不条理と条理の日常~少年~山境
レセンシアを囲む山は僅かな高低差があり海に面した側は特に低く陸側は高いが、僅かな差であり空からの山越えはどう足掻こうとも不可能に変わりなくさらにレセンシアの中心から東西南北に区切って名前が付けられている。
それぞれがこの世界の神の名を関して付けられており、付随するように山岳信仰も根強い事にも一つの原因がある。
南に地の神。
エーズテリオンを捩ってエーズリョン山。
東に戦の神。
グレドリンブを捩ってガリフス山。
北に空の神。
フォーティアを捩ってテイア山。
西に守りの神。
ゴーラキトルを捩ってラートル山。
4つを総合して4神連山と呼ばれている。
二人が欲しているマゴリカの仲間であるカルマードリカは各々の丁度境目に自生しているのであるが問題がある。
「ああどの入り口から登っても。莫大な寄付という金を払わないと駄目なんだと。」
「それは子供であろうと赤子だろうと平等な金額を請求する。拒否すれば、生死の保証はない。でしたっけ。」
「そうだ、それで此処から近い入り口は、このテイア山になるが、戻る猶予は。」
「あるわけないでしょ。それに戻れるという選択は出来ませんよ。」
「進むしかないのかよ。」
寄付という毟取る横暴が許されているのには深いようで全く深くない理由があるわけなく。
単に。
「宗教的な駆け引き。信仰という免罪符をちらつかせて暴利を貪る。」
「そんで、潤うのは幹部のみ、下々には恩恵が涙の方がましな程に酷いもの。で、国に掛け合ったとしても根深く浸透しているから手出しが出来ない。宗教間戦争だな。もちろん物理的なでなく。」
「精神的な感じかな。」
「割を食うのは何時も下だ。」
「まあ、僕達もその内に入るかもだけど。今は置いとこう。でだ、失敗した場合は最悪の手立てしかないよね。」
「まあ、上からだろうな。不可能だろうが。」
山の高低差が存在するということはいくら気流の乱れが絶えず起きていても緩む地点というものも存在する、だが各宗教の聖地とされる上空を飛行する。というのは信者達には耐え難い屈辱である。同じ門徒ならいざ知らず、他教徒が見下すのだ。物理的な形で。だからこそ現在でも山越えは不可能である。
「悩んでいても意味はなさない。で、此のままだと足止め確実だが。」
「さてっさてと、どうしようかな。」
悩むという選択はない。
「一応、位置を把握してるよね。」
頷き荷物から一本のビンを出した。
中には均一にした量の液体が上下に入っている。
揺すりながら回転をかけて真上に投げ地面へ落とす。
乾いた音と共に液体は混ざり地面を固める。
二人は固まった地面をもう一つ作った液体を振り撒きその上に辺りに落ちていた小石を山と積み頂きに枝を突き立てて言葉を紡ぐ。
固まった地面ごと小石を宙に浮かせ高度を保たせてから逆さにする。
小石は地面に落ちず途中で引っ掛かるように止まり二人の視線の高さで広がっていった。
残した方も同じように、違うとすれば奥行きを意識して撒いていく。
「うん。この辺りが入り口で、此処から登ったとしてゲートがあるよね。」
「で、目的の場所は外れてこの道を行くと境界線かよし。」
「汽笛荒ぶる礫かな。クソッ負けた。」
「うしっ囮はお前だ。」
「なんで、可笑しいよね。」
「これを持って速く行けよ。」
渡されたのは小石一つ。
百面してから諦め入り口へと向かっていく。
入り口には大勢の人が押し掛けていた。
長蛇の列に辟易しながら見渡して茂みに隠されるように小さな扉を発見した。
何か切っ掛けを待つように近くでご飯を食べている。列に並ぶことも考えていたが無駄と理解していたから並ばなかった。
と本当に何かが起こり人が慌てふためいている隙に扉を潜って向こう側へと入って閉めて鍵を掛けて封印を施して簡単には開けられないようにして茂みその見えない道を歩いていく。
複数の力を掛けながら進み目的の関門の一つ目。
壁の門。この四神連山は頂上までには3つの壁と言われる高い壁が区画を分けるように区切られているのだが、壁は固く簡単に掘削出来ず全てが繋がったのは百年にも満たない最近の事である。
さてこの壁の門は簡単には開けられない穴に設置された頂上へと繋がる唯一の道。
力を持っているこの世界の人々には無用だと思うだろうが、そうではない。
この連山は不思議なもので全ての理が消滅するのである。
力を持っていようとも入った時には力は失われ肉体のみで登山しなければならない。
一部ではこの消滅の原因を探ろうと研究する者達は存在するのだが現在であっても究明するには至っていない。
