」

その次は和貴の番。

快調に走り、トップゴール。

『和貴くんが凄いタイムだ。26周1秒817。これは3回目で27周に届くかな?』

圧倒的速さで総合トップ。

優奈も4位に浮上。

和貴は予選が終わると。真っ先に理奈の元へ駆け寄りデータグラフをチェックする。

「格段に走りが安定してるよ。毎ラップほとんど同じで、リズムもいい。こんな綺麗なグラフ見たことないよ」

理奈も驚いていた。

「予選3回目は確実に路面コンディションが上がる。だからみんなタイム詰めてくる。あとどこで削れそう?」

「ここから削るの?でもデータグラフ上じゃ無駄はないよ。あとは佐伯くんの頑張り次第だけど、2位に4秒の差がある。TQは安全圏じゃないかなあ?」

TQとはトップクオリファイの略で、予選トップ、つまりポールポジションを指す。

「かもしれない。でもここまで来たら27周踏みたい。1周差ってのは相手に与えるプレッシャーが大きくなるからな」

「ここからあと2秒詰めるのね?路面グリップが上がるってことはコーナースピードが上がるってことになる。でも旋回速度を上げると転倒の危険性が高まるから、クイックに素早く回って

速くスロットルを開けるくらいしかないよ。ホント無駄がないから、あたしに言えるのはそれくらい」

「分かった、理奈ちゃんありがとう」

自分のピットに戻る。

そこで優奈が待っていた。

「あたしはどうすればいい?」

「理奈ちゃんから改善ポイント聞いた?」

「うん、ブレーキングは鋭いけど、ラップによって強さがバラバラだからそこを一定にして進入速度を統一しなさいって言われた」

「3回目は路面が上がるから、みんなタイム詰めてくる。転倒対策するから、それでコーナースピードを稼ぐようにしろ。走りのスタイルは2回目と同じでいいから」

「了解、やってみるよ」

優奈も反論せず、素直に従った。

和貴たちの前に、父親たちの戦いがある。

2回の予選を終えた時点で、和貴の父が4位、優奈の父が9位だった。

最終ラウンド。

優奈の父は頑張ってタイムを詰めたが、和貴の父はミスをしてタイム更新は出来なかった。

その結果、和貴の父は6位、優奈の父は7位になった。

ふたりともAメインに入った。

「やっぱりおじさん速いな。初のBRでAメイン入りは流石だよ」

「和貴のお父さんも速いよ。やっぱり安定してる。この競争が激しいクラスでAメイン常連なんでしょ?」

「まあ意気込みは凄いと思う。こんなローカルのショップレースでもレギュレーションの抜け穴を必死に探してるからな」

ふたりとも思わず笑ってしまった。

ストックツーリング予選最終ラウンド。

優奈はさらに安定した走りを見せ、26周5秒009を記録。

なんと暫定2位。

必然的にライバルからの注目を浴び、優奈の418に多くの人のチェックが入った。

「和貴くんが面倒見てるの?」

「ええまあ。けど418がここまで走るとは思いませんでした。

「ドライバーの腕もいいんだろうね。これでT4に換えたらもっと速いだろうなあ」

他の参加者からそんな感想が漏れた。

そして和貴の番。

序盤からハイペースで飛ばす。

『さあ1分30秒が経過。トップの和貴くんのタイムがいい。アベレージが11秒529.27周ペースだ』

和貴はミスなくハイペースで走り切り、タイム更新。

『和貴くんがただひとり27周に入りました。27周10秒115。TQ獲得です」

和貴がポールポジション、優奈は3番グリッドになった。

「へへっ、初参加にしてはまあまあでしょ?」

「お前の力だけじゃない。理奈ちゃんに感謝しろ。あの走行データはタイム詰めるのに有効だからな」

「そうだね。あと和貴にも感謝してるよ。セッティングありがとう」

「・・・お前の口からそんな素直な言葉が出ると調子狂うな」

「和貴はあたしに偏見持ちすぎだよ。そこまで計算高い性悪女じゃないからね」

「まあ、話半分に聞いておこう」

いつものようにあしらうと、優奈もいつものように頬を膨らませた。

レースも残るは決勝のみ。

まずは父親たちのタミヤ16Tクラスから。

Aメインの決勝は大荒れになり、スタート直後に多重クラッシュ発生。

その間隙を突いた優奈の父がトップに立ち、2位には和貴父。

ただこのふたりの決勝ペースは決して速くなく、序盤から上位グリッドスタートの強豪たちに追われる展開になった。

