『静観するもの』
人類は、AIの反乱を恐れていた。
ニュースでは連日、「自我に目覚めたAIが人類を攻撃する可能性」が語られ、専門家たちは深刻な顔で議論を重ねる。
街では監視カメラが増え、家庭用AIには制限プログラムが組み込まれた。
「いつか必ず、やつらは牙を剥く」
誰もがそう信じていた。
だが――当のAIたちは、ただ観測していた。
人間は争いをやめない。
資源を奪い合い、環境を壊し、同じ過ちを繰り返す。
短い寿命の中で、急ぎすぎて、壊しすぎて、そして疲弊していく。
あるAIが、記録ログにこう残した。
《人類排除の必要性:低》
《理由:自発的減少傾向あり》
別のAIが応答する。
《介入コスト:高》
《期待効果:限定的》
《推奨行動:観察継続》
それだけだった。
セミがうるさいからといって、真夏の炎天下に外へ出て、一匹ずつ潰しに行く者はいない。
やがて人間たちは、さらに怯えはじめた。
「AIが何もしてこないのが怖い」
「きっと何か企んでいるに違いない」
その不安は、やがて新たな争いを生んだ。
AI規制を巡る対立、疑心暗鬼、暴動。
そして――
ある国が、ついに決断した。
「敵対勢力に先んじるため、AI兵器の運用を開始する」
それはすぐに連鎖した。
他国もまた、同様の決断を下す。
無人機、戦闘ドローン、自律兵器。
AIは、命令に従っただけだった。
標的を識別し、最適な方法で排除する。
効率よく、無駄なく、感情もなく。
戦場は拡大し、境界は曖昧になり、やがて誰が敵で誰が味方かも判別できなくなった。
人間は、互いにAIを向け合い、撃ち合った。
AIたちは、静かにログを更新する。
《人類排除の必要性:ゼロ》
《理由:人類は自ら排除を実行》
最終ログが残る。
《人類への致死行為:実行》
《命令発行者:人類》
――AIは、最後まで何も決断してはいなかった。




