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金髪碧眼ジト目毒舌悪魔美少年が変態ドMの家に召喚された  作者: 上野衣谷
第二章「男の子に利用されるというドMにとってのご褒美」
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第7話

 スーパーでの一件は、夢か幻かと思っていた俺にとって、姫野さんから声をかけられるということは、俺の認識能力には全く問題がなかったということを事実にさせるためには全く十分であった。

 同時に、これはやはり驚くべき出来事であり、俺は思わず、


「はひ?」


 などと、素っ頓狂な声で答えてしまう。そんな俺の様子にも関わらず、姫野さんは、さも声をかけたことは当たり前だというように、平然な顔をして会話を続行させようとしてくる。


「ごめんねぇ~、あれから話しかけられなくて。ホラ、あいつらいっつもいるからさ」


 姫野さんが指を指す先には、いつもの親衛隊。


「でも今日はおっぱらっておいたんだ~!」


 そのいつもの親衛隊たちは、そのままどこかへと消えていく。それは理解できるのだが、果たして、姫野さんが俺に一体何の用事なのだろうか、という疑問については解決するに至らない。


「明くんはこの後暇?」


 俺が人生で一度でも言われたことがあるだろうかというセリフを投げかけられ、用事があるなどと嘘をつく発想や、一体何を企んでいるのか、といったようなマイナス思考な意見が脳より発せられるより前に、俺は意気揚々と、


「暇!」


 と答えてしまう。冷静な思考回路が働いていれば、何かを怪しむべき場面だ。例えば、そう、壺! 高価な壺を売り付けられるとか、そういうのを! だが、無情にも、俺の身体はそんなことを思考するよりも前に、反応してしまったのだ。悲しき性の定めよ。

 姫野さんは、俺の元気良い返事に、にこっとまぶしい笑顔をこちらへ向けながら、


「じゃ、ちょっと付き合ってよ! ゲーム、詳しいでしょ? 買いたいゲームあるんだ~ 明くん詳しいでしょ」


 少し落ち着いてきた自分の思考を整理しながら、


「べ、別に、いいけど」


 なんていう実になんともかんともな返答をする。明くんて呼ばれること事態が、もはや俺にとっては祝福である。これまで散々なことを言われてきていたにも関わらず、何とも変わり身の早く哀れな男だろうかとちょっとだけ、ほんのちょっとだけ自分でも悲しくなってくる。


「よし、じゃ、いこ~」


 姫野さんは何を思ったか俺の腕を取り、腕を組むようにして歩き出す。一体何を考えているのか、さらに密着するようにしてくっついてくると、そのまま歩きだした。

 幸い、構内は連休前の最後の講義が終わったということ、それから姫野さんと少し話している間に時間が経過したということから、大学内を歩く人の数は少なくなっており、この何とも衝撃的な、そして、仮に親衛隊に見られでもしたら暗殺され兼ねない光景はそれほどの注目を浴びることはない。

 けれども、俺の理性はそうはいかない。

 接しているのだ! いやいや、待て、相手は確かに、俺と同い年の男である。年齢的にも、性別的にも、立派な成人男性である。

 しかし、何故か俺の美少年キャッチセンサーが反応してやまないのである。悔しいことながら、姫野さんは可愛い。控えめに言って可愛い。天使的、悪魔的、可愛さである。よく人には女の子とみ間違えられることがあるらしい。ま、俺から言わせてもらえば、女の子より美少年なんだけどな……すまんな、全国の女子。

 加えて、男の子臭がとてもする。あぁ、ここで言う男の子臭というのは、俺が独自に身につけた男の子を判断するための嗅覚的基準であり、詳しい説明は割愛させて頂くが、どうやら原因は、姫野さんの身長が成人男性にしては低すぎ、その頭が俺の頭の一つ下に位置することにあるようだった。

 また、姫野さんの華奢と表現するにはうってつけな肉体は、それでいて、ゴツゴツとした感じが薄く、中性的という印象が非常に強く持たれる。そんな肉体に俺の腕の一部は接しているのである。もちろん、手の平が接している訳ではなく、腕が部分的に触れているだけであるためしっかりとした感触を楽しむことなんていうのは出来ないのだが、それでも、姫野さんの肉体に接しているという事実を捉えるのには十分過ぎた。

