ある事件
ベルナルド王国とは、私の故郷だ。他の国では絶対的な王が支配を繰り返している中、この国の国王であるカルラはそんなことしなかった。
カルラは国民と仲が良く、そして国民同士も仲が良い。そんな平和な国だ。そんな国で暮らしていたはずだった。
ーーー
「おねえちゃんあそぼ!」
私の名前はフローラ。そろそろ小学校に入るような年頃の女の子だ。そして、おねえちゃんというのは、
フリル セルフィーナという、11歳の姉のことだ。私の7歳上で、仲が良かった私たちは、いつも一緒に遊んでいた。
「いいけど、今日は夕方には帰らなきゃ。お母さんが夜に用事があるから一緒に出かけるよって言ってたの!」
「そっか!おねえちゃん誕生日だもんね!」
今日は姉の12歳の誕生日だった。おめでたい気持ちと1日中遊べない気持ちが半分くらいだった。
「今日はどこ行くー?」
笑顔を見せながら姉が話しかけてきた。
「わたし、パトラ川に行きたい!川遊びしたい!」
パトラ川とは、この王国を縦断するように流れる、大きな川だ。今日のような夏の猛暑日にはぴったりだと思った。姉は、また笑顔を見せながら、了承し、家を飛び出ていった。それについていくように私も家を出た。
いつも私たちが遊んでいると、国のみんなが話しかけてくれた。近所のおじさんや母の友達など、それは様々だ。
「おお!フリル姉妹じゃないか!ほんとにいつも楽しそうに遊んどるな。お前らは私たちの未来じゃ。たくさん遊んで元気に育つんじゃぞ!」
そういう人たちからはよく、「子供は私たちの未来だからな」なんて言われる。この国を引き継ぐ後継者というような意味なのだろう。
今日もそんな調子だろうと思っていたが、人の姿が見えなかった。見えたとしても私と同じぐらいの子供で、大人はいなかった。しかし、そういう日は今日だけでなくたまにあることだったから、気に留めず私は姉と遊んだ。
あっという間に時間が過ぎ、夕方になった。
「私、お母さんに呼ばれてたんだった!フローラ、もう帰るよー!」
家に帰ると、母が机に座って待っていた。そして、母は姉が帰ってきたことに気づくと、少し間をあけて言った。
「おかえりなさい。6時過ぎには家を出るから準備しとくのよ。」
5時半頃にたくさんの汗をかいて帰宅した姉は元気に返事をして、自分の部屋に戻って行った。ふと母の手元を見た。いつもはコーヒーを飲んでいるが、今日は緑茶だった。この国の特産品が茶であったことを久しぶりに思い出した。
空がだんだんと暗くなってきた頃に母と姉は家を出た。私は父と温かく見送った。姉は笑顔でこちらを見返していた。それを真似するように母も笑顔でこちらを見返したが、その笑顔は少し引きつっているように見えた。
「パパ。ママとおねえちゃんはどこに行ったの?」
私がそう聞くと、父は言葉も話さずに、首を傾げた。
その反応に私が違和感を持つべきだったのだろう。
今日の夜はいつもより寂しかった。寝る準備を淡々とこなしていく。夕食や風呂を終え、やることがなくなり時計にふと目をやると、いつもより1時間早い場所に針はあった。そして、結局あの後、父ともあまり話さないまま私は眠りについた。
そして、姉が再び帰ってくることはなかった。
また、母も同様に帰ってこなかった。




