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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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135/162

穢れは消えず、悪鬼は湧く――豊穣神社の異変

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

―――



年の瀬が迫り、世間が浮足立つ季節。



縁に絵馬の件を相談されてからというもの、

真白たちは、


境内の見回りをこれまで以上に強化しながら、


例年以上の緊張感を持って、

年の瀬の準備に追われる日々を送っていた。


その理由は、

境内の片隅にある絵馬掛けにあった。


本来、願いを託すはずの板には、

いつの間にか《他人の不幸》を願う黒い言葉ばかりが並ぶようになっていたのだ。



そして――



絵馬から滲み出る穢れは、

日に日に濃さを増していた。



真白ましろ

「ふぅ……今日も中々の穢れの量ですね……」


静かに呟くその声には、

ほんの少しだけ疲労が滲んでいた。


真白が、

目の前の絵馬掛けに手をかざす。


そこからは目に見えるほど濃い、

黒い瘴気がゆらゆらと立ち上っていた。


真白が自身の神気を流し込む。


冬の朝の光よりも澄んだそれは、


黒い瘴気に触れた瞬間――


じゅっ……じゅ……じゅ……


音が連なり、瘴気は次第に薄れていく。


やがて――


すぅ、と、その場の空気は、

まるで、霧が晴れていくように。


一面を覆っていた澱みが晴れ、

ようやく冬の澄んだ空気が戻る。


真白は整った眉をわずかに寄せ、

視線を本殿の裏手へと向けた。


真白

「……つむぎと、優羽ゆうはさんは大丈夫でしょうか……」



――その頃



本殿の裏に広がる雑木林では、

激しい剣風が枯葉を舞い上がらせていた。


ざわり、と。空気が歪む。

そこから、ぬるりと、

黒い影が這い出てくる。



形を持った“穢れ”――

悪鬼だった。


優羽ゆうはが、その気配を捉える。



次の瞬間、地を蹴る――


風を切る音と共に、一気に距離を詰める。


優羽

「見つけた……!」


「優羽さん!右です!」



紡の声と同時に、


悪鬼の動きが、わずかに鈍る。


紡の神気が、空気を通して絡みついていた。


見えない糸のように、

悪鬼の動きを縛りつける。



優羽

「ナイス、紡!」



そのまま――



剣を振るう、黒い影が、

真っ二つに裂かれる。



優羽

「紡ー! こっちはオッケーだよ!」



優羽ゆうはの声が響くと同時に、

木の影から新たに、

這い出してきた悪鬼が、


優羽の一太刀によって、瞬くまに、

一刀両断される。


だが、斬られた悪鬼は消滅せず、


その断面からドロリとした瘴気を撒き散らそうとした。


紡がすかさず両手を突き出す。

紡の内から溢れ出した柔らかな神気が、


拡散しようとする瘴気を包み込み、

ギュッと閉じ込めて弱らせていく。


「優羽さん! とどめお願いします!」



優羽

「まかせてー!」


軽やかな声と共に、

優羽の剣が再び舞のように閃き、


小さく無力化された瘴気の核を、正確に切り裂いた。


パァン!

と光の粒となって弾け、

ようやく辺りに静寂が戻る。


優羽

「ふぅ……こんな所まで入り込んでくるなんて……」



剣を軽く振り、

残った瘴気を払う。


「縁様の結界もあるのに、どうやって入ってきてるんだろう?」



優羽

「確かに……最近の悪鬼、ちょっとおかしいよね……」


周囲を警戒するが、

結界は破られていない。


それなのに、

敵は神域の奥深くまで侵入している。


優羽が首を傾げた、

その瞬間だった。


二人の背後、

木漏れ日の影が急激に膨れ上がり、


巨大な爪を持った悪鬼が音もなく姿を現した。


狙いは、

無防備な紡の背中――


優羽

「しまっ――!」


優羽も反応するが間に合わない。



その時



――ゴォォォォッ!!