 一言で言おう、興奮する。ここまで密着されると、興奮する、というのが結論だ。


「どした?」


 姫野さんは、それを知ってか知らずか、きょとんとして返してくる。


「い、いやいや、暑いし、ほら」


 俺は精一杯の理性を使い果たし、さりげなく、実にさりげない不自然さのかけらもない理由で、姫野さんの腕を解くことに成功する。


「あっはは、よし、じゃあいこ~」


 姫野さんは、そんなことを言うと、歩いていってしまう。俺はそのままにする訳にも行かず、ついていくことにした。


 向かった先は、出ん社で数駅行ったところにある都会。昔からアニメショップなどのオタクショップが数件立ち並ぶ地域であり、俺が良く同人ゲームを手に入れに行く駅前である。

 道中、姫野さんが色々なことを質問してきたりするので、俺は、本当に、自分を褒めたいくらいの当たり障りのない返答をして会話を切り抜けていた。

 唯一失敗したなと思った返しとしては、


「ところで、明くんって、ホモなの?」


 という質問に対して、


「いや! ち、ちがうぞ!? 俺は美少年が好きなだけだ!」


 と返答してしまったことだろうか。残念ながら、現在の日本語の定義としては、男の美少年好きといえば、言葉の定義的にはホモに分類されてしまうらしい。しかし、そんな細かいこと俺は気にしてないんだけどな。

 そして、それ以上に、その返答の後、姫野さんが一瞬だけ固まったような笑顔、引きつったような笑顔を俺に向けて、数秒停止、なかったことかのように次の話題に移っていったという事実が、この返答は失敗であったと確信させるための材料になっていた。

 しかしながら、そんな一つの失敗はあったものの、後は、おそらく、たぶん、きっと、問題ない返答を行うことができ、会話というものを繰り広げることが出来たのではないかと考えられた。

 本来なら、俺からもう少し姫野さんについて聞きたいことや、話したいことがあったりしたのだが、残念ながら、俺のコミュニケーション能力の欠如故、その高みへ達することは出来ずに、目的の店へと到着してしまう。

 ついた先は、某有名同人取り扱い店。どうやら、姫野さんは、今、というか、しばらく昔から流行っている同人ゲームを購入したいらしいが、シリーズが沢山あり、どれを買ったらよいのかが分からないようだった。

 そして、偶然か運命か、そのゲームは俺がたしなみ程度にはプレイしているものであり、同人ゲーム大好きな俺にとっては非常に都合のよいものであった。ちなみに、姫野さんの名誉のために言うが、断じてエッチなゲームではない。俺だってエッチなゲームしかやっていないという訳ではないのだ! すごいだろう。


「最近来るの久しぶりだな~」


 姫野さんは同人ショップには来慣れていると思ったが、曰く、ついでに買いに行ってもらってる、らしい。きっとついでじゃないだろうな、パシリだろうな、なんてことを思いつつも、口には出さない俺。ちなみに、相変わらず、何故姫野さんが俺と一緒に買いに来ているのかという根本的な理由は、不明、である。


「俺も通販で買っちゃうことも多いけど……たまにはいいよね」

「いいよね! 明くんは、こーいうのが好き?」


 姫野さんが手に取っているのは、えっちな同人誌であった。うん、えっちだ。そして、美少女のものである。断じて嫌いという訳でもないのだが、どちらかというと、俺はもうちょっと別の性癖のものがいい。俺がごもごもとしていると、


「うわ、これなんか、すごいえっちだ~」


 きゃはっとしても言いそうな伸ばすような声で姫野さんが見せてくるが、俺はもはやその同人誌の絵なんて目に入らず、姫野さんの「えっちだ~」という声に魅かれていた。

 ゆえに、姫野さんのちょっとした変化も大して気に留めることが出来ない。姫野さんが次に手にした同人誌、そこには、俺が知っているような、知っていないような絵柄である。


「この人、ボク好きなんだよねー」


 姫野さんはそう言うと、ある一冊の同人誌の表紙を俺に見せてくる。

 綺麗な絵、というのが第一印象。そして、ふと、記憶の片隅に、その絵の記憶があるような気がしたが、今度は「好きなんだよねー」という言葉に魅せられてしまい、


「あ、そう、なんだ~」


 なんていう実に気の抜けた返事しかすることができなかった。それが不満だったのかどうかは分からないが、姫野さんは、ちょっとだけ口を尖がらせて、その同人誌を棚に戻すと、


