少し詰まる距離感
その日の夜。
458の暫定仕様でもてぎを走り込んでいたら、理奈から通信が入った。
「ヒュンダイ出来たから、テストお願い」
「もう出来たの?仕事早いなあ」
「ある程度は造り込んでいたから、それに少し変更を加えただけ。とりあえず前後バランスは目標値に達した。コンストラクターファクトリーで暫定セットも出てるから」
「了解」
MRWのマシンチューニングの難しさは、セッティングの幅広さも原因になっている。
ゼロから造り上げた車だと、どのようなセッティングから始めればいいのか分からなくなる。
だがコンストラクターファクトリーを使えば、ある程度の条件を入力すると、それに合わせた最適セッティングをしてくれる。
あとは走り込んで微調整するだけ。
理奈が仕上げたジェネシスクーペのスペックを一通り確認して、もてぎでフリー走行を始める。
画面が切り替わった途端、驚いた。
「ちょっと、なにこの視界?」
シートポジションが通常よりかなり後ろになっており、明らかに視界が悪い。
レースゲームの場合、視点がかなり自由に選べるが、クラス3の場合は車内視点のみになる。
これはドライバーの身長差も考慮され、和貴と優奈だと、優奈のほうがアイポイントが低くなり、若干視界が悪い。
だがこの車は悪いというレベルではない。
通常は視界に入らないセンターピラーが見えるほど、シートが下がっている。
「燃料タンクを含めて、重量物を徹底的にリア寄りに配置したの。ドライバーも重量物だからシートを可能な限り下げた。その結果がこれ」
「まるで90年代のツーリングカーみたいだな。あの系統も慣れが必要だったからなあ」
「そう、慣れの問題。慣れて車両感覚が掴めれば問題ない。それよりポテンシャル重視だから」
「了解」
とりあえずコースイン。
悪い視界も数周走れば気にならなくなった。
「悪くないんじゃない?軽快感はないけど安定してるし、安心して踏める。バランスはいいよ」
徐々にペースを上げると、気になる点が出てきた。
「ちょっとリアのダウンフォースが強めじゃないかな?限界域でアンダーが強い。リアサス少し硬めて運動性上げたい」
「了解。ピット入って。セッティング変更するから」
ピットロードに入り、ガレージイン。
理奈がセッティング変更している間に、ラップタイムのチェック。
「シェイクダウンにしちゃあ、まあまあのタイムじゃない?タイヤは?」
「ミディアムハードだけど、内圧は低め」
「あくまで扱いやすさ重視なんだね」
「よし、変更完了。またお願い」
「了解」
車を仕上げるのは、地道な作業の繰り返し。
セッティング変更を繰り返し、タイムは徐々に詰まっていく。
それと共に、違和感が強くなる。
「理奈ちゃん、エンジンに何か細工してる?」
「なんで?」
「扱いやすくて踏めるし、パワーも出てる。けどその割には下のレスポンスが悪い。意図的になにかやってる感じがする」
「さすが佐伯くん。そうだよ。下側のスロットルレスポンス落としてる」
「耐久性確保が狙い?」
「それもあるけど、あくまで扱いやすさ重視。車が重いから、アストン並みのパワーが出てるの。クラス4と比べたら軽く200馬力は上乗せだから、クラス3初心者だと手に余ると思う」
「じゃあフルパワーだと、もう少し速い?」
「タイヤをミディアムに換えるからピット入って。それからフルパワーでアタックお願い」
「了解」
ピットインしてタイヤ交換。
タイヤが温まってから、もっともフルパワーのマップ3に変更。
すると一気に手強くなった。
「これは限界域でかなりピーキーだね。ちょっと気を遣う」
「エンジンマップは変わってないから。スロットルのマップをリニアにしただけ」
「これは初心者には厳しいと思う」
「それでアタックお願い」
慣れないFR車でタイムアタック。
低速コーナー立ち上がりのスロットルワークに少し気を遣うが、トータルパッケージは悪くない。
1周のタイムアタックで、クラス3水準のタイムが出た。
「OK。じゃあ今度はマップ2に戻してアタック」
立ち上がり加速が少し鈍くなったが、安心して踏めるので扱いやすい。
マップ3からコンマ2秒の落ち込みだった。
「ありがとう佐伯くん。これなら予選通過レベルだね」
「そうだな。あとは依頼主の慣れ次第だな」
「もう今日のデータ全部まとめて送って、これで完成にする」
「了解。理奈ちゃんお疲れさん」
ここで理奈が落ちた。
現在、理奈には多くのオーダーが入っている。
(依頼をこなすのも大事だけど、俺たちの458は大丈夫なのかな?)
