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Motor Racing World  作者: ジャミー
14/23

恋の季節

1学期の終業式の後、和貴は真一と共にファーストフード店のテーブルを囲んでいた。

「今月末から3泊4日で海に行くんだろ?」

「誰から聞いたんだ?俺は今日にでもお前に話そうと思ってたんだけどな?」

「普通なら喜んで飛び上がりたいが、なんか厄介ごとになりそうだよな?」

「マジで誰から聞いたんだ?」

「優奈ちゃんだよ」

「あいつは大袈裟に話すぞ。話半分と思ってくれ」

「でも冷静に分析すれば、一歩間違えれば修羅場だぞ」

「まあ、そうなんだよなあ」

今年の夏に海に行こうと言い出したのは理奈。

そして和貴は、希の親戚が海の側で旅館を経営していると話した。

和貴としてはただそれだけだったが、それを聞いた理奈は希に連絡を取り、その旅館へ一緒にいくことになったと伝えてきた。

正直、絶句。

和貴の他は、理奈と優奈、それに希が加わる。

一触即発の面々。

男が和貴ひとりでは荷が重いと思って、真一を巻き込もうと考えていた。

「なあ佐伯、お前も理奈ちゃんの好意は気付いてるだろ」

「そりゃあな。1日おきに手作り弁当食べてるんだ」

「で、もうひとつは希さんだろ?」

「理奈ちゃんと交替になってから、なんか力が入ってる感じがする」

「今の佐伯にとって、希さんは本当にただの幼馴染か?」

「うーん、俺はそのつもりだけど、希は違う気がする」

「お前、他人事のように言ってるけど、お前自身の問題なんだぞ。どうするつもりだ?」

「理奈ちゃんを女の子としては意識してる。でも正直言って、付き合いたいとは思わない。俺には荷が重い」

「じゃあ希さんはどうなんだ?」

「希は恋人ってより、お姉さんって感覚だ。まあそれ以上の気持ちもあるかもしれないけど、恋人として見てるかどうかは微妙だな」

「じゃあ、どっちも選べないのか?彼女が欲しいとは思わないのか?」

「そりゃ欲しいよ。でも理奈ちゃんと希から選べって言われると、難しい。どっちも大きな不満はない。けどどちらかを選んだら、今の関係が壊れる気がする。それは避けたい」

「贅沢な悩みだな。縁が全然ない俺から見れば理解不能だ」

真一は呆れた目を向ける。

「彼女は欲しいけど、けどそれは俺も好きだって気持ちがないとダメだと思う。理奈ちゃんが俺を好きでいてくれるのは嬉しい。希もそうかもしれない。それはそれで嬉しい。けど今の俺がそれに相応しいかどうかは別問題だ。本気で好きでない相手と軽い気持ちで付き合えないよ」

