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4 月 5 日 はれ。
また、正くんとおなじクラスだった。
でも、にがてな人ともおなじクラスで、しかもせきがすぐとなりだった。
やすみじかんのたびに、正くんがせきにきてくれるけど、じゅぎょう中とかにいじわるされる。
明日、いきたくないな。
5 月 14 日 くもり。
かこちゃんにさんすうをおしえてもらった。
やっぱり かこちゃんはすごい。
わたしも、いっしょうけんめい べんきょうしたらおなじようになれるかな。
6 月 2 日 あめ。
正くんと、のきちゃんとこうえんであそんだ。
まえはつりばしをわたれなかったのきちゃんが、いつのまにかわたれるようになってた。
これでもう わたれないのは、わたしだけ。
正くんにあきれられるのがイヤだから、つりばしではあそばないようにしよう。
7 月 23 日 はれ。
ものすごくあつかった。
正くんのおうちに、おくちゃんと、まつくんの三人で行った。
正くんがはこんできてくれたサイダーをわたしがこぼしちゃって、
スカートがぬれた。
きがえたくなくて、ないて、むかえにきてもらってかえった。
なさけないな。
8 月 15 日 はれ。
今日はなつまつりだった。
おてらにでみせがいっぱい出てて、正くんがしゃてきでぬいぐるみをとってくれた。
さいきんいいことがなかったから、うれしい。
とちゅうで、しょうくんに会って、ひやかされた。
二人でおまつりいっちゃいけないのかな?
9 月 24 日 あめ。
つゆでもないのにあめがつづいてる。
やることがなくて、■■ちゃんのへやでおそくまでおはなしした。
■■ちゃんのおはなしはむずかしいけどおもしろい。
10 月 3 日 はれ。
うんどうかいのリレーに出て、ころんだ。
バトンをおとして、クラスのみんなにがっかりされた。
どうして私はいつもこうなんだろう。
■■ちゃんとはおおちがい。
11 月 29 日 くもり。
正くんと■■ちゃんと、おへやでボードゲームをした。
■■ちゃんがおおがねもちになって、正くんとわたしは二人でがんばったけど、
ぜんぜんかなわなかった。
正くんが、りべんじしようっていってた。
りべんじ、がんばろう。
12 月 14 日 くもり。
正くんと■■ちゃんとスキーりょこう。
ぜんぜんすべれなくて、そりばっかりやってた。
正くんは■■ちゃんにすべりかたをおしえてもらったって。
いつか正くんが、わたしにおしえてくれるとうれしいな。
「おかしなところは……特に無いな。どこも変じゃない……」
午後十一時。
真っ暗な自室で、ディスプレイの薄明かりに照らされながらぶつぶつと呟く正和。
「どこもおかしいところはない……。どこもおかしいところはない……。どこもおかしいところはない……。どこも……」
うわ言のように繰り返す声が、部屋の中に響き続けていた。
—
翌々日の月曜日。
六時半を過ぎても、累は、正和を起こしには来なかった。
まだ風邪がよくならないのかなどと考えつつ、ベッドで大きな欠伸をする。
結局、土曜日に家に戻ってからずっと累の日記を読み続けてしまった。
最後まで読み終えたのが昨夜の二時ごろ。
当然かなりの睡眠不足だった。
結局、累の日記の中にはめぼしい情報を見つけることは出来なかった。
果たして彼女は、どうしてこれを正和に見せようとしたのだろうか。
考えようとしても、寝不足のせいか頭は全く回らなかった。
重い体を引きずるようにしてベッドから這い出し、のろのろと登校の準備を始める正和。
窓の外は今日も、しつこく雨が降り続けていた。
—
天気のせいか、教室の中の雰囲気も今一ぱっとしなかった。
いつもより見晴らしのいい自席に座って、地理の授業を聞くともなく聞く。
左側に座る松田と真菜も、どこかぼんやりした表情で黒板の方を漫然と眺めていた。
累が一人いないだけで、正和の周りは驚くほど静かだった。
