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第一話 旅立ち

 雲ひとつない快晴。


 今日は絶好の旅立ち日和なのだろう。さらりと吹く温かな風が、幼い少女のふたつに結んだ黒髪を静かに揺らしていた。


 ネネコは短く切りそろえた前髪を手で直しながら振り返り、草原の向こう側に見えるお城のような建造物に目を細めた。


 「もうこんなところまで来ていましたか」


 遠くに見える、白色の建造物。それはあともう少しで目視することができなくなる程、小さく見えていた。


彼女は知っている。その建造物がお城ではなく、魔法大学だということを。そして、その魔法大学がエスペラン魔法大学という、魔術に特化した素敵な学び舎だということを。


「外から魔法大学を眺める日が来るなんて、思いもしませんでした」


 小さな手で綺麗なキャメル色のトランクケースをしっかり握りなおすと、エスペラン魔法大学に通っていた六年間の大切な思い出が蘇っていく。


それはどれも昨日の事のように、ネネコの記憶の中で鮮やかに再生されていた。


「……レイティや先生たちはお元気でしょうか」


 すっかり遠くに見える魔法大学を眺めながら、ネネコは親友であったレイティとの別れ際を思い返した。


「”きっとまたすぐに追いつくからその時にまた会おう”でしたね」


 別れ際の言葉を呟くと、爽やかな風が吹き抜けてきて、整えたばかりのネネコの前髪を揺らした。


 改めて言葉に出してみても、初めて一人で学校の外を冒険する友に向ける言葉としては呆気ないものだろう。

大学を卒業して次の日に旅立ってしまう友をあっさりと見送るレイティの姿は、寮の自室に戻っていく時と何も変わらなかったのだ。


「まったく、なんて薄情なんでしょうか」

 肩をすくめながらも、ネネコはクスリと笑った。


「レイティの言葉はよく当たるんですから、きっとまたすぐに会えるのでしょう」


 そうして少女は判断が鈍り始める前にと、魔法大学に背を向ける。少しかしこまった敬語口調に返事を返す、陽気な人物はここにはいないのだ。


 そして少女は大草原の追い風の中、ここまで来た時と同じように歩き始めた。


 ネネコが向かうのは草原から一番近い場所にある町、ミニスタウン。


 大きな草原の道。平らではないが、その小さな背中はまっすぐ伸びる一本道を進んでいく。


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