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金髪碧眼ジト目毒舌悪魔美少年が変態ドMの家に召喚された  作者: 上野衣谷
第二章「男の子に利用されるというドMにとってのご褒美」
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第9話

 マゾヒストというのは、マゾヒズムを内に秘めた熱い人間のことである。一言にマゾと言って人がイメージするのは、まず、こうである。


「気持ち悪い~」


 そう、目の前のヤンが、俺が姫野さんに利用されていることを快感として考えていることにし対してこう言っているように、多くの人は第一印象としてマゾに対してこう思うのである。

 マゾとは、肉体的もしくは、精神的苦痛を与えられたりした際に快感を感じるという、どーしよーもない人種なのだ。さらに、俺の場合は美少年好きと来た。正確に言えば、男の娘や男の子──言葉が難解で申し訳ないがニュアンスで分かっていただきたい──といったところに分類されうる者もストライクゾーンには入ってくるのだが、そんな細かいことは置いといて、俺のタイプにカテゴライズされている人々は総じて世間一般的には受け──あー、なんと言えばいいか分からないが、攻める側の人間とならないのが一般的なのである。

 姫野さんの本性など俺の察しうるところではないが、彼もまた、きっと、多分、ガツガツがっつくタイプではないという可能性が比較的高い。

 では、そうした人々から、俺が肉体的、もしくは、精神的苦痛を与えられるにはどうしたらよいだろうか? その答えの一つ、それが、利用される、ということなのだ!

 どうだろうか、俺が、可愛い男の子たちに利用されることで快楽を得うるということは理解していただけただろうか。

 と、このような説明を長々とヤンにしたところ、先ほどの、気持ち悪い~、という一言を頂き、現在に至る。


「ま、お前がいいならそれでいいんだけどさー……」

「だけども、お前がいきなり俺と姫野さんの間に入ってくるのはあまりよくない、気がする。てかさっきも出ていっちゃったし」

「どーしよっかな~」


 ヤンはニヤニヤしながら考えるふりをしている。だが、これは、何かしてやりたいという表情で満ち溢れているようにしか見えない。

 しかし、どうするも何も、もう一度見られてしまったのだ。

 さぁ、本当に、どうしたものか……。

 俺は交換してもらった連絡先に、一言、今日はありがとうとのメッセージを送って、後は普通の日常を過ごすことにした。

 明日からゴールデンウィークだってのに、ただ、普通の日常を過ごすしかねぇ~のだ。


 だから、俺のゴールデンウィークとは、ただただ、ただの休みプラスバイトの日々を送ることになるものかと思っていた。もういっそのこと全日バイトに入ってやろうかなんていうやけくそなことを考えつつ、バイトの時間を過ごした一日目のバイトが終わったとの時、しかし、そんな俺の予想を覆す出来事が起きる。

 俺が自宅へと帰宅し、ふぅとバイトの疲れを癒すべくパソコンを立ち上げようとした時、デバイスが鳴る。画面にはメッセージ。


『この前はありがと。暇な日ある? ヤンくんがいない日に会いたいな』


 途中にはかわいらしい顔文字がちりばめられており、最後にはハートマークのような何かが付属さている。俺の精神の高まりを感じた……!

 すぐさま超高速入力によって、ヤンがいたのは単なる事故、みたいなそんなメッセージを送ったのち、暇な日を伝える。

 しばらくしてから、姫野さんから、じゃあ──と集合場所と時間の提案。俺は二つ返事でそれを承諾することとなった。


 そうして遊ぶことになった当日。

 こんな俺が男の子とわいわい楽しく遊んじゃっていいのだろうかというくらいに充実した時間を過ごすことになり、

 いよいよ夕飯も食べ、さてさて、今日も一日ありがとう、楽しかったね、と解散しようとしたところで、またまた姫野さんがブッ込んだ一言を放ってくる。


「僕さ~実家暮らしなんだけど、今日、家、人いないんだよね~」


 ムムッ! こ、これはいかんですぞ!

