【新春特別更新】懐かしい
【カルーナとイチョウ:邂逅の物語】と【風媒花とヒヤシンス:変わらぬ愛の物語】の間のエピソードだと思ってください~
ニューイヤーを迎えて六日目の朝。
ポマードとエドマンドから手紙が届きました。
『シェリーヌ公爵令嬢、ニューイヤーイブ、ニューイヤー・デイを経て、翌日以降の地方領の貴族の国王陛下への新年の挨拶。それらの祝賀行事の警備に連日着いたところ……。体も疲れ、胃袋も疲れ、お肉をがつがつ食べる元気がありません』
そう手紙に書いているのはポマードです。
『シェリーヌ公爵令嬢。ニューイヤーを迎え、連日、肉三昧でした。普段から肉を食べ慣れていますが、今回はさらに食べ過ぎた結果……。胃もたれがしています。明日のみんなとの昼食会。自分は魚を、例えばカルパッチョなどを出していただけると嬉しいです……』
これはエドマンドの手紙。
どうやら二人とも、まだ若いのに。このニューイヤーで胃袋がお疲れの様子。
年末年始も仕事だったポマード、王室の祝賀行事に付き合っていたソフィーとセシリオ。この三人に合わせ、明日、1月7日に昼食会を我が家ですることになっていました。
参加するのはポマードとエドマンド、ソフィーとシャール、そしてセシリオ。
育ち盛りは過ぎたとはいえ、みんなまだ十代。
たっぷりお肉料理を用意しようと思っていましたが……。
「リリーさん!」
ベルを鳴らすとすぐに侍女のリリーさんが来てくれます。
「これから市場へ行くの。付き合ってくれないかしら? そして料理長に明日の昼食会のメニューに変更があると伝えて頂戴」
「かしこまりました。奥様……いえ、お嬢様!」
◇
「はぁ~、なんだか優しい味だぁ」
「なんというか疲れた胃袋に優しく染みわたりますね」
王都警備隊の隊服姿のポマードと、騎士養成学校の制服姿のエドマンドが、顔をほころばせています。
「王家の晩餐会や昼食会では連日豪華なお料理が続いたのですが……こってり脂料理も多くて、さすがに食欲が落ちていました。このリゾットはシンプルな塩味で、さっぱりして食べやすくとても美味しいわ」
ラベンダー色のドレスのソフィーがそう言うと、シャールも同意します。
「野菜とハーブがたっぷりで、健康にも良さそうですよね。なんとうか、ニューイヤーの豪華料理三昧で疲れた胃袋を休ませてくれる料理に思えます」
これを聞いたセシリオ……坊ちゃんは、このリゾットが何であるかもうピンときたようで、私に代わって解説してくれます。
「これは東方で伝統的に食べられている七草粥を、この大陸風にアレンジしたものですね。七草粥は、七つの野菜を用いて作るお粥……リゾットで、ニューイヤーの暴飲暴食で疲れた胃を休めるために食べると言われています。他にも、1月7日に七種類の野菜を入れたお粥を食べることで、一年の無病息災……健康で元気に過ごせることを願う風習に関連しているとも。体のことを考え、作られているものですよね、シェリーヌ公爵令嬢?」
ふふ。私と同じ転生者ですからね、坊ちゃん……セシリオも。当然、七草粥のことも知っていました。
「セシリオ皇太子様、正解です。七草として使われる野菜は、この大陸で手に入るもので代用しています。例えばセリについてはセロリの葉を。ナズナはクレソン。そんな感じで風味や味をそこなわないようにして作ったのが、この『セブン・ハーブ・リゾット』。ライスは輸入品を昨日、急遽市場で手に入れたんですよ」
「セリもナズナも知らない名前ですが、それぞれ使う野菜に何か意味があるのかしら? 栄養を考えて選ばれた野菜なの?」
ソフィーは鋭いですね!
「七草粥で選ばれている野菜には、それぞれ意味があるんですよ。今回の代表品ではそこまで考えず、味や栄養を考え、選びました。ですがオリジナルの方ですと、例えばセリは、東方では『競り勝つ』という意味が込めれています。競って勝つということで、勝利を祈願する食材として選ばれたのですね。そしてそのセリという野菜は、薬草として用いられることもあり、胃の調子を整えると考えられています」
「それは面白いですね。残りの六つのことも知りたいです!」
シャールはソフィーと顔を見合わせ、瞳をキラキラとさせています。
一方のポマードとエドマンドは、おかわりを頼んでいるじゃないですか!
こうして昼食会はシンプルな『セブン・ハーブ・リゾット』を食べ、デザートとしてミルクゼリーとハーブティーをいただきました。ミルクゼリーは蜂蜜を使って作ってもらい、ちゃんと胃に優しくなるよう配慮したんですよ。
「あ~、おかげで元気になりましたよ、シェリーヌ公爵令嬢!」
「自分もこれで明日から頑張れます!」
ポマードとエドマンドは、どうやら元気を取り戻してくれたようです。
「私、東方の文化に興味が沸きましたわ。この大陸とはまったく違う文化の国なんですね」
「僕も興味を持ちました! ソフィー皇女様、僕と一緒に東方の本を探しに行きましょう」
「ええ、そうしましょう!」
シャールとソフィーは七草粥の方に興味を持ち、そして東方文化にも関心を持ってくれたようで……。二人が仲良く本屋や図書館に行く姿が目に浮かび、なんだか微笑ましい気持ちになりますね。
「シェリーヌ公爵令嬢」
セシリオが、雪原の輝きのような銀色の瞳をこちらへ向けます。
これは本当に不思議な感じ。
坊ちゃんなのに、坊ちゃんではないたみたい!
「懐かしい料理を食べさせて下さり、ありがとうございます。この世界で前世を思い出す料理を食べられるとは思いませんでした」
そこでセシリオが不意に私の耳元に顔を近づけ「静江さんと再会できてよかったです」なんて言うから! しかも私の手をぎゅっと握るんですよ!
新年から心臓がひっくりちゃんです。
「お兄様ったら」
「お二人はラブラブですね」
シャールとソフィーはニッコリ。
「くそーっ」「独り身の自分の前でヒドイです!」
ポマードとエドマンドは、なんだか泣きそうになっているので「もう、どうしたんですか!」と宥めることになりました。
何はともあれ。
みんなちゃんと新年を迎えられて良かったですね。
それぞれの馬車に乗り込むみんなを、笑顔で見送りました。
お読みいただき、ありがとうございます~
本作でお久しぶりの再会の読者様、今年もよろしくお願いいたします☆彡
七草粥:セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロをいれます。なお七草粥を正確に訳すならSeven-Herb Rice Porridgeかと思うのです。ですがイメージがつきやすいように今回、リゾットを使っています。
ちなみにスーパーでも七草粥セットなんて売っているので、気になる方はチェックしてみては!?
【おまけ】蔵出し&新作
新作『宿敵の純潔を奪いました』がスタートしています。
読者様の応援のおかげで異世界転生ランキングで5位をいただきました(2024/12/27)
https://ncode.syosetu.com/n6514jw/
ページ下部にバナーございますのでもしよろしければご覧くださいませ☆彡
蔵出し更新をした作品『悪役令嬢は断罪回避のためアレを落とすことにした』もテキストリンクがページ下部にあります。全13話+番外編2話です~