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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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黒い願いは、誰かの娯楽になる

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

―――




――夜の豊穣神社


本来であれば静寂に包まれているはずの境内に、

今は絶え間なく、

戦の音が響き渡っていた。


五芒星陣が展開されると同時に、鈴のような澄んだ音が、境内の空気を震わせた。


真白が虚空に手をかざせば、冷たい石畳の上に巨大な五芒星ごぼうせいの陣が白銀の輝きを放って展開される。


真白

「――祓います」


静かな声とともに、

白い光が放たれる。


光は波のように広がり、

次々と湧き出る悪鬼を包み込み――


影を求めてうごめく悪鬼たちを無慈悲に焼き払う。


だが。


浄化の陣をすり抜けた悪鬼が、

なおも牙を剥く。


その瞬間。


優羽ゆうは

「甘い!」


鋭い声とともに、一閃。


振り抜かれた刃が、

悪鬼を真っ二つに断ち切った。


黒い霧が弾ける。


つむぎもまた、息を整えながら必死に印を結ぶ。


つむぎ

「はぁっ……! 浄化の理――不浄消滅の陣

展開……っ!」


小さな陣が地に広がり、

逃れた影を飲み込み、消滅させていく。


それでもなお、

しぶとく生き延びた悪鬼が、

境内の外へと駆け出そうとする。


だが――


見えない壁に、叩きつけられた。


「外には出さないよ」


淡々とした声。


境内を覆う黄金の結界が、

悪鬼の逃走を完全に遮断していた。


行き場を失った悪鬼が、

狂ったように縁へと襲いかかる。


その瞬間――


優羽が駆ける。


地を蹴り、滑り込むように間合いへ入り、


優羽

「遅い!」


一撃。


悪鬼は、声すら上げる間もなく消滅した。


だが、倒しても、倒しても、

終わりが見えなかった。


一体一体は決して強くない。

しかし、問題はその『数』だった。


絵馬掛けという、歪な「門」からは、

まるで泥が噴き出すように延々と悪鬼が溢れ出し続けていた。


その“数”が、確実に神気を削っていく。


呼吸が荒くなり、足が重くなる。

額に滲む汗が、冷たい夜気に晒される。


「はぁ……はぁ……っ……くっ、キリがありません! いつまで続くんですか、これ……っ!」


紡が膝をつき、

思わず、弱音が零れた。


肩で息をするつむぎの顔からは、

普段の呑気さが消え失せている。


神気を練り続けた指先は微かに震え、視界はチカチカと歪んでいた。


優羽

「いつまで? そんなの、この悪鬼が最後の一匹になるまでだよっ!」


優羽が額の汗を乱暴に拭い、

跳ねるように次の群れへと躍り出た。


剣を振るうその腕は、

すでに鉛のように重いはずだが、


彼女の瞳には、

戦士としての光が灯ったままだ。


「そ、そんな……無理ですよぉ……!

終わりが見えません……!」


泣きそうな声で、

弱音を漏らす紡の目の前で、

さらなる瘴気の塊が膨れ上がる。


心身ともに限界を超え、

心が折れかかったその時。


真白の声が、静かに響いた。


真白

「……僕たちが、心を折るわけにはいきません」


一同の動きが、

一瞬だけ止まる。


真白

「それでは――悪鬼の思う壺です」


真白は、

ゆっくりと顔を上げる。

その瞳に、迷いはなかった。


真白

「これは、出来るかどうかの話じゃない」



真白

「――僕たちにしか出来ない事なんです。ここで食い止めなければ、この穢れたちは人々の元へ流れ出る。だから……絶対に、一匹たりとも外には出しません!」



空気が、引き締まる。


真白の背中から、

神々しいまでの神気が噴き上がる。


現世を守ろうとする気高さに、

えにしが口角を上げた。



(流石は真白くんだね。我が狐の眷属の鏡だよ)


「さあ、そういうことだから! 紡くんも頑張って! 君はこの半年で驚くほど成長した。今の君なら、まだやれるはずだよ!僕は信じてるよ!」



その言葉が、冷え切った紡の心に、

熱い火を灯すには十分だった。


「……っ、はい! やります、やりとげてみせます!」


立ち上がった紡は再び印を結ぶ。

気力を振り絞った紡の浄化陣が、

これまで以上の光を放った。


周囲の小鬼を一気に消し飛ばした。


その様子を横目で見た優羽が、

悪鬼を貫きながら、ボソリと呟いた。


優羽

「縁様は……本当に、人を乗せる天才ですね……」


その声は、誰にも届かないほど小さかった。



――戦いは、それから数刻にも及んだ。



月が天頂を過ぎ、

冷え込みが極限に達した頃。

 

