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【第一章】 継がれる名、選ばれる者

題名 宝石(星)の伝説


〜プロローグ〜


★1.選出式典


銀河宇宙局の大ホールには、息を潜めたような緊張と、抑えきれない期待が満ちていた



「初の別銀河宇宙探査に参加する3名を発表します!」司会者の声に、会場は静まり返る。


「ダイヤ・デズモンド!」

16歳の少女の名前が呼ばれると、会場は拍手と歓声であふれた。


ダイヤは目を見開き、驚きと喜びで胸が高鳴る。

「まさか…私が…!」


続いて、レオ・ミラノ(30)とサイモン・マクレーン(32)も選出され、3名のチームが正式に決定した。

サイモン(小声でダイヤに):「16歳で選ばれるなんて、こりゃ本当に時代が早まったな」

ダイヤ(微笑):「ゴリにぃ、心配しないで。私が2人を引っ張るから」

サイモンは肩をすくめて苦笑する。

「おう、でも本当に大丈夫なのか、それ…?」




メディア報道


翌日、銀河中のニュースやホログラムがこぞって報じた。



「宇宙局最年少16歳、天才少女ダイヤ・デズモンド登場!」



アイドルさながらの表紙や映像が流れ、知能・技能・若さは銀河中に知れ渡った。


知らぬ間にダイヤは、“時代に選ばれた存在”として、伝説の予兆を背負うことになる。



★2.出港日…そして…


宇宙港

〜選出式典から1年後〜


銀河間航行ステーションは、早朝から活気にあふれていた。

副長のレオ・ミラノは、初めての別銀河探索ミッションに向けて装備をチェックしている。


宇宙ステーションのデッキでは、レオの息子オリオン・ミラノ(10)が小さな人形をいじって遊んでいる。


「首チョンパ!」


人形の首を飛ばしては戻す動作を繰り返し、満面の笑み。




17歳になったダイヤの隣では大柄な船員サイモンが巨大な荷物を抱えてせわしなく動く。

ダイヤはちらりと横目でサイモンを見る。

「ゴリにぃ、その箱…重すぎない?」


サイモンは肩をふるわせながら答えた。

「大丈夫だ。背中が砕けるくらいなら、重力訓練と思えばいい」


ダイヤは小さく鼻で笑う。

「…本当にゴリラみたい」



そこにレオ・ミラノが近づき、自分の荷物をサイモンが運んでいた箱の上にドンっと置く。

「サイモン、ちょっと分けてやったぞ。これでトレーニング効果アップだな」


サイモンは驚きつつも、荷物を抱え直す。

「…なんだよ、レオが楽したいだけじゃないか〜」


ダイヤはクスッと笑った。

「ゴリにぃ、荷物に潰されないでね」



レオはオリオンの方に目を向け、ニコリと笑う。

「オリオン、見ろ。力だけじゃなく、頭も使わなきゃな。」

オリオンは人形を握りしめ、首を飛ばしたり戻したりして遊ぶ。

「はい!」

アリエス・ミラノは兄のレオに向かって、ちょっと呆れた様子で言った。

「お兄ちゃん、もう少し優しく言ってあげなさいよ」

「大丈夫さ、アリエス。オリオンはこうやって学んでいくんだ」



ダイヤはオリオンを見つめて微笑む。

「…この子、将来は凄いことやりそう」



レオ・ミラノの妹アリエス・ミラノが

「オリオン、危ないから気をつけて」


「大丈夫だよ、アリエス叔母ちゃん!」オリオンは笑顔で首を飛ばして元に戻す。



出港前の慌ただしさ

コックピットでは、レオが最後のチェックを行っている。

「燃料、酸素、通信系統…すべて問題なし」


ダイヤはパネルのランプをひとつずつ確認しながら、深呼吸した。

「いよいよだね…」

サイモンは黙って頷き、手元の機材を整える。



宇宙ステーションの見送りデッキでは、オリオンがまだ「首チョンパ!」とつぶやき、アリエスは微笑ましく見守る。

「行ってらっしゃい、3人とも」



宇宙への第一歩

カウントダウンが始まる。



「三、二、一…発進!」



宇宙船ルミナス号は静かに滑り出し、未知の銀河へ向かう。


窓の外に広がる星々を見つめながら、ダイヤは心の中で小さくつぶやいた。

「さあ、これからが本当の冒険だね」




宇宙ステーションのデッキでは、オリオンがまだ「首チョンパ!」と叫び人形の首を飛ばし、見送りの人々の笑いを誘っていた。




出港から2か月…




銀河ニュースが一斉に伝えた――



「ダイヤ・デズモンド率いるルミナス号、別銀河探索ミッション中、連絡途絶!探索チーム全員の安否は不明」




――天才ダイヤ・デズモンド名は伝説となり、ルミナス号とともに3人は行方不明のまま、時間だけが静かに流れていった。





そして――50年後。



物語は、伝説の名を継ぐ少女、ルビィ・デズモンドへと受け継がれる


【第一章】

継がれる名、選ばれる者


☆50年後 ― 訓練場


訓練場シーン


ルビィは訓練場の大型スクリーンをじっと見つめていた。


スクリーンには数字とグラフが高速で流れていた…彼女の眉間には薄い皺が寄る。

「……やっぱりダイヤの記録は超えられないか…」

隣で清水結依が軽くため息をつく。

「でもルビィ、今回の成績は2位よ。十分じゃない?」

ルビィは拳をぎゅっと握りしめ、髪をまとめ直す。

「でも…ダイヤの伝説を追いかけてきたんだもの。絶対に越えたかったんだ!50年前の人が出したスコアが今も1位って…」


清水は少し笑いながらも、真剣な目でルビィを見つめた。

「ふん、負けないわよ、ルビィ、私もダイヤの記録を超えるからね」


二人は競い合い、励まし合いながら、いつの間にか並び立つ存在になっていた。

ここ50年をさかのぼっても、ルビィーと清水の成績はずば抜けており、ほとんどのテストでルビィが1位、清水が2位だった。


清水が少し興味深そうに口を開く。

「ねえ、ルビィ。ずっと気になってたんだけど、なんでそんなに宇宙飛行士になりたかったの?」

ルビィは少し躊躇したが、深呼吸して答える。

「…伝説の名前、知ってるでしょ。ダイヤ・デズモンド。私の祖母、伝説の宇宙飛行士」

清水結依は目を見開く。

「えっ、まさか…あなた、ダイヤの孫なの?」

「そう」ルビィは少し照れながらも頷く。

「…正確に言うと、ダイヤの遺伝子から作られた子宮で母が産まれたの。母の名前はサファイア。


クローンじゃないけど、人口子宮で作られたんだって、今も人間のクローン作りには規制があるから…でも、母は身体が弱くてね…」


清水は口をふさぎ、一瞬黙る。

「なるほど…だから母親は宇宙飛行士じゃないのね」


「そう、身体が強くないから宇宙には行けない。だけど知能は祖母譲りで凄くて、宇宙船を作る方に没頭してるの」


清水はにやりと笑った。

「だからルビィ、あなたは祖母の遺志も母の夢も背負ってるわけね」

ルビィは拳を軽く握りしめ、目を輝かせた。

「うん、だから私は絶対に諦めない。次の試験でも絶対に1位…って、清水結依…あなたにも絶対負けないからね」


清水も笑いながら拳を突き出す。

「ふふ、そうね。じゃあ次も全力で行こう。負けないわよ、ルビィ!」


二人の笑い声が訓練場に響き、未来の宇宙飛行士への期待と決意が静かに積み重なっていった。


☆極秘辞令 ―


銀河ステーション本部・最上階。

普段は立ち入りが厳しく制限されている会議フロアに、ルビィ・デズモンドと清水結依は並んで立っていた。



呼び出しは突然だった。



発信元はタウロス・ミラノ・ゴールドバーグ最高司令官と、サファイア・デズモンド博士の連名。

それだけで、ただ事ではないと分かる。

重厚な扉が静かに開く。

中にはタウロスが腕を組んで立ち、少し離れた位置にサファイアが控えていた。

部屋には記録端末もホログラムもない。

あるのは、異様なほどの静けさだけ。


「来たな」

タウロスが低い声で言う。


サファイアは一歩前に出て、二人を見る。

「まず言っておくわ。今日の話は、ここを出た瞬間から“存在しなかった”ことになる」


ルビィは背筋を伸ばした。

「……極秘任務、ですね」


清水は腕を組み、少し挑戦的な視線を向ける。

「この呼び出し方で“普通の仕事”だとは思ってません」


タウロスは一瞬、ため息をつきかけて飲み込んだ。

「相変わらず察しがいいな、清水結依」

彼は卓上に一枚の黒いデータカードを置いた。


表面には何も表示されていない。


「今回のミッションは、別銀河探索計画。」

「50年前に一度だけ実施され、失敗に終わった計画の再始動だ」


ルビィの瞳がわずかに揺れる。

「……祖母が関わっていた計画ですね」


サファイアは静かにうなずいた。

「そう。だからこそ、あなたが選ばれたの」


タウロスが続ける。

「クルーは最小限。船長、医療・分析担当、そして――もう一名」

清水がすぐに口を挟む。

「“もう一名”?