もうレースまで残り1週間と少しだった。
そして翌日の夜、携帯が鳴った。
(理奈ちゃんから?)
優奈からは大概どうでもいい内容で掛かってくるが、理奈は基本的にMRWの会話がメインになっているので、着信自体が珍しい。
「もしもし、理奈ちゃん?」
「佐伯くん、こんな時間にゴメンね」
「いや別に構わないけど、どうしたの?」
「昨日仕上げたヒュンダイの依頼主から連絡が入ったんだけど」
「まさか、クレーム?」
「ううん、その逆。いいマシンを造ってくれたお礼がしたいって言われたの」
「お礼って?」
「実はこのチームの監督、あたしと同じ女性で、近くの大学の留学生なの」
「へえ、そうなんだ」
「あとドライバーのひとりも同じく留学生なんだって。それで佐伯くんのアドバイスを聞かせて欲しいって言ってるの」
「具体的にはどうするの?」
「明日の土曜日、この人たちが留学してる大学に来て欲しいって話。お昼ご馳走するから、いろいろ話したいって内容」
「大学って、どこなの?」
「豊島町だから割と近いよ。駅から歩いて10分だって」
「じゃあ南丘大学の豊島キャンパスか。確かに遠くはないな」
「どうかな、一緒に来てくれる?」
「いいよ。俺もあの依頼主にはちょっと興味があったから」
「じゃあ明日の10時に大山駅で」
「了解」
通話を切ると、少し違和感を感じた。
(なんか理奈ちゃん、いつもより機嫌が良さそうに聞こえたけど?)
そして翌日の大山駅。
和貴は普段着。
中牧からはこの大山で乗り換えなので、改札を通った先で待つ。
そこに理奈が来た。
「お待たせ」
「理奈ちゃん、どうしたの?」
「ど、どうしたって?」
少しうろたえる理奈。
「だって、明らかにオシャレしてるよ。逆に普段着の俺が間違ってた?」
理奈の普段着は、着やすいTシャツとショートパンツを好む。
この辺りは優奈も一緒。
だが今日の理奈は、明らかに着飾っている。
涼しげだが、女の子らしい淡い水色のブラウスに、やや丈が短いミニスカート。
さらに普段は持たないハンドバッグの組み合わせ。
髪型も普段とは異なり、かなり印象が違う。
「へ、変かな?」
「そんなことないよ。よく似合っててかわいいよ」
「か、かわいいって・・・素でいきなりそんなこと言わないでよ?」
理奈は真っ赤になって照れている。
その様子を見た和貴も恥ずかしくなってきた。
「い、いやその・・・変な意味はないから。マジで言葉通り、かわいいから」
「ホント?」
「ああ、優奈とは大違いだよ。双子だから当然そっくりだけど、優奈はかわいげがないからなあ。女の子って感じがあまりしない」
「でもスタイルは優奈のほうがいいよ。ここだけの話、あたし優奈のスカート履けないから」
「それってただ細いだけのガリガリなんじゃないの?いくら背が低くても35キロは痩せ過ぎだ。水着姿とか貧相だろうなあ」
「へえ、佐伯くんでもそんな想像するんだ」
「そ、そりゃあ一応男だからな」
「じゃあ今年の夏休みは、みんなで海に行こっか?」
「あ、いいかもね。片山に声掛けたら喜ぶだろうな」
「片山くんかあ。彼はいやらしい目つきだからちょっと引くかも」
「ある程度は仕方ないよ。男なんてそんなもんだ。それに理奈ちゃんと優奈は美少女双子姉妹で通ってるんだから。多少は自覚したほうがいいよ」
「でも佐伯くんはいやらしい目つきじゃないよ」
「そりゃ光栄だ」
「でもそれって、あたしたちを異性として見てないだけじゃないの?」
「多少はあったかもな。でも今日の理奈ちゃん見て意識変わった」
「そっか。じゃあ行こう」
理奈は上機嫌な足取りでホームに下りていく。
和貴も続いた。
電車の中でも、理奈との会話が途切れることはなかった。
普段はMRW関連の専門用語オンパレードだが、この日はごく普通の高校生のような感覚だった。
理奈は優等生で近寄りがたいと思っていたが、そんなことは全く感じない、ごく普通の女の子だった。
楽しいおしゃべりが続くと、目的地まであっという間だった。
南丘大学豊島キャンパスの正門に着いた。
「で、どうすればいいの?」
「迎えに来るって聞いて・・・あ、あの人じゃないかな?」
