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全てを諦めた元殺し屋と全てを失った小国の王女はともに空を目指す  作者: シマリス


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19/24

特訓

飛竜を倒す。


それは単純なようでいて決定的に難しい問題があった。


「まず前提として、あいつらは地上に降りてこない」


荒野に転がる岩に腰掛けながら、アルベルトが言う。


「降りてきたとしても一瞬だ。基本は上空を旋回しながら、炎か突進で攻撃してくる」


 エルナは腕を組み、険しい顔で空を見上げた。遠くで飛竜がゆったりと旋回している。


「つまり、近接戦はほぼ無理…」

「ああ。届かないからな」


単純明快な問題だった。届かない相手には、どれだけ剣が上達しても意味がない。


「じゃあ遠距離攻撃、弓とか?」

「威力不足だ。鱗が硬い。並の矢じゃ弾かれる」

「魔法なら?」

「悪くないが、問題は速度と精度だ。あいつらは見た目以上に速い」


エルナは小さく唸る。

確かに、これまで戦ってきた魔物とは次元が違う。空中を自在に動き回る相手に、普通の魔法を当てるのは至難の業だ。


「アルベルトさんはどうやって倒したんですか?」

「投擲だ」

「とうてき?」

「岩でも木でも、辺りにあるもんをそのままな」


 あまりにも雑な答えに、エルナは思わず顔をしかめた。


「いやいやいや、そんな簡単に言いますけど……」

「そんな難しいことじゃない。届く速度と威力で当てればいい」


 確かに理屈はそうだが、それができるなら苦労はしない。


「私には無理です、それ……」

「だろうな」


即答だった。だがアルベルトは続ける。


「だから別の方法を考える」


エルナは少しだけ安堵しつつも、真剣な表情になる。


「魔法で飛ばす、とか?」

「そう」


アルベルトは足元の岩を軽く蹴る。


「確か、物体浮遊が得意と言ってたな?」

「はい……まあ、初歩魔法ですが」

「初歩で十分だ。要は使い方だ」


エルナは目を瞬かせる。


「どういうことです?」

「浮かせるだけじゃなく、飛ばす」


 その一言で、イメージが繋がる。


「……あ」

「俺が砕く。お前が飛ばす。簡単だろ」


 エルナは思わず笑った。


「それ、完全に投擲と同じですね」

「そうだ。俺がやってることを、お前のやり方に置き換えるだけだ」


シンプルだが理にかなっている。


「でも、当てられるかな……」

「やるしかないな」


アルベルトは立ち上がり、大きめの岩の前に立った。


「まずは基礎だ。砕いた破片を狙った場所に飛ばす練習からだな」

「了解です」


エルナも立ち上がり、集中する。

アルベルトが拳を振るうと、鈍い音とともに岩が粉々に砕け散った。大小さまざまな破片が地面に散らばる。


「やってみろ」


エルナはすぐに魔力を練り上げた。


『レビテーション』

破片の一つがふわりと宙に浮かぶ。


「そのまま前に押し出せ」


言われた通り、意識を前方へ集中させる。

だが、破片は力なくその場に落ちた。


「うーん……」

「力の方向が甘いな。ただ浮かせるだけになっている」

「難しい……」


エルナは額の汗を拭い、再び魔力を込める。

今度は、浮かせるだけでなく『押す』イメージ。


破片が浮き上がり、ヒュッと前に飛んだ。

だが狙いから大きく外れ、地面に転がる。


「惜しいな」

「ほんとですか!?」

「ああ。今の感じでいい」


エルナは何度も繰り返す。

浮かせる。押す。飛ばす。

最初はバラバラだった動作が、徐々に一つにまとまっていく。

 

ヒュンッと鋭い音を立てて飛ぶ破片。

数を重ねるごとに、速度も精度も上がっていった。


「いいな。その調子だ」


 アルベルトは腕を組みながら頷く。


「次は複数同時だ」

「え、そんな、いきなり…」

「実戦では一発じゃ足りん。数で当てる」


確かにその通りだった。高速で飛ぶ飛竜に一発ずつでは、当たる前に日が暮れてしまう。

エルナは深呼吸し、周囲の破片に意識を広げる。

 三つ、四つ――同時に浮かび上がる石片。


「……いきます!」


それらを一斉に押し出すが、バラバラに飛び、ほとんどが明後日の方向へ。


「難しい……」

「だから練習するんだ」


アルベルトは再び岩を砕く。

次々と生まれる弾。それをエルナが飛ばす。

単調だが、確実に積み上がる訓練だった。




やがて、エルナの放つ石は一直線に飛び、狙った岩へと当たるようになった。

コンッと乾いた音が、二人の耳にも届く。


「……当たった」

「遅いが、まあ上出来だ」

「褒めてます?」

「一応な」


エルナは小さく笑い、再び空を見上げる。

飛竜は変わらずそこにいる。だが、先ほどとは違って見えた。


「……これなら、いけるかも」

「まだ足りん」


 アルベルトは冷静に言う。


「威力、速度、数。全部もっと上げる必要がある」

「ですね」


届かなかった相手に届く手段ができた。

それだけでも大きな一歩だった。


「やります。もっと」

「そうこなくてはな」


再び岩が砕け、さきほどの倍以上の数の破片が宙を舞う。


「お、多いぃ…」

「なにか言ったか?」


エルナの魔法がそれを捉え、空へと撃ち出す。

いつか、あの高みへ届くその日まで。

地上からの作戦は始まった。


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