さらに、だ。この各連山は先の通り神々の名を捩っているとしても冠していることは周知であり、それは関連する各団体が聖域と呼び妨害をしていることも一因でもある。
例外区域が存在する。
四つの山の間。つまりは境界では力は失われず行使できるのだ。
その道のりは険しく幾つもの難関を突破してたどり着ける一種の聖域。と呼んでも過言ではないだろう。
目的はその地点。の最奥に位置する限られた場所に自生している。
正規では壁の門を通り頂上から滑落するように境へ向かうという方法だが、正規であり時間を浪費する。莫大な寄付金を支払うという無駄な浪費もある。
もう一つはこの陰の門。
道はなく空気も淀み視界は手すら見えない濃度の濃い霧のような塵によって遮られている。
一呼吸で肺を犯され二呼吸で全身に毒性の塵が回り死へと至る。
簡単に除去は難しく抑えることはできても完治することはない。罹患すれば一生ものの病に苦しむことになる。
通常ならだが。
この塵の先に生息するであろうカルマードリカはそれらを根治させることが可能である。
万能に近い効力を有しているという研究もある。だからこれに目を付けた各宗教はさらなる莫大な金額を吹っ掛け、その額は一国をも越える金額を提示している。
馬鹿げた話であるが、これも一種の保護という側面がある。
確かに万能に近い効力はあるのだろうが、その数は非常に少なく違法に採取すれば裁判なしの死刑である。
違法な採取は後を断つことなく年間数十人が処刑されていることは問題視され各国も議題の最重要課題として扱っている。
が、各宗教間での争いも一つの要因となっている。
俗にいうのが宗教間戦争というものである。
各宗教は自身の信ずる神が絶対であり、他は異なる存在として排斥の対象と捉えている。
と今はその様な情報は関係かったと思い直し、霧を見る。
「先は一切見えない。呼吸もままならない。じゃあどうするか。」
荷物を卸し取り出したのは大きな玉。玉の中は無色であるが揺らめいている。
両手で割ると当然、中に納められていた無色の揺らめきは漏れてくる。
すかさず、一気に吸い込み肺で留まらせ一気に吐き出すと無色ではなく灰と四色の光る靄が出てくる。
静かに足元に落ちると残さず消滅していく。
浅く息を整え思考を鮮明にしていく。
と直後に山の地形から目的までの道が脳裏に浮かんでいく。
まだ。霧は晴れていないのにだ。
それでも足踏みなどという浪費は避けたい。思いきって一歩を踏み出し、脳裏に浮かんだ道を辿っていく。
荷物を背負いながらであるが玉の効力により疲れはない。
しかし問題が立ちはだかる。
中間地点である頑丈な壁。上は未だに霧が立ち込め空が見えない。
壁である。左右を見ても上を見ても壁のみ。先の壁と同様の固さと厚さ。
更に霧は侵食している。
侵食してるが一定で霧散していく。
守りたる所以である。
「さて、この先がどう行くかだけど、確か、この辺りに。」
壁と地面の境の少し上に長い筋が一方に続いている。この霧である簡単には見つけられないだろう。
「本当にあった。はは。信じるに値するかな。」
荷物を背負い直して辿っていく。
長くはない筋を辿っていると切れた地点で空間が捻れていた。
「歪みですか。入っても問題ないと思うけど、躊躇するよね正直。でも。」
ままよっ。と大きく飛ぶように入ると全身を刺し貫く気持ち悪さと気持ち良さが交互に襲い来る。
少々の痒みが混ぜられて収まると視界は開けて人の気配がない森に立っていた。
目的地だと理解できる証拠はなく、だが証明はできた。
小さく体の内に力を集中させると溜まっていく感覚が在った。
「ふう。此処が境目というのは判ったけど。で目的のは何処かな。」
見渡してもカルマードリカが見つからない。
「そもそもどんな形をしているのかという根本的な事を忘れてた。」
名前は調べて知っていたが、形、色、大きさを調べても出てくることはなく、二人は結論を出した。
だが、それは矛盾する。
過去に数回違法な方法で市場に出たことが確認している。ならその出所をと思ったが、全ての関係者や場所建物、更には末端に至るまでの人脈全てが根絶やしにされていた。
資料として残されているはずの場所も全てが崩壊や火災や爆発により現在では失われている。
そこまで隠す理由が判らないままにこの場所まで来たのだが。やはり多少の手掛かりだけは確保しておくべきであった。
後悔しても意味はないが。
「手掛かりがないなら他の種を元にして考えてみるか。」
昔。そう小さい頃に家の書庫で暇潰しに本を読み始めたのが切っ掛けだった。
小さな体で外に出ることは当然できず、不貞腐れるように暴れていた。
