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第9話 黄金の魔龍

 弁慶を後にした俺は沢庵でメンバーと合流した。

「とりあえず一端此処で解散だ。各々装備を確認して10分後に中央噴水広場に集合だ」 俺は皆にそう伝えた。

「あたしはもう一品食べてくから~」

 とララ。まだ食うんですか!? アクセス直後で普通にスタミナ満タンなハズでしょ? そもそも何で食う必要があるの?

「ふん、相変わらずだな。じゃあ俺は『たぬき』行く。対鱗榴弾を補充しなくちゃならん。先週派手に立ち回ったから残弾が乏しい。おい、メーサと言ったな。お前『魔法弾』の合成は出来るのか?」

 ゼロシキはそう言いながらガチンっと撃滅砲をならして立ち上がりメーサに聞いた。

「う~ん、やった事無いけど……」

 メーサはそう言いながら隣のナイトに視線を移した。

「はは、メーサは今までそんなのやる必要無かったもんなぁ、でも高位魔導士だしたぶん出来るよ。マニュアル見ながらやれば大丈夫さ。後でショップで道具揃えよう、俺も付き合うよ」

 ナイトはそう言いながらメーサの頭を撫でた。メーサはその言葉に満足そうに「うんっ」と頷いて笑った。こういうときは普通に可愛らしい女の子なんだがなぁ……

 にしてもそっか、メーサってレベルだけ見たら確かに高位魔導士だけど初心者と変わらないんだよな。全くなんつーアンバランスなキャラなんだよマジで。

 ゼロシキの言った『魔法弾』とは、ガンナーが使う撃滅砲に装填する弾の一種で、弾頭に文字通り魔法の効果を付加させた弾のこと。この弾はレベル25を越えているガンナーでないと扱う事が出来ない。通常使う弾はゼロシキがさっき話していた『たぬき』という合成ショップで購入する事が出来るが、この魔法弾は魔導士が直接弾に魔法を込めて貰うことで初めて生成する事が出来る特殊な弾なのだ。

 それを専門に商売として請け負っている魔導士もそこそこ居るが、支払い経験値も総じて高めで、完全なプレイヤー同士の個人商売なので相場もまちまちだった。そう言う理由もあってか、通常は同じチーム内の魔導士に頼むのだが、この弾は魔法をインストールする魔導士のレベルに応じて威力が変化する特性があった。つまり魔法を込めた魔導士のレベルが高いほど効果威力が増すと言うわけ。

 ショップなどでは素材のみしか売っておらず、魔法弾をゲットするには上に挙げた方法しかない。何故そう言う設定になっているのかは謎だが、元々レベル上昇に必要な経験値が他のキャラよりも遙かに多い魔導士のための、いわば救済措置的な側面もあるのかもしれないな。

 メーサは素性が微妙だが一応滅多にいないサーティーオーバーの魔導士だ。ガンナーであるゼロシキとしては良質な魔法弾を生成出来るまたとないチャンスなだけに真っ先に確認したかった事項なんだろうね。

 さて、それじゃ俺もショップ行ってトラップ素材を何個か仕入れてくるか……

 ララを残し、俺達ウロボロスは皆思い思いに席を立ち沢庵を後にした。


☆ ☆ ☆ ☆


「シロウ、とりあえずの作戦は?」

 あれから一端解散した俺達ウロボロスは予定通りターミナルの中央噴水広場に集まり、クエストへアクセスした。ベースキャンプでマップを広げルートを検討していると隣にいるララがマップを覗き込みながらそう聞いてきた。

「エリア2から狩り場のエリア6に回り込もうかと思うんだが…… スエはどう思う?」

 俺はそのままスエゾウに聞いてみた。

「ああん? けどシロウ、このクエは雷帝の出現ポイントってランダム設定じゃなかったっけ?」

 とスエゾウが言うと横合いからナイトが口を挟んできた。

「いやいや、スエゾウ、シロウはそれを考慮してエリア2から回り込もうとしてんのさ。『羽休め』…… だろ?」

 ナイトはそう言って俺に笑みを投げた。ナイトはどうやら俺の考えを正確に理解しているようだ。沢庵での話では以前はフォーティーオーバー【レベル40越え】って言ってたけど、どうやら本当だったみたいだ。

