―禁忌の眷属編―エピローグ
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――葵の封印の日から、数日後――
豊穣神社には、再び穏やかな日常が戻ってきていた。
朝の境内。
石畳にはまだ朝露が残り、竹箒が静かな音を立ててそれを掃いていく。
しゃっ……しゃっ……
真白がゆっくりと落ち葉を集めていると、隣で紡が元気よく箒を振っていた。
紡
「よーし! 今日もピカピカにしますよー!」
その声に、境内の空気が少しだけ明るくなる。
すると、鳥居の向こうから、元気いっぱいの声が響く。
「真白さんー!」
「紡くーん!」
登校班の子供たちが、ランドセルを揺らしながら手を振っている。
真白は箒を止め、やわらかな笑顔で手を振り返した。
真白
「おはようございます。気をつけて行ってらっしゃ
い」
真白の隣では、紡がちぎれんばかりに手を振る。
紡
「いってらっしゃーい! 車に気をつけるんだよー!」
朝日を浴びてキラキラと輝く参道。
子供たちの笑い声が遠ざかっていく。
そんなありふれた、けれど何物にも代えがたい
『日常』が、そこにはあった。
元気な声が境内に響き、子供たちは笑いながら学校へと向かっていった。
その様子を見送りながら、真白はふっと微笑む。
あの日、神域を揺らした激しい戦いも、悲痛な別れの叫びも、今は遠い記憶の底に沈んだかのように。
豊穣神社の朝は、いつも通りの穏やかな光に包まれた、平和な朝だった。
掃除を終え、二人が社務所へ戻ると、縁が書類を見ながら顔を上げた。
縁
「お疲れ様。今日は大和くんたちが来るよ」
紡
「えっ!」
紡の目がぱっと輝く。
紡
「蒼さんも来ますか?」
縁
「うん。豊穣祭の打ち合わせだって」
その瞬間、紡の表情がさらに明るくなった。
紡
「じゃあ僕、琥珀糖たくさん作ります!蒼さん好きそうだし!」
その言葉を聞いた瞬間――
縁の手が止まり、
お茶を淹れようとしていた優羽の肩が震え、
真白の微笑みがわずかに強張る。
三人の脳裏に浮かぶのは、以前、紡が「出来ましたー」と言って持ってきたあの琥珀糖の……凄まじい破壊力だ。
ほんの一瞬の沈黙。
真白がやんわりと微笑む。
真白
「……紡、その琥珀糖はまだ『未完成』でしたよね?」
真白が、最大限にオブラートに包んでやんわりと切り出した。
紡
「え?」
真白
「まずは、しっかり完成させてから……皆さんには最高な状態であげましょう。ね?」
その声は優しかったが、どこか必死だった。
紡
「うーん……そうですか? 自分では自信作なんですけど……わかりました!もっと研究します!」
その様子を見ながら、縁はほっとした表情を浮かべる。
優羽
(……紡の琥珀糖、味はあんなに美味しいのに。なんで、あんな『事態』になるのかしら……)
優羽は、心の中でそっと呟いた。
この時の、優羽の予感が、すでに的中していたなんて、誰も知るよしがなかった。
――そして午後。
社務所の前に、二つの影が現れる。
蒼
「……こんにちは……」
落ち着いた声と共に現れたのは、大和と蒼だった。
縁
「いらっしゃい」
縁が笑顔で迎える。
蒼が紡に軽く手を振る。
蒼
「久しぶり」
その時だった。
蒼と大和の後ろから
火の童子
「よお!」
と豪快な声と共に現れたのは、火の童子だった。
紡
「火の童子さま! 来てくれたんですね!」
紡たちが喜びに沸くなか、
一瞬だけ、静寂が訪れる。
火の童子の右目には、眼帯が当てられていた。あの戦いで失われた目は、眷属の力をもってしても治ることはなかったのだ。
その沈黙を破ったのは、蒼だった。
蒼
「真白……そんな顔しないで……大丈夫、火の童子の右目には、これからは蒼と大和がなるから……」
大和も続ける。
大和
「そうですよ!それに、片目だって、火の童子は強いんですから!」
次世代を担う二人の頼もしい言葉に、縁が目を細めて呟いた。
縁
「はぁ……羨ましいなぁ。そんなに頼もしい後継ぎがいて」
火の童子
「なんや縁、心配せんでも紡も優羽も立派に活躍したやないか。自信持ちーや」
縁
「それは……そうなんだけど、ねぇ?」
縁が苦笑いしながら視線を逸らした、
その時。火の童子の鼻が、くんくんと動いた。
火の童子
「ん? ……なんや紡、ええ匂いさせとるな?」
火の童子の視線が、紡の手元に止まった。
火の童子
「ん?それ、飴か?」
紡が嬉しそうに頷く。