そんな時、教育係が助言をしたのだ。
『御本をお読みなさい。本は自身を精神的に強くする一種の薬です。知識は生きる上での力となりましょう。偏りなく万勉に読まれれば坊っちゃんの糧となるでしょう。』
と顔も名前も覚えていないけど当時は力が有り余って制御ができず、何時も家を破壊していた。
そうしてその助言に従って初めて入った書庫で最初に呼んだ本から一気にのめり込んだな。不思議と。
で、だ。うんん。たしか見たはずだよな。入学前までに新しく買った本も読んだけど、思ったより詰まらなかったな。知識には変換できたけど。
て、あれいや良く良く。
声に出してしまった事に酷く後悔しながら逃げている。
何から。
視界に存在するのは殺意剥き出しの獣。その後方に一定の感覚で広範囲をカバーするように追従している人影複数。
纏うローブの色で所属が判るようになっているが。
「統一規制だっけか。」
各山には神々を信奉する者達が寝食を共にしている。
混乱を避けるためにこの連山で暮らす者達は例外なく全員が各宗教のイメージカラーを施したローブを着用することを義務付けている。
細かい規定があるのだが、一つの場所を除く。
それがこの山境と呼ばれる境目である。
誰が言ったのか。何時の頃からか山の境目は《せんきょう》と呼ばれるようになって久しく。数々の探求者がこの地を訪れ挫折していく。力の消失が常であるこの連山はまるで救済のように境目だけは消失が起きないのだ。
不思議に思ったものはいたのだが、発見当時は研究の機材や至るまでの考えの思考できる状況ではなく、後の日記とされる後悔手記と呼ばれる一人の書物とカルマードリカの発見が重なり次第に研究されるようになった。
だがその日は浅く今でも究明どころか取っ掛かりすら掴めていない状況である。
脱線した。
そのような歴史は浅くともこの様な場所に咲く植物カルマードリカだがその姿形を把握しているのは所有している四神宗教の幹部上級者のみで更にその一部しか詳細を把握してないのだが過去に数冊発行された書籍。世界の植物という発禁指定された書物。
それが書庫に所蔵されていたから暇潰しに読んだ記憶があった。
詳細記述は無かったがスケッチと画像が添付されていたが記憶の端に追いやったけど。
「思い出した。そうだ。見ていた。知っていたのになんで。ははは。この先の人生で利益になるとは考えなかったから。か。でも思い出して良かった。植生を考えるなら。荷物に有ったよな。」
何処かで確認のために一息つきたいが追って振り払わなければそれすらできず。
走りながら小石を数個と同時に木の枝に少量の土を空の瓶に摘めて言葉を紡ぎながら煙の魔法で視界を遮り同時に瓶を投げ捨てる。
後は材料を混ぜた簡易土人形が出来上がり持たされた小石を深くに埋め込んで茂みに隠れる。
暫く戦闘が続いていたが、材料が良かったのか追ってを退けてから追撃するように姿を消した。
息を静めて少し。気配が完全に無くなったことを確認して荷物を確認すると在った。
一手間掛けて作成した薬を使って一帯の範囲を染めるように掛けていく。
「でも効果まで時間があるし、なら暇潰しに調べてみるかね。見つかれば幸いだけど。」
カルマードリカは効果を期待されているのだが、安定しているわけではない。
ならば、と上回る効能を持っている種を見つければ良いのでは。と考える。
簡単にはいかないだろうと思いながら探して見つけたと思ったら。カルマードリカである。一応は採取して次を探し、手元の小石が鳴り響く。
「お、効果が現れたか。」
小石を地面に放ると消えた。
「お、近くの個体あったのか。て、手に入れてたのか。でもな。」
悩んで。
「よしっ。狩りつくそう。」
思い立って早く、暫くしてカルマードリカは連山から姿を消していた。
後に先の土人形と合わせ大事件として世界に伝播するが犯人を見つけるまでには至らず迷宮となった。
麓の町にて二人が頭を抱えながら後悔したように俯いて悩んでいた。だが誰も関わろうとせず飲食を楽しんでいた。
何故なら二人の回りには加工済みの品々が山と積まれていたのだから。
これ程の量を捌くには時間と労力が必要であり見ていて失敗したとその場にいた全員が思ったが。
山となった量が瞬き一つ2つ3つで消えていた。
収納したと理解して安堵の心を灯しながら全員が微笑みながら一杯を乾杯する。
必要以上の量を確保した二人は学園へと戻るための準備をしていたが、町を出る前に六人の武装した者達に囲まれてしまった。
二人は溜め息を吐きながら抵抗せず素直に捕縛された。