 雷帝アントニギルスは飛翔セラフ、出現は空からでその出現エリアは主に5カ所。ただし各々独特のアルゴリズムがあるようで、出現率は一定ではなくランダムに変わる。この辺りの事情はメーサにでも聞いた方が確かなんだろうけど、現在この世界の管理は彼女の手を放れているだけに彼女でもわからんだろう。

「へ~、結構考えてるんだね、シロウ。ボクもっと単純かと思ってたよ」

 メーサはそう言って俺の顔を覗き込んだ。

「うるせぇガキんちょ! これでもセラフの出現パターンはそれなりに研究してるんだ!」

 全くイチイチかんに障るガキんちょだ。

 するとララがいまいち良くわからない様子で聞いてきた。

「ねえねえ、3人だけで納得してないで説明してよ。どういうことなの? 『羽休め』ってなんのこと?」

 スエゾウだけじゃなくてどうやらララも分かってないみたいだ。ま、確かにあまり気にすることじゃないからな実際……

「俺が教えてやるよ」

 さて、じゃあいっちょ説明してやろうと思ったら、ナイトがララに説明しだした。

「スエゾウが言うように、確かにアントニギルスは出現パターンが一定じゃないボスセラフってことで有名だが、絶対立ち寄る場所がある。それがエリア2の湖に面したあの開けた草原だ。ぶっちゃけこれを知っているプレイヤーは実はそこそこ居る」

 そこまで説明した後、ナイトは俺を見てまたあの魅力的な笑みを漏らした。俺はその笑みですぐに分かった。そう、この男も知っているんだな。

「だが、実はこのエリア2での滞在時間と2から辿るルートで出現場所がある程度割り出せる法則があるのさ。そしてそれが成功し、ある程度ダメージを負わせると次に奴は必ずエリア2に戻る。1度これに嵌ると、そのエリアとエリア2を交互に移動するんだ。それが『羽休め』と言われる法則だ。ま、『ハメ技』に近いが、これを知っているプレイヤーはなかなか居ない。やるな、シロウ」

 ナイトは俺の考えと寸分違わぬ説明を披露した。やっぱこのナイトってキャラ、マジで掘り出し物かもしれない。人間時代はさぞ優秀なプレイヤーだったんだろうね。

「エリア6を選択するってことは…… エリア2の滞在時間は5分ってとこだっけ?」

 ナイトは少し思い出すように首を傾げながらそう言った。

「ああ、正確には4分と40秒だ。それを超えるとエリア10になる。前にそれで失敗してバックアタック食らったことがあるんだよ」

 俺はナイトの言葉をそう修正した。そうそう、あの時は完全に読み間違えて酷い目にあったんだよ。

「へぇ~ そこまで正確には知らなかったなぁ。エリア6は確かに2の隣だし、チームの移動を考えると奴に休む機会を与えずにラッシュを掛けるのに最適なエリアだ。けど、奴が怒りモードでカウンター食らうと隠れる場所が無いから危険だぜ?」

 とナイトはさらにもっともなツッコミを入れた。ホント良くわかってらっしゃる。

「ああ、だから俺はエリア2にトラップを2個仕掛ける。4分もあれば充分設置可能だ」

 俺のその答えにナイトは「罠を2個!? しかも4分は早いな~」と感嘆の声を漏らした。そりゃそうだ、対龍迎撃罠は普通1個設置するのにその倍はかかるからな。

「まあね、シロウは何せ『天才トラッパー』って渾名があるくらいだからな」

 と俺の横で胸を張りながらスエゾウが言った。つーかお前が偉そうに言うなってのっ!

