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エピローグ

 

 目を開くと、そこに女神がいた。


「おかえりなさい」


「──ただいま」


 まるで家に帰ってきたみたいなやりとりが、なぜだか違和感なく交わせた。


 それはそうだ。

 輪廻転生。魂が、生まれ変わりを繰り返すのなら、いわゆる『あの世』であるこの場所は、俺にとっても誰にとっても『帰ってくる場所』と言えるのだから。


 女神は、まさしく女神の微笑みを浮かべている。


「お疲れ様。しばらく、ここで休むといいわ」


「ああ。なんで、俺は体がないのに、こんなに疲れているんだ」


「転生というのは魂の持つエネルギーを激しく消耗するのよ。大丈夫よ。休めばまた元気になるわ」


「そうか。そうだな、なんだか眠い──」


「おやすみなさ──」


「──いや、待ってくれ」


「あら、どうしたの?」


「あの世界は、アースガルドはどうなったんだ。あれで、良かったんだよな」


 女神は頷く。


「ええ。貴方のおかげで、20年程で滅ぶはずだったアースガルドの世界寿命は8000年程まで延びることになったわ」


「8000年? それでも、結局は滅んでしまうのか」


「終わりがあるのは、世界も、人間(ひと)も同じよ」


「ああ、まあ、そうだよな」


 女神の言葉に俺が思ったのは、アースガルドよりも、前に俺がいた世界。日本の東京のことだった。


 あの世界もいつかは滅んでしまうのだ。

 全く実感が得られない概念だ。

 そして、生前には世界が滅び得るなんて、考えもしなかった。


 それももう、俺には遠いことに思われた。



 そうだ。

 俺が女神から聞きたかったのは、世界のことじゃない。


 俺自身のことだ。


 短い時間ではあったが、俺はアインという個人そのものだった。

 一度、一体になった俺の心には、アインとしての記憶と感情が刻まれたまま残っている。


 アースガルドに残ったのは、言わば俺自身の半身のようなものだ。

 当然、気になる。


「アインは、あの後どうなったんだ?」


「もちろん勇者としての人生を生きたわ」


 女神は、俺の視界の前に、アインのその後を、アルバムをめくるようにして、イメージを映し出して見せてくれた。


 ヨシュじいさんに修行を受けるアインの姿。

 たくましく成長し、魔王の残党と戦いを繰り広げるアイン。

 アインを育て上げたヨシュじいさんは、大魔王との戦いから3年後、満足したように息を引き取ったみたいだ。


 そこには、俺のアインとしての記憶の大半を占めていた、引きこもりの少年の姿はなく、俺はほっとした気分になった。


 よかったな、アイン。

 ありがとうな、ヨシュじいさん。


 女神が映し出すアインの人生は続く。


 アインはやがて、真の勇者としてもてはやされ、英雄となり、やがて魔王の支配した土地の一部を治める一国の王となる。


「ハハ……すげーな、あいつ」


 こうなってくると、もう自分とは遠い存在になっていったのが嫌でも思い知らされる。


「──ん?」


「どうかしたの」


「そこのイメージを、拡大したりできたらお願いしたいんだが」


「こう?」


 俺は、女神に頼んで、アインが王になって王妃と幸せそうにしている場面を大きくして見せてもらった。


「もしかして、この女の人──」


「貴方が仲間にした、あの子よ」


「やっぱり! うわぁ、雰囲気が違うけど何か知ってる気がしたんだよなあ」


 そうか、アイン。

 俺がたまたま仲間にした、あの村娘と結婚したんだな。


 うん。

 それにしても、綺麗になってるな、あの子。

 もともと抜群に素材としては、いいものをもっていると思っていたけど。


 俺のもといた世界でも、このくらい美人なら、アイドルなり女優なりで絶対に成功するだろうな。


 いや、よかった、よかった。


 お、さらに未来では、随分と子供もたくさんできたんだな。

 俺は前世では童貞のまま死んだから、羨ましい限りだよ。

 幸せそうだな、アイン。

 さっきから出てくるイメージで終始笑ってるもんな。


 お前の幸せは、俺の幸せだ。

 うん。


 う、う──────ん。



「どうかしたの?」


「なんか、納得いかない」


「そう?」


「アインばっかり、おいしい気がする。いや、むしろ、俺の転生に時間制限がなければ、こうなってたのは俺だったってことだよな」


「アインとして、一生を送っていたなら、体験したはずのことを今、見ているのは確かよ」


「そうなんだよなあ」


 俺は、アインの笑顔を羨ましい気持ちで眺める。


 いくつもの笑顔を。


 壮年から、老年に至って、アインの顔に刻まれる(しわ)は、笑顔によるものだ。


 ただ羨ましいながらも、死んだ身で何を心の狭いことを考えているんだって気分になってきた。

 何にしても、あいつがあの後で幸せになっているってことはよかった。と思う。


 きっと、これでよかったんだと思うことにしたんだ。


 だから、俺は次第に眠りに落ちていく意識のなかで、アインのことを祝福していた。


 もう一人の俺のことを。



 よかったな、アイン────!




 ~END~


お読みいただき、有難うございました!

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