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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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黒い願いは、誰かの不幸を望む――

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*


−−−



監視カメラの設置は手配したものの、


年の瀬ということもあり、

業者はどこも繁忙期。


すぐの設置は難しいとの返答だった。



それまでの間――



真白ましろたちは、

目に見えて色濃くなる瘴気に抗うべく、


不眠不休の見回りを強化し、


日々増え続ける穢れと、

悪鬼の討伐に追われていた。


境内――



ざわり、と空気が揺れる。



その歪みの中から、

黒い影が滲み出るように現れた。



午前の光が境内を静かに照らす中――


真白ましろの前には、数体の悪鬼が、

飢えた獣のように低く唸り声を上げていた。


悪鬼

「キシャァァァッ!」


一体の悪鬼が、鋭い爪を振りかざして真白の元へ躍り出る。


だが、その影は、

真白に触れる寸前で――


悪鬼の腕が、そして胴体が、


さらり、と。

塵となって崩れ落ちた。


真白の体から溢れ出している清浄な神気に触れた瞬間、砂が地面に崩れ落ちるように

霧散していく。


真白は何事もなかったかのように、

ゆっくりと歩を進める。



真白

「無意味な殺生は好まないのですが……。

今のあなた方には、言葉も届かないようですね」


残る悪鬼たちへ、

静かに手をかざす。


柔らかな光が広がり、

黒い影を抗いようのない力で、包み込むと、


抵抗すらも許されずに――


その存在ごと光の中へ消し去った。


最後に束となって襲いかかってきた、

悪鬼たちも、振り返るまでもなく、


その純白の輝きに呑み込まれ、

一瞬で浄化された。


その一連の光景を、

影から見守っていたえにしが、

感心したように歩み寄る。



「流石だねー。真白くんの "穢れ知らず" は、相変わらず見事なものだよ」



真白

「そんな、大したことではありません。……ですが、やはり。毎日これほど祓っても減るどころか、勢いが増している気がします」



二人は、

どす黒い霧が渦巻く絵馬掛けを見つめた。


「発生源は、やっぱりあれで間違いないね」


少し間を置き、続ける。


「ここ数日、

交代で夜通し見張ってみたけど――

結びに来る『人間』の姿は一度も確認でき  

なかった」



ただ、

絵馬から悪鬼が『湧き出す』瞬間だけは、

確かに確認できていた。


真白

「見張っている間は新しい絵馬が増えない……。こちらの動きを、誰かがどこかで見ているのかもしれませんね」


真白が呟くと同時、

冬の突風が木々を激しく揺らし、


絵馬が一斉に揺れだす。

カラカラ、と乾いた音を鳴らし、


そして――


ぴたり、と静まる。



「……真白くん、今回の相手はさ、僕たちが『眷属』だって分かっててやってると思う?」


真白は、

少し考え込むように視線を落とす。


やがて――


ゆっくりと口を開いた。



真白

「まだ断定はできませんが……半々、

といったところでしょうか。あおい様の時のように、神職の関係者と手を組んだ強力な『禁忌の眷属』の影も否定できません」


縁は小さく息を吐く。


「だよねぇ……あの事件は天界でも共有されているし、そこから情報が漏れて、良からぬ企みをする輩がいてもおかしくない」


正体不明の悪意、

特定できない発生源。


出口の見えない日々が、

豊穣神社を覆い始めていた。




――その日の午後――



久しぶりに、

一人の参拝者が現れた。


男は、

本殿へ向かう前に社務所へ立ち寄る。



参拝者

「……すみません、絵馬を一つ」



真白はその男の顔を見て、

息を呑んだ。


かつて、笑成えなの職場で暴君として君臨していた、あの元店長だった。


真白

(……この方は――)


パワハラで笑成えなを追い詰め、

倒れさせた張本人。その結果、


問題が露見して他店舗へ左遷された男。


男の体からは、

どす黒い粘り気のある穢れが、

煙のように漏れ出していた。


真白

「……お客様。絵馬の準備をいたします。その間、宜しければお抹茶のサービスはいかがですか?」


男は一瞬、

訝しげに眉をひそめたが――


真白

「落ち着きますよ」


真白の柔らかな誘いに、男は、


参拝者

「……じゃあ、お願いします」


そう応えて。



紡に案内され、男は縁側へと向かった。



――その直後。



紡が慌てて戻ってくる。



「真白様……!