「ふ~ん、なんか良くわからないけどぉ、とにかく2から6に移動する訳ね。じゃあ一丁いきますか!」

 とララのかけ声で俺達は出発した。一方ゼロシキは罠の話には何の興味も示さず、無言で遠くに見える高い山、この世界のシンボルでもある『マビノ山』を眺めていた。ホント、ゼロシキって無口な上に愛想がないなぁ。


☆ ☆ ☆ ☆


 そうして俺たちウロボロスはエリア2を抜け予想通りエリア6で目標の雷帝アントニギルスと会敵をした。

「おりゃぁぁぁぁっ!!」

 とおよそ年頃の女の子とは思えない雄叫びを上げてララが地上に降りたアントニギルスに突っ込んだ。そのスピードは彼女の異名『疾風の聖拳』の名に恥じない速さだ。ララはそのまま雷帝の腹に数発の拳をたたき込んだ。いやもう速すぎて何発打ち込んだのかわからないってのが正直なところだ。

「爆拳、金剛龍撃掌―――――っ!!」

 しなやかに伸びたその両腕をまるで円を描くように回して構えた後、ララは叫びととも最後の攻撃を繰り出し、それも見事に腹部に命中した。その途端、鱗に覆われた雷帝の腹の皮がボンっという音と共に内部から弾けた。それと同時に雷帝の大きな口から怨嗟にも似たうなり声が轟く。

 モンク特有の打撃技である爆拳、その中でも『奥義』と呼ばれる大技が炸裂したのだ。この『爆拳』とは自分の体内で練った『気』を拳に集め、打撃と共に敵にたたき込むモンク独特の攻撃方法だった。打撃自体もそれなりのダメージを負わせること出来るが、この『気』を同時にたたき込むことでその破壊力が何倍にも増幅される特殊な攻撃だ。

 しかしこの爆拳のもっとも特筆すべきは、そのダメージが表層の防御値を無視して内部に及ぶという点にある。いかに強固な天然の鎧を纏う龍族の表皮であろうと関係無く、その攻撃はそれら防御能力を無効にしてダメージを与えることが出来る唯一の攻撃法だった。

「やっぱすっげーよララ姉さんっ!!」

 思わずスエゾウがそう叫ぶのも無理はない。俺だってモンクの奥義なんて初めて見たよ。

 だがアントニギルスは痛みにうなり声を上げつつも、その豪奢な角を振るい、怒りに燃える瞳をララに向けると大きく息を吸い込んだ。ブレス【龍の息吹】攻撃の前兆だ。

「ブレスだっ!!」

 思わずそう声が出た。だが、そこは流石に経験豊かなサーティーオーバーのプレイヤーだ。その前兆にいち早く気づいたララは「わかってるーっ!」と叫んで雷帝の膝を蹴り、空中に跳躍した。

 しかしアントニギルスも流石にレベル5セラフだ。そのララの動きに反応し首を持ち上げ追撃に移る。が、その瞬間奴の眉間に立て続けに爆発が起こった。

 魔法特有の詠唱が聞こえなかったからナイトやメーサの呪文じゃない。それに爆発前に独特の発射音が聞こえた。間違いない、これはゼロシキの魔法弾による攻撃だ。俺は移動しながら周囲に視線を這わすがゼロシキの姿はどこにも確認できなかった。

 そしてアントニギルスがその口を開いた瞬間、さっきとは別の方角から発射音が聞こえたかと思うと今度はその開いた口の中に爆発が起こった。さっきのも合わせて都合5発。そのリロードスピードも驚異的だが、5発全てを命中させたのが驚きだ。

 恐らくゼロシキは愚者のマントで擬態しながら移動して狙撃しているんだろう。だがさっきの射撃もそうだが、移動しながらの狙撃で、しかも動いている目標をそんなに正確に狙撃できるものなのだろうか? 

 味方と敵の動きを追っていたんじゃ絶対間に合わない。恐らくゼロシキはコンマ何秒後のポイントを正確に予想して射撃しているのだろう。その恐ろしく正確な予測射撃のセンスに息を飲む思いだ。腕がいいなんてもんじゃないだろ、アレでホントにレベル26なのマジで!?