紡
「はい!僕の琥珀糖です!」
火の童子
「真白と同じで癒やしの効果があるんやろ? 丁度、移動で疲れとったんよ。一個もらうで!」
縁
「あっ、待って! 火の童子、その飴は――!」
縁が制止の声を上げるより、火の童子の指が動くほうが早かった。
黄金色に輝く琥珀糖が、ひょいと口の中に放り込まれる。
火の童子
「……優しい甘さやな。やっぱり紡の作るもんも――……ッ!?」
直後。
静かな社務所に、『パチパチパチッ!!』という、およそ飴玉からは鳴り得ない衝撃音が響き渡った。
火の童子
「なんやこれ! 口の中が爆発しとる!? 弾けとる!?どっちや!!」
火の童子が顔を真っ赤にして口を押さえ、のたうち回る。パチパチという音は、まるで線香花火を口に突っ込んだかのような激しさだ。
大和
「……なるほど。パチパチキャンディーの強化版、といったところでしょうか」
大和が顎に手を当て、至極冷静に分析する。
火の童子
「あほか! そんな可愛いもんやない! いつまで続くんや、これ!」
縁
「……舐め終わるまでだよ……」
縁が悟りを開いたような遠い目で告げる。
火の童子
「うそやろ!!」
火の童子が絶叫する。
その様子を見て大和は笑った。
大和
「大げさだな火の童子は、昔一緒に食べたパチパチキャンディーみたいなものでしょう」
火の童子が怒鳴る。
火の童子
「アホか!!パチパチが、ケタ違いやねん!!」
すると紡が嬉しそうに言った。
紡
「まだありますよ!大和さんも食べますか?」
差し出された一粒。
大和
「紡様、ではお言葉に甘えて、僕もいただきます」
大和は余裕の笑みで受け取る。
それから、優雅な仕草でそれを口に運んだ。
最初は、上品な甘みが広がる。だが。
大和
「……っ!!」
パチンッ! バチバチバチバチッ!!!
大和の口内で、
爆竹が連鎖爆発したかのような轟音が鳴り響く。
大和は白目を剥きかけ、
口元を両手で強く押さえて、
その場に膝をついた。
優羽が戦慄しながらも、
優羽
「大和くん、大丈夫!?」と慌てて駆け寄る。
優羽
(……眷属の私たちが食べてあの威力。人間が食べたら、そうなるわよね……)
大和は推しの優羽が近くに来てくれたことに歓喜の表情を浮かべようとするが、
口内の凄まじい衝撃波に顔が引きつり、
返事どころではなかった。
真白
「……大和さん、無理せず出したほうが……」
真白の提案に、大和は涙目になりながらも首を激しく横に振る。
火の童子
「大和の一族は……食べ物を粗末にするのは禁忌やからな……南無」
火の童子が合掌する。
その隣では蒼が戦慄しながら、あることを思い出していた。
蒼
(……あの時寝ぼけて言ってたのはこの飴のことなんだ……なんて危険な飴なんだ……恐ろしい)
それから、
ようやく嵐が去り、社務所に再び(物理的な)静寂が戻ったとき、
満場一致で『紡の琥珀糖は危険物』として封印されることが決まった。
恐怖と衝撃が一段落し、
話題は自然と、葵と雫のことに移っていった。
火の童子
「……可哀想な話やったけど、葵があれ以上に闇に堕ちんでよかったのかもしれんな」
火の童子が、眼帯のない方の目で遠くを見つめて言った。
火の童子
「神域を作れるほどの力を得ていたんや。雫のお嬢ちゃんが消えた後、さらなる絶望に飲まれていたら……今度は名前のない『神』に成り果てていたかもしれん」
真白
「……そうですね」
火の童子
「三千年の禁錮が解けた後、あのお嬢ちゃんとの思い出を糧に、次は強く生きてほしいもんやな。眷属としてな」
火の童子の言葉に、縁も静かに頷く。
縁
「そうだね。でも今度は、葵くんの帰りを待って、支えてくれる静音と澪斗くんがいるんだもの、きっと、大丈夫だよ」
紡
「それに!僕たちだって、何かあればすぐに駆けつけますから!」
紡が元気よく拳を握る。その言葉に、真白が穏やかな眼差しを向けた。
真白
「紡の言うとおりです。静音様たちだけでなく、ここにいる皆さんの誰かが、もし絶望し、闇に落ちそうになったとしても」
真白は一人ひとりの顔をゆっくりと見渡した。
真白
「ここにいる皆で駆けつけましょう」
境内に、やさしい風が吹き抜けた。
その言葉は、約束だった。
神と眷属、そして人とを繋ぐ、消えることのない誓い。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人•͈ᴗ•͈)