苦笑いを浮かべながら、和貴は本音を吐露した。

「なんつーか、真面目と言うか、不器用だな。優奈ちゃんの言うとおりだ」

「なんで優奈の名前が出てくるんだ?」

「優奈ちゃんも佐伯を狙ってるんだよ」

「は?あいつが?」

にわかには信じられない。

「優奈ちゃんが俺を旅行に誘ったのも、援護射撃を期待したからだろうな」

「援護射撃って、どうすんだよ?」

「それを事前に言っておきたいから、今言っておく」

真一は真剣な眼差しを向ける。

「なんだよ、言ってみろ」

「俺は希さんにアタックするつもりだ」

「お前が希に?」

そう言われて、思考を廻らす。

真一は希の写真しか知らない。

和貴の目から見ても、美人である。

それに理奈や優奈のような癖がない。

確かに狙いたくなる気持ちはわかる。

「そっか、片山が希かあ。まあ頑張れとしか言えんな。けど厳しいと思うぞ」

「それはお前が好かれてるという自覚からか?」

「そこまで自惚れていない。けどお前って希の写真しか知らないだろ?」

「ああ。あれだけの美人を放っておけないだろ?普通は」

「そう思ってる男が希の身近に皆無だと思うか?」

「どういう意味だよ?」

「希はひとつ年上で、俺の地元の中牧の高校に通ってる。共学のな」

その一言で、真一の顔色が変わった。

「じゃ、じゃあ希さんは、もう他に付き合ってる男がいるとでも?」

「逆にいないほうが不思議じゃないか?お前の言うとおり、周りが放っておかんだろう」

「お前はそれでも悔しいとか思わないのか?」

「だから言ったろ、希はお姉さんみたいなものだって。まあ悪い男に引っかかって泣いてたりすれば怒るだろうが、希が幸せならそれでいい」

「そっか、佐伯にとって希さんはそんな扱いなのか。なら心置きなく攻められる」

「で、もし片山が希を落とせたら、優奈はどうするつもりだ?」

「さあ、そこまで突っ込んだ話はしてない。けど優奈ちゃんなりに考えがあるんじゃないのか?」

「優奈かあ。まああいつには悪いが、恋愛対象としては見てないぞ」

「それは置いといて、俺としては3人の水着姿を拝めるだけでも行く価値はある」

真一の鼻息が荒い。

「水着なあ。まあ理奈ちゃんには期待かな。希は知っているし、優奈は貧相だろうからなあ」

対象的に和貴は冷静だった。

その日の夜、希に真一が追加になったと伝えた。

「全然問題ないよ。和ちゃんホッとしたでしょ?男ひとりに女の子3人は荷が重いって」

「当たり前だろうが。理奈ちゃんと優奈のセットだけでも充分に重い。そこに希が加わるんだぞ」

「あたしも重い?」

「そうじゃないけど、あのふたりとは折り合い悪いだろ。そもそも仲良しメンバーで遊びに行くって雰囲気じゃない」

「そこまで分かってるなら、あらかじめ言っておくよ」

いつもの柔和な笑みではなく、真剣な眼差しを向ける。

「なんだよ改まって?」

「あたし、理奈ちゃんだけは認めないから」

「それは、俺と理奈ちゃんが付き合うってことか?」

「そう。幼馴染ってだけではでしゃばり過ぎだろうけど、理奈ちゃんはダメ。あんなに我が強い女の子だと、和ちゃんは絶対に苦労する。幸せになれない」

「そこまで気にしてくれるのは嬉しいけど、自分のことも考えてる?」

中学時代の旧友から、希の学校での人気ぶりを聞いている。

様々な男たちからアプローチを受けているが、全て断っているらしい。

そんな希は苦笑いを浮かべ、