 たったそれだけ? 私たちに拒否権は?」


タウロスは眉をひそめる。

「話は最後まで聞け」

「聞きますよ。でも条件は先に確認します」

清水は一歩前に出た。

「私は“医療担当”として行くなら、現地判断の裁量を要求します。

 上からの遠隔命令で患者を見殺しにするつもりはありません」

室内の空気が一瞬、張りつめる。


ルビィが小さく「結依…」と制止しかけるが、

サファイアはむしろ微笑んだ。

「いい目をしてるわね」


タウロスは少し頭を押さえた。

「……まったく、だから君を呼んだとも言える」

彼は清水をまっすぐ見据える。

「現地判断の裁量は認める。ただし――

 この任務では“個人の正義”が全体を危険にさらす可能性もある」

清水は即答しない。

数秒後、肩をすくめた。

「その線引きは、現場でやります」

タウロスは深く息を吐いた。

「……分かった」

そして二人にデータカードを押し出す。

「君たちを、今回の極秘ミッションの正式クルーとして任命する」

ルビィはカードを受け取り、静かにうなずく。

「必ず、無事に戻ります」


清水はカードを見ずに言った。

「質問が一つ」

タウロスが警戒する。

「何だ」

「“もう一名”って、誰です?」



一瞬の沈黙。



サファイアが答えた。

「それには――出港前に会わせる」

清水は眉を上げる。

「それ?…人間?」

タウロスはわずかに視線を逸らす。

「……詳細は伏せる」


清水はニヤリと笑った。

「なるほど。“面倒な存在”ですね」

タウロスは即座に否定しない。

それが、逆に答えだった。

「とにかく」

彼は話を締める。

「この任務は、君たち二人の判断力にかかっている。

 特に――船長、ルビィ・デズモンド」

ルビィは強くうなずいた。

「期待に応えます」

サファイアは娘を見つめ、静かに言った。

「気をつけて。これは“選ばれた者の栄誉”であると同時に――

 重い責任でもあるわ」


清水はドアに向かいながら、振り返る。

「その“もう一名”、

 ちゃんと使える相手だといいですね」

タウロスは苦笑いを浮かべた。

「……ああ。君がそう言うなら、なおさらだ」


扉が閉まる。


この時点で、二人はまだ知らない。

出港前に会う“もう一人”が、

人間ですらないことを――。



☆辞令後 ― 二人きりの廊下


重厚な会議室の扉が閉まり、

無音だった空間から一歩外へ出た瞬間、ステーション特有の低い駆動音が戻ってきた。


しばらく二人は並んで歩く。

足音だけが響く長い廊下。



先に口を開いたのは清水結依だった。

「……あんたさ」

ルビィは視線を前に向けたまま応じる。

「なに?」

「平然としすぎじゃない?

