不条理と条理の日常~少年~帰り道
不意に目を覚ますと闇と激痛が走っていった。
視界を妨げるために抉り出されていた眼球。
意識の覚醒と共に痛覚を刺激され口を開こうとして開けず。
自戒しながら何が在ったのかを認識して冷静を戻す。
何かを話している。
内容は自分ともう一人の処遇についての話し合い。
それと解ったのは相棒としてである一人の無事。
でこれはまさに一突きで状況を打開できると思ったが瞬時に流れる未来を映し出す光景は死を意味していた。
選択肢はなく黙って動かずにいた。
感覚では一週間程度だと思っていてたが実質1日も無い。
だから結果、二人ともに解放された。
抉り出された眼球も戻され視界に不具合は、今のところない。
しかし、たった1日であるという事実は信じがたく、感覚的には一週間もの間に拷問尋問詰問され続け疲弊していた。不眠不休食べることも飲むことも許されない完全に権利を無視していた。反論はしても更なる力の前に屈するしかなく、在りも、そして有りもしない話を永遠と語り尽くしていった。
二人同時に軽く伸びをして背後で扉が閉まる。
とっとと失せろ。という有難い言葉を背にして受け取った荷物を確認後に帰路へと一歩を踏みだす。
二人は呆れていた。人生に。違うこれ迄の旅路に。違う。何かと聞かれたら。
「たった一歩でこの状況です、か。ふふ。泣けてきますねぇ。」
「言ってる暇あるなら対処しろ。くそっ。」
この世の不条理に。
違う。
後ろでは警備兵が居たが動かず手を貸してくれる気配すらない。
懇願の視線を送っても我関せずで諦め、仕方なしに対処するが場所が悪いとして引き連れながら逃げを選択。
「はいはい。では行きますよ。」
力を付与した片足を地面に叩きつけ全員の姿勢を崩し、空いた集団の穴へ向かって相棒としている者の腕を掴んで集団から脱出する。
逃げながら自分達が何をしたのか考えても答えなど見当たらず。怒りが込み上げてきた。
停止の指示を出して止まり振り返るも追っていた集団は未だに距離がある。
「走れ地を穿ちて全てを裏返せ。不滅不死を纏え。」
反論する間さえなく集団へ地を力が這い、心臓を違わず貫いていく。
力は貫きと同時に全員を保護するように身体へと浸透していくと全身を細い糸が覆い繭を形成する。直後に皹走り中から全員違わず変わらず意識を失った状態で落ちていった。
呼吸は止まっていて地面へと倒れていく。
動く気配さえない。
「おいおい、ヤりすぎだっ。」
「ああ、それより速く行きましょう後が面倒になりそうですし。」
反論しようとしたかったが何分この状況である。知らない者が見たなら大量殺人現場であろう。
離れるに越したことはない。
だが、二歩も進まない内に次が現れる。
やはり、この世は全て自分達を殺しに掛かっている。と考えながら呆れ果てて尚も相手する。
随分と経過して。
二人は疲れを隠せず地面に寝転がっている。
息も荒く衣服は部分部分で解れや傷が出来ていた。
「吠えないでくださいよ。」
吠えた。
「だから吠えないでと言いましたのに。まったく。どうしてこうも次々と襲われるのでしょうか。甚だしく不愉快ですね。」
「俺が知りたいっての。クソッ。何なんだよ彼奴らは。」
「まあ、大体の予想はついてますけどね。ですが、今はじっくりと休める場所を探しますか。」
「あるのか。」
「さあ、どうでしょう。」
二人は現在、帳が降りる山の中。頂上に近く、かといって下山するには時間もない。さらに人の気配はなく代わりと言うように獣達の気配が此処彼処に感じられていた。
では何故、襲われないのか。理由は。
二人が放つ存在感というか内包する力である。
意識してか知らずかはこの際関係なく、放っている力は間違いなく人一人が放つにはあり得ない規模である。
それが二人同時に存在し且つ肩を並べているのだ。下手に手出ししようものなら被害は甚大である。だからこそ本能に従って見守っているのだ。事態の推移を。
が意思の弱いもの、または衰弱しているものは耐え難く、さらに地面に倒れているという状況である。
簡単に屠ることなど造作もないという思考を短絡的に導きだし襲いかかるという選択を選んでしまう。
案の定である。
しかし、理解出来ないのである。
二人は動いていない。にも関わらず襲った獣は全てが頭部か心臓またはその両方を何かが容易く貫き絶命していった。
さらに二人はその状態でいつの間にか深く眠っていた。無防備に闇が蠢く山の中で。
眠り続け太陽が登り初めて森林の闇を払う頃、二人同時に目を覚ました。
周囲には大きな白い岩と同様に黒い岩とその間に灰色の宝石が在った。
見た感じでは嫌な物でないと判っているのに何か矛盾する感情が込み上げてくる。
が一人の困惑を他所に触れると二人に岩石は取り込まれていった。更なる困惑と小さな戸惑いで今の状態を把握した。
全周に空腹の獣や増強された獣に囲まれているという事に対しての軽い疑問が浮かんでいるがそれは今、考える事ではない。
一定の範囲を警戒してか踏み入れず襲ってくる気配はない。
疑問に達するより二人は獣を殆ど排除していった。抵抗力のない獣、逃走する獣も例外なくだ。
中には子供のような存在もしていたが関係なく排除していった。
では何故、全てではなく殆どで少しを生かしたのか。
理由としては。逃がした獣にも大小の傷を負わせている。
その傷には気付かれにくいように呪いという類いを付与しており、綻びをもって発動と発現を促す仕掛けを施している。
