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幼馴染はツッコミ待ち  作者: けいぞう
41/98

39

 スローインで試合を再開するまで、試合のタイマーはストップしている。

 しかし、残り十五秒。

 32-33、一点のビハインドで、わずか十五秒だ。


 果たして、どうやって点を取るべきか。

 真菜はもとより、松田は腕が上がるかも怪しい。

 そして頼みの綱の累は、熱病に浮かされたように顔を赤くして、ふらふらと足元も覚束ない。


 まともに動けるのは、正和一人になっていた。


「くそっ……結局最後は俺に丸投げかよ……」


 いつもの癖のように、一つ悪態をついたあとで、自分の心中には全く逆の気持ちが芽生えていることを感じていた。

 正和一人では、こんな場所にたどり着くことは絶対にできなかった。


 松田の提案から始まって、累が涼子を丸め込むようにチームに引きずり込んで。

 放課後の時間、それぞれの門限ギリギリまで練習を繰り返してきた。

 涼子は、初戦と二回戦で目の覚めるような活躍を見せてくれた。

 松田は地味ながらも、しっかりとチームのゴール下を支えた。そして今は活躍の代償としてボロボロの状態にある。

 運動が苦手なはずの真菜も、スクリーンによっていくつかの得点に繋がるプレイをしてみせた。

 

 そして、累。

 作戦の立案から指揮、さらに試合中のゲームメイクや精度の高いシュートまで。

 果たして何役分を同時にこなしてきたのか。

 それは誰あろう、正和のために。

 

 正和は眦を決して、手を挙げてボールを要求した。

 ここは、自分が結果を出す場面だ。

 どんな方法でも良い。この試合に、勝つんだ。


 松田が顔を顰めながら、山なりのパスを送る。

 弱々しくも、ボールはしっかりの正和の胸の真ん中にたどり着いた。


「杉田くん……!」

「……おうっ!」


 力強くボールをつきながら、正和は駆け出す。

 途中、真菜がさり気ない動作でディフェンスの一人にスクリーンをかけて、正和の行く道を広げてくれた。


「杉田くん、お願い!」

「……任せろ!」


 あっという間に相手コートのスリーポイントラインまでたどり着く。

 残り、十秒。


「杉田ーーー!!行けーーー!!!」


 一瞬だけ、流れる視界の端に、松葉杖をついて拳を振り上げる涼子の姿が見えた。

 治療と検査を終えて、戻ってきたのだろうか。

 あれだけ白鳥教諭に言われたのに、じっとはしていられなかったようだ。

 その無茶っぷりが可笑しくて、正和は呆れて、それ以上に感謝した。


「任せろっつってんだろ!」


 胸が熱い。

 漫画で見るような展開の中心に、自分が居ることが信じられない。

 

 残り六秒。

 もう一度、涼子の技を借りる。

 相対するディフェンスの手前でブレーキすると見せかけて、ターンして再加速。

 驚くほどあっさりと、ドリブル突破を決めることが出来た。


 自分が手にするボールに、自分以外の意思を感じる。

 陳腐だが、それはチームメイト全員の想いであると信じて疑わなかった。


 残るはゴール下、累のマークから離れてヘルプに飛び出してきた梶一人。

 梶の顔に浮かぶ表情は、一対一での決着を求めているように見えた。

 普段ならそんな雰囲気に飲まれたりはしないはずだが、今の正和は違った。


 正和に残されたカードはもう一枚しか無い。

 二回戦で勝負を決めたバックステップからのフェイダウェイ。

 どう考えても細谷より梶のほうが背も低くスピードも遅い。

 初見でブロックされるはずはない。

 

(今なら、絶対もう一度決められる!) 

 

 意を決して、左足を前に相手の懐へ食い込む。

 梶の上体は、上手くその動きに釣られて後方へ流れている。

 正和は確かな手応えを感じて、思い切り左足を踏ん張って床を蹴る。


 その時。

 バスケットシューズの靴底と床の間に、誰かの汗の雫が挟まっていた。

 きゅっと高音を立てて滑る靴底。


「しまっ……」


 束の間宙に浮いた正和の体は、ゆっくりと落ちていく。

 残り三秒。

 そしてあと一秒しないうちに、正和の体は床に叩きつけられる。

 立ち上がってシュートを撃つ猶予が、あるかないか。


 真横に傾いた視界の中で、目があった。


 累だ。

 症状の原因はどうあれ、立っているのが辛い状態であることに変わりはないのだろう。

 汗塗れで、苦しそうに喘ぎながらも、それでも正和を真っ直ぐに見ていた。

 

 コンマ数秒の間に、正和の頭の中に様々な逡巡が過る。


 今の状態の累を信じられるのか。

 この場面で、また累に頼ってしまって良いのか。

 最後の最後、自分の手で勝負を決められなくて良いのか。


 全ての要素をひっくるめて考えた上で、自然と正和の腕はボールを押し出していた。

 そこに立つ、幼馴染の手元へ向けて。


 信じるに決っている。

 ここまでずっと正和の願いを叶え続けてくれた累を。

 もし外したって恨んだりなんかしない。誓える。

 自分が不格好だって良い。誰が決めるかなんて、チームが勝つことに比べたら爪の先ほどの意味もない。

 ここまできたら、シュートを決めることが全てだ。

 

「累!決めてくれっ!!」


 残り二秒。


 高い位置でボールを受け取った累は、その勢いのまま高々と飛び上がった。


「正くんが」


 残り一秒。


「そう言うならっ!」


 右手首のスナップを効かせて、ワンハンドで放つジャンプシュート。


 正和のマークに飛び出していた梶も、それ以外の1Cのメンバーも、正和の転倒を予期できるはずもなく、そこからのパスも同様だった。

 完全なるフリーの状態で放ったシュートは、高い軌道を描き、ゆっくりとリングに向けて吸い込まれていき……。


 その中央を貫き、ネットを揺らした。


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