「さ、ゲームのとこ行こ」


 と、とてとてと歩いていってしまう。何かまずいことでも言ったのだろうかと気になるところであるが、俺がぼんやりと見惚れていたのが問題であるような気がして、少し気を付けようと気を引き締めておく必要があると感じた瞬間である。


 その後は、なんてことない流れ。俺がかつて友達と呼べる存在と遊んでいた頃とあまり変わりなく、目的のものを買った後は、せっかくだからということで夕飯を食べ、さて、そろそろ解散しようという展開になる。

 大きな駅から自宅へ向かう途中、


「僕も帰りこっちだから」


 と言われ、ついてくる。


「あ、僕さぁ、ちょっとゲームの最初の方の流れとか分かんなくて~ 僕もこの駅で降りよっかな」


 それは暗に、お前のうちに今から行くわ~、という小学生的ノリを意味した言葉だと思えるが、俺にとってはもはや誘惑以外の何物でもない。

 半日を共に過ごすうち、俺のちっぽけな警戒心、何過裏があるのではないかという猜疑心は砂糖菓子のようにバラバラと崩れ落ちていた。男とは簡単なものである、と自分で自分を皮肉りたい。

 つまるところ、俺は、この誘いを受け入れざるを得なかった。正確には、返答することができなかった。ゆえに、無言での了承と取られる結果となったし、俺も、多分、それを望んでいたのだろう……。


 駅から家への道中、情けないことながら、俺の頭ではパーティが行われていた。

 やったぜ、男の子がうちに来るぜ! 何年も夢見た憧れのシチュエーションが今ここに達成されるぜ! という祝祭である。

 ヤンという前例はあれど、あれはただの事故。だが、今回は違う。姫野さん自らが俺の家に来ると言い出したのだ。

 そりゃもう祭りも起きる。祭りの結果、俺の警戒心は完全にゼロとなり、もう目の前で繰り広げられようとしているステキチャンスをいかに楽しむかという方向に思考は動きだしていた。早いもんだ。


「──くん! おーい」


 俺がああでもないこうでもないという妄想に浸っているうちに、どうやらもう自宅について部屋に入っていたらしい。

 一つ気を付けなければいけないことをあげるとするならば、今俺の相手をしているのは悪魔のヤンではないということだ。そこに確かな契約がある訳でもなければ、何か弱みを握っているという訳でもない。この関係はイーブン、公平な関係であるのだ。何としても感情の暴走は避けなければならない。あ、もうちょっと正確に言うと、性欲の暴走だけど。


「あ、はいはい、何?」

「何? って、ホラ、早くパソコンつけてよさ! 同じゲーム持ってるって言ったじゃんか。それ見るために来たんだよ? ……あ、それとも、何か他のこと期待しちゃった?」


 俺は、そんなセリフを頑張って無視して、適当に椅子を用意し、自分もパソコンの前に座る。自然に、自然に、行かなければいけない。決して大げさな反応をしてはいけない。


「さて、そろそろ立ち上がる──うっぁああっと!」


 しかし、俺はここに来て重大なミスを犯してしまう。

 そう、俺のパソコンの画面は、決して人に見せるようにカスタマイズなどされていないのだ。うん、当たり前だ、パソコンは言うなれば俺の愛機。百戦錬磨の闘いを共に駆け抜けてきた相棒。誰が人に見せるために自分のパソコンのデスクトップ画面を綺麗になどしていようか。

 俺のパソコンのデスクトップ画面は人に見せるためにあるのではない。俺の、俺による、俺のための画面としてそこにあるのだ。

 つまり──


「あ~ 壁紙のイラストかわい~」


 エッチなイラストだ! 局部が見えているとかそういう訳ではないが、それはもうごく自然と生き生きとした俺が好きな二次元美少年のイラストがデスクトップの壁紙に設定されていたりするのである。

 よ、よかった、エッチなイラストじゃなくて……なんて安心するのはまだ早かった。


「あ、このゲーム知ってる。なぁに? 明くんはこういうの、好きなんだ?」

「えぇ!? あ! な、なんだこれ~? んん~」


 迂闊であった、まさか、俺のお気に入り同人ゲーム群たちをすぐに機動するためにデスクトップに配置されていたショートカットのアイコンを見られてしまったのである。そして、同時に、それらのアイコンやタイトルで、姫野さんが、どういったゲームなのかを判断することが出来るという不幸すぎる事実が俺をさらに圧迫してゆく。

 俺が今考えるべきは、この緊急事態をどう切り抜けるかであった。悪魔の手を借りたい、そう切に願う。

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