 “極秘ミッション”“選抜クルー”“帰還未保証”よ?」


ルビィは小さく息を吐いた。

「怖くないわけじゃない。でも……」

少し間を置いて、言葉を選ぶ。

「祖母が挑んで、届かなかった場所。

 そこに“行くな”って言われたら、私はもっと後悔すると思う」


結依は歩みを止め、横目でルビィを見る。

「……ダイヤの孫、ね」

ルビィーの肩がわずかに揺れた。

結依は気づいたが、あえて軽く言う。

「やっぱりプレッシャーある?」



ルビィは一瞬、迷ってから答えた。

「正直に言うと……ある」

立ち止まり、結依の方を見る。

「私の内情を知ってる人は“ダイヤの血”とか“伝説の遺伝子”とか言うけど、

 私はただの私で、祖母の記録だって越えられてない」

拳を握る。

「それなのに、

 祖母が辿り着けなかった場所へ行くなんて……」


結依はふっと笑った。

「なにそれ」

ルビィが顔を上げる。


「私が知ってるルビィはね、ダイヤ以降の50年分の記録を全部ひっくり返してきた人間よ」

肩をすくめる。

「祖母がダイヤじゃなくても、

 あんたは能力は十分おかしい」

「それ、褒めてる?」

「最大級に」

結依は歩き出しながら続ける。

「それにさ、今回の船。

 サファイア博士が関わってるって聞いた瞬間、私は納得した」


ルビィは驚く。

「……お母さんのこと、知ってたの?」

「有名よ。

 “宇宙へ行けなかった天才設計士”。

 身体は弱くても、理論は誰よりも強い」

一拍置いて、少し声を落とす。

「母親が作った船で、娘が未知に行く。

 ベタだけど……悪くない話じゃない」



ルビィは小さく微笑んだ。

「ありがとう、結依」

結依は急に振り返る。

「でも一つだけ言っとく」

「なに?」

「私、あんたを“伝説の孫”扱いしないから」

指を突きつける。

「ミスしたら普通に怒るし、

 判断間違えたら全力で止める」

ルビィは目を見開き、そして笑った。

「それでこそ、私の副長」

結依は一瞬、言葉に詰まる。


「……勝手に決めるな」


「嫌?」


「嫌じゃないけど」


歩き出しながら、ぽつり。

「もう一人のクルーが誰であれ、

 あんたが船長なら、私はついて行く」

ルビィは胸の奥が少し熱くなるのを感じた。

その時、結依が思い出したように言う。

「それよりさ」


「うん?」


「“もう一名”って、絶対めんどくさいタイプよね」

ルビィー

は苦笑する。


「……タウロスさんの顔が答えだったわ」

二人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。




――この先、

首が外れたり、手首が取れたり、

人形が飛び交う未来など――

まだ知る由もなく。


☆3人目のクルー


―ルミエール号 出港前


宇宙ステーションの会議室は、薄暗い照明の中、静まり返っていた。


最高司令官タウロスが前に立つ。表情ひとつ変えずにクルーを見渡す。

「別銀河探索は、50年ぶりだ。 情報は極秘。知っているのは本部の一部だけだ」


ルビィーと清水結依は、静かにうなずいた。二人はすでに覚悟を決めていた。



「ルミナール号の全クルーを紹介する。


船長はルビィ・デズモンド。


医療兼副船長は清水結依。


そして……」



白衣の老科学者オリオン・ミラノがゆっくり前に出る。


「私がこのアンドロイド生みの親、オリオン・ミラノだ。私のアンドロイドが君たちのクルーに入る」

アストラORX-78が登場する。見た目は30代の男性型アンドロイドだ


ルビィは軽くお辞儀をする。

そして、無意識にアストラに手を伸ばした。

「よろしくね、アストラ」

アストラの手を握った瞬間、関節が外れ、手首がスルリと抜けてしまう。


ルビィは驚きの声を上げる。「わっ、ちょっと…!」



アストラは冷静に手首を差し出し直す。「失礼しました。初めての対面では緊張しますね」


清水は目を細めて観察する。「…まさか、手首が外れるとか…低級ホラーみたい」


オリオンは少し笑いをこらえながら、「いやいや、君の握力が強すぎたんだ」と軽くフォローした。




☆首チョンパ人形の由来


その後、清水はオリオンの白衣のポケットからちょこんと頭だけ見える小さな人形に気がつく


清水が指をさす。「それ、何ですか?」


オリオンは少し目を細めて答える。「これはね…私が10歳の時、父が出港前に私にくれた最後のプレゼントさ。レトロ調の首チョンパ人形さ」


ルビィは目を丸くする。「可愛い…」


オリオンは人形の首を軽く飛ばして見せる。「首チョンパ!」


清水とルビィは思わず笑い、周りの空気も少し和らいだ。



☆母との面会


準備を終え、ルビィは母、サファイア・デズモンドのもとへ向かう。


母は静かに椅子に座り、ルビィを見つめる。

「ルビィー…覚えている? あなたが小さな頃、宇宙を夢見て目を輝かせていた姿」


「はい…母さんのおかげで、私、ここまで来れました」


サファイアは微笑むが、目にうっすら涙をためる。

「あなたは…私の母ダイヤの遺志を受け継いでいる。だけど覚えていて。宇宙は夢だけじゃない。危険もある」


ルビィは手を握り返す。

「わかってる。だからこそ、母さんが作った宇宙船で、私たちは安全に探索できる」


サファイアの目が一瞬輝く。


「私の作った船に乗るなんて…あなたは本当に…私の母に似ているんだろうなぁ…」


ルビィは微笑みながら小さく頷く。

「母さんの娘としても、祖母の孫としても…私は全力でやる」




☆ルミナール出港


ルビィ、清水、アストラ、そしてサファイアがルミエール号に集合。


サファイアは自作の船を前に、娘のルビィに優しく手を置く。

「ルビィ、あなたなら大丈夫。祖母に恥じない働きをしてきて」

「はい…」ルビィーは胸を熱くし、深呼吸。



オリオンは白衣のポケットから人形を取り出し、また小さく「首チョンパ!」とつぶやく。

「父がやり遂げられなかったミッションを、私が作ったアンドロイド、そして父とクルーだった伝説の少女の孫と行くとは…これも運命なんだろうな…」


オリオンはつい力が入り、人形の首が飛んでしまい慌てている



ルビィはそれを見て笑いながら操縦席へ。「よし、行くわよ!」


清水も首チョンパ人形を見て「オリオンさんのお仲間は2人とも壊れやすいですね」っと少し笑みを浮かべアストラに話しかける


アストラは淡々と関節をカチャリと音を立てながら整えながら言う「全機能正常。任務遂行可能です」



タウロスはモニター越しに静かに指示を出す。「全員、異常があれば即時報告。慎重にな」



宇宙港を離れ、未知の銀河へ滑空するルミエール号。



ルビィは祖母の伝説を胸に、新たな冒険の第一歩を踏み出した。


ルビィーの掛け声を合図に船は出港する




☆ワープ前 ― アストラの無駄に丁寧な説明



操縦席に座るルビィの前で、アンドロイドのアストラが淡々と告げる。

「これより《銀河間位相転移航法・第三世代型》を実行します」



一瞬、沈黙。



結依が眉をひそめる。

「……長い」

「長すぎる」

ルビィも即ツッコミを入れた。

「略称は?」

「通称“ワープ”です」

「じゃあ最初からそれでお願い」


アストラは一拍置いてから、

「了解しました。以後、ワープと呼称します」

どこか納得いってない声色だった。


「ワープまで、10秒前」

窓の外から、星が一つ、また一つと消えていく。



光も、距離も、意味を失ったように、すべてが黒に飲み込まれた。



「……何も見えないわね」

結依が小さく呟く。

「正常です」

アストラが即答する。

「ワープ中、視覚情報は遮断されます。現在、我々は——」

「今はいいから!」

「今それ説明しなくていいから!」

ルビィーと結依の声が綺麗に重なった。


次の瞬間。

——ズンッ!!!


宇宙船全体に、鈍く重たい衝撃。

「っ……!」

全員の身体がシートに叩きつけられる。


「……到着」

アストラは平然としていた。




☆ミッション確認 ― 伝説と同じ航路


ルビィは深く息を吸い、声を整える。

「改めて確認するわ」

モニターに、8つの探索候補の惑星が映し出される。

「別銀河に存在する、生命反応を持つ惑星をこの中から5つ探索。

動植物・微生物データを収集後、帰還」



一瞬、間を置いて。


「……50年前、ダイヤ・デズモンドたちが向かったミッションと、同じ」


結依は黙って頷いた。




☆第1惑星 ― 水の惑星


最初の惑星は、ほぼ全面が水に覆われた青い星だった。


「大気、重力、成分分析を開始します」

「それ、誰がやるの?」

結依が聞くと、アストラが即答。

「私です。危険環境下での作業は、アンドロイドの担当です」

「頼もしいわね」

ルビィが言うと、アストラはわずかに胸を張った。



異変 ― 水中の巨大反応

着陸後、アストラは水辺でサンプル採取を開始。


その直後。

——ピッ、ピッ、ピッ!!



「警告。巨大生命体、接近中」

「は?」

結依が振り向いた瞬間——



水面が、不自然に盛り上がった。

イカともタコともつかない、異様に長い触手。



「でかっ……!」

次の瞬間。

——ドンッ!!!



長い腕が振り抜かれ、アストラを直撃。

「アストラ!」

左腕が、文字通り吹き飛んだ。

「っ……!」

結依は即座に通信を開く。

「ルビィ!アストラがやられた!」


同時に、光線銃を構える。

「《フォトン・ランサー》、発射!」


光線が水の膜に阻まれ、威力が激減する。



「効いてない!?嘘でしょ!」




☆ルビィの決断



操縦席のルビは、即座に判断した。

「結依、直接戦闘は無理!

 船を囮にする!」


「了解!」

ルミエール号のエンジンが唸りを上げる。

巨大生物は、船の動きに反応し、方向を変えた。

「よし……こっちに食いついた!」



結依は走りながら叫ぶ。

「アストラ、無事!?」

倒れていたアストラが、何事もなかったように答える。

「問題ありません」

そして、地面に落ちていた左腕を拾い上げ——

カチッ。

自分の肩に普通に装着した。

結依、思わず固まる。

「……あんた、壊れやすいの?」

アストラは首を傾げた。

「設計上、外れやすいだけです」

「それを“壊れやすい”って言うのよ!!」



遠くで、ルビィの笑い声が通信に混じった。

巨大生物は、ルミエール号を追って水中へ消えていく。

静けさが戻った水辺で、結依は大きく息を吐いた。


「……初っ端からこれ?」


ルビィの声が振り返る。

「伝説の続きだもの。

 平穏なわけ、ないでしょ?」



アストラは、落ちていた水サンプルを拾い直し、淡々と告げた。

「なお、サンプルは無事です」

結依は空を仰いだ。

「……あんた、本当に便利ね」


植物と微生物の採取が一段落した。



その時だった。

——ピッ、ピッ、ピッ。

「……また?」

結依が銃を構え、即座に周囲を見渡す。

「今度はどこから来るのよ」

ルビィーも身構え、船の方をちらりと確認した。



「安心してください」

アストラの声は、先ほどよりも落ち着いている。

「先ほどの巨大生命体とは、異なる反応です」

「違う?」

「ここから約25キロ先に、集団反応を確認しました」

モニターに、点が複数映し出される。

「数は……およそ五十」

結依が目を細める。

「また化け物の群れ?」

アストラは首を横に振った。

「個体サイズは、我々とほぼ同等」

ルビィーの目が一瞬、光った。

「……知的生命体?」

「その可能性が高いです」

アストラは淡々と続ける。

「集団で行動し、一定の位置に留まっている。

 村、あるいは町規模の居住地と推測されます」



結依が、思わず息を吐いた。

「……やっと“話が通じそう”なのが出たわね」


接近方法 ― 目立つのは避けたい

ルビィは腕を組み、少し考え込む。


「宇宙船で近づくのは……目立ちすぎるわね」

「敵意を持たれても困るし」

結依も同意する。

アストラはすぐに提案した。

「地上移動が適切と判断します」

「徒歩?」

「いえ」

アストラが指差した先に、格納庫が開く。


そこに並んでいたのは——

三台の、流線型バイク。


「……バイク?」


結依がポカンとする。

「この星の地形に適応した多目的地上走行ユニットです」

ルビィは一台に近づき、軽く跨ってみる。

「見た目は完全にバイクね」

「操作性も同様です」

結依は、ふとアストラを見た。

「……あれ?」

アストラもバイクにまたがる…

「アストラ?」

「はい」

「飛べないの?」


一拍。


「私は、空を飛べません」



沈黙。



「……え?」

ルビィと結依の声が、またしても重なった。

「アンドロイドなのに?」

「はい」

「関節外れるのに?」

「はい」

結依、即ツッコミ。

「なんでそこだけ人間寄りなのよ!」


アストラは真顔で返す。

「設計者の趣味です」

「誰のよ!」

「オリオン・ミラノ博士です」

ルビィは、なんとなく納得した顔になった。(……首チョンパ人形の人だものね…)