ようやく、絵馬掛けからの「噴出」が止まった。


優羽

「――はあぁぁぁっ!」


優羽が最後の一匹を地面に縫い止め、消滅させる。


耳を劈くような咆哮が消え、

豊穣神社に刺すような静寂が戻ってきた。


「……終わった、のかな……」


縁が素早く絵馬掛けへ歩み寄り、

陰を結ぶ。



「封術の理――完全封鎖」


縁の手から鎖が現れる。


淡く光るそれが、

絵馬掛けを幾重にも縛り上げていく。


最後に "封" の文字が書かれた護符を真ん中に貼り付ける。


札の神気を吸い取って鎖は光となり、

すうっと絵馬掛けへ溶け込んだ。


「これで……しばらくは大丈夫かな」



その言葉を聞いた瞬間、

全員の緊張の糸がぷつりと切れた。


ドサリ、ドサリと、その場に倒れ込む。


神気を使い果たし、

肉体を維持する力さえ残っていない。


ポン、ポン、と乾いた音と共に、

人の姿を保てなくなった彼らが、

小さな狐の姿へと戻っていく。


真白と紡は、雪のように清らかな

"白狐"


優羽は、夜に溶けるような艶やかな毛並みの

"黒狐"


そして縁は、燃えるような

"緋色" の毛を持つ古狐。


真白

「流石に……疲れました……」


白狐となった真白が、力なく鼻を鳴らす。


見上げれば――

澄み渡った冬の月が、高く昇っていた。


「……みんな、お疲れ様」


優羽

「……今回は流石にきつかった……」


「……僕は、もぅ……むりですぅ……」



真白

「みなさん、本当に頑張りました……少し休みましょう……。皆さんも、かなり消耗しましたね」



真白の穏やかな声が、

夜に溶けていく。


四匹の狐たちは、


互いの体温を分け合うように、

自然と身を寄せ合い、


深い眠りに落ちていった。




翌日――




縁は昨夜の異例の事態を重く受け止め、

主神への報告のために天界へと向かった。


御神木の根元に現れた光り輝く『門』


その眩い光の向こう側へ消えていく縁の背中を見送り、真白たちは平穏な日常が戻ることを願っていた。



しかし、

久しぶりに静けさを取り戻した豊穣神社は、平和なはずだった。



だが――



ぽつり、ぽつりと来る参拝者は、

誰一人として、参拝をしない。




ただ、絵馬掛けへ向かい、

スマホを向ける。


絵馬掛けには、

使用禁止の札が下げられている。


若者A

「うわ、マジだ! 本当に使用禁止になってんじゃん!」


若者B

「やばー! マジでホラーじゃん! 超映えるんだけど!」


昨日までとはうってかわり、

昼前から次々と若い参拝客が、

境内に姿を現した。


だが、その様子は『参拝』とは程遠いものだった。


誰も拝殿で手を合わせようとはしない。


彼らが真っ先に向かうのは、

鎖で封じられ、使用禁止の札が貼られたあの絵馬掛けだった。


若者C

「ねえ見て! この絵馬、『不倫相手の奥さんが消えますように』だって! 怖すぎっしょ!」


若者A

「ヤバいヤバい! こっちは『自分をクビにした上司が事故に遭いますように』だ。マジで呪いの神社じゃん!」


彼らはそのおぞましい文字を読み上げては、嘲笑い、


スマホをかざし、

他人のドロドロとした願いが刻まれた木札を


次々とスマホで撮影しては、

楽しそうに、騒ぐ。


紡は、その様子に眉を寄せた。


「……何しに来たんでしょうか……」


注意しようと歩み出る。


だが――


若者C

「やば、神主きた。怒られるー! 行こ行こ!」



若者たちは笑いながら、

逃げるように去っていった。


「……何しに来たんだろう。他人の不幸を願う絵馬を読んで、あんなに楽しそうにするなんて……」



紡の呟きに、

真白もまた拭い去れない違和感を覚えていた。


訪れる人々が、

一様に『穢れ』を恐れるどころか、


それを『エンターテインメント』として楽しんでいる。


昨夜の悪鬼は、

人の悪意を糧に生まれた怪物だった。


だが、今目の前にいる人間たちは、

その悪意を娯楽に変えて増幅させている。



真白と優羽も、

異様さに気づいていた。



空気だけが、

じわじわと不穏さを増していく。


それは、昨夜の穢れの残滓などではない。


もっと――


根の深い“何か”が、


確かに、この場所に入り込んでいた。


――だが、


まだ誰も、その正体に気づいていない。



最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!

次回もお付き合いいただけたら幸いです。

ブクマや評価ありがとうございます!

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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