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【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社日誌】  作者: 稲荷寿司
【小さな守り星再び!】

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40/50

穢れの在り処

今回もお読みいただき、ありがとうございます。(*´∀`*)


静かに迫る気配と、

それを見つめる小さな守り星の想いを、

ゆっくり感じていただけたら嬉しいです。




小さな胸に溢れる想いを抱えたまま、

ユッキーは、ただ祈るようにその背中を見つめ続けていた。


(あの子……やっぱり、元気ないわ……

 それに……胸のあたりが、ざわざわする……)


説明できない違和感が、

ユッキーの中で波のように広がっていく。


元気のない足取り。

俯きがちに進む、ご主人の背中。


それだけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。


その少し後ろを、

真白と優羽が距離を保ちながら静かに追っていた。

——そのときだった。


人目につかぬよう、

しかし何かあればすぐに動けるように。


真白は歩きながら、ふと足を止める。


「……」


わずかに眉をひそめ、視線を前方へ向けた。


「真白様? どうかしましたか?」


優羽が小声で尋ねる。


「……今、微かですが穢れを感じました」


「えっ……?

 私は、まだ何も……」


優羽はきょろりと周囲を見渡すが、

空気はいつもと変わらないように思えた。


真白は首を横に振る。


「大丈夫です。

 優羽さんが感じないのは自然ですよ」


「?」


「これは……“人の心に溜まった穢れ”です。

 感情の歪みや圧迫から生じるもの。

 その類は、僕のほうが感知しやすい」


優羽ははっと息を呑んだ。


「じゃあ……」


「ええ。

 すでに、影響は始まっているようですね」


歩を進めるにつれ、

空気は少しずつ重さを帯びていった。


ユッキーも、はっきりと感じていた。


(……あの子……

 近づくたびに、苦しそうになってる……)


ご主人が会社へ向かう道に差しかかる頃、

胸のざわつきは“違和感”では済まなくなっていた。


そのとき——


「……っ」


優羽が足を止めた。


「今……今、感じました……」


小さく息を吸い込み、表情を強張らせる。


「……すごく……

 嫌な感じ……です……」


真白は静かに頷いた。


「……穢れが、周囲にまで滲み出てきていますね」


周囲に満ちる気配は、

人の心の弱りにつけ込むように、

じわじわと濃さを増していく。


優羽は唇を引き結び、真白を見る。


「……やっぱり。

 原因は……」


「ええ。

 この“会社”で、間違いないでしょう」


そして次の瞬間——

優羽の背筋が、ぞくりと粟立った。


「……真白様」


「はい」


「今のは……

 ただの穢れじゃ、ありません」


真白の視線が鋭くなる。


「……気づきましたか」


優羽は小さく、しかしはっきりと頷いた。


「どうやら、

 これは——」


息をひそめ、言葉を選ぶ。


「悪意を持った存在の気配です。

 ……悪鬼、ですね」


空気が、ぴたりと張りつめた。


ユッキーはまだ、その正体を知らない。

けれど——


ご主人の背中に、

確実に“何か”が忍び寄っていることだけは、

はっきりと感じていた。


優羽は周囲を見回し、

真白へと静かに視線を戻した。


「……ですが真白様。

 悪鬼の気配は、ユッキーちゃんのご主人からではありません」


ユッキーが思わず息を呑む。


「え……?」


優羽は視線を前方へ向ける。


「この建物の中から、感じます」


真白も静かに目を細め、建物を見上げた。


「……やはり、そうですか」


そこに建っていたのは、

まだ人影もまばらな大きな商業施設だった。


ガラス張りの外壁は朝の光を反射しているが、

正面入り口には10時オープンの案内があった。


「……この建物は、商業施設ですね」


真白は落ち着いた声で続ける。


「一般の方が出入りできるのは、営業が始まってからです。

 今は……まだ中に入ることはできません」


ユッキーは不安そうに胸の前で手を握りしめた。


すぐに、はっとしたように続ける。


「で、でも……!

 あの子、いつも入っていってたんです!