こちらに真っ直ぐ歩いてくる女性が目に入った。
女性にしては背が高めで、ぱっと見は日本人とほとんど区別が付かない、穏やかで、美しい顔立ちの持ち主。
「はじめまして。チームKWヒュンダイ監督のリ・ソヨンと申します。チームナカネの中根理奈さんと、佐伯和貴さんですね?」
年上の大学生から丁寧な対応を受け、少し戸惑う。
「は、はじめまして。中根理奈です」
「ドライバーの佐伯和貴です」
ふたりとも頭を下げた。
「どうぞこちらに。少し早めですがお昼にしましょう。ここの学食はとてもユニークで、とても美味しいですよ」
ソヨンに案内され、広いキャンパスを歩く。
「ふうん、あたしたちも3年後には、こんなところで勉強するんだあ。大学って高校とは雰囲気が全然違う」
「まあ理奈ちゃんはストレート間違いなしだけど、俺は浪人するかもな」
「佐伯くんの成績で浪人なんて、どこの一流大学狙ってるの?」
「一流ってわけじゃない。ただ私立には行きたくない。親に迷惑かけたくないからな」
「それなら大丈夫。佐伯くんなら県内の国公立大学ストレート、ほぼ確実だから」
「そうだといいけどな」
そんなことを話しながら、広い食堂に着いた。
「こりゃ、ちょっと豪華っぽいレストランって感じだな」
「ホントだね」
大学内の施設とは思えない造り。
その一画のテーブルで、男子学生が待っていた。
「ソヨン、そのふたりが?」
「そうよ。まずおふたりに紹介します。ウチのドライバー、アン・ヒョンウです」
理奈と和貴が自己紹介すると、ヒョンウは和貴の手を握った。
「あなたが佐伯和貴さんですか!あのドライビングはとても素晴らしい!今日は是非いろいろ教えていただきたいです!」
熱烈な歓迎に思わず引き気味になる。
「ヒョンウ、落ち着きなさい。さあ、お昼ご飯にしましょう」
広大な食堂はバイキング形式になっており、これまた多彩な料理が並んでいるので、思わず目移りしてしまう。
とりあえず大皿にいくつかの料理を取り、ドリンクバーで飲み物をトレイに載せて席に戻る。
まだ昼食には早い時間帯だが、どんどん席が埋まっていく。
「土曜日の学校にこんなに人が集まるんですか?」
理奈の質問に、ソヨンが答えた。
「この食堂はもちろん学生専用ですが、それは平日のみで、土曜日だけは学生の関係者ならどなたでも利用可能なんです。だから料理も種類が多く、豪華なんです。逆に平日はもっと簡素ですよ」
「ソヨンさんは日本語がお上手ですね。日本に来たのはいつ頃ですか?」
「16歳の時に来ました。今は19歳、2年生です。ヒョンウは去年の11月に来ました。同じ2年生ですが、歳はふたつ上の21歳です」
「えっ、21歳ですか?それは・・・」
思わず理奈が詰まったので、和貴が説明した。
「理奈ちゃん違う。ヒョンウさんは浪人したんじゃない」
「えっ、ならなんで?」
「見ろよ、ヒョンウさんの身体を」
身長は和貴より若干低いが、その肉体は隆起しており、Tシャツ越しでも鍛え上げられているのがわかる。
「この身体はスポーツで鍛えたものじゃない。もっと過酷な訓練によるものだ」
「訓練?」
ここでヒョンウが口を開いた。
「和貴さんは高校1年生ですよね?」
「はい。9月で16歳になります」
「その歳で韓国のことをそこまで知っているのは、個人的に凄く嬉しいです」
「いや、俺は平和な日本生まれで良かったと思いましたよ。今の日本で耐えられるのはごく少数でしょう」
「ねえ、なんの話?」
「軍隊の兵役だよ」
「兵役?」
「ああ。韓国人男性は19歳から29歳までの間に、2年間の兵役義務があるんだ。ヒョンウさんは大学に入り、19歳になったと同時に兵役に行ったんだ。軍隊で2年過ごし、復学した。そうですよね?」
「その通りです。いくら義務でも兵役は嫌でした。なら嫌なことはさっさと済ませようと思いました」
「やっぱり辛かったですか?」
「最初の1ヶ月は地獄の日々でした。早く済ませようと考えたのは浅はかだったと後悔しました」
「でも、そこで鍛えられた肉体と精神は無駄じゃないと思います。それがあったから、韓国でトップチームのドライバーになれたんです」