「あたしは大丈夫だよ。ちゃんと考えてるから心配しないで」

いつもどおり、姉らしい笑みを見せた。

そして旅行当日。

急行列車で海に向かった。

和貴から見れば、既に予測不可の状態だった。

真一は希狙いなので、希と積極的に話している。

そこに理奈が加わっていた。

パッと見は和やかに見える。

それが不気味だった。

そんな心境を優奈に見抜かれた。

「和貴はお姉ちゃんたちの様子が気が気でないって感じだね」

「なんか、理奈ちゃんの様子が違う。俺はあんな理奈ちゃんを知らない」

理奈は礼儀正しく、第一印象は悪くない。

だが、その根っ子は負けず嫌いで、それが表に出ると我が強く感じる。

現在、希と和やかに会話しているように見える理奈は、その両面が混在しつつも、穏やかに感じられた。

「お姉ちゃんも頑張ってるんだよ」

「なにをだ?」

「お弁当の一件で、希さんに警戒視されたでしょ。あれを払拭したいのよ」

「確かにな。年下の理奈ちゃんに怯えてたからな」

「お姉ちゃんの考えとしては、まず希さんに認められないと、和貴との距離は縮まらないって思ってる。だからまずは希さんの攻略が先みたい」

「それは間違ってないだろうが、俺の意思はどこに行ったんだ?」

「それなんだよね。肝心なところが抜けてる。それとも和貴自身の攻略は簡単だと思ってるのかな?」

「理奈ちゃんは確かにかわいい一面はあるけど、付き合うとなあ。なんか重く感じる」

「もしお姉ちゃんから告られたらどうする?」

「即決はしたくない」

「でもお姉ちゃんのことだから簡単には引き下がらないよ。なし崩し的に受け入れることになりそう」

「それは御免被りたい」

「じゃあお姉ちゃんとふたりっきりになるような状況は避けるべきね」

「まあ、そうするように努力する」

急行列車に1時間半ほど揺られて、目的地の駅に着いた。

既に宿泊先の旅館の車が待っていた。

面識のある希と和貴が挨拶をする。

「おはようございます。お世話になります」

「お迎えありがとうございます」

「いやいや、毎年来てくれてありがとう。さあさあ乗って」

ワンボックスカーに乗り込み、10分ほどで旅館に着いた。

「へえ、旅館の真ん前が海水浴場なんだ」

嬉しい驚きを見せる優奈。

「ああ。海では楽しく遊べるぞ」

「じゃあ早速行こう!30分後に集合ね!」

「お前は相変わらず元気だなあ」

和貴は半分呆れていた。

男女別に部屋に別れ、海に出る準備をする。

「佐伯、希さんってマジでいいお姉さんなんだな」

早速、真一の鼻息が荒い。

「そんなに気に入ったか?」

「だって美人だしスタイルいいし、優しそうじゃないか。あとあの胸!水着姿が待ち遠しいぜ!」

「まあ、希のバストはかなり大きいよな。でもガン見するなよ。本人コンプレックス抱えてるから」

「えっ、あんなに大きいのに?」

「大きければいいってもんじゃないんだよ」

男ふたりはさっさと着替えを済ませ、道具を抱えて砂浜に出た。

それから送れること5分ほど、

「お待たせー」

女性陣が姿を見せた。

「おおっ?」

真一の目が輝く。

3人とも大胆なビキニ。

希はパステルグリーン。

優奈が濃いブルーに明るいイエローのアクセント。

理奈はピンクのチェック柄。

普通の男なら、狂喜の光景。

だが和貴は少し落胆していた。

「どうどう和貴?あたしの水着姿、興奮した?」

自信満々の優奈。

「お前なあ・・・」

バッシーン!