そして出発 ―

三人はそれぞれバイクに乗り込む。


エンジン音が、静かな水の惑星に低く響いた。


「じゃあ行こう」

ルビィが前を見据える。


「50年前のミッションでは、ここまで辿り着けなかったのかな?」

結依が笑う。

「今回は、生きて帰るわよ」



アストラは淡々と告げた。

「目的は調査です。戦闘は非推奨です」

「わかってる」

「でも何か出たら?」

結依がニヤリとする。



アストラは少しだけ間を置いた。

「……その時は、外れる部位を最大限活用します」

「それ活用って言わないから!」

バイクは走り出す。


――25キロ先にある、未知の集落へ。




☆初接触 ―



集落の手前で、三人はバイクを降りた。

水辺に建てられた住居群。

鱗のある肌、エラのような器官、だが体つきは明らかに人間「……半魚人、ね」

結依が小声で言う。

「見た目は怖くないけど、警戒はしてる」



魚人族たちは距離を取り、こちらをじっと見つめていた。


次の瞬間——

アストラの目が淡く発光する。

「言語解析を開始します」

「もう?」

「はい」

魚人族の一人が、低い声で何かを発した。

——ぐるる、しゃらら……

ルビィと結依が顔を見合わせる。


「……今の、挨拶?」


「威嚇?」


アストラは首を少し傾けた。

「現在、理解率12%」

「低っ!」

それでも、アストラは止まらない。



「音声、ジェスチャー、周囲環境を統合解析中……」

魚人族の子供が、母親の後ろから顔を覗かせる。



その瞬間、アストラが言った。

「理解率、74%」

「早っ!」

「この星の言語構造は単純です」

そして、魚人族に向き直り、はっきりと話す。

「――我々は敵ではありません」

魚人族が、ざわめいた。

「……通じてる?」

「通じてます」

10分も経っていない。

結依がぽつり。

「万能すぎない?」

「はい」




☆別の反応 ――洞窟の影



魚人族との交渉が始まった、その最中。


——ピッ。



アストラが静かに告げる。

「追加報告です」

「まだ何かいるの?」

「ここから約7.8キロ先。洞窟地帯に、約八十の集団反応」

魚人族の表情が、一斉に曇った。


アストラが翻訳する。

「彼らは“両生類族”。

 この魚人族を、支配している存在です」


結依の眉が、ぴくりと動いた。

「……奴隷?」

「はい」

魚人族は非力で、抵抗できない。

「やつらの長が変わってから、特に酷くなったそうです」


ルビィは、静かに息を吐いた。

「なるほど……理由はそれね、私達が味方になるから、両生類族に皆で交渉に行きましょう」




☆両生類族 ― 怒りのトリガー



湿った空気、岩壁に張り付く両生類族。


「来たぞ、魚人達だ!」

若い戦士たちが、一斉に武器を構え近づいてくる。


その時。

魚人族の小さな子供が、突き飛ばされた。

——ドンッ。


結依の中で、何かが切れた。

「……今、何した?」

低い声。

次の瞬間——



結依が消えた。



正確には、速すぎて視界が追いつかなかった。

——ドン!

——バキッ!

——ゴシャァ!