「そう言ってくれるのは嬉しいです。でも和貴さんには敵わない。僕のタイムはマップ2で1秒落ち、マップ3では2秒も遅い」
「通常のフリー走行ではマップ3は不要でしょう。あれは実際の予選で路面グリップが上がれば使いやすくなります」
ここでソヨンが割って入った。
「ヒョンウはセカンドドライバーです。エースは韓国にいるキム・ソンクです。韓国MRWでは間違いなくナンバー1ですが、現状では佐伯さんのコンマ5秒落ちです」
「韓国にはクラス3がないから仕方ないでしょう。それに、そのタイムなら予選通過のボーダー辺りになると思います」
理奈がソヨンにフォローを入れる。
「そうかもしれませんが、それではダメなんです。予選を確実に通過し、決勝も可能な限り上位を目指すのがチームの課題なんです」
「そういえばチーム名にヒュンダイの名前が入ってましたが、まさか本物のヒュンダイのサポートが入っているんですか?」
「はい。私たちのチームはヒュンダイ主催のMRWレースで優勝しました。それでヒュンダイの名前が与えられました。ですからヒュンダイの名前を汚す走りは出来ないのです」
「ホントですか?」
「マジかよ、責任重大だな」
これには理奈も和貴も驚いた。
「でも私たちにはクラス3のノウハウがありません。ですから日本の有名なチューナーにマシン製作を依頼しましたが、ほとんど全て断られました。受けて下さったのは理奈さんのみです」
「うーん、ヒュンダイ代表の人にこんなことは言いにくいけど、ベース車が悪過ぎます」
和貴が苦笑いを浮かべながらそう口にすると、
「確かに時間がなかったので苦労しました。もう少し早くオファーがあれば、リアミッドシップ化して戦闘力の高い車に出来たんですが」
理奈も苦笑いを浮かべて同意した。
「いえ、フロントエンジンでよかったんです。ミッドシップにしたら、それはもうジェネシスではありません。ヒュンダイを名乗るチームでそのような車は使えません」
このソヨンの言葉を受け、和貴に疑問が沸いた。
「そのスタンスは個人的には嫌ですね。そこまで気にして、しかもヒュンダイを名乗るなら、ヒュンダイ自身が車を造るべきです。いくらMRWというゲームでも、基本はレーシングカー作成と一緒です。車造りのプロなら、もっといいものが出来たんじゃないですか?」
「いえ、ヒュンダイにその技術はありません。なので技術の持つところに依頼し、そこで出来上がった車にヒュンダイのバッジを付けるのが効率的です」
「まあその通りでしょうが、それでは自国の技術が育たない」
ここでヒョンウが口を開いた。
「でもヒュンダイの車は悪くないです。日本で売れなかったのは、日本と韓国の関係が難しい状態だったからです。今のヒュンダイはとてもいいです」
「それは少なからずあるでしょう。でも日本人、日本市場はそんなに甘くないです。今までのスタンスでは絶対に売れません」
「それはどういうことですか?」
「和貴さんの考え、ぜひ聞きたいです」
ソヨン、ヒョンウふたりとも喰いついて来た。
「ヒュンダイが日本に来たとき、日本車と同じ品質を、より低価格で買えることを売りにしました。確かに安かったかもしれませんが、品質も悪かった。それに加えて消耗品の部品代、いわゆるランニングコストが高かった。安かろう悪かろうでは日本人は買いません。さらに実際は割高だったとならばなおさらです」
「確かに佐伯さんの言う通りかもしれません。ですがヒュンダイは日本から見れば輸入車なんです。部品代が割高になるのは仕方ないです」
ソヨンがそう反論すると、和貴は素早く反応した。
「そうです。日本人にとって、ヒュンダイは輸入車なんです。だから日本車をライバルにしたのが間違いなんです。輸入車なら、輸入車で最高の評価を得る必用があるんです」
「それはつまり?」
「ヒュンダイのライバルはトヨタやホンダではなく、メルセデスベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンといった、日本で評価の高いドイツ車をライバルにすべきなんです」
「和貴さん、それは厳しいです」
ヒョンウが苦笑いを浮かべる。