和貴は平手で優奈のアバラを叩いた。

「痛ったい!なにすんのよ?」

「予想はしてたが貧相過ぎだ。完全にアバラ浮き出てるじゃないか。脂肪が足らん」

「でも出るところは出てる自負はあるよ。それとも希さんと比べてるの?普通の女の子にあれと比べるのはダメだと思うけど」

優奈は希のバストを指差す。

自然と、その豊満な胸に目が行く。

「希ってまた大きくなった?」

去年の記憶と比べると、明らかに大きい。

「和ちゃんの好みじゃなくなった?」

やや自信無さげな希。

「個人的にはバランスが悪い気がする。水着の選択肢も少ないんだろ?」

「そうなんだよね。かわいいのが選べない。逆に大人びて大胆なものが多いから余計に困る」

「へえ、和貴は巨乳に揺らがないんだね」

「それよりバランスが大切だろう。だがらやっぱり好みは理奈ちゃんかな。スタイルいいし、健康的に見える」

「そ、そう?あたしって普段運動してないから余分な脂肪が気になってるんだけど」

和貴に褒められて、理奈はかなり照れている。

「モデルじゃないんだから、それくらいでも充分にスタイルいいって。もっと自信持ちなよ。少なくとも優奈よりはずっとマシ」

「和貴って何気に酷いこと言うよね」

完全に不機嫌な優奈。

「お前は病的に見える。ビキニだと余計だな。マジで脂肪付けろ」

そんな会話をしながら、パラソルを立て、準備をする。

5人で海に入り、はしゃぐ。

男女で海に遊びに行く。

その独特の雰囲気がテンションを上げる。

皆が笑顔に包まれた。

「ふう」

パラソルの下で和貴が一息つく。

「佐伯くん、はい」

理奈がスポーツドリンクを差し出した。

「おっ、理奈ちゃんサンキュー」

「隣いいかな?」

「ああ、どうぞ」

ふたり並んで座る。

浜辺で真一と希が笑顔ではしゃいでいる姿が目に入る。

「片山も必死だなあ。よっぽど希が気に入ったんだな」

「あれだけの美人でスタイルもいいもん。夢中になるのは分かるけど、ちょっと目つきがいやらしいなあ」

「胸は見るなって言ったんだが、どうやら無理みたいだな」

「あれだけ大きければ仕方ないよ。Fカップだって。羨ましいなあ」

「上を見ればキリがないって。それに本人コンプレックス抱えてるからな」

「えっ、あんなに大きいのに?」

「男の視線が胸に集まるのが嫌なんだと。あと水着や下着も高くて選択肢が少ないって聞いた」

「そっか、大きいサイズは高いもんね。でも服の選択肢が少ないのはあたしも一緒だよ」

「小さいサイズだと、大人びたデザインが少ないのか?」

「正解。かわいいのは多いけど、そんなの着たら中学生に見られる。それに胸とお尻がキツかったりする」

「あえてこの場で言わせてもらうけど、理奈ちゃんも出てるところは出てるよね?」

優奈と同じく、普段はかなり着痩せしている。

水着姿だと、女性らしい曲線美を見せる。

「あたしも優奈もCカップだから。希さんに話したら、それくらいがちょうど良くて羨ましいって言われた。皮肉かなって思ったけど、本心だったのかな?」

「希はそんな皮肉は言わない。本心だよ」

「でもその理由は、佐伯くんの嗜好じゃないかな?」

「どういう意味?」

「だって佐伯くんって、希さんのスタイルは好みじゃないんでしょ?」

「まあ、な。良くも悪くも胸が大きすぎる。バランス悪いと思う」

「佐伯くんが片山くんみたいな巨乳派だったら、希さんのコンプレックスはなかっただろうね」

「俺の好みじゃないから、コンプレックスになったって?」

「そうだよ。好きな人からのマイナスイメージは嫌だよ」

「それって、希が俺を好きだってことだぞ?」

「そんなの、本人が口に出さなくたってバレバレだよ。あたしも優奈も、それに片山くんも気付いた。だからあんなに必死なんだよ」

「そう言われても、自覚がないんだよなあ」

「佐伯くんって恋愛関係は鈍感なんだね。だったらはっきり言っておく。あたしは佐伯くんの好みのスタイルだって分かったから、嬉しかった。自信付いた」

「えっ?」

「だって、あたしは佐伯くんが好きだから」

