黒い願いは、誰かの不幸を望む――
いつもお読みいただきありがとうございます!
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
(*˘︶˘*).。.:*
−−−
監視カメラの設置は手配したものの、
年の瀬ということもあり、
業者はどこも繁忙期。
すぐの設置は難しいとの返答だった。
それまでの間――
真白たちは、
目に見えて色濃くなる瘴気に抗うべく、
不眠不休の見回りを強化し、
日々増え続ける穢れと、
悪鬼の討伐に追われていた。
境内――
ざわり、と空気が揺れる。
その歪みの中から、
黒い影が滲み出るように現れた。
午前の光が境内を静かに照らす中――
真白の前には、数体の悪鬼が、
飢えた獣のように低く唸り声を上げていた。
悪鬼
「キシャァァァッ!」
一体の悪鬼が、鋭い爪を振りかざして真白の元へ躍り出る。
だが、その影は、
真白に触れる寸前で――
悪鬼の腕が、そして胴体が、
さらり、と。
塵となって崩れ落ちた。
真白の体から溢れ出している清浄な神気に触れた瞬間、砂が地面に崩れ落ちるように
霧散していく。
真白は何事もなかったかのように、
ゆっくりと歩を進める。
真白
「無意味な殺生は好まないのですが……。
今のあなた方には、言葉も届かないようですね」
残る悪鬼たちへ、
静かに手をかざす。
柔らかな光が広がり、
黒い影を抗いようのない力で、包み込むと、
抵抗すらも許されずに――
その存在ごと光の中へ消し去った。
最後に束となって襲いかかってきた、
悪鬼たちも、振り返るまでもなく、
その純白の輝きに呑み込まれ、
一瞬で浄化された。
その一連の光景を、
影から見守っていた縁が、
感心したように歩み寄る。
縁
「流石だねー。真白くんの "穢れ知らず" は、相変わらず見事なものだよ」
真白
「そんな、大したことではありません。……ですが、やはり。毎日これほど祓っても減るどころか、勢いが増している気がします」
二人は、
どす黒い霧が渦巻く絵馬掛けを見つめた。
縁
「発生源は、やっぱりあれで間違いないね」
少し間を置き、続ける。
縁
「ここ数日、
交代で夜通し見張ってみたけど――
結びに来る『人間』の姿は一度も確認でき
なかった」
ただ、
絵馬から悪鬼が『湧き出す』瞬間だけは、
確かに確認できていた。
真白
「見張っている間は新しい絵馬が増えない……。こちらの動きを、誰かがどこかで見ているのかもしれませんね」
真白が呟くと同時、
冬の突風が木々を激しく揺らし、
絵馬が一斉に揺れだす。
カラカラ、と乾いた音を鳴らし、
そして――
ぴたり、と静まる。
縁
「……真白くん、今回の相手はさ、僕たちが『眷属』だって分かっててやってると思う?」
真白は、
少し考え込むように視線を落とす。
やがて――
ゆっくりと口を開いた。
真白
「まだ断定はできませんが……半々、
といったところでしょうか。葵様の時のように、神職の関係者と手を組んだ強力な『禁忌の眷属』の影も否定できません」
縁は小さく息を吐く。
縁
「だよねぇ……あの事件は天界でも共有されているし、そこから情報が漏れて、良からぬ企みをする輩がいてもおかしくない」
正体不明の悪意、
特定できない発生源。
出口の見えない日々が、
豊穣神社を覆い始めていた。
――その日の午後――
久しぶりに、
一人の参拝者が現れた。
男は、
本殿へ向かう前に社務所へ立ち寄る。
参拝者
「……すみません、絵馬を一つ」
真白はその男の顔を見て、
息を呑んだ。
かつて、笑成の職場で暴君として君臨していた、あの元店長だった。
真白
(……この方は――)
パワハラで笑成を追い詰め、
倒れさせた張本人。その結果、
問題が露見して他店舗へ左遷された男。
男の体からは、
どす黒い粘り気のある穢れが、
煙のように漏れ出していた。
真白
「……お客様。絵馬の準備をいたします。その間、宜しければお抹茶のサービスはいかがですか?」
男は一瞬、
訝しげに眉をひそめたが――
真白
「落ち着きますよ」
真白の柔らかな誘いに、男は、
参拝者
「……じゃあ、お願いします」
そう応えて。
紡に案内され、男は縁側へと向かった。
――その直後。
紡が慌てて戻ってくる。
紡
「真白様……!
