来訪者
その日は空が騒がしかった。
低く唸るような音、風を裂く規則的な振動に
エルナが顔を上げる。
「何の音ですかね?」
「またか。毎度毎度懲りない奴らだ」
「何です?」
「外の連中だ」
アルベルトは目を細め、頭上を見つめながら短く答えた。それだけで、嫌な予感が走る。
やがて、それは姿を現した。
巨大な影。空を滑るように進む複数の機体。
「あれは……」
エルナの目が見開かれた。
「飛空艇?」
見間違えるはずもない。外界で使われる空の侵略兵器。それが三隻も。
相当な財力と技術力のある国しか保有することのできない軍事力の象徴ともいえる存在。小国のローゼリア王国では一艇も所有していなかった。
それが編隊を組み、この地へと侵入してきている。
「どうして…こんなところに…」
「資源目当てだろ」
アルベルトは興味なさげに言う。この地は死地であると同時に宝の山でもある。
そんなまだ誰も手にしたことのない未知の資源を求めて彼らはやってくるのだろう。
定期的に、そして
「全員同じ運命をたどる」
淡々と告げるアルベルトの言葉にエルナは息を呑む。
「え?」
その答えはすぐに示された。
空を引き裂く咆哮。
次の瞬間、巨大な影があらゆる方向から集まってくる。エルナは体を強張らせ、それらの行方を見つめていた。
以前に乗った飛竜を一回りも二回りも大きくした圧倒的な質量。
「飛竜?いや、あれはドラゴン?」
それは一体ではない。二体、三体――数え切れないほどの飛竜が三隻を取り囲む。
「ワイバーン達もあんなに」
完全なる捕食行動。
餌に群がるピラニアのように、それらは次々と集まってきた。
飛空艇が迎撃を始める。
魔法が放たれ閃光が走り、数体のワイバーンが地上へと落ちていく。
だが、ドラゴンには通じていない。
至近距離から放たれた攻撃も、頑強な鱗の前では無力だった。
そもそも当てることすらままならない。俊敏な身のこなしに照準が間に合わないのだ。
「そんな……」
エルナは呆然と事の行方を見届ける。
外界の戦力。場合によっては一国の軍にも匹敵する力。それが、まるで通用していない。
一体のドラゴンが速度を上げ、飛空艇の側面に爪が食い込む。
鈍く嫌な音が地上まで響き渡り、外装が引き裂かれ爆発した。火が上がり、悲鳴が地上まで届く。
だが、それもすぐ飛竜達の咆哮にかき消された。
別のワイバーンが甲板へ降り立ち兵士を噛み砕く。逃げ場はない。
バランスを失った飛空艇からはバラバラと人が落ちていく。
それを待ち構えていたワイバーン達は争うように捕食していく。
見ていられずエルナは目を背けた。
「助けないんですか?」
エルナはあまりの恐怖に肩を震わせる。
しかし、アルベルトは見ることすらしなかった。まるでこれが日常だと言わんばかりに平然としている。
「無駄だ。今行っても間に合わん」
それは冷静な判断だった。
「それに助けたところで意味がない。遅かれ早かれ同じことだ」
二隻目が炎に包まれ、三隻目が逃げようと旋回を始める。しかし、すでに遅かった。
上からドラゴンが覆いかぶさり逃げ場を塞ぐ。
ドラゴンの口から超高温の炎が噴き出し、すべてが終わった。
三隻の飛空艇はあっという間に姿を消した。
程なくして、空は静かになった。
何事もなかったかのように、ただ、黒い煙だけがゆっくりと揺らめいている。
「こんなことが頻繁に…?」
大勢の外界の者たちが何もできず命を落とした。そんな命の儚さにエルナはあの日の悪夢を思い出す。
「外も中も変わらん」
アルベルトが口を開く。
「弱ければ死ぬ」
エルナは希望と絶望が混ざった複雑な表情で空を見つめる。
(それでも、私は…)
このまま終わるつもりはない。あの先にまだ何かがあると信じている。
アルベルトは、その様子を横目で見つめていた。
外の連中は懲りない。権力者の傲慢な欲望の前では人命など無力だ。
奴らはまた来るだろう。そして、またここまで焼けた匂いを運んでくるのだろう。自分の前世の悪行なんて可愛いもんだ。
アビスガーデンは、今日も変わらない。
ただ、命を喰らい続けるだけだ。