 お店が開く前でも……!」


真白は静かにうなずき、落ち着いた声で答えた。


「ええ。

 ユッキーさんのご主人は、こちらで働いていらっしゃったのですね」


ガラス扉の向こうを見据えながら、続ける。


「従業員であれば、

 営業開始前でも裏口や関係者用の出入口から中に入ることができます。

 ユッキーさんのご主人も、そうして中へ入っていたのでしょう」


優羽は小さく頷き、表情を引き締める。


「悪鬼の気配は、かなり濃いです。

 おそらく……建物の中に留まっています」


真白はゆっくりと息を吐いた。


「……なるほど。

 人が集まる場所、感情が行き交う場所。

 悪鬼にとっては、これ以上ない“棲み処”ですね」


まだ開かない扉の向こうで、

確かにうごめく気配があった。


ユッキーはその建物を見つめながら、

小さな手を握りしめた。


(……やっぱり。

 あの子が苦しそうだったのは……ここのせいだったのね……)


真白は静かに結論を告げた。


「原因は、こちらでほぼ間違いありません。

 ですが——今は、待つしかありませんね」


扉が開く、その時を。


少し離れた場所で、三人は足を止めた。


まだ施設のガラス扉は固く閉ざされており、

中に入れる気配はない。


真白は空を見上げ、

時間を測るように静かに言った。


「……オープンまで、まだ少し時間がありますね。

 中に入った後の動きを、ここで整理しておきましょう」


優羽が小さくうなずく。


「そうですね。

 慌てて入るより、そのほうが安全です」


真白はユッキーへ視線を向けた。


「ユッキーさん。

 ご主人は、この施設の中で、どのようなお仕事をされていましたか?」


「えっとね……」


ユッキーは少し考えるように首をかしげ、

ぽわっとした表情で答えた。


「キラキラした物が、いっぱいあったわ」


「……キラキラ、ですか?」


真白が聞き返すと、

ユッキーはうんうんと大きくうなずいた。


「そう!

 キラキラしてて、ぴかぴかしてて……

 あの子、いろんな人とおしゃべりしながら、

 そのキラキラした物を、首につけてあげたり、

 腕につけてあげたりしてたの!」


優羽がはっとしたように声を上げる。


「それって……

 アクセサリー屋さん、でしょうか?」


「なるほど……」


真白は少し考えるように顎に手を添えた。


「アクセサリー専門店の可能性もありますし、

 雑貨屋という線も考えられますね」


そして、ユッキーへと視線を戻す。


「ユッキーさん。

 中に入ったら、ご主人が働いていた場所は分かりますか?」


ユッキーはぱっと表情を明るくした。


「分かるわ!

 案内なら、あたしに任せてちょうだい!」


その声には、先ほどまでの不安はなく、

代わりに小さな自信が宿っていた。


真白は思わず微笑む。


「……頼もしいですね」


その時――


入口の脇に立っていた警備員が、

時間を確認するように腕時計へ目を落とした。


小さくうなずくと、

ゆっくりとガラス扉へ手を伸ばす。


ガチャリ、と控えめな音。


内側の鍵が外され、

警備員の手によって扉が押し開かれた。


「どうぞ。開店です」


その声を合図に、

待っていた人々が一斉に動き出す。


透明なガラス扉が静かに開かれ、

商業施設の中の空気が、外へと流れ出してきた。


優羽が小さく息を吸う。


「……開きましたね」


真白も静かにうなずいた。


ユッキーは小さな拳をぎゅっと握りしめ、

建物を睨みつけるように前を向いた。


「待ってなさい……黒い奴!

 今度こそ、絶対に負けないんだから!」


優羽の内に宿る神気が、やわらかく揺れた。


「大丈夫だよ、ユッキーちゃん。

 私の中にいる限り、ちゃんと守るから」


その言葉と同時に、

ユッキーの胸に、静かなぬくもりが広がっていった。


「ありがとう、優羽ちゃん!」


そして――


ゆっくりと扉が開き、

人々が施設の中へと吸い込まれていく。


その流れに紛れるように、

ユッキー、真白、優羽の三人もまた――


静かに、しかし確かな決意を胸に、

オープンしたばかりの商業施設の中へと

足を踏み入れた。







最後までお読みいただき、ありがとうございました。


原因の“場所”が見え始め、

物語は次の段階へと進んでいきます。


続きもお付き合いいただけたら幸いです。

次回もよろしくお願いします。(*´∀`*)


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