理奈から、思ってもみなかった突然の告白。

一瞬、思考が停止した。

その直後、現在の状況を把握する。

「理奈ちゃん、ヤケにあっさり言ったね?」

「とにかく言わなきゃダメだって思ったから。シチュエーションなんて気にしてられない」

そう話す理奈の声が、少し震えている。

「理奈ちゃんでも緊張するんだね」

「あたしも普通の女子高生なんだからね。それに人生初の告白だもん」

「俺も告白されたのは人生初だよ」

「佐伯くんも動揺してる?」

「そりゃもちろん」

「じゃあ、お互い少し冷静になったほうがいいね」

そう言って理奈は立ち上がる。

「あたし、返事は急がない。希さんはもちろん、他の女の子とちゃんと比較して、きちんと返事して欲しいから。だから佐伯くんもゆっくり考えてね」

笑顔を見せて、理奈は浜辺に駆け出した。

それと入れ替わるように、今度は優奈が来た。

「どうしたの?」

「いや、ちょっと想定外のことがあってな」

そう言いながら、和貴は火照った頭をクールダウンしようとして、理奈から受け取ったスポーツドリンクに口を付けた。

その日の夜。

夕食の後に大浴場で汗を流し、旅館の浴衣姿で浴場を出たところで、優奈に捕まった。

優奈も風呂上がりのようで、白い肌がほんのり朱に染まっている。

「どうした、なんか用か?」

「それはこっちの台詞。とりあえず夜風に当たりたいから、上のテラスに行こう」

と言われ、仕方なく優奈の後に続く。

テラスはそこそこ広く、同じ浴衣姿の宿泊客がちらほら見える。

「ここからだと、街の風景がけっこう見えるね」

テラスは4階にあるので、見晴らしがいい。

「何もない田舎町だからちょっと寂しい感じだけどな」

「じゃあ早速本題だけど、お姉ちゃんとなにかあったの?」

テラスの柵に手を掛けて、振り向きざまに和貴を見つめる。

鋭い眼差しが向けられる。

「よく気付いたな」

「双子だもん。そりゃ気付くよ。お姉ちゃんは機嫌がよさそうで、和貴はそのお姉ちゃんに対してほんの少しぎこちない感じだったもん」

「あんなこと言われれば、ぎこちなくもなるよ」

和貴も優奈の隣で、同じように柵に手を掛けた。

「なんて言われたの?」

「告られた」

「うそ?いつ、どこで?」

「浜で遊んでいた時に、パラソルの下で」

「じゃあ、真昼間で、みんなと一緒のときに?」

「ああ。そんな状況で告られるとは思わなかった」

「そりゃあそうだよ。でもお姉ちゃん、やる時にはやるんだなあ」

優奈も驚きを隠さない。

「で、和貴はなんて答えたの?」

「俺は何も言ってない」

「じゃあ返事は保留?」

「ああ。お互い平常心じゃなかったから、落ち着いて考えてってな。正直ホッとしてる」

「ふうん。で、和貴はなんて答えるつもり?」

「正直、迷ってる。理奈ちゃんの気持ちは嬉しい。理屈抜きでな。でもそれに応えたら、希の気持ちを裏切ることになる」

「希さん?」

「希は俺と理奈ちゃんが付き合うのは反対なんだよ。自由が奪われるからってな」

「うーん、希さんのその理由はどうかと思うよ。恋人同士になるなら、ある程度の束縛は生まれる。幼馴染ってだけでは、でしゃばり過ぎじゃないかな?」

「実際のところ、理奈ちゃんと付き合ったらどうなるんだろうな?今の性格から変わる気がする」

「お姉ちゃんって普段は自分にも他人にも厳しいけど、和貴には甘くなるかもね」

「そんな一面があるんであれば、かわいいって思えるけどな」

「ねえ、かわいいのってお姉ちゃんだけ?」

途端に優奈の声のトーンが落ちた。

「どうした?」

「和貴が女の子として見てるのって、お姉ちゃんと希さんだけ?他にはいないの?」

真一から聞いた言葉を思い出す。

優奈も自分を狙っていると。

「お前には余計な駆け引きは無用だな。はっきり聞くが、お前も俺を好きだって、本当か?」

優奈はしばらく俯いていたが、顔を上げて和貴を見つめる。

今まで見たことのない、女の子らしい表情。

目も少し潤んでいる。

真剣さが、ひしひしと伝わってくる。