 あの方、穢れが……すごいです……!」


真白

「分かっています。紡、念のため優羽ゆうはさんを呼んできてください」



「……分かりました!」



紡は駆け出していく。



真白は、

静かに抹茶を点て始めた。


その手つきは、

驚くほど穏やかだった。


――縁側。


真白は抹茶を差し出しながら、

ゆっくりと話を聞く。


だが――

男の口から出てくるのは、

恨み、怒り、否定。



「……最近のやつは心が弱いんだよ、すぐに被害者面をして、そのせいで、俺が築いてきたものを、全部台無しにしやがった……!」


「パワハラなんて言葉昔は無かった、理不尽が当たり前だった! 俺だって耐えて今の地位を手に入れたんだ!」


真白は静かに、言葉を選ぶ。


真白

「……人の言葉や態度は、

受け取る側によって意味が変わるものです」


真白

「あなたにとっては耐えられたやり方でも、

別の人には受け入れられない刃になることもあります」


真白

「見方や、やり方を変えてみるのも、

一つの方法ではありませんか?」 


さりげなく、


男の穢れを浄化しようとする真白。

だが、男の闇は予想以上に深かった。



「やり方を変える……? 違うな、あんたの言っていることは、新しい考えを素直に受け入れられる、奴ができることだ!」


「 俺にはできない! 昔からのやり方しかできないんだ!」



男は浄化を拒絶するように立ち上がり、

そのまま去っていく。



そして――



荒々しく絵馬に文字を書き殴る。



『あいつらが、一生不幸になりますように』


そこには、

おぞましい黒い願いが書かれていた。


強く、結びつけようとした


――その時。


「待ってください!」


紡が駆け寄り、

必死に言葉をかける。


男は振り返り、


叫ぶ。


「そんなはずはない!!」



「本当です!神様は、他人の不幸を願う言葉は叶えてくれませんよ!」



紡が飛び出し、男の手を止めようとする。

だが、男は狂乱した目で叫んだ。


「そんなはずはない! 叶うはずだ!

ここは『どんな縁も切ってくれる』って、“見た”んだ!!」


(――見た?)


近くで様子を見ていた縁が、

その言葉に反応し、目を細める。



紡も同じ違和感を覚えた。



「……見たって、何をですか?」



紡の問いに、

逆上した男は顔を真っ赤にして叫び返した。


「知らないなら別にいい! とにかく俺の願いは、俺をこんな目に合わせた奴らが、幸せになるなんて、絶対に許さない!!」


縁側から追いかけて来た真白が男に問いかける。


真白

「……その願いは、本当にあなたの望みですか?」


「当たり前だ!!あいつらの不幸が俺の幸せなんだ!!!」


激昂がピークに達した瞬間、

掛かっていた無数の絵馬が、


まるで意思を持ったかのように一斉に震え出した。


ガラン! ガラン! カラ! カラ! カラカラカラッ!!


木札同士が激しくぶつかり合う、

乾いた不協和音。


その異様な音が、

豊穣神社の境内に鳴り響いた。


その光景を目の当たりにして、

興奮していた男も動きを止めた。



真白と紡も息を呑み身構える。



――そして。


鼓膜を裂くほどに騒がしかった絵馬が、

突然、ピタリと止んだ。


風さえも止まったかのような、

完全なる静寂。


音のない世界が、

逆に鼓膜を圧迫する。


絵馬掛けの周囲だけ、

空間が凍りついたかのように微動だにしない。


その直後――


静寂を切り裂いて、

絵馬の隙間からどす黒い瘴気が噴出すように、


――どろり、と。


無数の悪鬼が、溢れ出した。


これまでの数とは、

比較にならないほど。



「ひぃっ! な、なんだ……なんだこれはぁぁぁッ!!」


男は絵馬を放り投げ、

悲鳴を上げながら、逃げ出していった。



「これは……まずいね」



そう言って、縁が瞬時に印を結ぶ。


守護天幕てんまくの理! 守護結界!豊穣神社の外へは一歩も出さないよ!」


黄金の結界が空を覆うのと同時に、

絵馬掛けからは、


なおも悪鬼が湧き続けていた。

真白はその光景に、


底の見えない暗い穴を見つめるような戦慄を覚える。


真白

(っ!絵馬の穢れの底が見えない……

 ですが――)


真白

「……恐れている場合ではありませんね」


真白は自分を鼓舞するように顔を上げ、

両手を広げた。


足元の石畳に、いくつもの巨大な、

浄化の五芒星陣が展開される。


真白

「皆さん!これは持久戦になりそうです! 優羽さん、紡、覚悟してください!」



優羽・紡

「「はい!」」



まだ明るい境内。

吹き荒れる瘴気の嵐の中――


豊穣神社での戦の幕が切って落とされた。


悪鬼の群れが、境内の灯りすら呑み込んでいく。


だが――


その中心に立つ真白の周囲だけは、

静かに、澄み切っていた。


白い神気が、ゆるやかに広がる。


まるで、闇そのものを押し返すような

祓いの気配だった。


「皆!ちょっと長くなりそうだけど、行けるよね!」


紡は息を整え、強く頷いた。

優羽も、迷いのない瞳で前を見据える。


次の瞬間。


無数の悪鬼が、一斉に牙を剥いた。


地を蹴る音。

唸り声。

瘴気が爆ぜる。


真白

(……これ以上、穢れを広げさせるわけにはいきません)


真白は、一歩、踏み出す。


真白

「――すべて、祓います」


白き光が――走った。

最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!

次回もお付き合いいただけたら幸いです。

ブクマや評価などほんとうにありがとうございます

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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