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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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拡散される悪意と二つの番人

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

−−−




――静まり返った深夜の豊穣神社。


本来ならば神域の静寂が支配するはずのその場所に、不釣り合いな光と、軽薄な声が入り込んでいた。


配信者

「――皆さんこんばんは〜」


軽い調子の声が、

静まり返った夜の境内に、

不釣り合いに響いた。


スマートフォンのライトに照らされて浮かび上がるのは――


闇に沈む、豊穣神社。


配信者

「本日はですね〜、今SNSで話題沸騰中の……

 “復讐したい人に災難のご利益がある”って 

 噂の神社に来てみました〜!」


自撮り棒を掲げた配信者が、

レンズに向かってニヤけ顔を作る。


背後ではカメラマンが、ゆっくりと動く。

ライトで拝殿の柱をなぞるように照らし、

社殿、石段、揺れる木々を映し出していく。


そして――


異様な気配を放つ、絵馬掛け。


配信者

「うわぁ~、夜は雰囲気ヤバいですね。マジで出そう。……で、これが噂の絵馬かぁ……」


配信者が、

封鎖された絵馬掛けへと近づく。


そこにはえにしが施した透明な鎖が巻かれているはずだが、


レンズ越しに見る彼らには、

ただの『古びた絵馬掛け』にしか見えていない。


スマホのライトが、

木札の群れを照らす。


配信者

「どれどれ〜……どれどれ、どんなエグいことが書いてあるのかな〜?」



一枚を手に取り、読み上げる。


配信者

「……『新婚の同僚が幸せそうでムカつくから、離婚しますように』って、えぇ~」


空気が、わずかに重くなる。


カメラマン

「……うわ、やば」


別の一枚。


配信者

「えーっと……『不倫相手の奥さんが――』」


言葉が止まる。


配信者

「……ガチじゃん……」


配信者が引き攣った笑いを浮かべる。


配信者

「ガチじゃん……。ねえ、ヤバくない? 想像以上にここ、怖いんだけど」


背後で、カメラマンが笑う。


カメラマン

「……他のも見てみなよ。もっとヤバいのがあるかもよ」


二人が次の絵馬へ手を伸ばした、


その瞬間――



「――そこで、何をしているんですか」



凛とした声と共に、

強い懐中電灯の光が二人を射抜いた。


光の先に立っていたのは、

夜番をしていた真白ましろだった。


真白

「ここは私有地です。深夜の立ち入りはお断りしています。直ちに撮影を中断し、お帰りください」



配信者

「あ、いや……これはその、取材っていうか……」


真白

「私は、許可した覚えはありません。

ですので、先ほど撮影されたものも、削除をお願いします」


真白が毅然とした態度で詰め寄る。

空気が、ぴんと張り詰めた。


配信者

「じゃあ今許可をお願いします。」


真白

「許可は出せません。境内は撮影禁止ですので、ご理解ください」


配信者

「えぇ〜少しくらい、いいじゃないですか〜」


真白

「ダメです。いますぐ撮影したものを消して、お帰りください。」


真白にしつこく許可を求めていた配信者の様子が、

次第におかしくなっていった。



――ざわり


絵馬掛けの奥に、

見えないはずの“何か”が確かに滲み出した。



それは、煙のように揺らめきながら、

ゆっくりと空間へ広がっていく。


真白の瞳が、僅かに揺れる。



真白

(……漏れている?)



ほんの一瞬、

視線が絵馬へと向いた。


その隙間から――


漏れ出ている、わずかな『穢れ』。


それにあてられた配信者の瞳が濁り、

呼吸が荒くなる。


配信者

「……なんか……イラつくな……」


空気が変わる。


配信者の目が、見開かれる。


配信者

「……お前さぁ!!……うるせえんだよ! 減るもんじゃねえだろ! 堅苦しいこと言ってんじゃねえ!」


カメラマン

「は? !なに言ってんの?!」


真白

(まさかっ……!)


真白は、配信者が

穢れの影響で興奮状態に陥っていることに、

気付いた。


真白は、咄嗟に彼を正気に戻すための浄化の神気を練ろうとした。


しかし、それよりも早く――


理性を失った配信者が真白に掴みかかり、

拳を振り上げた。


配信者

「邪魔なんだよ、お前!!」


カメラマン

「おい!どうしたんだよ!暴力はダメだって!」


殴られる――


真白が身構えた瞬間、



「――やめなさい」



制止の声と共に、

配信者の腕がひねり上げられ、

地面に組み伏せられる。


パトロール中だったゆうくんの父、優司だった。



配信者

「うるせぇ……離せ……!」


優司

「落ち着きなさい」


確かな力で、制圧する。

だが、逃れようと暴れた配信者の腕が優司の頬をかすめた。



優司

「公務執行妨害、および不法侵入の現行犯で逮捕する。……署まで来てもらうぞ!」



そのまま、



配信者とカメラマンは取り押さえられ――


公務執行妨害として、

その場で連行されていった。



――翌朝



優司は、

昨夜の事件の報告と、

事情聴取の状況説明のために、


再び神社を訪れていた。

社務所の中、


縁と真白が彼の前に並び、静かに耳を傾けた。



「夜のパトロール、本当にありがとうございました。お怪我は大丈夫ですか?」


優司

「大丈夫ですよ。少し腕が当たった程度ですので、ご心配なく」


安堵の色が、縁の表情にわずかに滲んだ。


真白

「私からも改めてお礼を。優司さんに怪我があれば、優くんが悲しむところでした」


優司は、小さく笑う。


優司

「大事には至りませんでした。それに、真白さんが無事で良かったです」


優司

「それで、あの配信者の方ですが……。署に連行してもしばらくは異常なほど興奮して暴れていましたが、一時間ほど経つと、急に憑き物が落ちたように落ち着きましてね」



真白

「落ち着いた……のですか?」


優司

「ええ。『なんだか、急にカッとなってしまった。本当にすみません』と、ひどく反省している様子でした。二度と豊穣神社へは近づかない、動画も消して、今後アップロードもしないと約束させ、昨夜のうちに帰しました。」



