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金髪碧眼ジト目毒舌悪魔美少年が変態ドMの家に召喚された  作者: 上野衣谷
第三章「ドMに幸せになる権利はあるんですか」
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第11話

「早速だけど、悪魔。お前、何をした。いや、いい、大体わかってはいるんです──目的は何か、それを聞かせてもらいましょう」


 光霞の表情は鋭い。ヤンの中身を全て見透かすような鋭い表情は、例えこの問いがかましだったとしても、そんなこと関係なしに、何もかもの起きた事を知っているかのように思えた。

 けれども、ヤンも負けてはいない。いいぞ、ヤン、やってやれ、俺はそんなことを心の中だけで思っておく。殴り合いの喧嘩、生死を賭けた死闘に至ることはなかった訳だが、その代わりに行われている話し合いだ。口を出せるような状況ではない。


「なぁにぃ? そんなことを天使さまに言う必要があるってのぉ? そっちはそっち、こっちはこっちでやらせてもらってるんでしょ。魂は取りあい。そちらさんだって景気が悪い訳じゃないっしょ? こんな下っ端悪魔にそんなにムキにならなくてもいいんじゃなーい? あれ、それとも、天使さんはそんなに大した方ではないのかな。そうだよねぇ、ボクみたいな悪魔にわざわざこうして接するくらい、お、ひ、ま、なんだもんねぇ?」


 ヤンの言い方はいちいち嫌味ったらしい。うぅん、いい具合の嫌味ったらしさだ。たまらないねぇ、じわじわと来る感じが。まるでボディブローのような言葉責め──あ、いや、失礼、言葉遣いだ。

 一方の天使さんサイドも負けてはいない。どれだけ煽られてもその表情はキリリとしたままから崩れることはなく、怒りを抱く様子もない。


「ここで言うことでもないが──確かに、私はそんなに上位の天使という訳ではない。しかし、それでも、悪魔。お前一人と刺し違えるくらい、いや、打ち破るくらいの力はあると思っている……が、事は穏便に済ませたい。天使と悪魔の戦争は続いているが、分かっているだろうが、それはもう武力による衝突ではない。経済だ、富、魂、奪い合い。だが、今、そんなことはどうでもいい。問題は、悪魔、君がこの場で魔力を使ったということにある」

「へぇ……言ってくれるじゃん」


 ヤンの不機嫌そうな表情は留まることを知らない。この光霞の発言にも色々と腹が立つ部分があったらしく、光霞の発言の途中途中で、ヤンの眉がピク、ピク、と可愛らしく、あいや失礼、怒りを伝えるために揺れ動いていた。


「いいか、君。思い上がるな。反論があるなら言ってみろ。人間界で許可なく魔力を使ってよいのか、ということに対する反論だ。何か合理的な反論があるのなら聞いてやると言っているんだ」


 光霞の態度が徐々に威圧的になってきているのを感じる。言葉遣いが変わってきているように感じられた。議論が白熱していく、これは、もう、話し合いなんかという生易しい言葉で表現できるものじゃないぜ……そう、これは、そうだな、あれよ、あれ。


「ディベートだっ!」


 あ、しまった、つい言葉に出してしまった。ちょっとカッコイイ響きだと思って出してしまった。俺は、ヤンと光霞二人から、汚物を見るかのような目で見下げられたため、本当にすみません、どうぞお続け下さい、と実に低姿勢な謝罪をして続けてもらうことにする。まるで何事もなかったかのように二人の言い合いは再開される。


「反論? そんなの簡単だよねぇ。なぁに、天使が悪魔の行動を制限していいだなんて誰が決めたのさ? 神様? へっ、神なんて地獄の底にもいるっての。いいか、お前らが煙たがってる魔力の無断使用だってな、こっちはそこまで悪だなんて思われてないんだ。価値観の違い、ってやつぅ? やたらにつけてうるさいよな、天使は。それでも、沢山の人間にボクたちの正体がばれるってのは、それこそそちらさんのピンチなんじゃないのかい? えー?」


 うんうん。


「ふむ、それは確かにその通りかもしれない……だがな、こうして話し合いを持ちかけているのは何故だかわかるか? それは、私が無理やり力づくで、魔力の使用を制限するということをせずに忠告してやっているのだ。そして、一つここで譲歩する条件をやろう……今、お前が手に入れようとしている魂、それを諦めろ。それで今回の件は不問にしてやってもいい」


 うんうん。


「なぁにを偉っそうにっ! だからさ、さっきも言ったけどさ、不問も何も、そもそもの話が、ボクがあんたに譲歩する必要なんてなーんにもないのっ! 大体、魂を諦めて、それが何になるってのさっ! こいつはどーせ地獄行きだよ!」


 うんう、んん??