「そうだよ、初めて逢ってから、ずっと、ずっと好きだった。あたしも和貴が好き」

この言葉を受け、和貴の心は大きく揺らいだ。

異性として見ていなかった優奈に、初めて女の子らしさを感じた。

「その、なんて言うか、ありがとな」

「ゴメンね和貴。正直困ってるよね?」

「まあな。ってか、お前ら姉妹はどうなるんだよ?ふたりでひとりの男を取り合うのか?」

「双子だから仕方ないよ。同じ人を好きになっても不思議じゃない。それはお母さんにも言われたし、お姉ちゃんとも話した」

「理奈ちゃんと?」

「うん。和貴の名前は出さなかったけどね。でもお互いに同じ人を好きになったら、遠慮はしない。正々堂々と戦おうってね」

「やっぱりふたり揃って負けず嫌いだな。でもそうなると、ますます悩みの種が増える」

「あたしとお姉ちゃん、どちらかを選ぶのは難しい?」

「それもあるけど、ふたりとも大切なチームメイトだ。所詮ゲームの中の話だと割り切るのも手だろうけど、俺は割り切れない」

「それはあたしも一緒だし、お姉ちゃんもそうだよ。って言うか、お姉ちゃんが一番のめり込んでないかな?」

「それは言えるな。コンストラクターファクトリー買うとは思わなかった。よくそんな金があったなあ」

「アレお姉ちゃん一銭も払ってないよ。出したのお父さんだから」

「それマジで?いくらなんでも甘すぎないか?」

父親が娘に買い与えるには高価すぎるソフトである。

「お父さん、お姉ちゃんには甘いって言うか、頭が上がらないのよ。ラジコン関係でかなりのサポート受けてるし、要らなくなったモノはお姉ちゃんがネットオークションで高値で売りさばいているからね」

「ネットオークションくらい自分でやればいいのに。慣れれば簡単だぞ」

「へえ、和貴もやってるんだね」

「基本的になんでも売れるからな。買取持ってくのがバカらしくなる」

「和貴ってバイトもやってるよね。さらにネットオークションかあ。結構お金持ってたりするの?」

「18になったら速攻で免許取るつもりだ。今から車買うために貯金はしてる」

「へえ、どんなの狙ってるの?やっぱりスポーツカー?」

「それは止められてる。4ドアで実用性のある車にしろってな。親父は俺に中古の3を買わせたいみたいだな」

「3って、BMW?」

さすがに驚く優奈。

「ドイツ車は親父の憧れなんだよ。でも仕事の関係で国産しか乗れない。だから俺に買わせて自分も楽しもうって魂胆」

「そっかあ。あのお父さん車が好きそうだもんね」

「だからって俺を利用するなって言いたいけどな。初めての車が3なんて、周りからなんか言われそうだ」

「あたしも最初の車はいろいろ考えてるよ。でも、これって車がないんだよね」

「お前はどんなの狙ってるんだ?やっぱりスポーツカー系か?」

「うーん、速く走るのはMRWだけで充分だよ。和貴と同じで実用重視かな。小さくてかわいい車がいい。でもちょっと悩みの種があるんだよね」

「親父さんからマニュアル車にしろって言われてるとか?」

「その通り。最初の車はマニュアルにして、基本を身につけろってね。今時マニュアルなんて時代遅れだと思うんだけど」

「いや、免許取っておくに越したことはないだろ。社会に出ればマニュアル車に乗る機会はあるぞ。ちょっと古めのトラックやバンとかな」

こんな会話を繰り返していると、高まっていた動悸が収まっている。

普段の自分に戻っていた。

それに気付くと、自然と笑みがこぼれた。

「どうしたの?なに笑ってるの?」

「いや、お前と一緒だとラクだなって思っただけだ」

「なによそれ?あたしを女の子扱いしてないの?」

ムッとする優奈。

「まあ良くも悪くもだな。ちょっと疲れたから部屋に戻るよ」

「あたしも返事は急がない。ゆっくり考えて」

「ありがとうな。おやすみ」

部屋に戻りながら、思考を巡らす。

理奈、優奈のふたりから告白を受けた。

ふたりとも、返事は急がないと言われた。

だが、それではダメだと思っていた。

(たぶん、この旅行中に返事しないとダメだろうな)