その言葉に、


縁は、ちらりと真白を見る。


真白と視線がぶつかる。

二人の脳裏には、同じ疑念が浮かんでいた。


縁・真白

(やはり、あの絵馬掛けの穢れが、人の負の感情を増幅させている……)


優司

「これからもパトロールは継続します。ですが、縁さんも真白さんも、十分に気をつけてくださいね。今の世の中、どこにどんな悪意が潜んでいるか分かりませんから」


優しく声をかけ、優司は去っていった。

その後姿を見送る真白の心は、


晴れるどころか、さらに重く沈んでいた。


「……まずいね。完全封鎖の鎖で縛ったのに、それでも穢れが漏れ出しているなんて」


縁が、苦々しげに吐き出した。


真白

「まるであの絵馬たちが、心に負の感情を抱える人々を、自ら呼び寄せているようです。……」


真白

「結びに来る人物が警戒して現れないのは幸いですが、その代わりに、あの黒い絵馬の出どころが特定できていない以上、安心はできません」


「そうだね……。明日には大和やまとくんが手配してくれた監視カメラが設置される。本格的な特定は、そこからだね」


真白

「はい」


縁は深いため息を漏らし、空を見上げた。


「それまでは、あの配信者のような手合いの対策だよね。やれやれ、狐の眷属が人間の法律やルールに悩まされる日がくるなんて」


真白

「……僕たちは人の規則には疎すぎますから。どうすれば良いのか……」


八方塞がりの状況。

だが――その停滞を打ち破る“もう一人の救世主”が、

意外な形で現れた。


その日の午後。

社務所の受付に、一人の凛とした女性が立っていた。


真白はその顔を見て、

記憶の糸を手繰り寄せる。


真白

「あなたは……確か以前、お子様の叱り方について悩まれていた……」


女性

「はい。……覚えていてくださったんですね」


女性はホッとしたように微笑み、

深く一礼した。


女性

「以前はお守りと、温かいお言葉をありがとうございました。あの日以来、私、少しだけ自分の子育てに、自信が持てるようになったんです」


彼女はハンドバッグから一枚の名刺を取り出し、真白に差し出した。


女性

「私、こういう者です。……もし宜しければ、お力添えをさせていただけないかと思いまして」


名刺を受け取った真白が、

その文字をなぞる。


『弁護士 飯塚いいづか 夏樹なつき


真白

「……弁護士、さん?」


夏樹

「はい。失礼いたしました。私、飯塚と申します」


真白

「驚きました。僕は当神社の職員で、真白と申します。……それで、弁護士である飯塚様が、僕にどのようなお話を?」


夏樹は真剣な眼差しで、真白を見つめた。


夏樹

「実は先日、家で子どもたちが流行りの心霊動画を見ていまして。そこにこちらの神社が映っていたのです」


夏樹

「拝見した限り、許可なく投稿されているようですし、悪意ある編集もされていました。……真白さんたちが、ひどくお困りなのではないかと思いまして」


真白は思わず言葉を失う。

夏樹は静かに続けた。


夏樹

「差し出がましいかもしれませんが、真白さんのおかげで、私は子どもたちと真っ直ぐ向き合えるようになりました」



夏樹

「その時のお礼と言ってはなんですが……私にできることで、恩返しがしたいのです」


真白

「……それは、大変ありがたいお話です。実を言うと、僕たちは今の状況をどう法的に対処すればいいのか、全く分からない状態でして」



夏樹は、優しく微笑む。


夏樹

「大丈夫です」


夏樹

「SNSでのトラブルは、誰にでも起こり得ます。ある日突然拡散され、謂れのないトラブルに巻き込まれることもあります」


夏樹

「これは現代において、誰にでも起こりうることですから。……そのために、私たち法に携わる者がいるのです」


夏樹

「まずは状況を教えてください」


真白

「……はい。責任者も呼んでまいります」



真白

「少し長くなりますので……よろしければ、お茶でも」


夏樹

「えっ、いいんですか?」


夏樹の表情がパッと明るくなった。


夏樹

「えっ! いいんですか? 実は……ここのお抹茶、また飲みたかったんです。あの時いただいた味が忘れられなくて」


ほんの少しだけ、

空気が和らぐ。


真白

「ふふ、喜んで。では、縁側へご案内いたしましょう」


真白は、夏樹を連れて縁側へと向かう。


警察官である優司の協力に加え、

今度は『法律』という、目に見えない盾までもが加わろうとしていた。


真白

「では……ご案内いたします」


二人は、縁側へと歩き出す。



しかし――


夏樹との話し合いが始まる、その直前。

真白は気づいてしまった。



鎖で縛られた絵馬掛けの影に、


昨日まではなかった、

ひときわ黒い『新しい絵馬』が、


ひとつだけ静かに揺れていることに。



その絵馬は――


誰が、いつ、

どうやって結んだのか。


それは、穢れか。

人の悪意か。

それとも――



“拡散される意思”そのものか。


真白たちを嘲笑うかのように――


その『闇』は、

より確かな形を得て、


すでに、

止められない段階へと踏み込んでいた。


最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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