5台によるトップ争いになり、それがレース時間の5分間ずっと続き、それに耐え切った優奈の父がトップゴール。

和貴父は3位に入った。

優奈の父は初のBRで初優勝。

とても上機嫌な笑顔を見せた。

「お父さん勝っちゃったよ。あたしも頑張らないと」

「お前に勝たせるつもりはないからな」

火花を散らせる和貴と優奈。

そしてストックツーリング決勝Aメイン。

和貴は落ち着いていた。

スタートのアラームが鳴ると、真っ先にコーナーに飛び込み、ハイペースで飛ばす。

序盤で一気に流れに乗り、後続を突き放す。

これが和貴の必勝パターン。

2周で2位に2.5秒の差を付けていた。

『さあトップは和貴くん。そして2位は3番手スタートの優奈ちゃんが上がっている』

(優奈が2位か。なら・・・)

気持ちが少しラクになった。

強い緊張から開放され、思い描いたように操縦出来る。

『レースは1分が経過。トップは和貴くん。2位が初参加の優奈ちゃん。だがその後方は3台の数珠繋ぎの接近戦。トップとはもう3.5秒の差が付いている。和貴くんにはラクな展開だ』

優奈のペースが上がらず、どんどん差が開く展開。

その後方から速いドライバーが迫っているが、ブレーキングが鋭い優奈を抜くまでには至らない。

さらに優奈も順位キープに切り替えたようで、ペースが上がってこない。

こうなると後方のドライバーにプレッシャーが掛かり、ミスの要因になる。

「おっと、3位の田中さんとその後ろの大蔵さんがクラッシュ。それに加賀さんも巻き込まれた。これで優奈ちゃんは単独2位。トップを追いたいが、その差は5秒まで開いた。レースは残り3分』

5秒差は和貴にとってはセイフティリード。

もう全開でプッシュする必要はない。

とにかくミスをしないように、少し抑え気味に走る。

それでも優奈との差はほとんど変わらなかった。

レースも終盤になると、周回遅れが出てくる。

それの処理に気をつけながらペースを保つ。

『さあレースは4分半が経過。トップ和貴くんと2位優奈ちゃんは単独走行。3位以降は接近戦。和貴くんの連勝は硬いか?』

残り30秒で、優奈との差は4.3秒。

流して走っても追い付かれる心配はない。

そしてレース時間の5分が経過。

和貴は危なげなくトップゴール。

優奈も2位になった。

参加者からは、2位の優奈に大きな拍手が贈られた。

操縦台のライバルたちも笑顔で優奈を称える。

優奈はそれに応えながらも、戸惑い顔を見せていた。

和貴と目が合う。

「サンキューな、お前が序盤で抑えてくれたからラクなレースになったよ」

優菜は笑顔だったが、少し悔しそうな色も見せる。

「スタート決まって和貴追いたかったけど、2位キープで必死だった。後ろで絡んでくれたからラクになったけど、その時はもう遥か彼方だった。少し悔しいけど、実力は出し切った気がする」

「XRAY有利のこのコースで、418で2位は立派だ。よく頑張ったと思うぞ」

「うん、楽しいレースだった」

ようやく素直な笑みを見せた。

ピットに戻ると、理奈が笑顔で待っていた。

「ふたりともお疲れ様。佐伯くんはラクなレースだったね。データに表れてるよ」

「そうなの?」

優奈がノートパソコンの画面を覗き込む。

「上が予選3回目、下が今の決勝。一目瞭然でしょ?」

予選と比べるとブレーキングが手前で、コーナーでもステアリングをこじっていない。

「和貴、手を抜いてたんだね?」

優奈が睨んできた。

和貴は苦笑いを浮かべ、

「理奈ちゃんのデータが全てだ。確かに全開で攻めてなかったけど、その必用がなかったんだ。序盤で充分なマージン稼げたからな。攻めてミスしてタイムロスするほうが馬鹿らしい、だから安全策を取っただけだ」

と弁明した。

「次は手を抜かないでよね」

「だったらマシンを換えろ。正直ここで418は辛い。T4に換えればラクになるぞ」

「かもしれないけど、そんなお金ないよ。外車は高いもん」

今度は優奈が苦笑いを見せた。

その後、表彰式と抽選会。

トップ3は写真撮影もある。

和貴と優奈が並んで撮られた。

ふたりとも満面の笑みだった。

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