そう強く感じていた。

旅行2日目。

この日は地元の商店街を散策することになった。

海沿いの街なので、真夏でも風が涼しく感じる。

5人一組にはならず、希に真一がくっ付き、そこに理奈も加わっている。

その様子を、和貴と優奈が一緒に眺めていた。

「片山も頑張るなあ。そこまで希が気に入ったのか」

「でも希さんの本心では、ちょっとウザいみたいだね。けど和貴の友達だからどうしようって部屋で言ってた」

「おい、旅行中の女の子部屋トークの内容は口にするな」

「ダメ、全部話す。和貴には現状把握をして欲しいから」

「現状把握?」

「あたしね、昨日部屋でお姉ちゃんに確認したの。和貴に告ったって本当なのって」

「いきなり燃料投下するなよ」

暑さとは別の、冷や汗が出てきた。

「で、お姉ちゃんはそうだよって認めてから、希さんと睨み合い」

「聞いてるだけで胃が痛くなってくる」

「あたしも口出し出来る空気じゃなかった。ただ、これではっきりしたよ。希さんも和貴が好きなんだって」

「じゃあ近いうちに希からも告られるのか?」

「たぶんね。そうなったらどうする?」

「うーん、希が恋人ってのは、ちょっと違和感ある」

「それをお姉ちゃんが指摘したら、希さんは悔しそうな表情見せてた」

「希かあ・・・」

「なにその意味深な発言?」

「いや別に。ただ俺は恋愛対象として見れないのが悪いなあとか思っただけ」

「だからって罪悪感から付き合おうってのは間違ってるよ。絶対にお互いの為にならない。自分の気持ちに正直にならなきゃダメだよ」

「了解。肝に命じておく」

その日の夕方、希から呼び出しのメールが届いた。

旅館の近所にある寂れた喫茶店で、希は待っていた。

「ゴメンね、わざわざ呼び出して」

「いや、呼び出されそうな気はしていた」

希と対面に座り、アイスコーヒーを注文する。

「私、理奈ちゃんを少し誤解してた。想像より、ずっといい子だった」

「まあ、今の理奈ちゃんは俺も少し驚いてる。普段はもう少し我が強いイメージだな」

「そうだよね。今は猫を被ってるとまでは言わないけど、ちょっと無理してる気がした。まあその気持ちも分からなくはないけどね」

「希に認めて欲しい、らしいな」

「誰から聞いた?」

「優奈から」

「じゃあ、この呼び出しも予想してたって言ったけど、それも?」

「ああ、優奈から指摘されてた」

「そっか、なら話は早いよ。早速本題に入るね」

和貴は緊張してきた。

希はこれまで、姉のような感覚だった。

告白を受けることで、それがどう変わるのか、分からない。

期待と不安が入り混じっていた。

「私、和ちゃんには告白しない」

「えっ?」

「だって、今の気持ちを口にしても、和ちゃんが困るだけ。それに叶いそうにない。だったら言わない」

「希、その・・・」

「いいよ、和ちゃんの気持ちは分かってる。私はあくまでお姉さんなんだよね」

「ゴメン。もし告られれば、なにかが変わるかもって思ってた」

「私に勇気があれば、それを言えたかもしれない。でも、臆病だから」

苦笑いを見せる希。

「そっか。で、片山はどうなんだ?あいつはすっかり気に入ったみたいだが」

「それは充分に伝わってるよ。でも、なんか違う。中身より見た目で選ばれてる感じがする」

「断るなら、早目にしたほうがいい。俺からもフォロー入れるから」

「ありがとう。あと、出来ればワガママ言わせて欲しい」

「ワガママ?」

「うん。この旅行でいろいろ知って、分かりあえたけど、やっぱり理奈ちゃんはダメ」

「えっ?」

これは和貴にとって、予想外の言葉だった」

「理奈ちゃんはいい子だよ。和ちゃんにお似合いだと思う。お付き合いしたら、幸せな気持ちになれる。けど、それは良くもあるけど、悪くもある。和ちゃんは自分を見失う。たぶん」