あの方、穢れが……すごいです……!」
真白
「分かっています。紡、念のため優羽さんを呼んできてください」
紡
「……分かりました!」
紡は駆け出していく。
真白は、
静かに抹茶を点て始めた。
その手つきは、
驚くほど穏やかだった。
――縁側。
真白は抹茶を差し出しながら、
ゆっくりと話を聞く。
だが――
男の口から出てくるのは、
恨み、怒り、否定。
男
「……最近のやつは心が弱いんだよ、すぐに被害者面をして、そのせいで、俺が築いてきたものを、全部台無しにしやがった……!」
男
「パワハラなんて言葉昔は無かった、理不尽が当たり前だった! 俺だって耐えて今の地位を手に入れたんだ!」
真白は静かに、言葉を選ぶ。
真白
「……人の言葉や態度は、
受け取る側によって意味が変わるものです」
真白
「あなたにとっては耐えられたやり方でも、
別の人には受け入れられない刃になることもあります」
真白
「見方や、やり方を変えてみるのも、
一つの方法ではありませんか?」
さりげなく、
男の穢れを浄化しようとする真白。
だが、男の闇は予想以上に深かった。
男
「やり方を変える……? 違うな、あんたの言っていることは、新しい考えを素直に受け入れられる、奴ができることだ!」
男
「 俺にはできない! 昔からのやり方しかできないんだ!」
男は浄化を拒絶するように立ち上がり、
そのまま去っていく。
そして――
荒々しく絵馬に文字を書き殴る。
『あいつらが、一生不幸になりますように』
そこには、
おぞましい黒い願いが書かれていた。
強く、結びつけようとした
――その時。
紡
「待ってください!」
紡が駆け寄り、
必死に言葉をかける。
男は振り返り、
叫ぶ。
男
「そんなはずはない!!」
紡
「本当です!神様は、他人の不幸を願う言葉は叶えてくれませんよ!」
紡が飛び出し、男の手を止めようとする。
だが、男は狂乱した目で叫んだ。
男
「そんなはずはない! 叶うはずだ!
ここは『どんな縁も切ってくれる』って、“見た”んだ!!」
縁
(――見た?)
近くで様子を見ていた縁が、
その言葉に反応し、目を細める。
紡も同じ違和感を覚えた。
紡
「……見たって、何をですか?」
紡の問いに、
逆上した男は顔を真っ赤にして叫び返した。
男
「知らないなら別にいい! とにかく俺の願いは、俺をこんな目に合わせた奴らが、幸せになるなんて、絶対に許さない!!」
縁側から追いかけて来た真白が男に問いかける。
真白
「……その願いは、本当にあなたの望みですか?」
男
「当たり前だ!!あいつらの不幸が俺の幸せなんだ!!!」
激昂がピークに達した瞬間、
掛かっていた無数の絵馬が、
まるで意思を持ったかのように一斉に震え出した。
ガラン! ガラン! カラ! カラ! カラカラカラッ!!
木札同士が激しくぶつかり合う、
乾いた不協和音。
その異様な音が、
豊穣神社の境内に鳴り響いた。
その光景を目の当たりにして、
興奮していた男も動きを止めた。
真白と紡も息を呑み身構える。
――そして。
鼓膜を裂くほどに騒がしかった絵馬が、
突然、ピタリと止んだ。
風さえも止まったかのような、
完全なる静寂。
音のない世界が、
逆に鼓膜を圧迫する。
絵馬掛けの周囲だけ、
空間が凍りついたかのように微動だにしない。
その直後――
静寂を切り裂いて、
絵馬の隙間からどす黒い瘴気が噴出すように、
――どろり、と。
無数の悪鬼が、溢れ出した。
これまでの数とは、
比較にならないほど。
男
「ひぃっ! な、なんだ……なんだこれはぁぁぁッ!!」
男は絵馬を放り投げ、
悲鳴を上げながら、逃げ出していった。
縁
「これは……まずいね」
そう言って、縁が瞬時に印を結ぶ。
縁
「守護天幕の理! 守護結界!豊穣神社の外へは一歩も出さないよ!」
黄金の結界が空を覆うのと同時に、
絵馬掛けからは、
なおも悪鬼が湧き続けていた。
真白はその光景に、
底の見えない暗い穴を見つめるような戦慄を覚える。
真白
(っ!絵馬の穢れの底が見えない……
ですが――)
真白
「……恐れている場合ではありませんね」
真白は自分を鼓舞するように顔を上げ、
両手を広げた。
足元の石畳に、いくつもの巨大な、
浄化の五芒星陣が展開される。
真白
「皆さん!これは持久戦になりそうです! 優羽さん、紡、覚悟してください!」
優羽・紡
「「はい!」」
まだ明るい境内。
吹き荒れる瘴気の嵐の中――
豊穣神社での戦の幕が切って落とされた。
悪鬼の群れが、境内の灯りすら呑み込んでいく。
だが――
その中心に立つ真白の周囲だけは、
静かに、澄み切っていた。
白い神気が、ゆるやかに広がる。
まるで、闇そのものを押し返すような
祓いの気配だった。
縁
「皆!ちょっと長くなりそうだけど、行けるよね!」
紡は息を整え、強く頷いた。
優羽も、迷いのない瞳で前を見据える。
次の瞬間。
無数の悪鬼が、一斉に牙を剥いた。
地を蹴る音。
唸り声。
瘴気が爆ぜる。
真白
(……これ以上、穢れを広げさせるわけにはいきません)
真白は、一歩、踏み出す。
真白
「――すべて、祓います」
白き光が――走った。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
ブクマや評価などほんとうにありがとうございます
(人´∀`).☆.。.:*・゜