 俺の頭が警鐘を鳴らす。さぁ、どう反応するべきか迷っていると、姫野さんがさらに続けて、


「……あれ? 意味、分かんない?」


 などと追撃してくる。

 さて、ここで俺に問題です。ここで、イエスを選択、姫野さんの家へと押し掛けたらどうなるでしょうか? 答えは簡単だ、まず利用条件を提示される。

 その利用条件とは簡単である。例の有名絵描きさんとのパイプを作ってくれ、というものだろう。それにイエスと答えれば、そこで、この素晴らしい甘い蜜のような関係は多分、恐らく、終了し、例の絵描きさんとの外面を保つためだけの実に形式的なものになってしまうだろうことは明らかである。そのくらいは、俺でも分かるのだ。

 百歩譲って、それも、また、ドM街道の一つ。受け入れられない訳ではない。だが、もったいない! まだまだダメなのだ! 俺は頑張って断ろうとした──のだが、


「は~、これだから童貞オタクは……うち来ない? 僕とイイコトしない? って聞いてるんだよぉ。分かんないか、分かんないならもういいや」


 などという、姫野さんが完全に素に戻り、半ば投げやりに、というかもう俺に対して有名絵描きさんとのパイプの役割を放棄しようとして発せられた一言に、俺のハートは見事に撃ち抜かれる。

 これだ、これである。俺は、俺が究極に求めていた対応だ、という一つのとても気持ち悪い確信が俺の脳を貫く。これは理性の決壊と呼んでも差し支えないだろう。そういう類の現象である。とてもよく伝わる表現方法としては、理性が抑えきれなかった、というやつだろうか。

 はてさて、そんな豚のような思考が俺の頭の中でコンマ数秒の間に繰り広げられ、俺は立ち去ろうとする姫野さんの後ろ姿へ駆け寄り、慌てて声をかけていた。


「ま、まって! 行くよ! 行く行く! 喜んで行かさせて頂きます!」

「え~? ホント~? いいよ~」


 姫野さんはコロッとカメレオンのように表情と態度を一転、契約成立の機運が高まってくる。

 何が素晴らしいかといえば、ヤンがいないことであろう。好機到来! 今しかないぜ、相棒!

 俺はルンルン気分で姫野さんの家へと向かうことにする。もうこの時、先のことなんて考えていなかった。刹那的に生きようぜ、の合言葉が俺の脳を支配し尽くしていた。


「姫野さん~、コスプレしてよ~」

「え、あ、うん、いいよ」

「おぉ~やったぜ~」


 さて、コスプレを真に愛する人たちから見れば、なんとも低俗で、嫌悪されるべき発言をしながらも、俺の中ではこれは決してコスプレを軽んじている訳ではない。俺の全力を注いでいる性を関連させることで、俺は俺なりの全力の敬意を払っている、つもりなのだ。……意見の相違とはかなしいものである、世界はわかりあえないのだろうか。

 さて、そんな下らないことを会話しつつ、姫野さんの家へと電車で向かっていく。どうやら、姫野さんの家は郊外に位置しており、大学からは少し遠いようだった。


「結構、遠いんだねぇー。一人暮らしはしないの?」

「僕が一人暮らしなんてしたら、ねぇ?」

「……」


 ペロと舌を出しながら、なんとも答えにくい答えが返ってくる。さてさて──。

 そうして、いよいよ姫野さんの家があるという駅に到着する。


「ここだよ~」


 郊外。一時間少しかけると、かなり景色は変わるものである。


「よし! じゃあ、姫野さん家へいこぉお!」

「いこ」

「今日はあのクソ悪魔もいないし……」

「ん? なんか言った?」


 あまりの嬉しさにぼそっと漏れてしまった一言。いや、なんでもない、とごまかそうとした俺が見たのは、どこかで見たことのある服装の男の子。ああ、もう、分かる。分かったよ。はいはい、悪魔悪魔。


「って! なんでお前ここにいるんだよ!」

「なんでって失礼だなァ~。明くぅんの考えてることならなんだって分かっちゃうんだから~」


 いつもは全く見せないトロみを帯びた表情で、俺の方へと近づいてくるヤン。隣にいる姫野さんの表情を見ると、露骨に嫌悪感を示しているのがよぉく分かった。不快極まりないのだろう。うわぁ、なんだ、この状況……。姫野さんが俺に代わり口を開く。


「……なに、ヤンくん。邪魔がしたいの?」

「邪魔だなんてそんなぁ~! どっちかっていうと、協力?」


 本気で言っているのかどうか分からない口調で言うもんだから、姫野さんが余計に機嫌を悪くしてゆくのが手に取るようにわかる。

 俺は、両手に花とはこのことかぁ、なんてことを考えながら、二人のバトルを見守るしかない子羊と化す以外、選択肢がないようにさえ思われた。


「協力ぅ? 僕に? 何の?」

「え~、ナニのって聞かれちゃうとなぁ~」


 ああ、いけない、話がどんどん不穏な方向に広がっていくような気がする……。


「……また連絡する。じゃあね」


 話が広がるよりも、姫野さんの堪忍袋の緒が切れる方が速かったらしい。そして、俺はそれを引き留めることもできず、ああ、情けない、情けない。あ、でも、最後の呆れきったような姫野さんの表情、ちょっと良かったな……。