「自分を見失う、か。そうかもな」

理奈から告白を受けた時、動揺した。

自分を見失っていた。

「和ちゃんが和ちゃんのままでいられる。そんな子がいいと思う。もちろん、なかなか見つからないだろうけど」

ふと、優奈の顔が思い浮かんだ。

と同時に、気になることが出てきた。

「なあ、たとえときめかなくても、普通のままで感情が高ぶらなくてもいいのか?そんな子がいたとして、俺はその子が好きだと言えるのか?」

希はキョトンとしたが、すぐにいつもの姉らしい笑みを見せた。

「そうだね、もしそんな子がいるなら、いいだろうね。和ちゃんは他の人からの干渉を嫌うから、一緒にいて疲れない子ならね」

「俺が干渉を嫌う?」

「そうだよ。和ちゃんも結構我が強い。だから理奈ちゃんとは合わないと思う」

希から指摘されて、初めて気付いた。

それから改めて考え直した。

そして旅行最終日の夜。

祭で花火が打ち上げられた。

5人で一緒に廻る。

女性陣は色鮮やかな浴衣に身を包む。

真一の機嫌が良かった。

少し前にその理由を聞いたら、希とメアドを交換したとのことだった。

「とりあえず友達からって言われたけど、一歩前進だ」

「でもその言葉って、やんわりNGじゃないのか?」

「まあな。でも完全NGよりマシだ」

真一は前向きだった。

その際、真一からどうするのか、逆に聞かれた。

無論、理奈の件である。

「俺も結論出すよ」

とだけ言った。

そして今、

「ちょっとトイレ」

と言って、皆から離れた。

そして、メールを打った。

10分後。

人気のない旅館の裏で待つ。

そこに優奈がやってきた。

「こんなタイミングで、こんな場所に呼び出しなんて、期待と不安が入り混じってるんだけど」

そう話す口調が少し震えている。

「お前に前置きは不要だな。単刀直入に言うよ。俺と付き合ってくれないか?」

「えっ、それって、あたしが好きってこと?」

「悪い、そうなのかどうかは、俺にはまだ分からない。けどお前が一緒だと、ラクなんだ。変に構える必要がない。素でいられる。それって大事なことだと思う。だから、一緒にいて欲しい。こんな理由じゃダメか?」

自分でも、人生初の告白としては、情けない言葉だと感じた。

それ故に、今度は和貴の鼓動が高鳴る。

静寂は一瞬だったが、それが何倍にも感じられた。

優奈は言葉を発せず、いきなり和貴の胸に飛び込んできた。

「優奈?」

さすがに慌てる。

「それで充分。あたしを選んでくれるなら、なんだっていい」

声の震えが大きくなる。

「お前、泣いてるのか?」

「だって、嬉しいんだもん。お姉ちゃんと希さんが相手じゃ絶対に無理だって思ってた。だから、嬉しい」

「そっか、ありがとな」

和貴も、優奈を優しく抱き締めた。

そこに、

「よっ、おめでとさん」

「和ちゃんおめでとう」

「おめでとう」

拍手をしながら、真一、希、理奈の3人が姿を表した。

とびきりの笑顔を見せて。

「げっ、見てたのか?」

顔が赤くなるのが分かる。

「でも、これでよかったかな。ね、希さん?」

「そうだね、優奈ちゃんなら安心だね」

希と理奈が妙な言葉を口にする。

「ちょっと、安心ってなによ?」

優奈も気になったようで、振り向きざまに問いただす。

「希さんを選んだらノーチャンスだったけど、優奈なら隙だらけだから充分チャンスあるなって」

「私も同意見」

理奈と希から、危ない言葉が飛び出す。

「ちょっと、おい!」

「だから佐伯くん、優奈に不満があったら、いつでもあたしのところに来ていいからね」

「以下同文」

振られたはずの理奈と希の表情からは、諦めの色は見られない。

和貴、絶句。

「おーお、モテる男は辛いねえ」

真一がにやけ顔でひやかす。

「なに言ってるのよ?あたし絶対に離さないからね!」

優奈が腕にしがみつき、声高に宣言した。

それは和貴にとって嬉しくもあり、幸せだったが、心の底から喜べない、やや複雑な気持ちを抱かせた。


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