15人。

文字通り、一瞬。


洞窟の地面に転がる両生類族。

ルビィは、呆然。

「……え?」



アストラは、冷静。

「清水結依、戦闘スキルが通常時の最大で約2.7倍に上昇しました」


ルビィ

「キレるとそんなに強くなるって、どういう事!?」



ルビィも応戦し、四人を制圧。

だが、それだけで終わらなかった。



長の交代 ― 真の原因


現れたのは、ここの長。

傲慢な態度。

「弱い者は支配される。それが自然だ」

ルビィは、ため息をついた。

「……じゃあ、自然に従おうか」



——一瞬。

「うわっ!」

長は、床に転がっていた。



完全に制圧。



洞窟の奥から、年老いた両生類族が現れる。



「……私の責任だ」



前の長だった。

「引退してから、秩序を保てなかった」

話し合いは、アストラの通訳で進む。


魚人族と両生類族。

長い沈黙の末——



――ルミナールクルーに導かれ、平和協定が結ばれた。



アストラは、すでに情報収集を続けている。

「この惑星の知的生命体は、両生類族と魚人族とのことです」

「じゃあ、あの巨大生物は?」

「グラスダーと呼ばれています」

「知性は低く、危険性はあるが、野生生物です」


ルビィは頷いた。

「最初の敵が、一番単純だったわけね」

結依が笑う。

「次は、もう少し楽な惑星がいいわ」


アストラが、淡々と告げる。

「残り、四惑星です」

三人は宇宙船へ戻る。



――この星には、平和が残された。



そして——

次の惑星は…




☆第二惑星 ― 砂と毒と、ちょっと嬉しそうなアンドロイド



二つ目の惑星に着陸すると、視界が一気に黄土色に染まった。

「……暑い」


3人はバイクに乗り調査に行く。

ルビィがヘルメット内で顔をしかめる。


「暑すぎる、ちょっと休憩」結依が叫ぶ


「湿度ゼロ、気温48度。砂漠率、92%」

アストラが淡々と報告する。


3人はバイクを停める


「植物反応は?」

「ほぼありません。確認できるのは、微細な菌類と——」

結依が足元を見て、眉をひそめた。



「……虫?」



砂の表面を、何かが素早く横切った。

「やだ、いるじゃない。しかも絶対ロクなのじゃない」


三人は慎重に歩き始める。

生命反応は少ないが、ゼロではない。

こういう星ほど、危険なものが潜んでいる。

その時——


「——気をつけてください」

アストラの声が、やけに近い。



次の瞬間。

「え?」


ルビィが振り向くより早く、

アストラの前腕に、小さな影が跳ねた。



——チクッ。



「……今、刺された?」

結依が一歩前に出る。


「アストラ!?」

アストラは、自分の腕を見下ろした。


そこには、針のような口器を持つ小型生物。

「毒性昆虫です」

「冷静すぎでしょ!」



ルビィーは焦る。

「だ、大丈夫!? 毒よ!? え、アンドロイドって毒——」

「影響ありません」

アストラはあっさり言い切った。

そして、刺した虫を素早く捕獲。

「毒サンプル、回収しました」

「……え?」

その瞬間。

アストラの声のトーンが、ほんの少しだけ上がった。

「非常に興味深い成分構成です」

結依が目を細める。


「……今、喜んだ?」

「はい」

「喜ぶな!」

ルビィーが突っ込む。


「普通そこ、痛がるとか怖がるとかでしょ!」

「私はアンドロイドですので」

「そうだけど、そうじゃなくて!」


アストラは虫をケースに収めながら、どこか満足そうだった。




☆酸性の雨



——ポツ。

ヘルメットに、小さな音。

「……雨?」

結依が空を見上げる。

次の瞬間。

——ジュッ。

砂に落ちた雨粒が、音を立てて煙を上げた。



「……酸だ」



アストラが即座に判断する。

「弱酸性ですが、長時間の暴露は危険です」


ルビィは即断した。

「撤退!」

「判断、早くて助かるわ!」

結依が走りながら言う。

三人はバイクに飛び乗り、宇宙船へ。



背後で、雨が砂を溶かしていく。

船内に戻った瞬間、全員が一息ついた。



「……短かったわね」

結依が肩をすくめる。

「でも必要なデータは取れた」

アストラはケースを見つめる。

「毒性生物、酸性降雨、極限環境」


「……なんか、嬉しそうね」


「はい」

即答だった。


ルビィは苦笑する。

「この星、長居しなくて正解ね」

「同意します」

アストラが珍しく、人間的な間を置いた。

「ですが、非常に良い惑星でした」

「評価基準そこ!?」

こうして、

第二惑星の調査は、想定よりもずっと早く終了した。


――残る惑星は、あと三つ。

そして——

次からは、もう少し厄介になる予感がしていた。


☆自然衛星ルナス―救難信号



第3惑星に近づいた瞬間、アストラが静かにアラートを鳴らした。 「補足情報。第3惑星の自然衛星から、微弱な救難信号を確認しました」


巨大な惑星の軌道を回る、地球でいう“月”のような自然衛星。


表面は荒れ、クレーターが無数に刻まれている。


アストラが淡々と補足する。

「補足情報。この自然衛星の地表には、空気と重力が確認されています」

一瞬、船内の空気が変わった。

「……月、だよね?」結依が思わず確認する。

「はい。自然発生とは考えにくい条件です」



「救難信号か……」 ルビィは短くそう言って、即座に判断した。 「先に行く。救難信号は無視できない」 結依は一瞬だけルビィを見て、すぐに頷く。「当然でしょ」

アストラも異論はなかった。



半壊した宇宙船 自然衛星の影に隠れるようにして、それはあった。 旧式だが、外装は比較的新しい。


しかし船体の半分がえぐれ、完全に墜落しているのが一目で分かる。「生命反応、3。船内に残存」 アストラの報告と同時に、船内ハッチ付近から人影が現れた。



女性だ。



宇宙服越しでも分かるほど必死な動きで、何かを叫んでいる。 「翻訳開始…… “近づくな。ここから離れて” と言っています」


結依が眉をひそめる。 「救難信号出しといて、それ?」


ルビィは静かだった。 視線は、半壊した船体に刻まれた宇宙船の識別番号に釘付けになっている。


――見覚えがある。 完全には読めない。



だが、最初の7桁。 「……同じだ」 思わず、声が漏れた。



祖母が乗っていた宇宙船ルミナス。 50年前に消息を絶った、あの船と同じ型、同じ識別体系。


「微弱な救難信号…… 罠の可能性は?」 アストラに問いかける。


「即答します。 搭乗員は全員、地球人です」 その一言で、ルビィの迷いは消えた。


単独接近 「私が行く」 ルビィは宇宙スーツに、背部推進ユニットを装着する。 「オービタル・ムーバーを装着して救助に向かいます」


ルビィは宇宙空間へ踏み出した。 推進ユニットの微かな噴射音。 月面にゆっくりと近づいていく。



――間違いない。 近づけば近づくほど、確信に変わる。 この船は“あの時代のもの”だ。


着地の衝撃は、想像よりもはるかに穏やかだった。

足裏に、確かな「重さ」を感じる。

その様子を見て、細見の男性がルビィに話しかけた。

「この自然衛星……空気があるだ」




☆ルミナスのクルー



ハッチを越え、船内へ。 そこにいたのは3人。 若い女性。 先ほどの細身の男性。 そして、ひときわ体格の大きな男性。 どこかで見た顔――ではない。 知っている顔だ。 教科書。 資料映像。 人類史の中で語られる、伝説的な存在。




――ルミナスのクルー。




だが、ルビィーは何も言わなかった。 「救助に来た。動ける?」


まず、それだけを伝える。 女性が必死に首を振る。 「この高度まで船を下ろすと…… “あれ”が来るの…巨大モンスター」 その言葉を裏付けるように、地面が震えた。


「巨大生命体、接近反応!」 アストラの通信が入る。 ルビィーは即決した。 「アストラ、バイクで来て」 しかし―― その反応に呼応するかのように、月面の影が動いた。 巨大な影。 月面を削るように現れる、毛むくじゃらの大きなのモンスター。「来る!」



混乱の中、結依の声が割り込む。

「囮やる!」 次の瞬間、武装した結依がバイクで突っ込んでいく。


「おい、無茶――!」 「大丈夫!深追いしない!」 結依の判断は正解だった。 挑発し、引きつけ、距離を保つ。 その隙に―― 「今!」 ルビィとアストラが連携し、3人をルミエールへ搬送。



救助、成功。 帰還 巨大モンスターは結依を追うが、彼女は深入りせず、冷静に撤退する。 グラスダーとの戦いで得た“引き際”を、彼女は完全に理解していた。


全員、ルミエールに帰還。 船内の空気が、ようやく落ち着く。 ルビィは救助した3人を見つめながら、胸の奥で静かに思う。

(――50年前の…ダイヤ・デズモンド、本人だ)




☆ルミエール船内 ― 再会とズレた沈黙



静まり返った船内で、最初に口を開いたのは―― アストラだった。 「相対性理論に基づけば――」


次の瞬間。 ルビィー「いらん!!」 ゴンッ。


鈍い音とともに、アストラの“顔”が外され、空中を回転しながら吹き飛んだ。



「ちょっ――!?」 驚き、警戒するルミナスのクルー3人。 半壊した宇宙船よりも衝撃的な光景だった。



顔は床を転がり、結依の足元で止まる。 結依はしゃがみ込み、拾い上げながら小声で囁く。 「……50年経ってるとか、絶対言うなよ」 アストラの顔が一瞬だけ無言になる。 「……了解しました」 結依は何事もなかったように顔を戻し、何もなかった顔で立ち上がる。 「えーっと……話、続けよっか」



ルミナスのクルーは、まだ少し警戒しつつも、どこか苦笑いだった。 ルミナスの副長レオ・ミラノが語り始めた「我々は――三ヶ月前に、別銀河探索をスタートした」 その言葉に、ルビィの表情は変わらない。 結依も、知っているが“知らないふり”を貫く。


「1ヶ月前、この自然衛星に生命反応をキャッチし調査の為近づくと、いきなりあの巨大モンスターの襲撃を受けた。 船は制御を失い、墜落した」



「まさか」若い女性、ダイヤが続ける。 「私たちが出発した後、こんなに早く次の探索船が来るとは思ってなかった」


その横で、大柄な男――サイモンが笑顔で言葉を少しかぶせる。 「いやぁ、ラッキーだろ? 助かったんだしさ」 空気を和ませるその言葉に、わずかに緊張が解けた。



奇妙な静寂 レオが再び真剣な声になる。 「奇妙だったのは、墜落後だ」 「1ヶ月間、あのモンスターは我々を襲ってこなかった」



「……避けてた?」 結依が呟く。



「いや、違う」 レオは首を横に振る。 「観察して分かったが… モンスターは、この衛星の“ある地点”を中心に行動している」



ダイヤが補足する。 「ねぐらの近くに、地下へ通じる入り口があるの」 「そこから……人型の存在が出入りしているのを、何度も確認した」 その瞬間、船内の空気が変わった。 地下都市の可能性 「この自然衛星には――」 レオは言葉を選びながら続ける。 「地下都市が存在している可能性がある」



アストラの目が、静かに光る。 「知的文明の痕跡。 非常に高い確率で存在します」 サイモンが、少し申し訳なさそうに笑う。 「助けてもらった身で悪いんだが……」 「もし可能なら」 「一緒に、調査してくれないか?」



ルビィは答えない。 だが、その視線はすでに“行く”と決まっていた。 この自然衛星。 この地下都市。 そして、50年前から続く“何か”。




☆地下都市――初接触



巨大な番兵は、今も入口の前にいた。

毛むくじゃらの巨体が、ゆっくりと呼吸するたび、地面が低く震える。

距離は、これ以上詰められない。


「……やっぱり、近づくだけでアウトだね」 清水結依が小さく舌打ちする。


「攻撃意思はない。でも、警戒線は絶対に越えさせない」 レオが淡々と補足した。


ルビィは腕を組み、目を閉じる。

(戦えない。

交渉もできない。

けれど――相手は“出てくる)



その時、唐突にアストラが

「サイモンさん、お願いがあります、私の頭部を地下都市の入り口まで放り投げてください、交渉してきます。」



ルミナスクルーが声を揃えて「えっ?」



頭部を自分で外して渡そうとするアストラ


サイモンが恐る恐るアストラの頭部を両手で掴んだ。



ダイヤ「えっ?」



「ちょ、ちょっと待って!?」 ルビィが叫ぶ。


「問題ありません」 首だけになったアトラスが、平然と答える。




次の瞬間――




サイモンが、その首を全力で投げた。


剛腕から放たれた首は、美しい放物線を描き、

番兵の横をすり抜けて、地下都市の入口付近へと転がった…



一瞬の静寂。


そして――

「……首チョンパだ」

ボソっと、レオが呟いた。



次の瞬間、

笑いが漏れた。

ダイヤが吹き出し、

サイモンが肩を揺らし、

結依が必死に口を押さえ、

ルビィーは「こんな時に……!」と言いながらも、目を逸らす。



緊張感のど真ん中で起きた、不謹慎な笑い。



だが――

番兵は、頭部には反応しなかった。

攻撃も、威嚇もない。


しばらくして、地下都市の入口から

人影が現れた。

人型。

だが、肌は湿り、少し質感が違うのが遠くからでもわかった。


しかし、魚人族でも、両生類族でもない――



地下都市の住民。


そして、もう一人の地下都市人が出てきて何やら二人で話している。二人は転がる首を見下ろし、怪訝そうに首を傾げる。



その瞬間、アトラスの目が光った。

「――言語解析、開始」

音声、呼吸、体表振動。

わずか数秒で、言語構造が組み上がる。


「私は交渉装置。敵意はありません」

地下都市の住民が、明らかに驚いた。

「……攻撃、してこない?」

「はい。これは“頭部のみ”です。脅威ではありません」

 