考えてみると、直接的・間接的問わずグループの会話の起点は、いつも彼女のような気がする。
折角力を合わせて球技大会で優勝したというのに、祝勝ムードは萎んで消え失せてしまっていた。
遅々として進まない時計の針とのにらめっこを乗り越えて迎えた昼食の時間。
「……ここ、いい?累、今日休みでしょ?」
声をかけてきたのは、涼子だった。
松葉杖と固定された足首が痛々しい。
「おう、一緒に食おうぜ」
正和が立ち上がって、累の机を寄せる。
「……ありがと」
小声でそれだけ言って、松葉杖を机に立てかけ、腰掛ける涼子。
その手には、妙に大きなランチボックス。
「桑島、弁当すっげーでかいな。いつもそんななのか?」
「えっ?……は……ばっ、馬鹿!女の子一人でこんなに食べるわけ無いでしょ?!今日は、みんなで食べようと思って持ってきたの!」
必要以上の大声で抗議しつつ、手早くボックスを開く涼子。
中には唐揚げ、フライドポテト、レタスとブロッコリーとアスパラガスのミモザサラダ、プチトマト、スマイルカットのオレンジなどが詰め込まれていた。
正和が歓声を上げる。
「おぉ、これ、もらっていいのか?」
「……一人で食べすぎないでよね?真菜ちゃんと松田の分もあるんだから」
「あ、でも累の分は俺が食っても良い?」
「か、勝手にすれば」
「やり。いただきまーす」
早速鶏の唐揚げをつまみ上げて口に放り込む正和。
「ちょっと!ちゃんと箸使って食べなさいよ!」
「んー、うまい。桑島、いつもこんなん食ってんの?」
「い、いつもはお母さんのお弁当だから、もっと適当かも。私、料理好きで……やりはじめると凝っちゃうんだ」
「え?これ桑島が作ったのか?へぇぇ、すげーじゃん!」
今度はフライドポテトを拾い上げて食べる正和。
涼子は照れくさそうに笑って、もう行儀の悪さを咎めはしなかった。
「なにこれ、うま……。ポテト、いい香りがする……」
「少しだけニンニクのシーズニングをかけてあるの。食べ終わったら、ちゃんとミントのガム用意してあるから。エチケットだから、忘れないようにね」
「サラダも。俺、アスパラってあんま好きじゃないんだけど、これは好きだ……。なんでだろ?」
「ドレッシングのせいじゃない?わさび風味なの。私もそれ、大好きなんだ」
がつがつと食べ進める正和とその様子を嬉しそうに眺めている涼子を尻目に、対面に座っている二人の表情は暗かった。
「……真菜ちゃん?」
「え?何?」
「……どうかした?元気ない?」
「う、うぅん、平気。なんでもないよ」
「マツケンも。どしたんだ?なんか二人して静かだけど……」
「あ、いや……別に……どうってことはないよ」
似たような反応を返して、自分の弁当をちょびちょびとつつく二人。
正和と涼子は顔を見合わせる。
正和としては、涼子の心遣いが嬉しかった。
今日このタイミングで皆の分余計に料理を作ってきたのは、多分お祝いの意味を込めてのことだろう。
だというのに、それに食いついてこない二人の沈みぶりが理解できなかった。
二人の分までと、正和はテンションを上げて弁当に食いつく。
「ポテトフライおかずに飯食うって、変かな」
「す、杉田がそうしたいんなら、別にいいんじゃない?」
「なんかこれ、ハマる味だわ。うまい」
「こ、今度また作ってこようか?」
「え、いいのか?マジで?」
「朝余裕がある時だけだから、そんなにいつもは無理だけど……」
「やったね。ってか桑島、明日からこっちで飯食えよ」
「え、えぇ……?ど、どうしようかな……。歩子が一人になっちゃうし……」
雰囲気の二極化した昼食の時間は、結局最後までその温度差を埋められないままに終わりのチャイムを迎えた。
涼子は何故か上機嫌だったが、正和としては松田と真菜の様子が引っかかった。
累がいないと、その疑問に的確な答えを返してくれる相手もいない。
その日の午後、正和はもやもやとした気分で過ごした。