その場を焼き尽くすような激しい紅蓮の炎が、悪鬼を頭上から呑み込んだ。


断末魔の叫びすら上げさせず、

一瞬で塵へと変える圧倒的な火力。



火の童子

「油断は禁物やでー!二人とも、怪我はないか?」


軽やかな声と共に現れたのは、

焔を纏った童子――


火の童子かのこどうじだった。


その後ろから、

落ち着いた足取りで大和やまとが姿を現す。


大和

「お二人とも、お怪我はありませんか?」


優羽

「火の童子様! 大和くん! お久しぶりです。おかげで助かりました!」


紡は、

ほっとしたように笑う。


「火の童子様、大和さん、ありがとうございます!……今日は、あおさんは一緒じゃないんですか?」


紡が周囲を見渡すが、

そこには二人の姿しかない。


火の童子

「ああ、蒼は今日は留守番やねん。」


「……そうなんですね」



目に見えて肩を落とし、

残念そうな顔をする紡。


火の童子がニヤニヤしながら紡の頭を軽く叩く。


火の童子

「そないに残念そうにせんでもええやろ!」


大和も苦笑いしながら続けた。


大和

「紡様、今日は僕と火の童子で我慢してください」


紡ははっとした後に、

慌てて首を横に振り、真っ赤になって弁解する。


「ち、ちがうんです! 決してお二人だからガッカリしたとかじゃなくて……っ!」


その様子に、

優羽と大和、火の童子が同時に吹き出した。


火の童子

「相変わらずおもろいやっちゃな〜、自分」


大和

「申し訳ありません。紡様は素直すぎて、思わずからかいたくなってしまうんですよね」


大和の言葉に、紡は頬を膨らませる。


「えー! 皆さん酷いです! 僕、本気で焦ったんですよ!?」



優羽

「ところで……お二人はもう社務所へ行かれたんですか?」



大和

「いえ、こちらに足を踏み入れたと同時に、

優羽さんの神気を感じてこちらに……」


火の童子

「大和がなぁ〜、大事な優羽の一大事や!ってな」


わざとらしく肩をすくめながら、

にやにやと口元を歪める。



大和

「ちょっと、バラさないでくださいよ!」


慌てて火の童子の肩を軽く押し、

顔を赤くしながら視線を逸らす。


その仕草は、

普段の冷静な大和からは想像できないほど分かりやすかった。



優羽

「……ありがとうございます」


優羽は、そんな二人のやり取りを

きょとんとした表情で見つめたあと、


ふわりと、柔らかく微笑んだ。


その微笑みに、

大和は一瞬だけ言葉に詰まる。


そこに込められているのは、

ただ純粋な感謝だけだった。


――だからこそ、大和は


大和

(叶わない恋なら、せめてこれからも推し続けます。優羽さんの、その微笑みのために……!)


そう強く心に誓った。


火の童子

「……あーあ、優羽も罪やなぁ〜」


その様子を見て、

さらに面白そうに笑う火の童子だった。



和やかな空気も束の間、


本殿の方角から真白の神気が激しく揺れるのが伝わってきた。


火の童子

「なんや!? あっちにも出たんか!?」


火の童子が身構えるが、

優羽は首を振ってそれを制した。


優羽

「あぁ、違うんです、悪鬼ではなくて……

 真白様が絵馬の浄化をされているんです」


大和

「絵馬の浄化?ですか?」




「はい、実はこの神社の絵馬が……」



紡の話を聞き終えた大和が、

驚きを露わにする。



大和

「はぁ!? 豊穣神社の物ではない絵馬に、

他人の不幸を願うことばかり書いて、

勝手に奉納しているっていうんですか!?」



紡が重苦しく頷いた。


「そうなんですよー!最近、神社内の穢れが増えているせいで、真白様と分担して浄化しているんですが、一向に減らなくて……」


そこへ、火の童子の神気を感じ取った縁

(えにし)がやってきた。



「やっぱり火の童子かぁ。焔の神気を感じたから来てみたけど……大丈夫そうだね」



火の童子

「縁や!今、優羽に軽く事情を聞いたんやけど、穏やかやないな」


「その件も、今日相談しようと思ってたんだよ。とりあえず、皆で社務所へ戻ろうか」



途中で真白も合流し、


一行は社務所へと戻っていった。



――社務所。


縁は火の童子と大和に、

現在の異常事態を詳しく話し始めた。



事情を聞いた火の童子と大和は、

静かに考え込む。


火の童子

「……似とるな」


大和

「ええ……焔神社の時と」


火の童子

「せやけど、あおいの事件の時の焔神社と状況は似てるけど……あの時は絵馬自体は、焔神社のものやったからなぁ……」



大和

「そうだね。だけど今回は……絵馬の出どころも分からない。

結びに来ている人間は特定できたのですか?」



「それがさぁ、こまめに見回りをしていても、

結んでいる現場を一度も確認できていないんだ」


「それに……この時期、本来なら参拝客が増えるはずなのに、

最近はぱったりと人の足が途絶えている」

火の童子

「確かに……今日もここまで、人の子一人見かけんかったなぁ」


火の童子の指摘に、

縁は苦々しく頷く。


「でしょ? それどころか、僕の結界の内側にいきなり悪鬼が現れるんだ。破った形跡さえないのに」


火の童子

「なんやその、地の底から湧いたみたいな出方は……不気味すぎるやろ!」


その言葉に、

お茶を運んできた真白の動きが止まった。


真白

「……地の底から湧いた……縁様!もしかすると、外から来ているのではないのかもしれません」



全員の視線が真白に集まる。


真白

「毎日浄化しても、次の日には元通りになっているあの絵馬……あそこ自体が『門』になり、穢れを増幅させ、中から悪鬼を生み出しているとしたらどうでしょうか?」



「……なるほどねぇ、それなら、結界を破る必要さえないし、境内に突然現れるのも辻褄が合うね……うん、一番可能性は高いと思うよ!」


原因の目星はついた。

だが、最大の問題は


"誰が、どうやって"

絵馬を結んでいるかだ。


「えーと、でも、ずっと見張っているわけにもいかないし……」


紡が頭を抱えると、

大和がスマホを取り出しながら提案した。


大和

「それなら、葵様の事件の時に

焔神社でも導入したのですが、監視カメラを設置してみてはどうでしょう?

眷属の目では見えない、機械の眼だからこそ捉えられるものがあるかもしれません」



「なるほど、それがいいね!

 早速手配しよう!どこに頼めばいい?」


大和

「それなら僕が頼んだ所へ連絡してみます」


大和は手際よく業者に連絡を入れ、

取り付けの段取りを組んでいく。


最新の防犯対策に目を丸くする縁たちの姿を見て、大和は心の中で密かに呟いた。


大和

(縁様たちは強力な眷属だけど、最新の防犯技術には疎いからな……優羽さんに何かあったら大変だし、今後も定期的に、最新機器の提案をしに来たほうが安心だな。)


画面を操作する大和の口元が、

わずかに緩む。


だがその一方で、


真白は窓の外を見つめていた。


浄化したはずの絵馬掛けの方角。


そこには、

冬の寒気よりもなお冷たい、


粘つくような視線が残っている気がしてならなかった。


静かな神社に、


確実に広がり続けているものがある。


それは――


目には見えない、黒い願い。


そしてそれは、


確実に――


“形”を持ち始めていた。

最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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