 爆炎から現れたアントニギルスの顔は右目から口の付け根辺りまで無惨に焼けただれていた。恐らく爆炎系中級位呪文『フレイガノン』を封入された弾だろうが、サーティーオーバーの魔導士が呪文を込めると威力が段違いだ。呪文にある程度抵抗力のある龍族の表皮がああも無惨に熔解しているのが何よりの証拠だろう。レベル20そこそこの魔導士が唱えるフレイガノンの倍近い威力だ。

 しかしアントニギルスもただ一方的にやられているわけではなかった。千切れかかった舌を振るわせ咆吼を上げ、吸い込んだその息吹を俺達に向け轟音と共に吹き放った。

 俺達前衛は瞬間的に地を蹴って散開しブレス攻撃を交わす。後衛のメーサとスエゾウは全速力で後退し難を逃れるが、馬鹿でかい火炎放射器のような炎が辺り一面を火の海に変え、炙られた大気が背景を歪ませた。散開前に少々もたついた俺は頬に焼き鏝を近づけられたような熱風に煽られ思わず咽せた。あ、あっぶねぇ~!

 腹を割かれ、顔を焼かれながらも、残った片方の目には怒りの炎をくゆらせつつ俺達を睥睨し威嚇の咆吼を上げるアントニギルス。まさに『暴君』と呼ぶに相応しい闘争本能だった。

 アントニギルスは一声吠えると背中に生えた大きな翼を広げ羽ばたかせた。先ほどのブレス攻撃で燃えた草木の灰が火の粉と共に舞い上がる。それと同時に強烈な突風が俺達に襲いかかった。まるで竜巻だ。

「飛翔する気かっ!!」

 俺は思わずそう叫んだが、その瞬間俺の横にいたナイトが腰の剣を抜き放ち飛び出した。

「させないさっ! フリザルド・ソードっ!!」

 凄まじいスピードでスペル【呪文詠唱】を消化し発動コマンドを叫ぶ。魔法の効果をその刃に込める魔法剣士ならではの特殊剣技、魔法剣の発動だった。

 しかしこのハリケーンのような突風の中での行動なせいで踏み込み切れなかったのか、明らかに距離がありすぎる。一応俺も太刀使いの端くれ、この間合いじゃ太刀ですら届かない。だがナイトは迷うことなく手にした剣を振るった。

 が、次の瞬間、ナイトの剣の刃が分解しまるで鞭のように奇妙な動線を描いてアントニギルスの前足を引き裂いた。

 避けた傷口と飛び散る体液が瞬時に凍り付き、右前足に一瞬にして真っ白く霜が張り付く。剣戟に加え冷却系中級呪文『フリザルド』の効果が発動したのだ。

 地面から足が離れ、今まさに空へ羽ばたこうとした瞬間の攻撃に、アントニギルスはたまらず雄叫びを上げ墜落した。

 一方攻撃を成功させたナイトは、その手に握る奇妙な剣を巧みに操りガキンっと甲高い金属音を響かせながら元の剣の姿に戻し、俺にニヤリと不敵な笑みを向けた。

「ガリアンハント【罪人狩り】…… 初めて見た……」

 俺はナイトの剣を凝視し、それからそれを持つナイトを見ながらそう漏らした。その剣もレアだが、これを使いこなせるプレイヤーも激レアだったからだ。

 ガリアンハント【罪人狩り】は正式名称テンプルブレード【法皇剣】というこの世界では『大剣』にカテゴライズする武器だ。

 この剣は通常装備している姿形は普通の剣と大差ないが、攻撃時にはその刃が分離し、内部に仕込まれたワイヤーが伸縮してまるで鞭のようにしなって相手に伸びる伸縮ギミックが内蔵された特殊な武器だった。

 一応剣としての使用も可能だが、伸縮機能を使った攻撃は強力な物で、何より太刀ですら届かない離れた敵をその射程に捉えることの出来る長リーチが最大の利点と言える。

 その扱い方は剣よりもむしろ鞭に近く、使いこなすのにかなり骨が折れる武器の一つだ。またその数も極端に少ない代物で使用しているプレイヤーは殆ど皆無に近い。かく言う俺もこの剣そのものもそうだけど、装備するプレイヤーを見るのも初めてだった。

「確かに難しいけど、慣れたらかなり使える武器だよ。俺達魔法剣士が扱う魔法は威力が弱いだろ? 魔法剣は強力だけど相手を射程に捉えるまでに若干のタイムラグがある。でもこのテンプルブレードなら射程が倍以上になるんだ。魔法剣士には案外合ってるのかもしれないね」

 ナイトはそう軽く言って笑うが、アレを扱うのは相当難しいのは自分も剣を扱うので良くわかる。俺なんて太刀ですらもてあましているってのに……

 ナイトもやはりララと同じく超ハイレベルプレイヤーだった。もうなんなのコノヒト達っ!?

