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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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138/164

拡散される悪意と、それを楽しむ人間たち

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

−−−




――夕刻。


豊穣神社の境内は、

冬の長い影に、ゆっくりと飲み込まれようとしていた。


御神木の根元。

そこに、淡く光る『門』が開く。


次の瞬間――


すうっと、その光の中から

えにしが姿を現した。


だが、その足取りは、

いつもよりわずかに重い。


そして何より――


その表情は、

天界へ発つ前よりも、

さらに険しく、苦渋に満ちていた。


えにしは真白たちを見渡し、

静かに豊穣神の言葉を伝えた。


「……豊穣神様も、今回の事態は大変心配されていたよ」


その言葉に、

空気がわずかに引き締まる。


「『次からは、昨日のような事態が起きたら、

すぐに使いを送りなさい』


『僕たちだけで解決しようと、無理をしてはいけません』……とのことだ」


少しだけ視線を伏せる。


「どんなに些細なことでもいいから……もっと頼りなさい、だって」


真白は、その言葉を

胸の奥へと刻み込むように頷いた。


それから――


真白は、ゆっくりと顔を上げた。


真白

「……縁様」


その声には、

わずかな戸惑いが滲んでいる。


真白

「実は今日……

昨日までとは、別の意味で」


一瞬、言葉を選ぶように間を置く。


真白

「……参拝客たちの様子がおかしいのです。あの……呪いの絵馬を、楽しみに来ているようなのです」


縁の眉が、ぴくりと動く。



縁は驚きに目を見開き、

不信感を露わにした。


「何それ……どういうこと?」



神域の穢れを「楽しむ」――

その感覚だけは、どうしても理解できなかった。



明確な驚きと――理解できないものへの警戒が浮かぶ。



真白は、少しだけ視線を落とした。


真白

「僕たちは、人の文化には馴染みがないので……断言はできませんが」


真白

「皆さん、“スマートフォン”という板のようなもので」


真白

「絵馬の写真を撮って……笑いながら、帰っていくのです」


その光景を思い出したのか、

紡も顔を曇らせる。


「しかも、すっごく楽しそうに、ですよ……」


紡が眉を寄せる。


縁は腕を組み、

しばし考え込んだ。


「……うーん」


小さく唸る。


「僕たちじゃ、今の時代の感性は分からないね」


「今度、大和くんに詳しく聞いてみようか」


結局――


その場では、

答えは出なかった。


夕闇が、

境内を包み込んでいく。


だが――


その静けさの奥には、


まだ正体の見えない“歪み”が、

確かに潜んでいた。


――そして、

事態の正体が掴めぬまま、


翌日――日曜日。


朝から境内は、

昨日を上回る数の若者たちで溢れかえっていた。


彼らは拝殿に目もくれず、

真っ直ぐに封印された絵馬掛けへと群がる。


使用禁止の光景がかえって彼らの興奮を煽っているようだった。


「……またです」


紡がうんざりしたように呟いた後、

注意しようと近づくが、


彼らは「やべっ、逃げろ!」と


蜘蛛の子を散らすように去っていき、また別の場所でスマホを掲げる。


「注意しようとすると、すぐ逃げちゃうんですよ……」


近づけば離れる。


まるで“見つかってはいけない遊び”でもしているかのように。


――その時だった。


「真白さーん! 紡くーん! こんにちはー!」


ぱっと空気が変わる。


「優くん!」


紡がパッと顔を輝かせ、

大きく手を振った。


そこには、かつて反抗期で悩み、真白たちが心を繋ぐ手助けをした少年、

優くんの姿があった。


「こんにちはー!」


真白も、柔らかく微笑んだ。


真白

「優くん、こんにちは。今日は一人ですか?」


真白の問いに、優くんは嬉しそうに首を横に振り、後ろを振り返った。


「ううん! 今日はお父さんと一緒に来たんだ! これ、真白さんたちにあげたくて!」


優くんが掲げた袋からは

食欲をそそる香ばしい匂いが微かに漂っていた。


少し遅れて歩み寄ってきた優くんの父親が、申し訳なさそうに、けれど温かい笑みを浮かべて頭を下げた。


優君の父

「すみません、突然。優が、どうしても真白さんと紡くんに直接渡したいと言うもので」


真白

「優くん、これは……?」


「僕とお父さんで作った『手作り餃子』だよ! 前にいただいた飴のお礼です!」


優くんが誇らしげに胸を張る。

真白は一瞬、目を丸くしたが、


すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。


真白

「そんな、気を使わなくても良いのに……。ありがとうございます、ありがたく頂戴いたしますね」


優の父

「お口に合うか心配ですが、ご迷惑でなければ」


父親の謙虚な言葉に、真白は


真白

「いえ、とても嬉しいです、

ここでは寒いですし……よろしければ、お茶でもいかがですか?」


「お父さん! 僕、もう少し真白さんとお話したい!」