沈黙。



番兵は、相変わらず動かない。

やがて、地下都市の住民はもう一人仲間を呼び、短い会話を交わした。

アトラスが続ける。

「あなた方と対話を希望します。我々は探索者です」



数秒後…



「条件がある」

地下都市の住民の言葉を、アトラスが通訳する。


「武装を解除すること。

争いを持ち込まないこと。

それが守れるなら――着陸を許可する」


ルビィより先にダイヤが、即座に答えた。

「武装はしない。約束する」

ルビィも結依も頷く。

「私たち、ケンカ売りに来たわけじゃない」


そしてルミナール号は無事に着陸しハッチから全員が降りる


レオが静かに前に出る。

「交渉を感謝する」


地下都市の住民は、しばらく彼らを見回し――


最後に、番兵に向かって短く合図を送った。

巨体が、ゆっくりと身を引く。

入口が、開いた。


「……入れるぞ」 サイモンが低く呟く。


アトラスの頭部が、地面から声を出す。

「成功です」

ルビィは溜息をつき、首を拾い上げた。

「ほんと、あなたって……」

その顔を見て、結依が苦笑する。

「壊れやすい方が役に立つって、あなたと設計者言ってたかど…本当に役にたったわ」と笑う




――こうして


六人は、武装なしで地下都市へ招かれた。

誰も知らない文明の中へ。

伝説と現在が交わる場所へ。



――地下都市編、開幕。




第二章 地下都市ルナストンと惑星アークス



☆地下都市への入場――



武装解除は、静かに行われた。 銃、刃物、補助装備。 誰も不満を言わず、次々と船へ戻していく。 最後まで残っていたのは、結依だった。 腰のホルスターに手を置いたまま、ほんの一瞬だけ躊躇する。 …彼女にとって銃は、ただの道具じゃない。 「……置きに行ってくる…」 誰に言うでもなく呟き、ホルスターを外す。 それを船内に戻したあと、結依は一歩前に出た。



その先に、地下都市への扉がある。 金属でも岩でもない、半透明の巨大な構造体。



内部で淡い光が脈打つたび、扉そのものが生きているように見えた。


扉が、音もなく開く。 だが、すぐには中へ進めなかった。


入口の両脇にいたのは、二体の毛むくじゃら。 一体は、これまで彼らを威圧してきた巨大な個体。 もう一体は、同じ姿形だが――体長30センチほどの小さな個体だった。



次の瞬間、交代作業が始まる…



係員が現れ、小さな方に青色の液体が入った注射器を打つ。 同時に、巨大な方には赤色の液体。 「……色、違うな」 サイモンが呟く。 赤色を打たれた巨大な番兵は、低く唸りながら体を伏せ、 まるで圧縮されるように――縮んでいく。


逆に、青色を打たれた小さな番兵は、光を帯びながら急速に巨大化した。


数秒後。 役割は完全に入れ替わり、 新たな巨大番兵が、入口を守る位置に立つ。


縮んだ方は、ぴょん、と軽く跳ねて係員の腕に収まり、 そのまま奥へと運ばれていった。 「……やっぱり一匹じゃなかったのか」 レオが低い声で言う。



そのとき、奥から一人の男性が現れた。 背は低く、年配。 少し前かがみで、服装は実務用。 どこからどう見ても――役所のおじさんだ。


その姿を見て、一呼吸おき。 ダイヤが、ぽつりと漏らす。



「……思ってたより、人間だな」



アストラがすぐに翻訳する。 「――ようこそ。地下都市管理局のカイトです。番兵管理と、来訪者対応を担当しています」

「大統領は現在いそがしく明日の朝あなた達とお話がしたいと申しております」


巨大番兵の足元では、 さきほど縮んだばかりのモフモフが、 ぴょんぴょん跳ねながらカイトの足にまとわりついていた。


ダイヤの目が、はっきりと輝く。 「……ねぇ、あの子……」


「ダイヤさんっ」 ルビィが即座に声を低くする。


「見てるだけだよ?」 「その“だけ”が信用できないです」



ダイヤは返事をせず、 モフモフを目で追い続けていた。



カイトは気にした様子もなく、奥を示す。 アストラが訳す。 「――中へ。  ここからは地下通路になります」



通路は、思った以上に長かった。


しばらく歩いたあと、ルビィが前を歩くカイトに声をかけた。

「……ひとつ、聞いてもいいですか?」

カイトが足を緩める。

「この衛星の地表には、どうして引力と空気があるんですか?」


カイトは少し考えるように間を置いてから答えた。

「入口前にモンスターを“番兵”として配置するには、空気が必要だったそうです」



一同が足を止める。



「私はこの件にはあまり詳しくありませんが……」

カイトは肩をすくめる。


「クセのある、ですが非常に優秀な化学屋がいまして」

「入口を中心に、半径およそ一キロ圏内だけ」

「引力と空気を安定して維持する方法を発明したとか」



その言葉を聞きながら、


ダイヤは心の中で小さく呟いた。

(……化学屋ね…)



枝分かれが多く、壁や天井には見慣れない地下都市語の表記が走っている。 文字そのものが淡く光り、方向や区画を示しているらしい。



「これ……地図なしで来たら、詰むな」 結依が言う。 「初見殺しだな」 サイモンが同意した



その直後。 「……あっ」 ダイヤが足を止める。 カイトの横を、例のモフモフがぴょん、と大きく跳ねたのだ。 「ほら、見て!今――」 「見ない、追わない」 ルビィが被せる。

「……はい」 ダイヤは全然納得していない声だった。



通路を抜けた瞬間―― 視界が、急に開けた。 「……え?」 結依が思わず声を出す。 そこには、空があった。



地下とは思えないほど高い天井。 いや、天井というより――夕方のような空の色が広がっている。 橙から紫へと溶けるようなグラデーション。 雲のようなものまで、ゆっくりと流れていた。 「地下……だよな?」 サイモンが確認する。



カイトが歩きながら説明する。 アストラが訳す。 「到着です、ここが地下都市ルナスです。」

「空で驚いていますね、地表で暮らしていた頃の概念を、精神安定のため再現しています、今は夕日なのでもう時期夜になりますよ」 「本物の空は、見えないです」 「ですが、“空がある”という感覚は、必要だったそうです」



その綺麗な夕焼けの下に、都市が広がっていた。



人々が行き交い、話し、笑い、暮らしている。


目がわずかに光り、肌がうっすら半透明だが――

(……普通に、人間) ルビィが地下都市の人を見て思う



「敵意も、今のところは感じません」 アストラが補足した。



ダイヤは、空と街と―― そして、またモフモフを見ていた。



地下都市への第一歩は、 想像よりもずっと――穏やかだった。 そして思った以上に――明るかった。 「……地下、だよな?」 サイモンが思わず再確認。



「地下なのに、空がある……科学とは言え不思議」 結依がぽつりと言う。



前を歩くカイトがアストラの通訳を通して説明する。 「朝昼夜、天候、季節の変化も再現しています。 」

「もうすぐ暗くなります」



ダイヤは空を見上げて、目を丸くした。 「……普通に、街だ」 その言葉が、素直な実感だった。


街並みは立体的だった。 上下左右に広がる建築群。


通路は分岐を重ね、曲がり、折れ、重なり合う。 「蜂の巣型都市です」 アストラが通訳する。 「人口が多いため、平面では足りない。 上下方向に拡張しています」 「……迷いやすそうだな」 レオが言った、その直後。



「お、あれ何だ?」 サイモンが脇道に目を奪われる。 次の瞬間、姿が消えた。 「……サイモン?」 返事がない。 「サイモン!?」 一同が振り返った時には、もう遅かった。



「……迷子、第一号ですね」 アストラが淡々と言う。


「早っ!」 結依がツッコむ。



通路沿いでは、モフモフが目に入る。 毛色は様々。 白、灰、茶、まだら。 形は似ているが、耳や尻尾の長さが違う。 「種類、違う?」 ダイヤがしゃがみ込みそうになるのを、ルビィが止める。 「ダイヤさん、勝手に触らない」