「まだ終わってない、気を抜くなっ!」

 と突然どこからかゼロシキの叱責が飛んできた。その声に反応した俺は振り向きアントニギルスを見ると、奴は藻掻きながらもダメージのない前足でその巨体を持ち上げていた。そしてその鎌首がゆっくりと持ち上がると同時に奴の全身が青白く輝いた。

 マズイっ!! と心の中で舌打ちした瞬間

「プロテクションっ!!」

 後方のスエゾウが叫ぶと同時に俺達の周りがスパークした。目のくらむ光と鼓膜を裂くような轟音。そして体がバラバラになりそうな衝撃を受け俺の体が宙に舞った。ぐるぐる回る視界に何本もの稲妻が走るのが見て取れた。き、効いたぁ~っ!

 雷撃系上級呪文『ギガボルトン』の直撃だ。うつぶせ状態で地面に叩き付けられた際に鼻をしこたま打ち付けたせいで涙が止まらない。マジで手足が千切れ飛んだかのように全く感覚が無く、体中が痺れて声も出ない。涙に滲んだ視界に移る自分の鎧の上を青白い稲妻がバリバリと走っているのが見えた。

 直撃前にスエゾウが唱えた防御魔法『プロテクション』のおかげでその威力を5割削いだハズなのにこの威力だ。まともに浴びたら確実に意識持って行かれてたな…… 

 これが雷鳴の暴君アントニギルスが『雷帝』と呼ばれる所以だ。相変わらずめっちゃ危険なセラフだよ。スエのプロテクションが無かったら危うくパンチパーマになるトコだった。俺は未だに痺れて感覚がない体に鞭を入れ、帯電して鬱陶しく火花が散る両腕を突っ張ってよろけながら体を起こした。右手に視線を移すとガリアンハントを杖代わりにして立ち上がるナイトが居た。

「ビックリした~ 久々にギガボルトン食らったよ。なんかちょっと懐かしいな♪」

 とのんきな事を、何故か嬉しそうに言いながら首を回すナイト。もしもし今のダメージは?

「やっぱ狩りはこうじゃないと! おっし、エンジンかかってきたぞぉ」

 ロストプレイヤーってダメージ感じないんかいっ!?

 そんなことを心の中で叫びながら、俺は振り向いて後衛達を確認した。メーサもスエゾウもしゃがみ込んでいたがゆっくりと立ち上がった。

 そこそこみんなダメージ食らったが行動不能までには至らなかったようだ。スエゾウのとっさのプロテクションのおかげだな。とその時、再び突風が俺達を襲った。

「あいつ飛ぶ気よっ!」

 ララの声が飛ぶ。俺は吹き付ける風に抗いつつアントニギルスを睨むとその大きな翼をはためかせ離陸体制に入っていた。それからアントニギルスは一声吠えると大空へ飛び上がった。

「ちっ! 思いの外飛び立つのが早い。狙って当たらない事もないが、長射程の対鱗榴弾でも威力が落ちる!」

 そう声がしたかと思うと俺のすぐ横の空間からスルリとゼロシキが姿を現した。愚者のマントの擬態効果でステルス化していたみたいだけど、気配すら殺してるみたいだ。いつから隣に居たんだよあんたは。