「そうですよ! みんなでお話しましょう!」


優の父親は少しだけ笑い、


優の父親

「では……お言葉に甘えて」


四人は縁側でお茶を囲むことになった。


暖かいお茶(優くんはジュース)を啜りながら、話題は自然と最近の境内の騒動になった。


「実は……最近、絵馬掛けを撮影する人が増えて困っているんです。注意しようとしても、すぐに逃げられてしまって」


紡が溜息混じりに愚痴をこぼすと、

優くんが


「やっぱり……」


と、表情を曇らせた。


真白

「優くん。やっぱり、とは?」


真白が聞き返すと、優くんはお父さんと顔を見合わせた。


「実は今日来たのは、餃子のお裾分けの他に、心配なことがあったからなんです。……これ、見て」


優くんはポケットからスマートフォンを取り出し、

画面を真白たちに向けた。


そこには、真白たちが初めて目にする「YouTube」という動画サイトが開かれていた。


「今、学校の同級生の間ですごく流行ってる『心霊スポット凸』っていう動画があって……。そこに、この神社が出てるんだ」


再生された動画には、

夜の境内に無断侵入した若者たちが、ライトで絵馬掛けを照らし出し、


配信者

「うわ、これマジで呪われてんじゃね?」


配信者

「縁切り通り越して殺意だろこれ」


嘲笑う様子が映し出されていた。


真白

「いつの間に、夜の境内に入ったのでしょう?」


そして、次に再生された動画には、


若者A

「うわ、マジだ! 本当に使用禁止になってんじゃん!」


若者B

「やばー! マジでホラーじゃん! 超映えるんだけど!」


スマートフォンの画面越しに、

無遠慮な笑い声が重なる。


若者C

「ねえ見て! この絵馬、『不倫相手の奥さんが消えますように』だって! 怖すぎっしょ!」


若者A

「ヤバいヤバい! こっちは『自分をクビにした上司が事故に遭いますように』だ。マジで呪いの神社じゃん!」


「真白様! この人たち、この間の……!」


軽薄な笑い声が、

スマホから響いた。


紡が画面を指差して絶句する。


動画のコメント欄には、『怖すぎ』『行ってみた』といった言葉が、


雪崩のように書き込まれていた。

横で見ていた父親の表情が、

一気に鋭いものに変わった。


優の父親

「これは……明らかに迷惑行為です。

しかも、夜間にも侵入している可能性があります」


優の父親

「もしよろしければ……見回りのルートに組み込みましょうか」


真白

「見回り……ですか?」


「僕のお父さん、警察官なんだよ!」


「えぇっ!? そうなんですか!?」


紡が縁側から落ちそうになるほど驚いた。


優くんの父親は、

柔和で優しそうな顔立ちをしており、


およそ強面な警察官のイメージとはかけ離れていたからだ。


優の父親は少し苦笑する。


優の父親

「よくそう見えないと言われます」


その穏やかさの奥に、

確かな“守る側”の強さがあった。


優の父親

「今の動画を見た限り、許可なく立ち入っている者が多すぎます。無断侵入の可能性がある以上、対策は必要です」


優の父親

「駐在所の仲間とも共有して、夜間の見回りを強化しましょう。神職の皆さんの安全のためにも」


真白

「……ありがとうございます。本当に、助かります」


真白は深く頭を下げた。

優くんは、少し悔しそうに画面を見つめながら呟いた。


「SNSでも変な噂が広がってて、僕、悔しかったんだ。真白さんたちの神社は、こんなに温かくて素敵な場所なのに……」


その言葉に、


真白は、ほんの少しだけ目を細めた。


真白

「……優くん、君のように信じてくれる人がいることが、何よりの励みになります。ありがとう」


紡も、大きく頷く。


「優くんみたいに思ってくれる人がいると……すごく嬉しいです」


その後は、


餃子の作り方の話や、

他愛もない会話が続き、


時間は穏やかに過ぎていった。


やがて、別れの時。


優の父親

「今日から巡回に入れるよう調整します」


優の父親

「何かあれば、すぐにこちらへ」


駐在所の番号が記された紙を渡す。


そして、

少しだけ真剣な声で続けた。


優の父親

「……動画を撮る人の中には、危険な人物もいます」


優の父親

「くれぐれも、気をつけてください」


その背中が、

境内の外へと消えていく。


見えなくなるまで見送ったあと――


「……(えにし)様に報告、ですね」


真白

「はい」


二人は社務所へと歩き出す。


その時。


ふと――


真白は、足を止めた。


胸の奥に、引っかかるものがあった。


真白

(……もしかしたら、

本当に恐ろしいのは――)


穢れではない。


人の“不幸”を――


楽しんでしまう、

その心なのかもしれない。


空気が、

わずかに揺らいだ。


それは、

昨夜の穢れの余波などではない。


もっと――


根の深い“何か”が、


確かに、この場所に入り込んでいる。


気づかぬまま、


それに触れ、笑い、


広めていく人々。


――だが。


まだ誰も、

その正体に気づいていない。


気づいた時には――


もう、遅い。




最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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