後は勝手に群れなり何なりが滅びていく。
発動してしまえば獣の目には自身を呪いと昇華させるための施しをさらに付与するよう仕掛けている。それをまさまざと動けない状況で見せつけられ負の感情を醸成させながら命を消費していき獣達の遺骸が散乱していく。
慈悲て何それ。腹を空かしたのにそれは酷っ。というのは酷かね。
いや、慈悲を懇願して欲望を崩壊するまで解放しながら親しき仲間を襲撃し負を熟させ自身の崩壊と遺骸との混合をもって残されし漂う力は三つに分かたれ、二人に別たれた後に姿を眩ませた。
残されたのは残骸なく荒れ果てた山々。臭気に満たされ癒えることなく向こう数百年から数千年単位で命の有無に関わらず踏み入れることが出来ないようになった。後で世界が知ることになるがそれはまだまだ先の事である。
死体の全てから剥ぎ取った毛皮を合成させ見繕った器。
中身の殆どを強奪した器が転がる。
僅かに息をしている物もいたが長い苦しみを暫く眺め止めを刺し心臓を全てから抜き取り残りの臓物も合成した器に収納したいえきも可能な限り絞り尽くした後に穴を造って粕を集めて落とし火に掛けた。
昇る煙を眺めることなく二人は朝日を避けて山を進む。
勿くさと小言を言いながら対処している二人は呆れ果てていた。
山を後少しで降りきるという時に何組目だろう相手をしている。
足下には伸した者達が転がっていた。
腕を回しながら次々に地面へ落とす。
数刻後。
呻き声一つもあげずに転がる襲撃者達。
軽い汗をかく一人と涼しい表情の一人。
疲弊はピークを過ぎていた。
最後に立つのは。
二人は背中に大量の汗をかいていることに気づくが考えるよりも姿勢を崩して地面へと伏せてそのまま転がり距離を離していった。
起き上がりと同時に見ると先ほどまでいた場所には大きな穴が空いていた。
空けたのはその存在。
フードを目深に覆い表情は伺えないが姿勢は静かで何かを伴いながら見ているようである。
一人が質問して一人が答えられる。という状況でなく、二人同時に力を放つ、が余裕で避けるという姿勢の間に攻撃を挟み繰り出されてくるという対処しずらく次第に焦りが顔を色濃くなっていた。
更に同じ風貌が追加されていた。
離されるように距離を空けられ視界には、お互いが入らなくなった。
二人は。
不安。
などなく。
嬉々として吠えて、泣いた。
感慨深いものがあり、これが最後で簡単すぎる。
二人はそう思っていた。
学園の為という大義名分を掲げながら治療薬を探すという本来ならあり得ない学園外での行動。それも制限無しである。
自由を謳歌しながら目的の材料を探して約一月であるが、楽しくもあり面白くもある。と同時に鬱陶しさもあった。
それは互いの存在である。
二人は学園の歴史上でも数える程しか存在し得ない最強の称号を付与されるに値するという自覚がある。
勿論、此度が片付けばもしかしたら、と考えが過る。
しかし何故かそういった感情は芽生えないし成長もしない。
目的は学園最強という称号ではなく、最強の二文字。
枠に填まった最強など意味はない。
だからこそ、この任務は強制で無かろうとも志願するつもりであった。
だが、一人で十分だと考えていたのに無駄な同伴者が随行してくる。
邪魔で仕方ない。表面では上手く行くよう行動していたが内心では怒りしか無かった。
なればこそ、この状況は好機にして欲していた時間。
一人だけの行動。
周囲に誰も存在せず、距離も離れている上に見えないという位置取り。
小さな命が消えてしまうが、この際、関係ない。
相手は手を緩めて楽に消滅させられるものではない。
だからこそ全力で対処できるこの位置が絶好の機会だと感謝する。
だから。この先は一方的な殺戮で終わる。
入学を考えて必要以上の訓練を課してきた。家の事情など知ったことではない。生まれは皇族貴族の家系だが家を継げる順位からは遠いこともあって期待はされていない。
だろうから自身には生きるための放逐という意味を込めたであろう莫大な金が積まれている。
小さい時から自由に行動し、幾つもの、普通なら経験出来ないであろう経験を重ねてきた。
潜在的な力も有ったからか、最初から難なく事を運べた。
師と仰ぐ方々にも出会えた。今でも尊敬している。
だが、学園入学に際してのクラスでの出来事は自身を奮い立たせた。久方ぶりに怒りが沸いた。
いつ以来なのか失しているが、それでも沸いた。そして次にはあの事態である。
今回はそれに繋がり最後にこの場面か。
笑えるな。ああ。楽しくもあり嬉しくもあり、そして悲しいな。
俺に対する者がこれとは。はっ。冗談だろ。
見えない全体像は不安を掻き立てるが剥ぎ取った爽快感は何物にも変えがたい。
と正面に構える。
沸きでる考えは多重の結果を瞬時に導きだす。
手加減せず軽く全力を出して倒すのみ。
無意識に口が開く。
楽しみだと体が疼いてくる。
倒れた二人を見下ろす人形。付着する切れ端と焦げ跡はあれど傷は一切無く。表情は動いていないが笑っているようにも見える。
疲れたような笑いだが。
そして二人に施しをして直後に自らを炎上の中で跡も残さず消えた。
残った二人は暫くしてこの地より消失し、次に現れしは懐かしき学園の中庭であった。
出迎えたのは人ではなく、森の番人である。
鼻息一つ鳴らし意識を失っている二人を掴んでそのまま校舎の中へと入っていった。
残されたのは荷物一つ。後で誰かが回収していった。