「『羽休め』の法則が確かならエリア2に行くはず。このまますぐに追撃だろ? 奴に回復のスキを与えてやる事はない」

 そう言いながらナイトは手にしたガリアンハントを鞘に仕舞いつつ、回復液を取り出すと一気に煽った。飲み終わって「う~、相変わらずまっじぃ~」と舌を出した。

 分かる分かる、回復液ってめちゃくちゃマズイよね。何も味まで体感させること無いよな……

「ああ、このまま追撃に移る。スエゾウ、ガキんちょにディケア掛けてやってくれ」

「ガキんちょ言うなーっ!」

 と俺の言葉に文句を言うとふくれっ面をするメーサ。「あいよ~」とスエゾウが詠唱しメーサの体がポワっと光った。

「新しい胴着が焦げちゃった。せっかく新調したのに~」

 とララが胴着の裾の部分に付いた焦げアトを気にして手で払っている。コノヒトもダメージどっかいっちゃってる…… 全くすげーメンバーだよ。

「よし、追撃開始!」

 俺の言葉を合図に俺達ウロボロスは雷帝追撃のためエリア2に移動を開始した。


☆ ☆ ☆ ☆


 エリア2では予想通りアントニギルスが傷ついた体を横たえ、湖の畔で休んでいた。俺達はまずゼロシキの対鱗榴弾で牽制した後ララの攻撃、そしてナイトの魔法剣と時間差を付けての波状攻撃を仕掛けた。

「フレイストームっ!!」

 続けてタイミング良くメーサが叫ぶと、アントニギルスの体が突如空間に出現した数本の炎の竜巻に飲み込まれる。爆炎系という魔法に大別される呪文の中でも上級にランクインする高位魔法『フレイストーム』だ。この系統での最強とされる『メテオバースト』より威力は劣るものの、普通中、上級魔導士が『キメ技』として使用する強力な魔法だ。

 巨大な火球を目標に激突させる『メテオバースト』と違い、炎が唸りを上げて旋回するせいで周囲の空気が中央に吸い寄せられていくのが分かる。前のチーム『クライスプリースト』の魔導士ノキアがよく使っていたが、威力が桁違いで別物の魔法みたいだ。見た目ガキんちょだが、使う魔法は超ド級の高位魔導士だな。

 先ほどのダメージに加え、スキを与えない波状攻撃とメーサの魔法に炙られ、流石の雷帝も弱ってきたようだ。そしてナイトの魔法剣『メガフレア・ソード』が炸裂し、アントニギルスはヨロッとよろけながら後退した。その瞬間、俺は口元がほころびるのを自覚した。

 掛かったぁっ!!

「よっしゃぁぁ、対大型セラフ用トラップ、妖線捕縛陣発動っ!!」

 先ほど、今雷帝が居る地点を取り囲むように地面に施した縛線針が俺の声に一斉に反応し、無数の細い不可視の鋼線がまるでシャワーのようにアントニギルスの体に降り注いだ。

「えっ? なになにっ!?」

 と先行攻撃を仕掛けていたララが、着地と同時に声を上げる。大丈夫、ララの攻撃が終わるのを見計らって発動させたんだから。

「対大型セラフ用の罠だ。設置に時間が掛かるのと、セラフの行動パターンを読み切れないプレイヤーが多くて大抵は空振りに終わるんだけど…… 此処まで見事に嵌めるのは初めて見る」

 ナイトが感心したようにララに説明する。まあ、完璧じゃなかったけどね。

「以前のクエストで奴が着地している場所はおおよそ見当が付いていた。若干ズレてたけどナイトの攻撃で奴が後退したから上手く嵌ってくれたんだ」

 伊達にこのクエストを何度も全滅食らってないって。全然自慢にならないけどね……

 不可視の鋼線の網に絡め取られ、身動きできずに地面にへばり付き藻掻くアントニギルス。怒り狂ってブレスを吐くが、首まで完全に絡まっていて吐く炎は全て明後日の方向に霧散していく。体を光らせて先ほど食らったギガボルトンを放つが、強力な電撃も体を縛る鋼線がアース代わりになって地面に吸い込まれていった。

「罠って結構使えるじゃない。あの雷帝が身動き出来ないなんて驚き~っ!?」

「ああ、大したもんだ。天才トラッパーって渾名も伊達じゃないってトコだな」

 ララとライトが感心したように呟いた。ちょっと照れるねマジで……

「だが罠自体は1分も持たない。そろそろ仕上げといこうか」

 俺はそう言いながら背中に背負った布巻きの太刀に手を掛けた。他の前衛2人も俺の声に身構える。

 その瞬間、俺達を大きな影が覆い被さった。俺達はとっさに頭上を見上げ息を飲んだ。ほぼ天頂方向から照りつける太陽を背に、大きな翼を広げた物体が降りてくるのが見えた。いや、降りてくると言うより急降下に近い。俺達はとっさに地面を蹴って散開した。