「いやいや、待て待て、俺、地獄行き!? なんで!? そんなに悪いことしたかなぁ! 人生において!」


 俺は堪らず二人の会話に入ってしまう。いやいや、だってさ、普通に考えてだよ、自分が地獄行きだなんてことが目の前で論じられていて口を出さずに見過ごせる訳ないよねぇ!? いやね、分かってるよ、ホラ、俺、七つの大罪的な何かを常に犯してる気がするし……いや、分かってるけど、でもさ? でもね、別に人様に迷惑をおかけしている訳でもないじゃない? それで地獄行きだー、って悪魔に言われるの、なんかー、こう、もやもやするというか、ね……? 分かりますよね。

 だが、ヤンの返答は、


「うん、した」

「してるな」


 追撃とばかりに光霞まで同調してくる。


「ええっ、なに!? なんで? 共同戦線!? まさかの天使と悪魔の共闘!? 共通の敵がいると仲良くなれちゃうの!?」

「共闘も何も──田中くん、君は、悪魔と契約なんていう大罪を犯しているじゃないか。色欲を大きく犯しているということも大体検討がついている。後者だけならともかく、その欲求を満たすために悪魔と契約するだなんて……」


 ざわざわとした食堂内だから良いものの、こいつ平気で天使だの悪魔だのさっきから……。いやそんなことはいい、そんなことはいいんだ。


「いやいや! うん、確かに、そう、そうかもしれない……ですけどね!? あー、でもほらさー」

 

 あ、だめだ、反論思い浮かばないわ。そりゃー、悪魔と契約しちゃったらなぁー……あっはは~。


「でも、それなら! それなら、もう手遅れってんなら、俺はもうヤンと一緒に居たい! いいか、よく聞け、天城光霞。お前は、なぁ、そんな容姿端麗でモッテモテで女遊びとかしちゃったりしてるとかなんとか聞くしな~、この~、馬鹿野郎~!」


 語彙力のない俺の言葉が果たしてどこまで光霞に刺さったのかは不確か過ぎるが、光霞は、はぁ、とため息をつく。


「ほらな、見ろよ、クソ天使。契約者がこう言ってんだから契約を解除することなんてできないんだよ~、だ! へへーん! ざまぁみろぉ!」


 ヤンが調子に乗る。でも、いいぞ、その調子だ。どーせ地獄に落ちるなら、魂なんてヤンにくれてやる! 俺は今生きていることを信じるんだ! 死んだ後のことなんて知ったことか、ってんだ!


「……あのねぇ、いいですか、田中くん。私は天使ですよ、こう見えても」


 うん、まぁ、見た目は美しい。天使とか、良く分からんが、見る人が見れば、天城光霞は天使と形容されてもおかしくない見てくれだ。その光霞が続ける。


「あなたを救ってあげようと言っているんです。分かりませんか? 私の教えに従って、敬虔に生きることで、貴方を地獄から救ってあげようと言っているんですよ。もちろん、今すぐに、この悪魔との契約を断ち切る、それが条件ですがね」

「なん、だってぇ……」

「おい、こら、騙されるな、ボケ! お前は一生ボクの下僕でいればいいんだよ」

「あー、ちょっと、ヤンうるさい!」


 なぁあああ、と切れて今にも殴りかかってきそうなヤンを視界から外し、俺は考える。考えなければいけない、俺は今目の前に突き付けられている二つの選択肢に対して、どちらを取るか真剣に考えなくてはいけないのだ。

 一つ目、ヤンとの契約を続行し、毎日きゃっきゃうふふな桃色な悪魔っ子との二人ラブラブむふふ生活を続ける──あれ、なんかちょっと違うかもしれないけど、そういうことにしとこう。

 二つ目、今、ここで、ヤンとの契約を破棄し──手段はよくわからんが、光霞が言うのだから多分出来るんだろう──死ぬまで敬虔な生活を送り、神へと祈りを捧げ、多分、想像するに、色欲は勿論のこと、怠惰だとか、憤怒だとかを捨て去って、誰かからひっぱたかれようとも、金を奪われようとも、微笑みながら、いいよ、いいよ、って返して……いやいや、別にそれが悪いって言ってる訳じゃないんだよ? うん、素晴らしいことだよね、人間ってすごい、崇高、人、万歳、あ、話が逸れた。