「でも……!」 ダイヤの目は、完全に輝いていた。



ぴょん、と跳ねる一匹。 小さな体で、ぴょこぴょこと歩く。 「……かわいい」 「仕事中ですよ」


カイトが苦笑する。 「彼らはこの都市のペットです。 知能が高く、人と共存しています」


「番兵の子たちも?」 「ええ。優秀な個体が交代で」



ダイヤは、真剣な顔で頷いた。 「……なるほど」


その時だった。 「……あのさ」 レオが、少し言いにくそうに結依を見る。 「名前、なんて呼べばいい?」


結依が一瞬キョトンとしてから答える。


「清水、清水結依です」 「清水……さん」 「結依でいいです」 「……じゃあ、清水で」 結依は少しだけ笑った。


一方、レオはルビィを見て…「君は?」



一瞬の間。



「……ルビィです」 ルビィは、ほんの一瞬だけ結依の顔を見る。



「ルビィ・デ……デービス」



ダイヤは、その視線を見逃さなかった。 (……今の、何?) 何かを隠した―― ダイヤがそう感じるには十分だった…



少し後ろで、アストラは街を見ていた。 視線は建築、人の流れ、配置。 それに気づいたレオがアストラに声をかける。 「……その見方」 アストラが振り返る。 「?」 「街を風景として見てない。 システムとして見てる」

 


一拍。



「俺、元々アンドロイドの研究の仕事も探索前はやっていた。」 結依がちらりと見る。 「設計思想とか、行動アルゴリズムとか。 ……癖みたいなものがある」 レオは、はっきりとアストラを見て一言。