「確かに厳しいでしょう。でも日本人は輸入車にプレミアム性を求めるんです。割高でもいいから、日本車より高品質を目指す。別に日本でなくても、ヨーロッパで高い評価を受け、売れれば認められます。プレミアムカーとして」
「和貴さんは、モータースポーツの分野でも同じことを求めますか?」
「もちろんです。その場合はポルシェやフェラーリがライバルになります。もちろん価格も跳ね上がりますが、レースの世界は結果が全てです。ポルシェやフェラーリに負けないスポーツカーを造り、ルマンなどのGTクラスに参戦して勝つ。そうすれば日本だけでなく、世界がヒュンダイを認めます」
「佐伯さんの意見は壮大過ぎます。それは日本のトヨタやホンダでも出来ていないことではないですか?」
「その通りです。トヨタやホンダが出来ないこと。だからこそ価値があります。簡単ではないでしょう。でもそれをヒュンダイが成し遂げれば、絶対に認められます」
和貴がそう言い切ると、ふたりの韓国人学生は黙ってしまった。
「あの、そんなに重く捉えないでください。まだ免許も取れない学生の戯言ですから」
「いえ、佐伯さんの意見は間違っていません。佐伯さんは日本で認められるには、ヨーロッパで認められないとダメということですよね?」
「ソヨンさんの言う通りです。ヒュンダイは輸入車なんです。だから同じ輸入車と比べられ、認められるしかないんです」
「佐伯さんが言われたことを成し遂げるだけの力は今のヒュンダイにはありません。やろうとしても失敗します。そんなことを実行するのは無謀だと思います」
「そうかもしれません。でも失敗を恐れてはなにも出来ませんし、進歩しません。チャレンジし続けることが大切なんです」
「あのポルシェでも、ルマンを制覇するのに20年掛かったと聞いています」
「そのポルシェの話はモータースポーツ界では有名ですね。でもポルシェはルマンでもっと偉大な記録があるんです」
「それはなんですか?」
ヒョンウが興味深そうに尋ねて来た。
「ポルシェのルマン初参戦は1951年と聞いています。それからずっと、1年も休むことなく、ポルシェはルマンに参戦し続けているんです」
「それは、知りませんでした」
驚くソヨン。
ヒョンウも驚いている。
「まさに継続は力なり、です。日本のメーカーも見習って欲しいと思います」
食事はとても美味しく、ふたりの韓国人との会話は弾んだ。
MRW関連では、知る限りのことは積極的にアドバイスした。
「今日は本当にありがとうございました。おふたりのアドバイス、無駄にはしません」
「次のもてぎ、お互いベストを尽くしましょう」
握手を交わし、笑顔でキャンパスをあとにした。
「いい感じのふたりだったね」
理奈がそんな感想を口にする。
「まあ考え方では相容れないところはあったけど、仕方ないかな」
「佐伯くんは結構厳しいことを言ってたよね?」
「説得力は一切ない高校生の戯言だよ。それを予想以上に真剣に受け止めたから、ちょっと焦った」
「その後のソヨンさんの言葉と、どっちが焦った?」
「あれは焦ったと言うより、慌てた。理奈ちゃんもだろ?」
「うん、あたしも慌てた」
少し顔が赤い理奈。
ソヨンがふたりに向けて、
「本当によくお似合いの恋人同士ですね」
などと言ったので、慌てて全否定。
「でも、あたしはちょっと嬉しかったかも」
「えっ、な、なんで?」
少し焦る和貴。
「だって佐伯くんとお似合いってことは、あたしは佐伯くんと年相応に見られたってことだから」
「あ、そっか。理奈ちゃんはそんなコンプレックスがあったね」
実年齢より幼く見られることが理奈の悩みである。
「でも、今日の理奈ちゃんは普通に高校生に見えるよ。やっぱり髪型と服装は大事だよ」
「じゃあ優奈もあたしと同じようにすれば、年相応に見られるかな?」
「いや、それはない」
「やけに自信満々だね。その根拠は?」
「あいつは性格がガキっぽい。そんなオーラが出てる。同じ格好しても、背伸びした小学生だろうな」
「酷いなあ。優奈が聞いたら絶対に怒るよ?」
「別に言ってもいいよ。間違ったことは言ってないつもりだから」
揃って笑顔を見せるふたりだった。