 その二つの選択肢のどちらを取るか、という事を迫られているのだ。どちらを取るか……どちらを取るか……。

 俺が悩んでいるのを見て、ヤンがおっかない顔をしている。わっ、こわっ、可愛いッ、ふうふふふふ。


「だめだー!!」


 俺は叫んだ。流石にがやがやとうるさい食堂でも、俺の叫び声は響き渡ってしまったらしく、数人がこちらを向く。どうしようと固まっていると、それらの人は何事もなかったかのようにそれぞれ元の行動へと戻ってくれる。世間、冷たい、最高。


「いいか、言うぞ、答えを。俺はな……俺はなぁ……俺の夢はなぁ……金髪碧眼ジト目毒舌悪魔美少年になぁ、金髪碧眼ジト目毒舌悪魔美少年に、たぁくさん虐めてもらってなぁ、そうやってな、毎日を過ごすことなんだよぉ~! 分かるか! あんたに! 天城光霞! あんたに俺のこの精神の昂り、いや、人間として実に真っ直ぐで潔いあるべき姿が分かるのか! いいよなぁ、あんたは、何もかもに満たされてるんだもんなぁ! でもなぁ、俺を見てくれ、俺を」


 俺はいつの間にか涙目になって必死に食らいつくようにして光霞に語っていた。


「別に、俺が不幸だったとか、俺が格好良く生まれなかったとか、そんなことを言ってるんじゃあねぇんだよ、持ってしまったんだよ、この性(さが)を! いいかぁ、ドMで美少年好きなんて前世で何をやってどうやって輪廻が回ってるのか、んなことしらねぇけど、持っちまったんだよ、ドMで美少年好きっていう性癖をさぁ! 別に不幸だなんて言わねぇよぉ? いいだろぉ、楽しめて、うっひっひ! 皆が楽しめないことがこの上なく楽しい、そんな男に生まれちまったんだよなぁ、俺っていう人間はよぉ。じゃ、聞かせてもらうよ、天使さん。天国に行ったら、ドM美少年好きは満たされる生活を送れるんですかぁ? あんたみたいな美青年──いや、というか、天使美少年、天使のような美少年が俺のことを虐め倒してくれるんですかぁ!? それとも、俺のこのドMで美少年好きっていう性癖を綺麗さっぱり取り払ってくれて、それの代わりになる素晴らしいなにかを与えてくれるって言うんですかぁ!? ドMに幸せになる権利はあるんですか! どうなんですかぁ、答えてくださいよぉお」


 半ばやけっぱちだ。もう何がどうなろうと知ったことじゃねぇ、光霞がそれでも救えるっていうのなら、考えてやらんこともない。が、無理だろ、な、おい、おら! なんとか言ったらどうなんだぁ! ふふっ、熱く語っちまったぜ……。

 俺は燃え尽きたように、ふぅとため息をついて、光霞の返答を待つ。俺のあまりの剣幕にヤンは少しびびってる、いや、というか、引いている。光霞はどうかというと、何とも煮え切らない顔をしていた。何かを考えているのだろうか、ぶつ、ぶつ、と呟いている。

 そして、何かを決心したように、顔を俺に向けた。


「貴方の言い分は分かりました。ええ、そうですね、分かりましたよ。そして、計算はほとんど合っていました。私の情報網、舐めないでくださいねぇ……いいです。大丈夫です。計算通り、あなたはとんでもない人だった。やってみせましょう」

「な、何をやる、ってんだだだ」


 俺は若干震える声で返す。こえー、こえーよぉー、天使に対してあんなことまくしたてちゃったんだから、何かとんでもない天罰とか下されちゃうんじゃないんだろうなぁ? いやだよぉ……。


「安心してください。もう用は済みました。悪魔、田中さんの言い分を知ることができましたからね」


 光霞はそう言うと席から立ち上がる。


「へっ、なんだぁ? もういいのかぁ?」


 ヤンが得意げな顔をして光霞を煽る。まぁ、俺があれだけむちゃくちゃ言ったから、ヤンとしても胸がスカッとしているのかもしれない。よっしゃ、後でご褒美でももらわないとなぁ~、これは。靴下とかくれるかなぁ~、ふっへっへぇ。

 けれど、光霞はそんな挑発的なヤンに対して、一瞥しただけで言葉を返すこともなく、そのままコツコツと去っていってしまう。


「……あんでよかったのかなぁ」

「いいんだよぉ~、お前にしてはよくやったじゃん~」


 ヤンが笑顔を俺に向けるだなんて、俺、明日とか、死ぬんじゃなかろうか……よし、絶対にご褒美貰おう。俺はそう決意すると、帰宅することにした。

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