「君の観察の仕方が、俺にそっくりだ」



「合理的な評価ですね」 「否定しないんだ」 「事実ですから」 レオは、少し笑った。 「やっぱり、アンドロイドは面白いな」



「ところで」 ルビィが言う。 「サイモンさんは?」 沈黙…



遠くで、 「……あれ? ここ、どこ?」 というサイモンの声が聞こえた。 「……やっぱり」 結依が額を押さえた。 「回収に行きましょう…」



ダイヤは名残惜しそうに、モフモフから視線を離す。 「あとで、絶対もう一回モフモフを触りたい」 その言葉に、ルビィは嫌な予感しかしなかった。


☆食事と文化のズレ



通路の照明が、ほんのり夜用の色調に切り替わり始めた頃だった。


「……なあ」 サイモンが腹を押さえた。 「俺、さっきからずっと思ってたんだけどさ」 全員が嫌な予感で視線を向ける。


「腹、減ってない?」



沈黙。



次の瞬間。 「……確かに」 「言われると急に来る」 「さっきから集中力が落ちてる気がする」 一気に同意が重なった。


「よかった、俺だけじゃなかった」 サイモンは安心したように頷く。



カイトはその様子を見て、穏やかに言った。

「では、食事にしましょう。地下都市の料理は――」 アストラは通訳を一瞬止め、言葉を選ぶように間を置く。



「――“経験”です」



「不安になる言い方やめてくれません?」 結依が即ツッコむ。



案内されたレストランは、広く、賑やかだった。 地下都市人たちの会話が重なり、独特のリズムを作っている。



料理が運ばれてくる。


見た目は、わりと普通。 色合いも盛り付けも、ちゃんと“料理”。


「……普通に食べられそう」 ルビィが警戒しつつ一口。 その時、結依が率直に言った。 「……うまい」「普通に美味しい!」 ダイヤが笑顔になる。



「化学反応で、味覚刺激を最適化しています」 カイトが説明する。



「科学じゃなくて?」 レオが首を傾げる。



「ええ。我々は科学より化学が発展しました」 「なるほど……」 レオは本気で納得している顔だった。



その時だった。 「……あれ?」 サイモンが自分の腕を見つめる。 「……なあ、俺、なんか……」


「……緑ですね」 アストラが淡々と言う。 サイモンの皮膚が、うっすら緑色になっていた。




「は!?」


「ちょ、待て!」


「俺、どういうこと!?」


「副作用です、緑は比較的長いです」 カイトはあっさり。



「副作用!?」

ルビィと結依が同時に声を上げる。



「一時的なものです。数時間で戻ります、ここの人たちは、副作用を気にしないみたいです」



「戻るまでの間、俺どうすんだよ!」 サイモンが叫ぶ。


「ゴリにぃ、緑かっこいいじゃん、昔の映画でそんなキャラ居なかった? それに夜だし目立たないっしょ」 ダイヤが無邪気に言う。

「問題はそこじゃない!」



その横で―― 「……」 ルビィーが、そっと耳に触れた。



「……私、光ってない?」




耳の輪郭が、淡く発光している。 「うわ、ほんとだ」 結依が覗き込む。


「可愛い!」



ダイヤが即断。 「副作用を気にしない文化って、こういうことか……」 レオが遠い目をする。



その時。 コロン……



何かが隣のテーブルの上に転がった。 アストラの――頭だった。


「……」 一瞬で静まり返る店内。 次の瞬間、その頭部がコロコロと転がり、近くにいた地下都市人の赤ちゃんの前へ。


「――あー。あー」 電子音混じりの優しい声。 赤ちゃんは一瞬キョトンとし、 次の瞬間、声を上げて笑った。


「……」 地下都市人たち、完全フリーズ。 「何してんのよあんた!」 結依が即座にアストラをどつく。


「赤ちゃんを安心させる最適行動と判断しました」 「判断基準がおかしい!」 「首、戻せ!」




その騒ぎの中―― ダイヤは、完全に別のものに夢中だった。 テーブルの横。



ふわふわのモフモフが、丸くなっている。 「……」 ダイヤの目が、キラキラと輝く。



モフモフはぴょん、と跳ねて近づき、 迷いなくダイヤの膝に乗った。 「……なついた」 「欲しい」 即答。


「早いです!」 ルビィが突っ込む。 「ダメですよ!」 結依が即反対。 「それ、明らかにこの人たちのペット!」



「あとで一匹差し上げますよ」 カイトが即答する。


「明日の大統領と面会後、放牧区画に案内します。正式に譲渡できます」



「軽っ!?」 レオが声を上げる。



「連れて帰ったら実験対象になる可能性があります」結依は真剣だ。



「制御できる保証もないです」ルビィも続く。



「でも……」 ダイヤはモフモフをギュッと抱く。 「可愛い……」



サイモンは緑色の腕で頷いた。 「まあ……ダイヤがそこまで言うなら……」



「お前は黙ってろ」とレオが静止する



その時、ダイヤがふと呟いた。



「……今、あの人たち、私たちのこと話してる…」



全員が一斉にダイヤを見る。




ダイヤは少し考えながら言う。 地下都市人が話してるような言葉を言った…



アストラが通訳する 「意味は、だいたい分かる、日常会話くらいなら話せるかも」とダイヤさんは申しております。



アストラが更に補足する。「理解率は約70〜80%。文法構造は未習得ですが、適応能力は極めて高い」



「……やっぱ天才だな」レオが呆れた顔でため息…



レオの視線が、アストラに向く。 「君の個体識別は?」 「ORX-78です」



「78……」



レオは少しだけ間を置いて微笑んだ。 「いい設計思想だ」 アストラは、ほんの一瞬だけ首を傾げた。



食事は、 副作用と、 騒ぎと、 笑いに満ちたまま終わった。 夜は深まり、 地下都市での“平和な時間”が、 静かに次の局面へと繋がっていく…




☆街探索前のチェックイン




レストランを出ると、地下都市の夜はすっかり本番だった。


通りの光量が一段落ち、街全体が落ち着いた色合いに変わる。



アストラは黙々と通訳する…


「では、ホテルまで送りますよ」 カイトが手を上げると、歩道脇に停まっていた乗り物が静かに近づいてきた。 円盤というより、半透明のカプセルだ。


中がぼんやり見える。 「……これ、浮いてます?」 「ええ。重力制御は化学的にやってます」 さらっと言われて、結依は一瞬言葉を失う。


「乗り心地は悪くないですよ。酔う人もほとんどいません」


「“ほとんど”?」 ツッコミを入れる前に、扉がすっと開いた。


中に入ると、座席というより体を預ける空間が個々に分かれている。 固定ベルトもなく、なのに不思議と不安定さがない。 「……変な感じ」


「慣れますよ。たぶん」 カイトのその言い方に、レオが小さく笑った。



ホテルは蜂の巣構造の一角、比較的シンプルな外観だった。


だが中に入ると、天井が高く、空間が縦にも横にも広がっている。



「チェックインはこちらで」 カイトが手続きを進める間


ダイヤはもうロビーを歩き回っている。 「ねぇ見て、あの壁、呼吸してるみたい」 「触らない」 「触ってない、見てるだけ」 結局、触っていた。



「部屋は二部屋。三名ずつになります」 カイトが端末を閉じる。 部屋割りは自然と、船と同じになった…



レオが「取り合えず、みんな私達の部屋で集合しましょう」



サイモンは自分の腕を見下ろし、少し困った顔をする。 「……これ、まだ戻らないの?」 「緑色は比較的長いとカイトさん申していました」 アストラが淡々と言う。



ルビィの耳は、まだかすかに光っていた。 「……目立つな」 「ホテルなら大丈夫ですよ」 チェックインを終えると、カイトは一礼した。 「明日の朝、迎えに来ます。


今夜はご自由に。ただし――」 ダイヤを見る。



「問題は起こさないように」 「はーい」 信用はされていなかった。 部屋に荷物を置いて、少しだけ落ち着いた頃。



「……ねぇ」 ダイヤが振り返る。 「街、行きたいっ」 一瞬の沈黙。


「……だと思った」 「行くだろうな」 「行くと思ってた」 全員の反応が一致する。


「保護者役は俺だな」 レオが溜め息混じりに言う。



「……私も行っていいですか?」 結依が手を挙げた。 結依は、胸の内でそっと思った。 (伝説の二人に、ちょっと興味がある――)



そのやり取りを横目に、ルビィは耳を押さえた。 「私は……ここで留守番する。これだし」 光る耳を指す。



「俺もな」 緑のサイモンがうなずく。 「……目立つし、眠い…」 珍しく、正しい判断だった。


「アストラは?」 結依が聞くと、アストラはすでに扉の方を向いていた。「船に戻ります。少し作業がありますので」 「寝ないの?」 「不要です」 当然のように言って、出ていった。


残った三人が顔を見合わせる。 「じゃ、行こっか!」 ダイヤが一番に扉を開けた。 レオはその背中を見て、小さく息を吐く。 「……嵐の前触れだな」 結依は、少しだけ笑った。




☆街探索



ホテルの外に出ると、地下都市の夜は思った以上に賑やかだった。


人工の空はすでに濃紺に染まり、建物や街路そのものが柔らかく光っている。


「……地下って、もっと静かなのかと思ってた」 結依が周囲を見回すと、レオは小さく笑った。


「俺もだ。軍の基地みたいなのを想像してた」


その会話を置き去りにするように、ダイヤはもう数メートル先だ。 露店を覗き込み、モフモフした生き物を見つけては目を輝かせている。



「見て! あのモフモフ、耳が四つある!」 「だから触らないでくださいって……」 結依が呆れた声を出す。


レオはその様子を見ながら、ふっと息を吐いた。 「落ち着きないだろ」 「でも楽しそう」 「それが、あいつの強さだよ」



結依が横を見る。 「どういう意味ですか?」 「ダイヤは、生まれつき色々“外れてる”。  知能だけじゃない、反応速度、動体視力、感覚……訓練じゃどうにもならない領域だ」


歩きながら、レオは淡々と続ける。「宇宙探索訓練所でも、常にトップだった」 「レオは?」 「俺は二位…ずっとな」 結依は少し驚いた顔をしながら、自分とルビィの事も考える…




「悔しかった?」 「そりゃな」 即答だった。




「俺は全部、努力で積み上げてきた側だ。  正直、最初はあまり好きじゃなかった。 才能だけで上にいるやつが」



少し間が空く。



「……でも?」 レオは視線を前に向けたまま、言葉を続ける。 「怖かったんだと思う。  どれだけやっても届かない相手がいるって認めるのが」 結依は黙って聞いている。


「それで余計に、サイモンのことも誤解してた」 「サイモン?」


「あいつ、ボーッとして見えるだろ」 「……まあ」 結依は否定しなかった。


「でもな、サイモンは本当はかなり優秀だ。  頭の回転が遅いだけなんだ」 結依が眉を上げる。 「遅い?」 「正確には――俺とダイヤが速すぎる」 「だから、反対しなければ同意見というのが暗黙の関係になっている。」少し苦笑して、レオは言った。


「考える時間を与えれば、 あいつは俺やダイヤと同じ場所まで、ちゃんと辿り着く」



「じゃあ……」


「そう。あいつも知力と力のリミッターも外れてる。 人間じゃないよ、あれは……」



「……あいつも“化け物側”だ」 レオは小さく息を吐いた。



ちょうどその時。 「ねぇレオ、これ試食だって!」 ダイヤが何かを口に放り込む。 「食うなって言っただろ!!」 遅かった。



「……あれ? 味は普通……」



数秒後。 「……ん?」 結依が足を止める。



「ダイヤさん、髪……」



金色だった髪が、ゆっくりと闇色に染まっていく。


「え、なにそれ! かっこよくない?」 「副作用だ!!」


その瞬間、ダイヤの足元でモフモフが甲高い音を鳴らした。



ピィィィ――ン!



周囲の視線が一斉に集まり、装甲服の警備員が近づいてくる。 「……やば」 「ダイヤ、動くな」 包囲されかけた、その時。 「ちょっとちょっと! 何してるんですか!」 ガイドのオジサン――カイトが人垣を割って現れた。 「この子たちは、私の案内中です」と言いつつ、IDを見せる。



「その警告音? ああ、また誤作動ですね」 警備員たちは渋々引き下がる。


「助かりました……」


「まったく。目を離すとすぐ問題を起こす」 カイトはダイヤの黒髪を見て、ため息をついた。 「副作用ですね…  髪の副作用は長いですよ」 ホテルへ戻る道すがら、ダイヤは満足そうに笑っていた。



「ね、楽しいね地下都市!」 「……今日はもう外出禁止」 「えー」 レオは小さく息を吐き、結依にだけ聞こえる声で言う。



「……な?  ああ見えて、全員とんでもないクルーなんだ」 結依は、静かに頷いた。



ホテルに着き「では、今度こそ明日の朝に。」カイトが帰って行った…



その夜…



【ルミエール側の部屋】 (ルビィ、結依、アストラ)


アストラは部屋に入ると、手に4つの小さな装置を持っていた。 「明日の大統領との面接に向けて、通訳デバイスを4つ作ってきました。急ぎで作ったのでプロトタイプです。少し時差があります。 正直、常にカイトさんを通訳してるのは不便でしたから…」



結依は興味深げにアストラを見る。 「へえ…それで、私たちも自分の端末でやり取りできるのね」


ルビィは少し身を乗り出す。 「でも、通訳してくれるアストラは凄かったよ」



アストラは頷き、ふと結依とルビィの方を見て言った。 「そうそう、お二人に伝えておきたいことがあります。私の生みの親、オリオン博士は…レオ・ミラノさんの息子なんです。記録に残っています」



結依は目を丸くして、思わず口を開く。 「え…レオさんって…奥さんはいるんですか?」



アストラは少し間を置き、静かに答えた。 「いましたが、今はもう亡くなっています」



ルビィは静かに頷きながら、心の中で何かを考えている様子だ。 結依はその様子をチラッと見て、口元に微笑みを浮かべる。


ルビィは部屋の端に座り直し、ひそひそと独り言のように呟く。


「私たちが、未来から過去に来たのかも…」



【ルミナス側の部屋】 (ダイヤ、レオ、サイモン)


ダイヤはベッドの端に座り、今日の街探索を思い返す。 「モフモフ、本当に可愛かった!」



サイモンは緑色になった自分の皮膚を手で触りながらつぶやく。

「ルビィーちゃんも結依ちゃんもかなり優秀だ。あれだけ優秀なら、出港前に噂くらいは聞くと思う」



レオは腕を組み、少し呆れた表情でサイモンを見る


「アンドロイドの識別番号の話を考えると…普通なら年に1~2機しか改良されない。」


「俺は出港直前まで2を作ってたんだぞ。それが78まで増えるなんて、不自然だ。」


「短期間で複数機が作られているのは明らかに通常ではない」   



サイモンは小さく頷く。


サイモンは首をかしげつつ 「うん、俺も不思議に思っていた。有人探査機が3か月で2機目が出港するなんて」



ダイヤは窓から見える人工投影の星を眺めながら、意味深に笑う。 「…私たち、過去から未来に来たのかもね!」






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