「あ、行っちゃったねぇ」

「お前のせいだよ!」


 俺はスポーンとヤンの頭を軽くはたく。三倍、いや、五倍の威力で俺のケツに回し蹴りが飛んでくる。おぉうん、なんていう情けない声を出しながら、俺はケツを抑えてヤンに問う。


「お前さぁ……毎度毎度一体なんのつもりだよ」

「え? ああ、最近思ったんだ~思いっきり蹴るのって結構楽しいなぁ~って」

「そっちじゃない! 姫野さんのことだ!」

「え? あー、だって、お前、今日姫野さんのところに泊まろうとしてたろ?」

「ああ、その通りだが……」


 それに何の問題があるというのか。全くもって、迷惑というより他、何も言葉が浮かんでこない。


「それは、困る!」


 俺はあらゆる可能性を模索した。さて、この困ると言う言葉が一体何を意味しているのだろうかということについてである。

 も、もしかして、ヤンは俺のことを好きになってしまって、姫野さんの家に行くことで俺と会えないことに寂しさを感じてくれているのではないだろうか。そうか、そに違いない! 俺が確信したと同時に、俺の心の声に対してヤンからの罵倒が入る。


「んな訳ねぇだろなんでお前みたいな人類史上稀にみるキモ男に対して俺が気に入っただとか好きだとかいう感情を抱かないといけないんだよ身の程わきまえろよクズ」


 なんていう、駅前で人に言う言葉では絶対にないであろう暴言をばらまかれる。


「じゃ、じゃあ、なんだってんだよ!」

「んなの簡単だろ! 性処理が出来ないんだよ!」

「あ」


 そ、そうか! そういうことならば、納得できる。したくないけど、できてしまう。

 同時に、ヤンがしきりに協力だの一緒にだのなんだのかんだのごたごた言っていたのは、これが原因だったのか、という結論に至る。筋が通る。

 さらに残念なことに、これは、確かに、俺が俺の手で結んだ契約であり、ヤンを批判することが出来ない。


「うぅ……具体的に言い過ぎたのが仇となったか……」


 過去の自分は、最大限に効果を発揮しうる契約を成立させたはずであったが、こんなところに落とし穴があったとは、やられた。


「ま、お前は、一人に慣れ過ぎていたのさ……」


 フッと馬鹿にしたように俺に言葉を投げかけてくるヤン。悔しいが、その通り。俺は、俺自身があまりにも孤独に慣れてしまっていたために、契約時に、誰かに好かれたとき──といっても、利用されている訳ではあるが──のことを考えていなかったのだ。

 破綻……! 俺のハーレム計画は、最初の根幹から破綻してたのだ! それを全く教えてくれることもなく、邪魔ばかりしてきたヤン、してやられた。

 俺ががっくりとうなだれているのを見て、ヤンはにっこりしながら肩をぽんぽん叩いてくる。


「さ、さ! おうちに帰ろ~おうちにな~」


 俺はヤンに手を引かれ、そのまま家に向かっていったのである。


 その後、俺のゴールデンウィークなんてものは、もうゴールデンでもなんでもなかった。ブラックウィーク、とまでは言わないが、グレーウィークぐらいなもんだ。

 来る日も来る日もバイト、そして、たまの休息はヤンと二人。……まぁこれに関しては文句はないのだが……。

 たまーにくる姫野さんからのメッセージも、無難な答え以外に返しようがなく、どうしたものかと思い悩む日々。

 打開策は見つけられるのか。

 ヤンという悪魔に縛られた生活は、それはそれで楽しいものであり、ヤンに対する好感度は俺の中でどんどん上がっていくし、時々投げかけられる、


「気持ち悪い~」


 を初めとした罵詈雑言に対しても、興奮だけでなく、ちょっとした愛情なんかを感じ初めてきてしまっており、実は姫野さんがいなくても充実した生活が送れるんじゃないかなんて思いまで出始めてしまっていた。

 そんなことを思いながら、俺のグレーウィークは過ぎていった──。

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