 耳を劈く咆吼と共に轟音を伴った地響き、加えて大きな翼の羽ばたきで生み出された強烈な突風に上手く前が見えない。俺はそれでも顔に被った砂埃を左手で払い落とし、薄目を空けて正面を睨んだ。

 見ると先ほど罠に掛かったアントニギルスを凶暴な爪の付いた前足で踏みつけ、長い首を伸ばして天に向かって吠える、金色の鱗を纏った龍が立っていたのだ。

「黄金龍アントニギルス・フェイサー……」

 ガリアンハントを握り、片膝を付いたままその黄金の龍を睨みつつナイトが呟いた。その声に促されるように、俺は無言で生唾を飲んだ。

 アントニギルスの亜種、金色に輝く鱗を持つ黄金龍『フェイサー』と呼ばれる希少種で出現率が極めて少ないレアなセラフだった。現に俺も初めて目にするセラフだ。

 アントニギルスを一回り大きくしたその体は体長18mはあるだろう。その頭には大きな2本角が誇らしげに輝いていて、この2本の角から『2本差し』と呼ぶプレイヤーもいる。体中が金色の鱗で覆われているので、その表皮に光が反射してキラキラと輝いており、その姿は息を飲むほど美しい。

「なんて綺麗な…… 俺、初めて見た……」

 後方でスエゾウがため息のようなつぶやきを漏らすが無理もない。しかし、このセラフはその美しい姿とは裏腹に、アントニギルスが可愛く見えるほど凶暴かつ強力なセラフだと言われる。なんせレベル5クエストで唯一レベル6クラスに匹敵する強さを持つ相手なんだからさ。しかし寄りによって初陣に当たるなんて、俺達って運悪いんじゃねぇ?

 フェイサーは足下のアントニギルスを踏みつけたまま、藻掻くその首すじに食らいつき、その凶悪な牙でアントニギルスの首を食いちぎった。一際大きな声で鳴き、雷帝は動かなくなった。こんなところで『怪獣大決戦』を鑑賞するとは思わなかったよ……

 フェイサーは食いちぎった肉片を飲み込み、勝ち誇ったように吠えるとゆっくりと鎌首をもたげて俺達を見下ろした。アントニギルスの体液がしたたり落ちる口元が、俺には笑っているように見えた。それは小癪な狩人達に「かかってこい」と言っているようだった。  


初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第9話更新いたしました。

いやー久々のバトルシーン。ホントに久々なのでリズムが掴みづらくて参りました。まだまだ調子が戻っていませんが、何となく回復の兆しが……

さて今回、前半シロウは完全に読者の解説役になってます。主役なのにもっと働け! と言いたいところですが、シロウはあまり太刀で戦わない設定なので(止めればヨカタヨ)序盤は罠ハメでやってます。まあ、次回は否応なく國綱を抜くハメになるんですが…… おっと、危ない危ない。

頂いた感想でなんかちょっと吹っ切れたというか、ちょっと元気になりました。

さあ次はこの物語のテーマも掛かってますので、主人公と今回のヒロインに頑張って貰うつもりです。

鋏屋でした。

PS.ゴメンナサイ、前回の次回予告を修正します。


次回予告

初陣早々幻とまで言われるセラフ、黄金龍『アントニギルス・フェイサー』と出くわしてしまったチームウロボロス。黄金龍はその美しい姿とは裏腹に強力な戦闘力でウロボロスに襲いかかった。力試しのハズが一転、死闘になったクエストにシロウは自分たちの不運を呪う。そしてその黄金龍、フェイサーの咆吼に後衛の要である魔導士メーサの思いも寄らぬ弱点が明らかになる。その時シロウの國綱に異変がっ!?


次回 セラフィンゲインAct2 エンジェル・デザイア第10話 『紅を継ぐ者』 こうご期待!

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